「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠

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【魔法】

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 茶色い煉瓦に赤い屋根の建物が立ち並び、通りには活気が溢れていた。衣類や雑貨、陶器に武具防具——まるで街全体が商店のようだ。あちらこちらで商人が客を呼び込み、賑やかな声が響く。
 行き交う人々の姿も特徴的だった。皮の防具に籠手、脛当て、編み上げブーツ。いかにも動きやすく、かつ防御も考えられた格好の者が多い。
 馬車と護衛たちは街の入り口で待機している。
 万一に備え、馬を一頭だけ引いてマリエルとジンは街の様子を眺めながら歩いていた。

「このあたりでは、魔物や魔獣が出るようですね」

 馬を並べて歩くジンが、低く囁く。

「魔物……。」

 マリエルは、ふと子供の頃に聞いた御伽噺を思い出した。勇者や聖女の物語。ライデンバルカではほとんど馴染みのない魔法や魔物の話も、この国では当たり前なのだろうか?

「国境を越えただけで、そんなに環境が違うものなの?」

「ええ、実際この国では魔物の討伐が日常的に行われています。だからこそ、あの国境の城壁があるわけです」

 ジンは先ほど通ってきた国境門と城壁を顎で示した。

「魔物を防ぐため?」

「ええ、大昔の魔術士が築いたものだとか。当時、ライデンバルカでは領外は極めて危険とされ、国を守るために築かれたそうです」

「我が国に、それほどの技術が?」

「いえ、マギアスガルドや他の国々の協力があったらしいですよ。まさに、勇者や聖女が活躍した時代のことですね。かつて魔王が現れ、世界各国が協力して封じ込めることになった、と記録されています」

「魔王……?」

「ええ。マギアスガルドに魔を封じ、各国から魔法の素養がある者を集め、ついには魔王を討つことに成功した。その時の指導者が勇者と聖女と呼ばれたそうです」

「それでは、今でもこの国には魔法の素養がある人が多いの?」

「そうですね。特に貴族院では、魔法を専門的に学ぶ教育が行われています。魔力を持つ者には責任がある、という考え方が根付いているのでしょう」

「責任……?」

「ノブレス・オブリージュ——『いかなる時も貴族としての矜持を忘れず、その力を持たざる者のために使い、護ることを誓う』。それがこの国の貴族院における卒業誓約です。彼らは自らの魔法の力を誇示するのではなく、人々を守るために使うべきだと誓うのです」

 ジンの言葉を聞きながら、マリエルは改めて周囲を見渡した。この国の人々の装いや表情には、たしかにどこか戦いに身を置く者の覚悟が感じられる。

「……この国は、ライデンバルカとはずいぶん違うのね」

 マリエルの呟きに、ジンは穏やかに微笑んだ。

「ええ。でも、お嬢ならすぐに馴染めますよ」
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