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永泰の夜
第五話 2
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その言葉に、士英は小さく息を呑んだ。
「と、言うことは、悲しい顔をした男女二人の姿が見えるということか?」
アスアドの言葉にハーシムは視線を外し、眼帯をはめながら頷く。
「ああ」
「ユースィフ様は……」
「まあ、そうだな」
明明から視線を外さずに、ユースィフは肯定をあらわした。
「それはつまりーー」
ジュードの言葉を引き継ぎ、士英が口を開く。
「あの明明という少年は……魔術師かもしれないということですか」
「まあ、そうだな。俺は鬼眼だから見ることしかできないが……あのガキが魔術師だっていうなら、怪異を絵に閉じ込めることもできるだろうからな」
この世の中には『魔術師』と呼ばれる者、『鬼眼・見鬼』と呼ばれる者、『召喚士』と呼ばれる者と、それ以外の者で構成されている。
常人と違うものを見ることができる『鬼眼』と、常人にはない力が使える『魔術師』。
それとは違う、特別な力を持つ『召喚士』。
この世界でもごく稀だが、そういった者たちが確かに存在していた。
しかし、その者たちはその力を利用されることを恐れ、大概の場合その力を隠していることが多い。
それとは別に、神や仏を信じる精神力を力に変える『法力』というものも存在するが、その話はまた後日することとしよう。
「しかし、なぜーー」
「そこまでは知るかよ」
ハーシムの言葉に一同は口を噤む。
「もしかしてーー無意識なんじゃないか?」
不意に、アスアドはポツリとそう呟く。
「無意識とはどういうことです?」
「つまり……あの明明という少年も言っていたじゃないか。『怪異騒ぎでもなんでも、絵が売れたらありがたい』と」
「ふむ……」
「病気がちな母親の薬代のため、自分でも気が付かないうちに潜在魔力を引き出して怪異を引き起こした」
「ーーで、人が死んで怖くなって売るのを止めたってわけか?」
「ああ」
アスアドの言葉に、ハーシムは顎髭を撫でながら笑った。
「ふん、てめえにしては悪くない推理だな」
「貴様はいつも一言余分だ」
アスアドが眉を顰めると、ジュードは苦笑して先を続ける。
「ですが、そうだとすれば……どうやって無意識の彼を止めるか、です」
怪異を彼自身の魔力が起こしているのであれば、彼自身を止めなくてはならない。
その上、無意識だとしたら……。
自身でもコントロールのできない物を他人が止めるのは難しい。
しかし、死人が出ている以上、放って置くわけにもいかなかった。
一同はそれぞれ黙り込む。
「まあ、それは追々考えるとして……皆、まずは一旦屋敷に帰らないか」
一同の沈黙を破るように、ユースィフはにっこり笑いながら気の抜けたような声を上げた。
気がつけば夜は白み始め、うっすら陽の光のようなものが垣間見える。
「あっ…!明明は……」
「帰った」
アスアドの言葉にユースィフは答えながら、あくびを噛み殺した。
「何枚か絵を描いて、そのまま来た道を帰って行ったよ」
「そ、そうだったのですか……」
「うん、だからオレたちも帰ろう。そろそろ、ミシュアルも戻る頃だろうしな」
一同はユースィフに促され、登る朝日を背に帰路についた。
「と、言うことは、悲しい顔をした男女二人の姿が見えるということか?」
アスアドの言葉にハーシムは視線を外し、眼帯をはめながら頷く。
「ああ」
「ユースィフ様は……」
「まあ、そうだな」
明明から視線を外さずに、ユースィフは肯定をあらわした。
「それはつまりーー」
ジュードの言葉を引き継ぎ、士英が口を開く。
「あの明明という少年は……魔術師かもしれないということですか」
「まあ、そうだな。俺は鬼眼だから見ることしかできないが……あのガキが魔術師だっていうなら、怪異を絵に閉じ込めることもできるだろうからな」
この世の中には『魔術師』と呼ばれる者、『鬼眼・見鬼』と呼ばれる者、『召喚士』と呼ばれる者と、それ以外の者で構成されている。
常人と違うものを見ることができる『鬼眼』と、常人にはない力が使える『魔術師』。
それとは違う、特別な力を持つ『召喚士』。
この世界でもごく稀だが、そういった者たちが確かに存在していた。
しかし、その者たちはその力を利用されることを恐れ、大概の場合その力を隠していることが多い。
それとは別に、神や仏を信じる精神力を力に変える『法力』というものも存在するが、その話はまた後日することとしよう。
「しかし、なぜーー」
「そこまでは知るかよ」
ハーシムの言葉に一同は口を噤む。
「もしかしてーー無意識なんじゃないか?」
不意に、アスアドはポツリとそう呟く。
「無意識とはどういうことです?」
「つまり……あの明明という少年も言っていたじゃないか。『怪異騒ぎでもなんでも、絵が売れたらありがたい』と」
「ふむ……」
「病気がちな母親の薬代のため、自分でも気が付かないうちに潜在魔力を引き出して怪異を引き起こした」
「ーーで、人が死んで怖くなって売るのを止めたってわけか?」
「ああ」
アスアドの言葉に、ハーシムは顎髭を撫でながら笑った。
「ふん、てめえにしては悪くない推理だな」
「貴様はいつも一言余分だ」
アスアドが眉を顰めると、ジュードは苦笑して先を続ける。
「ですが、そうだとすれば……どうやって無意識の彼を止めるか、です」
怪異を彼自身の魔力が起こしているのであれば、彼自身を止めなくてはならない。
その上、無意識だとしたら……。
自身でもコントロールのできない物を他人が止めるのは難しい。
しかし、死人が出ている以上、放って置くわけにもいかなかった。
一同はそれぞれ黙り込む。
「まあ、それは追々考えるとして……皆、まずは一旦屋敷に帰らないか」
一同の沈黙を破るように、ユースィフはにっこり笑いながら気の抜けたような声を上げた。
気がつけば夜は白み始め、うっすら陽の光のようなものが垣間見える。
「あっ…!明明は……」
「帰った」
アスアドの言葉にユースィフは答えながら、あくびを噛み殺した。
「何枚か絵を描いて、そのまま来た道を帰って行ったよ」
「そ、そうだったのですか……」
「うん、だからオレたちも帰ろう。そろそろ、ミシュアルも戻る頃だろうしな」
一同はユースィフに促され、登る朝日を背に帰路についた。
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