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番外編
206 フィヌイの散歩(9)
しおりを挟むティアは駆け寄り両手を広げると――
子狼姿のフィヌイ様は、腕の中に勢いよく飛び込んできてくれたのだ。
「フィー、会いたかったよ・・」
――心配かけてごめんね。僕も会いたかった。
やっぱりもふもふで、お日様の匂いがしてとても落ち着く。
私は頬ずりをしながら、しばらくフィヌイ様のもふもふで心を癒されていると、
フィヌイ様を抱っこしていた小さな女の子が、てててっと近くに駆け寄ってくる。そして、私の服の端をくいくいと引っ張ると、期待に満ちた眼差しを向けてくるのだ。
そして――
「お姉ちゃん・・もしかして、聖女様なの?」
「・・・!!」
ずばりと聞いてくる!
私は一瞬戸惑っていると、フィヌイ様がキャンと一声鳴き訴えてくる。
ということは、これはつまり――
「そ、そうよ。お姉ちゃんは聖女で、こ、この子は子犬の姿をしているけど、この国の主神フィヌイ様なの。でも、フィヌイ様とお忍びで旅をしているから、私としては他の人には言わないでほしいかな・・」
「うん、わかった。でもひとつ、聖女様にお願いがあります!」
「う~ん。聖女様じゃなくって、気軽にティアでいいよ・・」
「それじゃ、ティアお姉ちゃん。お願いがあるの。お母さん病気で、だんだん元気もなくなってきて、最近は起き上がれないことも多いの。治療費のお金は、私が一生懸命に働いて少しずつ払っていくから、だからお願い。お母さんを診てほしいの!」
「もちろん。それに、フィーが一晩お世話になったようだしお金はいらないかな。あと・・もし良かったら貴女のお名前を教えてもらえると嬉しいかな」
「私は、マツリカだよ」
こうして、ティア達はマツリカの家を訪れることになったのだ。
マツリカのお母さんは病で伏せっていると聞いていたが・・外に出てちょうど水汲みをしているところで、
お母さんは私たちの訪問に驚いてはいたが、快く家に向かい入れてくれたのだ。
それでも・・やっぱりティアの目にも、かなり無理をしているのがわかる状態で、
ティアとしてはマツリカのためにも、『治癒の奇跡』を使いたいと思ってはいる。しかし、勝手には使えない。フィヌイ様の許可がいるのだ。それとなくフィヌイ様の顔を見てお伺いを立てると、
――ティア、お母さんに『治癒の奇跡』を使ってあげて。一晩、この家に泊めてもらってごはんも貰ったの。その、お返しがしたいんだ。僕の気まぐれなお願い!
フィヌ様の気まぐれだけど優しいお願いに、ティアはふんわりと笑顔で頷いたのだ。
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