上 下
10 / 13
番外編

206 フィヌイの散歩(9)

しおりを挟む
 
 ティアは駆け寄り両手を広げると――
 子狼姿のフィヌイ様は、腕の中に勢いよく飛び込んできてくれたのだ。

 「フィー、会いたかったよ・・」
 ――心配かけてごめんね。僕も会いたかった。

 やっぱりもふもふで、お日様の匂いがしてとても落ち着く。
 私は頬ずりをしながら、しばらくフィヌイ様のもふもふで心を癒されていると、
 フィヌイ様を抱っこしていた小さな女の子が、てててっと近くに駆け寄ってくる。そして、私の服の端をくいくいと引っ張ると、期待に満ちた眼差しを向けてくるのだ。
 そして――

「お姉ちゃん・・もしかして、聖女様なの?」
「・・・!!」

 ずばりと聞いてくる!

 私は一瞬戸惑っていると、フィヌイ様がキャンと一声鳴き訴えてくる。
 ということは、これはつまり――

「そ、そうよ。お姉ちゃんは聖女で、こ、この子は子犬の姿をしているけど、この国の主神フィヌイ様なの。でも、フィヌイ様とお忍びで旅をしているから、私としては他の人には言わないでほしいかな・・」
「うん、わかった。でもひとつ、聖女様にお願いがあります!」
「う~ん。聖女様じゃなくって、気軽にティアでいいよ・・」
「それじゃ、ティアお姉ちゃん。お願いがあるの。お母さん病気で、だんだん元気もなくなってきて、最近は起き上がれないことも多いの。治療費のお金は、私が一生懸命に働いて少しずつ払っていくから、だからお願い。お母さんを診てほしいの!」
「もちろん。それに、フィーが一晩お世話になったようだしお金はいらないかな。あと・・もし良かったら貴女のお名前を教えてもらえると嬉しいかな」
「私は、マツリカだよ」

 こうして、ティア達はマツリカの家を訪れることになったのだ。
 マツリカのお母さんは病で伏せっていると聞いていたが・・外に出てちょうど水汲みをしているところで、
お母さんは私たちの訪問に驚いてはいたが、快く家に向かい入れてくれたのだ。

 それでも・・やっぱりティアの目にも、かなり無理をしているのがわかる状態で、
 ティアとしてはマツリカのためにも、『治癒の奇跡』を使いたいと思ってはいる。しかし、勝手には使えない。フィヌイ様の許可がいるのだ。それとなくフィヌイ様の顔を見てお伺いを立てると、

 ――ティア、お母さんに『治癒の奇跡』を使ってあげて。一晩、この家に泊めてもらってごはんも貰ったの。その、お返しがしたいんだ。僕の気まぐれなお願い!

 フィヌ様の気まぐれだけど優しいお願いに、ティアはふんわりと笑顔で頷いたのだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】蘭方医の診療録

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:90

【完結】王子様はつれないメイドのガラスの靴を落とさせない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:26

家出少年ルシウスNEXT

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:537

続・異世界温泉であったかどんぶりごはん

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:54

夫は私を愛してくれない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:11,423pt お気に入り:872

処理中です...