枯れ専で何が悪い!

嘉ノ海祈

文字の大きさ
22 / 32

22.襲撃

しおりを挟む
「…な、に…?」

 呻くような人の叫び声に、深く眠っていた私は目を覚ました。夜だというのに、なんだか外が騒がしい。重たい瞼をこすりながらただならぬ様子に上半身を起こすと、既に起きていたらしいナタリーが私に声をかけた。

「お嬢様、今すぐ着替えてください」

 パッと渡されたのは比較的動きやすい素材でできたドレスと顔まで隠れるローブ。訳が分からないながらも、サッとそれを受取った私は着替えながら、ナタリーに状況を説明させる。

「ナタリー。一体何があったの?」
「どうやらこの城が襲撃されているようです」
「襲撃?…どうして?」
「分かりません。ですが、タイミング的に皇女さまを狙っているのかと」
「大変!アディを助けにいかないと!」
「ええ。幸い、敵はまだこの階には到達していないようです。急ぎ、アデライト様と合流し、エドゥアール様と落ち合いましょう」

 私たちは最低限のものを持つと、急いで部屋を出てアディの部屋に向かった。どうやら彼女は無事だったようだ。彼女は既に部屋の前にいて、エドゥアール様と護衛の騎士達と何やら話し込んでいた。

「アディ!」
「エリィ!」

 私の声にアディがこちらを振り向く。私を視界にいれるとホッとしたような表情を浮かべた。

「良かった。無事だったのね。今、ちょうど貴方たちを迎えに行こうとしていたところなの」
「ええ。ナタリーが機転を利かせてくれたおかげで、早く行動できたの。…それより一体これはどうなっているの」
「説明は後だ。屋上に用意される飛竜に乗って王都まで行く。移動中はローブで顔を隠しておけ。どれが皇女なのか分からない方が狙いを定めにくくできる」

 エドゥアール様の言葉に私たちは頷くと一斉に駆けだした。屋上に繋がる階段に近づいたところで、敵と思われる黒ずくめの男たちが襲ってきた。

「いたぞ!ここだ!」
「ちっ!」

 護衛の騎士達が急いで敵を切り捨てたが、敵に叫ばれる方が早かった。一斉に敵と思われる人たちがこちらに向かってくる。護衛の騎士たちは次々と敵を倒していく。

「エドゥアール様、ここは私たちに任せてお二人を!」
「ああ。ついてこい!」

 護衛の騎士たちの言葉に頷くとエドゥアール様は私たちを屋上に繋がる階段へ案内した。背後から聞こえてくる金属が擦れ合う音を耳にしながら、私たちは必死に階段を駆け上った。

 何とか階段を昇りきり、屋上へと繋がる扉の前にたどり着いたところで、エドゥアール様は扉に耳を当て外の気配を探る。どうやら外に人の気配があるらしく、エドゥアール様は顔をしかめた。

「5人か…多いな」

 そう呟き何か逡巡するエドゥアール様。腰に巻かれた剣に手を当てているあたり、私たちをどう守るか考えているのだろう。ふと、階段の下の方からドタドタと誰かが上がってくる音がする。その音にエドゥアール様はハッと顔を上げた。

「どうやら迷っている暇もないらしい。…ナタリー、其方どれくらい戦える」
「2人くらいでしたら、排除できるかと」
「分かった。では出て右側の二人を頼む。二人は私から離れず壁側にいろ。よいな」
「はい」「分かりました」

 エドゥアール様は屋上の扉をガンッと蹴り上げると、物凄い速さで近くにいた敵を一人倒した。そして、私たちを背後に匿うと、襲ってきたもう一人の敵と戦い始める。さらにもう一人参戦してきて、一人で二人を相手にしていた。

 一方のナタリーはさっと右側にいた敵の死角に入り込むと、お得意の暗殺スキルで敵の息の根を止めた。そしてもう一人の敵もとに向かうと、攻撃をしかける。流石にこちらは存在に気付かれたようで暗殺はできなかったようだ。相手が手強いのか、苦戦しているようだった。

「(エドゥアール様、戦いづらそう…)」

 私たちを庇っているせいで動きが制限されているのだろう。中々決着がつけられないようだ。何とか敵の隙をつくれないかと思案している時だった。突然、背後から冷たいものが首筋に当てられた。

「動くな」

 耳元にそう囁かれる低い声。恐る恐る視線を下に向ければ首元にはナイフが当てられている。首筋に当たる冷たい感触に背筋がゾクリと凍った。

「エリィ!」
「おっと、一歩でも動けばこいつの命はないぜ」

 敵の声にアディの動きが止まる。アディの声でこちらの異変に気付いたエドゥアール様とナタリーも、こちらに来ようとしたが敵の攻撃によりそれが叶わないようだ。二人の表情に焦りが浮かび始める。

「さてと、んで、どっちが皇女様だ?…赤い髪だって聞いたけど、暗くて見えねぇな」
「…っ!」

 ど、どうしよう。このままだとアディが危ない。

「んー、侯爵令嬢殺すと面倒だからって言われたけど、これじゃわかんねーな。んま、いっか。どっちも殺しちゃおう。殺すのが俺らの仕事だし」

 ニヒルな笑みを浮かべてそんなことを呟く全身黒ずくめの男。「じゃあ、まずは君から」とささやかれ、ナイフが振り降ろされそうになったその時、エドゥアール様が叫んだ。

「リブル!」

 その瞬間、グオォォというけたたましい声が周囲に響いた。黒い影が物凄い速さで頭上を横切る。

「うわぁっ!」

 背後にいたはずの男がいつの間にか宙に浮いていた。いや、正確には飛竜の足に捕らえられ宙吊りになっていた。飛竜はそのまま男を足で掴んだまま空中を飛び回ると、ポイっと捨てるように男を宙へ放り投げた。男は悲鳴を上げ
ながら地面へと落ちていく。

 あっけにとられながらそれを眺めていた私だったが、すぐに意識は目の前の光景に移った。立て続けに2匹の飛竜が飛んできて、エドゥアール様とナタリーを襲っていた敵も連れ去ったからだ。どんなに強かろうと所詮は人間。飛竜の力を前に叶うわけがない。

「お嬢様!」

 ようやく敵から解放されたナタリーがこちらに向かって走って来た。エドゥアール様も同時にこちらへ駆け寄ってくる。

「怪我はないか?」

 心配そうに尋ねてくるエドゥアール様に私は大丈夫だと頷いた。

「はい。襲われる前にエドゥアール様の飛竜が助けてくれましたので。…それより、エドゥアール様の怪我の方が…」

 恐らく、さっき私が人質になってしまった時に隙をつかれ、腕を切られたのだろう。服に血が滲んでいる。私がそういうとエドゥアール様は問題ないと首を横に振った。

「かすり傷だ。それほど深くない」

 その時、空を飛び回っていた3匹の飛竜がこちらへと戻って来た。よく見ると2匹の飛竜の上には人間が乗っている。月明かりに照らされ、ようやく見えた姿に私は驚愕の声を上げた。

「ウォルター、それにレオ!!」
「遅い」
「申し訳ありません。少々、邪魔が入りまして」
「お叱りは後で受けますんで、早く乗ってください!直ぐに敵が来ちゃいますんで」

 エドゥアール様の言葉に二人は申し訳なさそうに謝罪した。そしてウォルターはアディに、レオはナタリーに向かって手を差し出す。二人はその手を取るとそれぞれ飛竜にまたがった。

「エリワイド嬢はこちらに」

 いつの間にか相棒の飛竜にまたがったエドゥアール様が、私に向かって手を差し出した。急いでいたこともあり、私は言われるがままにその手を取り、エドゥアール様の前に座る。そして、気づいた。

 …あれ、これめちゃくちゃエドゥアール様と近くない?

 一気に心臓の鼓動が高鳴る。いや、今緊急事態だし、ドキドキしてる場合じゃないのは分かっているけど、意識せずにはいられない。だって、落ちないように支えるためか、エドゥアール様の腕がお腹に回されている。背中にはエドゥアール様のぬくもりが伝わってきて、エドゥアール様との距離の近さを実感させられる。

「しっかり捕まっていなさい」

 ひえっ…こ、声が。エドゥアール様の美しいバリトンボイスが耳元に。…ムリ、心臓が爆発しそう…。

「うわっ!」

 その時、バサリという音を立て飛竜が空に舞い上がった。思わず驚きの声が口から飛び出す。大丈夫だと私を落ち着かせるかのようにお腹に回された腕に少し力がこもった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

年増令嬢と記憶喪失

くきの助
恋愛
「お前みたいな年増に迫られても気持ち悪いだけなんだよ!」 そう言って思い切りローズを突き飛ばしてきたのは今日夫となったばかりのエリックである。 ちなみにベッドに座っていただけで迫ってはいない。 「吐き気がする!」と言いながら自室の扉を音を立てて開けて出ていった。 年増か……仕方がない……。 なぜなら彼は5才も年下。加えて付き合いの長い年下の恋人がいるのだから。 次の日事故で頭を強く打ち記憶が混濁したのを記憶喪失と間違われた。 なんとか誤解と言おうとするも、今までとは違う彼の態度になかなか言い出せず……

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

【完結】訳あり追放令嬢と暇騎士の不本意な結婚

丸山 あい
恋愛
「私と結婚してほしい」リュディガーらしい真っ直ぐな飾り気のない求婚に、訳ありのキルシェは胸が締め付けられるほど苦しさを覚えた。 「貴方は、父の恐ろしさを知らないのよ……」 令嬢キルシェは利発さが災いし、父に疎まれ虐げられてきた半生だった。そんな彼女が厳しい父に反対されることもなく希望であった帝都の大学に在籍することができたのは、父にとって体の良い追放処置にもなったから。 そんなある日、暇をもらい学を修めている龍騎士リュディガーの指南役になり、ふたりはゆっくりと心を通わせ合っていく。自分の人生には無縁と思われていた恋や愛__遂には想い合う人から求婚までされたものの、彼の前から多くを語らないままキルシェは消えた。 彼女は、不慮の事故で命を落としてしまったのだ。 しかし、ふたりの物語はそこで終わりにはならなかった__。 相思相愛からの失意。からの__制約が多く全てを明かせない訳ありの追放令嬢と、志を抱いた愚直な騎士が紡ぐ恋物語。 ※本編は完結となりますが、端折った話は数話の短いお話として公開していきます。 ※他サイト様にも連載中 ※「【完結】わするるもの 〜龍の騎士団と片翼族と神子令嬢〜」と同じ世界観で、より前の時代の話ですが、こちらだけでもお楽しみいただける構成になっています。

処理中です...