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7.アランの訪問
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「やぁ、セシリア。誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。殿下」
陽が高くなった頃、婚約者であるアランがセシリアの元にやってきた。彼の後ろに控えている従者は大量の荷物を抱えている。どうやらこれら全て、セシリアへの誕生日プレゼントなのだという。想像を超えるプレゼントの量にセシリアは戸惑いを隠せなかった。
「…こんなに沢山。…あの、本当によろしいのですか?」
恐る恐るそう尋ねるセシリアにアランは微笑みながら頷く。
「もちろんだ。一つに決められなかったからな。私が持っていても意味がないから、もらってくれ」
「ありがとうございます。大切に着ます」
「ああ」
いただいたプレゼントを使用人たちに部屋に運んでもらっている間、セシリアはアランにお茶をもてなすことにした。
「もうすぐ社交界ですね」
特に話題が思いつかなかったセシリアは、近づいている社交界の話をアランに振った。優雅に紅茶を飲んでいた彼は、セシリアの言葉に静かに頷くとカップを置き口を開く。
「…そうだな。セシリアは着る服を決めたのか?」
「ええ、まぁ」
「どんな服だ?」
「エメラルドのストレートドレスにいたしますわ」
前回はこのようにアランがセシリアに関する話を振ってくることはなかった。セシリアがアランの興味を引こうと色々と話しかけたが、すべて「そうか」の一言だけだった。だから、正直こうして会話が続く今の状況がセシリアには不思議だ。
「エメラルド…いいな、君によく似合いそうだ」
そして、このような甘い発言がアランから飛び出すのがさらに不思議だった。前回のアランだったらこんな発言絶対にしない。幼いころは相変わらずの淡白な会話だったのだが、婚約破棄の話を持ち掛けたあたりからいきなり態度が変わったのだ。そこまでしてでも、セシリアとの婚約は手放したくないものなのだろう。
「殿下は何をお召しになるのですか?」
セシリアの言葉にアランは蒼い瞳を細めた。心なしかその瞳には甘さがはらんでいる。
「もちろんバイオレットをあしらった宮廷服を用意した」
「バイオレット…?」
予想外の色にセシリアは驚愕する。バイオレット。それはセシリアの瞳の色。この国ではパートナーの瞳の色をまとうことが愛情表現の一つとなっている。
セシリアとアランは婚約者同士なので互いの瞳の色の服をまとうことは別におかしくはないのだが、前回の人生でアランがセシリアの瞳の色の服を身にまとったことなどなかった。
「なぜそんな不思議そうな顔をしている。婚約者なのだから当然だろう」
ぎくりとしたセシリアは、我に返りぎこちなく微笑んだ。
「…え、ええ。…ただ、その、意外で」
「…意外?」
セシリアの言葉にアランは眉をしかめた。意外だと言われたことが腑に落ちないようだ。
「…その、殿下は私にそういった感情はお持ちでないと思っておりましたので」
「…なぜ?君と私は婚約者だろう?」
「婚約者だからですわ。家同士が決めた結婚に恋愛感情など関係ありませんもの」
セシリアがそう言うとアランは表情をこわばらせたまま固まった。そして、口元へ手を持っていきながら小さい声で何かつぶやく。
「…って…のか…?」
「殿下?」
もごもごと何かをつぶやくアランの様子にセシリアは首をかしげる。何か気に障るようなことをいってしまったのかしらと内心焦った。
「つまり私は、自分の地位の安定のためだけに婚約者を利用する薄情な男だと思われていたのか…?」
「え?」
あまりにも早口で聞き取れなかったセシリアはアランに聞き返したが、アランは静かに首を横に振るとスッとソファから立ち上がった。
「…いや、いい。時間はまだある。どうやら私の努力が足りなかったようだ」
「はい?」
余裕がないアランの珍しい姿にセシリアは困惑する。なぜか急に立ち上がったアランに合わせて無意識にセシリアもソファから腰を上げた。
「急用を思い出した。すまないが今日はこれで失礼する」
その言葉を聞いてようやくセシリアはアランの言動がおかしくなった理由に納得した。きっと話の途中で何か重要な仕事を思い出したのだろう。それで焦って冷静さを失っていたに違いない。
「わかりました。お見送りをいたします」
「いや、いい、気にしないでくれ。また来る」
「はい、殿下」
アランの背中を見送りながら、忙しい中わざわざ誕生日を祝いに来てくれたんだなぁとセシリアは思った。
「…殿下、前回と今回では大分雰囲気が変わったわよね」
前回の殿下はセシリアに興味を示す様子は全く見せなかった。政略結婚の相手として常に割り切った様子だったし、さっきみたいに甘い言葉を向けてくれることだってなかった。
「原因はわからないけれど、前回と何か流れが違う…?」
正直、この変化がいいように作用するのか悪い方に作用するのかが分からない。いい方向に変わればいいとセシリアは願うのだった。
「ありがとうございます。殿下」
陽が高くなった頃、婚約者であるアランがセシリアの元にやってきた。彼の後ろに控えている従者は大量の荷物を抱えている。どうやらこれら全て、セシリアへの誕生日プレゼントなのだという。想像を超えるプレゼントの量にセシリアは戸惑いを隠せなかった。
「…こんなに沢山。…あの、本当によろしいのですか?」
恐る恐るそう尋ねるセシリアにアランは微笑みながら頷く。
「もちろんだ。一つに決められなかったからな。私が持っていても意味がないから、もらってくれ」
「ありがとうございます。大切に着ます」
「ああ」
いただいたプレゼントを使用人たちに部屋に運んでもらっている間、セシリアはアランにお茶をもてなすことにした。
「もうすぐ社交界ですね」
特に話題が思いつかなかったセシリアは、近づいている社交界の話をアランに振った。優雅に紅茶を飲んでいた彼は、セシリアの言葉に静かに頷くとカップを置き口を開く。
「…そうだな。セシリアは着る服を決めたのか?」
「ええ、まぁ」
「どんな服だ?」
「エメラルドのストレートドレスにいたしますわ」
前回はこのようにアランがセシリアに関する話を振ってくることはなかった。セシリアがアランの興味を引こうと色々と話しかけたが、すべて「そうか」の一言だけだった。だから、正直こうして会話が続く今の状況がセシリアには不思議だ。
「エメラルド…いいな、君によく似合いそうだ」
そして、このような甘い発言がアランから飛び出すのがさらに不思議だった。前回のアランだったらこんな発言絶対にしない。幼いころは相変わらずの淡白な会話だったのだが、婚約破棄の話を持ち掛けたあたりからいきなり態度が変わったのだ。そこまでしてでも、セシリアとの婚約は手放したくないものなのだろう。
「殿下は何をお召しになるのですか?」
セシリアの言葉にアランは蒼い瞳を細めた。心なしかその瞳には甘さがはらんでいる。
「もちろんバイオレットをあしらった宮廷服を用意した」
「バイオレット…?」
予想外の色にセシリアは驚愕する。バイオレット。それはセシリアの瞳の色。この国ではパートナーの瞳の色をまとうことが愛情表現の一つとなっている。
セシリアとアランは婚約者同士なので互いの瞳の色の服をまとうことは別におかしくはないのだが、前回の人生でアランがセシリアの瞳の色の服を身にまとったことなどなかった。
「なぜそんな不思議そうな顔をしている。婚約者なのだから当然だろう」
ぎくりとしたセシリアは、我に返りぎこちなく微笑んだ。
「…え、ええ。…ただ、その、意外で」
「…意外?」
セシリアの言葉にアランは眉をしかめた。意外だと言われたことが腑に落ちないようだ。
「…その、殿下は私にそういった感情はお持ちでないと思っておりましたので」
「…なぜ?君と私は婚約者だろう?」
「婚約者だからですわ。家同士が決めた結婚に恋愛感情など関係ありませんもの」
セシリアがそう言うとアランは表情をこわばらせたまま固まった。そして、口元へ手を持っていきながら小さい声で何かつぶやく。
「…って…のか…?」
「殿下?」
もごもごと何かをつぶやくアランの様子にセシリアは首をかしげる。何か気に障るようなことをいってしまったのかしらと内心焦った。
「つまり私は、自分の地位の安定のためだけに婚約者を利用する薄情な男だと思われていたのか…?」
「え?」
あまりにも早口で聞き取れなかったセシリアはアランに聞き返したが、アランは静かに首を横に振るとスッとソファから立ち上がった。
「…いや、いい。時間はまだある。どうやら私の努力が足りなかったようだ」
「はい?」
余裕がないアランの珍しい姿にセシリアは困惑する。なぜか急に立ち上がったアランに合わせて無意識にセシリアもソファから腰を上げた。
「急用を思い出した。すまないが今日はこれで失礼する」
その言葉を聞いてようやくセシリアはアランの言動がおかしくなった理由に納得した。きっと話の途中で何か重要な仕事を思い出したのだろう。それで焦って冷静さを失っていたに違いない。
「わかりました。お見送りをいたします」
「いや、いい、気にしないでくれ。また来る」
「はい、殿下」
アランの背中を見送りながら、忙しい中わざわざ誕生日を祝いに来てくれたんだなぁとセシリアは思った。
「…殿下、前回と今回では大分雰囲気が変わったわよね」
前回の殿下はセシリアに興味を示す様子は全く見せなかった。政略結婚の相手として常に割り切った様子だったし、さっきみたいに甘い言葉を向けてくれることだってなかった。
「原因はわからないけれど、前回と何か流れが違う…?」
正直、この変化がいいように作用するのか悪い方に作用するのかが分からない。いい方向に変わればいいとセシリアは願うのだった。
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