9 / 14
9.運命の時
しおりを挟む
そそくさと会場へ戻っていくセシリアを見送ったアランは、今後の予定について考えながら庭園を眺めていた。ふと、何者かの不穏な気配を感じ咄嗟に気配に向かって剣を抜いた。
「ひゃっ!」
だが、聞こえてきたのは想像より甲高い声で、剣の先にいる人物が敵ではないことに気づき、アランはすぐに剣を下ろした。
「っ!すまない!…マリアか」
(先ほど感じた殺気は気のせいか…?)
マリアは驚いた様子ではあったが、剣が下ろされほっとしたような表情に戻るとアランに頭を軽く下げた。
「いえ、こちらこそすみません。まさか庭園に殿下がいらっしゃるとは思わず。驚かせてしまいました」
「いや、私が悪い。少々気を張っていたとはいえ、気配の区別がつけられなかった」
「怪我もしていませんし、お気になさらず。…それにしても、お城にはこんなに素敵な庭園があったのですね。初めて知りました」
感動しましたというように綺麗な笑顔を向けるマリアに、アランはああと言葉を返す。
「気に入ってもらえたようで何よりだ。専属の庭師が腕によりをかけて作り上げたからな。ここには他国から取り寄せた希少な植物もある」
「それはすごいですね。…あの、殿下―」
ふと、見知った人物の気配を感じ取ったアランはそちらへと視線を向けた。マリアが何かを聞こうとしたが、アランの耳にはすでに入っていなかった。
※※※※
結局、会場にはマリアは既にいなかった。もしかしたら既にアランと合流しているかもしれないと思ったセシリアは庭園へと戻ってきた。
すると、アランの隣にはマリアがいて既に話しているのが見えた。どうやら前回と同じ流れ通りになったようだ。そのことにセシリアはほっと息をついた。
(流れが元に戻ったようでよかったわ。…でも、ここから刺客に襲われるのよね。マリアをなんとしてでも守らないと…)
マリアを守れば嫉妬によりマリアを殺そうとしたという疑いは晴れる気がするのだ。そうすれば死を回避できるのではないかとセシリアは考えた。
「来たか…」
「え?」
かなり遠くにいたのにセシリアが戻ってきたことに大分早く気づいたアランは、セシリアに視線を向けた。彼と話していたらしいマリアはきょとんとした様子で彼の視線を追っている。
「遅かったなセシリア」
「殿下。お待たせして申し訳ありません。…もしかしてお話のお邪魔をしてしまいましたか?」
「いや、いい。大した話はしていない。それよりも用事は全部済んだのか?」
「はい。おかげさまで」
「そうか」
セシリアの言葉にアランは目を細めた。てっきりマリアと会話しているうちにマリアに心が移り、邪魔扱いされるかなと思っていたのだが、特にそういった様子はなさそうだ。
(やっぱり、前回と比べて殿下に何か変化があったのかしら…)
ふと、植木の奥から金属のかすれる音がした。その音にセシリアは我に返る。はっと気づいた時にはアランが二人の前に出て、襲ってきた刺客の剣を受け止めているところだった。
「っ!下がってろ」
「ひゃっ!」
「っ!」
突然の刺客にマリアは青ざめた表情で悲鳴を上げる。一方のセシリアは本格的に最後の記憶に近づいていることに緊張で息を飲んだ。
「ち、やはり来たか。衛兵っ!」
「「は!」」
(え!前回はこんなにたくさんの衛兵なんていなかったのに!…というか、殿下、今やはりって言わなかった?まさか、この事件を予想していたの…?)
セシリアの記憶では前回は衛兵が少なく守りが薄かったのだ。それで守り切れず怪我を負うことになるのだが…。
(でも、衛兵も増えたけど敵の量がそれに比例して増えているような…)
庭園は低い植木で囲われているため死角が多い。なのでこれくらいの量が隠れられてもおかしくはないのだが、想像以上に刺客の量が多く、衛兵は苦戦しているようだった。衛兵だけでは守り切れずセシリア達の方を襲ってきた刺客をアランが必死に倒している。
「想像以上に量が多いな…。セシリア、それからマリアも、私から離れるな」
「え、ええ」「は、はい!」
あいにくセシリアは武芸のたしなみがない。一度、戦うすべを覚えようとしたことはあったのだが壊滅的にセンスがなかった。もともと筋肉が付きにくいタイプだし、ひ弱な令嬢の腕では剣さえふるうのは難しかったのだ。
おとなしくアランの後ろに控えていた二人だったが、二人の背後から突然植木を乗り越え刺客が襲ってきた。刺客はそのままマリアに攻撃をしようとする。セシリアは咄嗟にマリアを庇おうと前に出た。
(腕ならそう簡単に死なないわよね)
痛みを覚悟のうえで腕を前にだし剣を受け止めようとしたその時―
「そうはさせませんよっ!」
聞きなれた声がしたかと思うと、キィンと剣が交わる音が聞こえた。恐る恐る目を開けるとそこには見間違えようのない頼もしい背中がそこにはあった。
「クラウス!」
王宮で開かれる社交界には専属の側仕えを連れていくことができない。防犯の都合上、王宮で用意した使用人しか会場に入ることができないのだ。だからクラウスは今日の社交界には出席していなかったはずなのだが、今はそれを気にする余裕はなかった。
「お嬢様、遅くなり申し訳ございません。お怪我はございませんか」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう」
「もう少しご辛抱ください。すぐに片づけますのでっ!」
剣が激しくぶつかり合う音がする。クラウスがここまで戦えることを知らなかったセシリアはただただ彼の戦いぶりに見惚れていた。
しばらくして、応援が駆け付けたこともあり刺客は全て捕らえられた。静かになった庭園にアランの声が響く。
「社交界は中止だ。出席者を速やかに送り返せ。私たちはこのまま犯人を炙り出す」
こうして成人して初めての社交界は幕を閉じ、セシリアはクラウスに連れられて屋敷に急いで戻ったのだった。
「ひゃっ!」
だが、聞こえてきたのは想像より甲高い声で、剣の先にいる人物が敵ではないことに気づき、アランはすぐに剣を下ろした。
「っ!すまない!…マリアか」
(先ほど感じた殺気は気のせいか…?)
マリアは驚いた様子ではあったが、剣が下ろされほっとしたような表情に戻るとアランに頭を軽く下げた。
「いえ、こちらこそすみません。まさか庭園に殿下がいらっしゃるとは思わず。驚かせてしまいました」
「いや、私が悪い。少々気を張っていたとはいえ、気配の区別がつけられなかった」
「怪我もしていませんし、お気になさらず。…それにしても、お城にはこんなに素敵な庭園があったのですね。初めて知りました」
感動しましたというように綺麗な笑顔を向けるマリアに、アランはああと言葉を返す。
「気に入ってもらえたようで何よりだ。専属の庭師が腕によりをかけて作り上げたからな。ここには他国から取り寄せた希少な植物もある」
「それはすごいですね。…あの、殿下―」
ふと、見知った人物の気配を感じ取ったアランはそちらへと視線を向けた。マリアが何かを聞こうとしたが、アランの耳にはすでに入っていなかった。
※※※※
結局、会場にはマリアは既にいなかった。もしかしたら既にアランと合流しているかもしれないと思ったセシリアは庭園へと戻ってきた。
すると、アランの隣にはマリアがいて既に話しているのが見えた。どうやら前回と同じ流れ通りになったようだ。そのことにセシリアはほっと息をついた。
(流れが元に戻ったようでよかったわ。…でも、ここから刺客に襲われるのよね。マリアをなんとしてでも守らないと…)
マリアを守れば嫉妬によりマリアを殺そうとしたという疑いは晴れる気がするのだ。そうすれば死を回避できるのではないかとセシリアは考えた。
「来たか…」
「え?」
かなり遠くにいたのにセシリアが戻ってきたことに大分早く気づいたアランは、セシリアに視線を向けた。彼と話していたらしいマリアはきょとんとした様子で彼の視線を追っている。
「遅かったなセシリア」
「殿下。お待たせして申し訳ありません。…もしかしてお話のお邪魔をしてしまいましたか?」
「いや、いい。大した話はしていない。それよりも用事は全部済んだのか?」
「はい。おかげさまで」
「そうか」
セシリアの言葉にアランは目を細めた。てっきりマリアと会話しているうちにマリアに心が移り、邪魔扱いされるかなと思っていたのだが、特にそういった様子はなさそうだ。
(やっぱり、前回と比べて殿下に何か変化があったのかしら…)
ふと、植木の奥から金属のかすれる音がした。その音にセシリアは我に返る。はっと気づいた時にはアランが二人の前に出て、襲ってきた刺客の剣を受け止めているところだった。
「っ!下がってろ」
「ひゃっ!」
「っ!」
突然の刺客にマリアは青ざめた表情で悲鳴を上げる。一方のセシリアは本格的に最後の記憶に近づいていることに緊張で息を飲んだ。
「ち、やはり来たか。衛兵っ!」
「「は!」」
(え!前回はこんなにたくさんの衛兵なんていなかったのに!…というか、殿下、今やはりって言わなかった?まさか、この事件を予想していたの…?)
セシリアの記憶では前回は衛兵が少なく守りが薄かったのだ。それで守り切れず怪我を負うことになるのだが…。
(でも、衛兵も増えたけど敵の量がそれに比例して増えているような…)
庭園は低い植木で囲われているため死角が多い。なのでこれくらいの量が隠れられてもおかしくはないのだが、想像以上に刺客の量が多く、衛兵は苦戦しているようだった。衛兵だけでは守り切れずセシリア達の方を襲ってきた刺客をアランが必死に倒している。
「想像以上に量が多いな…。セシリア、それからマリアも、私から離れるな」
「え、ええ」「は、はい!」
あいにくセシリアは武芸のたしなみがない。一度、戦うすべを覚えようとしたことはあったのだが壊滅的にセンスがなかった。もともと筋肉が付きにくいタイプだし、ひ弱な令嬢の腕では剣さえふるうのは難しかったのだ。
おとなしくアランの後ろに控えていた二人だったが、二人の背後から突然植木を乗り越え刺客が襲ってきた。刺客はそのままマリアに攻撃をしようとする。セシリアは咄嗟にマリアを庇おうと前に出た。
(腕ならそう簡単に死なないわよね)
痛みを覚悟のうえで腕を前にだし剣を受け止めようとしたその時―
「そうはさせませんよっ!」
聞きなれた声がしたかと思うと、キィンと剣が交わる音が聞こえた。恐る恐る目を開けるとそこには見間違えようのない頼もしい背中がそこにはあった。
「クラウス!」
王宮で開かれる社交界には専属の側仕えを連れていくことができない。防犯の都合上、王宮で用意した使用人しか会場に入ることができないのだ。だからクラウスは今日の社交界には出席していなかったはずなのだが、今はそれを気にする余裕はなかった。
「お嬢様、遅くなり申し訳ございません。お怪我はございませんか」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう」
「もう少しご辛抱ください。すぐに片づけますのでっ!」
剣が激しくぶつかり合う音がする。クラウスがここまで戦えることを知らなかったセシリアはただただ彼の戦いぶりに見惚れていた。
しばらくして、応援が駆け付けたこともあり刺客は全て捕らえられた。静かになった庭園にアランの声が響く。
「社交界は中止だ。出席者を速やかに送り返せ。私たちはこのまま犯人を炙り出す」
こうして成人して初めての社交界は幕を閉じ、セシリアはクラウスに連れられて屋敷に急いで戻ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
呪われた王子さまにおそわれて
茜菫
恋愛
ある夜、王家に仕える魔法使いであるフィオリーナは第三王子フェルディナンドにおそわれた。
容姿端麗、品性高潔と称えられるフェルディナンドの信じられない行動に驚いたフィオリーナだが、彼が呪われてることに気づき、覚悟をきめて受け入れる。
呪いはフィオリーナにまで影響を及ぼし、彼女の体は甘くとろけていく。
それから毎夜、フィオリーナは呪われたフェルディナンドから求められるようになり……
全36話 12時、18時更新予定
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる