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3.漁業ギルドに加入しました。

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翌日、私は漁業ギルドへ入会するため、漁業ギルドへと向かっていた。

 どうやらこのケオジャの町はロネマ帝国本島の一部とその近くにある小さな島を橋で繋げてできた町のようで、まるで水上に都市が作られたような景観となっている。4階建くらいの縦に長い建物がずらりと並んでおり、人が歩くための道は全て石畳である。ただ、島と島の間にあたる海の部分は歩くことができないため、橋がないところでは小舟を使って移動しているようだ。

 白や黄色、オレンジ、赤などの華やかな建物が多く、屋根は全体的丸くて可愛らしいものが多い。どこかで見たことがある風景なんだよなと思っていた私は前世の記憶を辿って思い出した。

(あ、そうか。前世のテレビの特集で見たヴェネツィアに似てるんだ)

 風土といい景色といい、ここは地中海に近い雰囲気を持っている。町の人たちも活気に溢れていて、賑やかな印象であった。

 ふと、島の奥にたどり着いたところで大きな建物が現れた。どうやらこれが漁業ギルドのようだ。白地の建物に黒い屋根。結構おしゃれな外観である。建物のすぐ横には港があって、漁船らしき船がいくつも並んで停まっていた。

(うわー!あの漁船、かっこいい!船の上で漁をした日々がもの凄く懐かしく感じるわ……)

 ギルドの大きな扉の前にたどり着いたところで、私はもう一度建物を見上げる。そして、気合を入れて扉に手をかけると、私はギルドの中へと足を踏み入れた。


※※※



「ネロ、この仕事はどうだ?」

 ギルド内にある掲示板を眺めていた黒髪の男が、隣にいたオレンジ色の髪をした男に話かける。ネロと呼ばれたその男は、黒髪の男が指差した掲示を眺めると首を横に振った。

「駄目だ、オスカル。今から行くには場所が遠すぎる」
「つーか、今日は雨が降るぜ。海が荒れるから海岸で済ませたほうがいい」

 ヒョイっと2人の間に割り込んだ緑髪の男がそう言った。黒髪の男は僅かに目を見張ると諦めたようにため息をついた。

「なら、ここはダメだな。お前の天気予知能力は便利だな、ディエゴ」
「別に、能力でも何でもないけどな。海の男なら誰でも持ってる勘ってやつだ」
「お前のは勘の域を超えている。知る人が知れば絶対にお前の取り合いになる」
「はっはっ。大袈裟だぜ、ネロ。大体、オレ、男に取り合われるのはごめんだわ。可愛い女の子に取り合われるなら大歓迎だけどな」

 にへらと締まりない笑みを浮かべるディエゴを、呆れたように見つめた2人はやれやれと首を振ると掲示板に視線を戻した。

「……あ、これなんかいいんじゃないか?」

 そう言ってネロが指差したのは掲示板の上にある張り紙。2人はそれを眺めるとニッと口角を上げた。

「いいじゃん。これなら近くの海岸だし。すぐ終わるよ」
「あの付近にこいつが生息しているなんて聞いたことはないが……確認してみるのは悪くないな」
「よし、決まりだな」

 ビリッと掲示板から貼り紙を剥がしたネロはそのままギルドの受付へと向かった。残りの2人も彼の後ろをついていく。

「こんにちは、ネロさん。そして他のお二人も。なんだかお顔を見るのはお久しぶりですね」

 受付にやってきた三人に気づいたのか、受付にいた女性は三人を見ると笑顔で話しかけた。

「前回の仕事でコイツが怪我をしてな。治るまで休みにしていたんだ」
「まぁ!大丈夫ですか、ディエゴさん」
「あはは、平気、平気~。あ、でもモニカちゃんが労わってくれるならオレ、大歓迎~!この仕事終わったら、回復祝いに一杯どう~?」
「またお前は……」

 詫びれる様子もなく、意気揚々とモニカに誘いを入れるディエゴ。そんなディエゴをさほど気に留める様子もなくモニカは微笑んだ。

「それくらいの元気があれば大丈夫そうですね。お仕事頑張ってください。回復祝いはお仲間のお二人がしてくださいますよ」
「そんなぁ」

 項垂れるディエゴをよそに、モニカは思い出したかのように話を続けた。

「そういえば、今日、新しい子がこのギルドに入ったんですよ。しかもまだ若い女の子で。すっごくやる気に満ちてて、手続きが終わったら早速漁に行っちゃいました。中々、女性の会員の方って少ないので入ってくれて嬉しいですね」
「へぇ、そうなのか。それは凄いな。……って、今日は雨が降るとディエゴが言っているが大丈夫なのか、その子」
「え、そうなんですか!?」

 ネロの言葉にモニカは驚きの声を上げた。

「本人は勘だと言い張っているが、あいつの予想はほぼ的中するからな。今日は海が荒れると思ったほうがいい」

 オスカルがそう付け足すとモニカはさっと青ざめる。

「どうしよう。彼女、よりにもよって船釣りに行きましたよ。Dランクなので湾内の穏やかな場所ですけど」
「1人用の船だと湾内でも荒波は危険だな」

 基本的にDランクの会員はカヤックを使っての釣りとなる。人数によって大きさが変わって来るのだが、1人だとかなり小さいため、大きな波にさらわれる危険がある。いくら穏やかな湾内とはいえ、初めての釣りだとすると色々と心配である。

「場所はどこらへん?」

 ディエゴがそう尋ねると、モニカは地図を取り出しテーブルに広げた。そこには今日のギルドメンバーが仕事を予定している場所に目印がついている。

「えーと、ラゾナゼノの近くです」
「じゃあ、オレたちが行くところと近いね。午前中に連れ戻せば大丈夫だと思うから、見つけたら声かけておくよ」
「ありがとうございます。お願いします」

 少しホッとしたような顔で三人に頭を下げるモニカ。そんな彼女を見て三人は安心させるように微笑みを浮かべた。

 ギルドには何人か受付嬢がいるのだが、モニカはその中でもメンバー想いの優しい子であった。皆、彼女の人の良さを理解しているからこそ、彼女が困っていると自然と助けたくなってしまうところがあった。

「とりあえず、さっさと仕事を終わらせるぞ」
「だな」「了解ヴァベーネ!」



※※※



「く~、潮風さいこぉお!」

 無事にギルドへの登録が終わり、釣り用の道具を借りた私は初心者向けの釣り場だという場所に来ていた。

(うん。波も穏やかだし、ここなら釣りもしやすそう)

 レンタル品だからしかたがないとはいえ、与えられたカヤックは一人用の小さなものだった。それに、前世とは違い完全に手動で動かすもので、モーターみたいな装置はついていない。だから、波が荒いところでこのカヤックを乗りこなすのは正直至難の技だった。何せ、今世の私は貴族令嬢。貴族らしい生活を送っていたかといわれれば微妙ではあるが、力仕事はそこまでしていない。なので、あまり腕力には自信がなかった。

(まずは、帆付きの丈夫な船を手に入れるところからだなぁ)

 前世の漁師生活で、海の恐ろしさは何度も経験している。幸い自分は海難事故に会うことはなかったが、知り合いの知人が海難事故で亡くなったりもしていて、他人事ではなかった。

(海に挑むなら準備は万全にしないと)

 どうやらギルドにはランクというものがあり、それによって選べる仕事も変わってくるようだ。今の私は最低ランクのDランク。一番上はSランクまであるらしい。

 ランクが上がるほど、捕獲の難易度は高くなるが珍しい魚を捕まえにいくことができる。味が逸品で価格も高い魚介が、高ランクの仕事では捕獲できるらしい。

 それに、この世界の海には魚だけでなく海獣と言われる特殊な生物がいるらしいのだ。詳細は分からないのだが、とにかく危険で獰猛な生き物だと聞いた。ただ、味が非常に美味しいらしく市場では高値で取引されるらしい。危険な仕事のため、Aランク以上の人間しか海獣の捕獲には挑めないらしい。そうとなれば私がやることは一つ。

(Aランクになって、海獣を食べる!)

 異世界特有の海の珍味。魚介好きとして絶対に食べておきたいものである。

(そのためにも、まずはこの仕事を完了させないと)

 道具を借りるには仕事の依頼を引き受ける必要があるとのことだったので、私は初心者向けの仕事を一つ引き受けてきた。ギュトーレという魚を捕獲するという仕事だ。魚自体は1匹でも納めればノルマ達成となるらしいので、2匹取れれば夕食分も手に入ることになる。

 気合を入れて海を見つめた私は、砂浜に置かれたカヤックを押して海へ浮かべると、それに乗り込んで出発した。
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