召しませ我らが魔王様~魔王軍とか正直知らんけど死にたくないのでこの国を改革しようと思います!~

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ

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147.雪魂花

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 彼を死なせるわけにはいかない。単純に死んでほしくないってのもあるけど、現状の濡れ衣を晴らせる存在はエリック様しか居ないのだ。

 掴みかかるように尋ねると、ドク先生は神妙な顔つきのまま私の前に指を一本立てた。

「一つだけ、方法がある」
「ほんと?」

 さすが「毒の研究をしたい」と言って来ただけのことはある。ところが先生はヒゲもないのにしきりに顎を撫で始め、言いづらそうにボソボソと言葉を濁してしまった。

「だがのう……」
「なに? 何か問題でもあるの?」

 じれったくなって先を促すと、彼は実に歯切れ悪く続けた。

「ワシの研究では【雪魂花(セッコンカ)】という白い花さえあれば、その花からエキスを抽出して毒を中和できるはずだが……」
「じゃあそれを早く取りに行って、薬を作ろうよ」

 この時点で私を除く見舞いの人たちは驚いたように息を呑んでいた。異様な雰囲気の中、見回りを終えてやってきたラスプが医務室の入り口で立ち尽くしているのと目が合う。ライムが私の腕に手をかけながらそっと説明をしてくれた。

「あのねアキラ様、雪魂花は誰も見たことがない幻の花なんだ。だけどこの世界で唯一、咲いていると言われてる場所がある」

 普段の弾むような話し方はどこへやら、ライムの声は真剣そのものだった。

「その場所は魔族諸島の果て、何人たりとも侵入を許さない厳戒態勢の地。ライカンスロープたちが住む朱き月の帝都――ラル・デネ・アレア」
「え」

 ライカンスロープってことは、狼人間? もう一度ラスプの方を見ると、彼は扉の枠に手をかけたまま俯いていた。一呼吸置いたライムが衝撃の事実で説明を締めくくる。

「ぷー兄ぃはね、そこの皇子様なんだ」

 沈黙は一瞬だった。ガタッと立ち上がった私は指をさしながら思わず素っ頓狂な声を出す。

「おっっ、おうじぃ!?」

 ズルッと滑ったラスプが、こちらをチラッと見上げ拗ねたように小さくつぶやいた。

「悪いかよ……」
「あ、いや、悪くはない。けどイメージが、その」

 じゃあ何? 私たちはそんなロイヤルな身分の方にこれまでご飯を作らせてきてたってこと? さんざんいじり倒して、こき使って、あまつさえ汚れキャラにしてたのに? 腰が引けた私はじりじりと下手の体勢に移行しながら平謝りする。

「ひぇぇ、ぷー王子おゆるしをぉぉ、なにとぞ国際問題に発展するのだけはなんとか、なんとか!」
「ぷー王子とか呼んでる時点で敬う気ゼロじゃね」

 真顔でツッコミを入れたラスプに、ちょっと笑ったライムとグリもいつものように悪ノリをする。

「仕方ないよ、ぷー兄ぃぜんぜん王子様なんてキャラじゃ無いもん」
「オーラないし」
「滅ぼしてぇ!」

 頭を抱えてシャウトする彼に、周囲から笑いが起こる。私ときどき思うのよね、この人、周りの為にわざと三枚目な役に回ってるんじゃないかって。そんなことを思いながら話を本筋に戻す。

「じゃあラスプがちょっと里帰りして、その花を取ってくればいいわけね! 道が見えてきたわ!」

 グッと拳を握りしめた私とは裏腹に、幹部たちの反応はイマイチだった。気まずそうにラスプの方を見たライムが気遣うように尋ねる。

「行けそう?」
「う……」

 狼さんは顔をしかめて難色を示す。あれ、何か都合の悪い事でもあるのかな? 前にチラッと見せた反応では、何だか故郷に対して訳ありっぽいし。私は遠慮がちに尋ねてみた。

「難しかったりする? そういえば一度も帰ってるところ見たことないけど、ご家族と上手くいってないとか?」

 デリケートな問題ではあったけど、何としてでもこのチャンスは逃したくない。目を泳がせながら頭を掻いたラスプは、ようやく話し出した。

「い、家出? したっつーか、ほとんど飛び出すように出てきたから、喧嘩別れというか」
「え、勘当されたってこと?」

 その時、ベッドに寝かせていたエリック様が小さくうめく。覗き込んだドク先生が脈や反応を調べた後、落ち着いてこう言った。

「大丈夫、少し騒がしかったようだ。悪いが静かに寝かせてやってくれんか」

 ここが病室だったことを思い出した私たちは、反省しながら場所を移動することにした。最後に主治医の言葉が飛んでくる。

「よいな? 雪魂花を株ごと一輪じゃ。それさえあれば一日で解毒薬を作ってやるからの」


 ***


 ◆朱き月の都-ラル・デネ・アレア- 通称ラル帝国
 赤い人狼たちの住む島。ライカンスロープたちは他種族との交流を嫌い、島に近付く者は徹底的に排除している。
 また、島の周辺の海は常に瘴気が発生しており、並の手段では上陸することすら困難。命が惜しければ近寄らないことを強く推奨する。


 図書室に移動した私たちは、世界地図が載った資料から顔を上げてため息をついた。どうしてドク先生の口調があんなに重たいのかわかった。雪魂花は超SSSレア素材だったのだ。資料をパタンと閉じながら私は口を開く。

「他種族との接触を避けているっていうのはウィッチ達と同じだけど、こっちの方がより閉鎖的ね……」

 この非常事態のせいか、いつも読書する人でひしめき合っている図書室も今日ばかりはひっそりしている。机の端に腰掛けていたピアジェが困ったように小首を傾げた。

「瘴気のせいで、あの辺りの海に近付くだけで吐き気とめまいが止まらなくなるんですよねぇ~、荷物を運ぶ時もできるだけ近寄らないよう指導してるんです~」
「なんだよそれ、アタシがこっそり忍び込んで盗ってきてやろうと思ったのに」

 その横にいたダナエも悔しそうに顔を歪める。その横にいたフルアーマーさんが張り切ったようにガションと挙手した。

『我が輩なら瘴気も効かぬぞ! その大役、任されたり!』
「塩水でサビるだろオッさん」
「隠密行動には果てしなく向かない人選ですねぇ」
「そもそも泳げんの? まさかひたすら海底を歩いていくつもり?」
「あはぁ、動けなくなったら海中の道しるべとして使わせて貰いますねぇ」

 だが、少女二人からすげなく一蹴され崩れ落ちる。あーあー、そんなに虐めるんじゃありません。苦笑いを収めた私は表情を引き締めみんなを見回す。

「やっぱり正攻法で攻めるしかないと思うの。ライカンスロープ族の皆さんにきちんと申し入れをして、招待してもらった上で花を分けて貰う。どう?」

 一番穏便に済ませるにはこれがベストなはずだ。だけど、向かいの席で頬杖をついていたグリが相変わらずの無表情で否定を入れた。

「難しいと思うよ。狼人間は筋金入りの人間嫌いで、ハッキリ言ってリュンクスよりもひどい。『人間の勇者』の病気を治すために雪魂花を分けて貰えるとは思えない」

 グッと詰まる私を見た彼は、真面目なトーンのままでこう続けた。

「だからあきらの意見には半分賛成。賓客として招き入れて貰ってから、タイミングを見てコッソリ花を盗み出すんだ」

 ゴクリとみんなが息を呑み、その場にいる者たちを見回す。大丈夫、ここに居るのは最初からこの国を支えてくれた信頼できる人ばかりだ。腰を浮かした私は机に手を突きながら口を開いた。

「なら話は早い方がいいわね、さっそく連絡を取らなきゃ。ワイバーン君、伝令役頼める?」

 書架の隙間に押し込まれていたメッセンジャーは、ヒュッと息を呑むとますます居心地悪そうに身体を縮こまらせた。

「あぐぅぅ、瘴気があるからオイラが行けるのはきっと近場の島まで……いや! 行くッス! 国の緊急事態に弱音吐いてらんねぇッス! 自分の命一つで済むなら安いもんでさぁ!」
「あぁぁぁごめんごめんごめん! 瘴気のこと忘れてたっ、特攻覚悟で行かなくていいから! 死ねとは言ってないわよっ」
「いや! ここで恩を返さなきゃ、セニアスハーブで魔王様を疑った自分が許せねぇッス!」
「だぁーからぁぁ」

 すぐにでも飛び立ちそうな竜を慌てて引き留める。しかし困った、連絡が取れないんじゃ交渉する以前の問題じゃない。その時、静かだけどよく通る声が響いた。

「連絡なら取れる」
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