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第3章 俺たちの楽園

9 創世神

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 俺の前に現れたのは、黄金の有翼人。

 いや、たぶん人じゃない。
 相対しているだけで体中が震えて止まらなくなる。
 信じられないほど荘厳で、神々しい雰囲気。

 もしかして、このお方は──。

「我は創世神エ・ルドーラ」

 神様だったらしい。
 全身がまぶしく光っているせいで、顔や服装はまったく分からない。

「正確には、この装置に宿った神の意志だ。我が本体は天界にある」

 残留思念……みたいな感じだろうか。

「お前に会いたかった。『万物創生』のスキルを持つ者。第七十三期神候補者──ミルからその力を与えられたのだな」

 告げる創世神様。

「彼は優秀だ。神養成学校カミスクールの成績上位だからな。もしかしたら次期創世神になるかもしれん」
「へえ、ミルのやつ、がんばってるんだ」

 なんか嬉しい。

「ふむ。お前はミルが下界にいたときの友だったな。一等神格スキルである『万物創生』を与えるとは、よほどお前のことが気に入ったと見える」

 気のせいか、創世神様は微笑んだような気がした。
 全身から発する荘厳なオーラに、どこか柔らかさが加わっている。

「あの、神様……俺はどうして、こんな場所に?」
「お前の力によって封印に影響が出ている。それを知らせようと思ってな」
「封印に……影響?」

 俺、何かまずいことでもしてしまったんだろうか。

「逆だ。お前は封印に良き影響をもたらしておる」
「えっ?」
「まず封印について説明しよう」

 と、創世神様。

「邪神を封印するのは、人々の喜びや幸せといった『正』のエネルギー。それが強まれば封印は強固になり、弱まれば封印は緩む。
 だが、お前のスキルはこの村の瘴気を取り除き、住人たちが楽しめる環境を作り出し、多くの喜びを提供した。それが封印の強化につながっている」

 以前よりも、封印が強まっているってことか。
 イコール邪神の脅威が弱まっている、ってことでいいんだろうか?

 それならジュデッカ村にとっては喜ばしいことだ。

「過去にも人間にスキルを授けた神はいた。だが、人間たちはロクな目的に使わない。私利私欲に使う者ばかりだった。
 正直──我はもう人間を見限っていた。己の欲望のためにしか動かぬ種だと。だがお前は違った。ミルに先見の明があったのか。彼は我々よりも人間というものを信じていたようだな」

 創世神様は、また微笑んだような雰囲気をかもし出した。

「人間にスキルを与えたり、干渉すること自体を禁じようとも思っていた矢先なのだが、お前を見て少しだけ考えが変わった。とはいえ──心するがよい。未だ邪神の脅威が完全に去ったわけではない」

 ……っていうか、神様なら邪神を完全になんとかしてほしい気がするぞ。

「それができれば苦労はない」

 あ、しまった、心の声が聞こえるのか。

「太古の戦いで我らは邪神を封印した。なぜ殺さなかったか分かるか?」
「いえ……」
「殺せなかったのだ。奴は強い。我らの力を結集して封印するのが精一杯だった」

 と、創世神様。

「しかも、下手に刺激すれば、奴はさらに力を高めるだろう。神や天使といった霊的生命体は、精神の様態に応じてその力を飛躍的に増す──お前も、見たことがあるだろう」
「えっ?」

 なんの話だろう、と考えたところで思い出す。

 天使アグエル──いや、あのときは堕天使だったけど、怒りでとんでもなく強くなったんだ。
 それに俺自身も、こころの在りようでスキルのさらなる段階──EXランク創生に目覚めたりもした。

「邪神を刺激してはならん。奴ほどの霊体が心を激しく変化させれば、どれだけ強大になるか分からぬ。あるいは、今度こそ我ら神々ですら抑えきれないほどに成長するかもしれん」
「封印状態がベスト、ってことですか?」
「そうだ。このまま、ジュデッカ村にさらなる喜びが満ちていけば──封印はより強固になる。邪神を完全に封じられるほどに」
「つまり、俺たちは今まで通りに楽しく暮らせ、と?」
「然り。基本的に、お前は今まで通りに過ごしてほしい。今まで通りにスキルを使い、多くの者に喜びや幸せを与えてほしい」

 創世神様は三度、微笑む。

「我はただ、それがどういう結果につながるのかを示したかっただけだ。そして、この村の現状と封印について、あらためてお前に教えたかった」

 つまりは、現状確認ってことか。

「我は下界に過剰な干渉をすることは望まぬ。ただ見守るとしよう。楽しき日々を過ごせ、人間よ──」

 創世神のその言葉とともに、俺の視界は激しく明滅する。



 ……気が付けば、俺は元の場所にいた。

「カイル様!?」

 ノエルが驚いたように目を丸くする。

「あれ、戻ってきたのか……うわっ!?」
「突然いなくなるから心配しました!」

 ノエルが俺に抱きついてきた。
 慌てて彼女を抱きとめる。

「……俺、どれくらいここから消えてた?」
「……三時間くらい、です」

 うっ、思ったより時間が経ってたんだな。
 そんな長時間話していた覚えはないから、あの空間は時間の流れが違うのかもしれない。

「心配させて悪かった」
「いえ、そんな……無事でよかったです」

 ノエルはまだ俺に抱きついたままだ。
 ギュウッと両腕を俺の背中に回し、体を思いっきり密着させて。

 離れる気配がないし、無理に離すわけにもいかないので、とりあえずこの姿勢のままでいることにした。

「とりあえず、さっき起きたことを説明しておくよ」

 俺は創世神から言われたことをノエルに話した。

「創世神様に出会うなんて……やっぱりすごいです、カイル様。選ばれた勇者様です」
「勇者はおおげさだって」
「ふふ」

 笑いあう俺たち。

「戻るか」

 この地下通路が突然現れた理由は分かったし、引き返すとしよう。
 と、思ったときだった。

 ごごごごごごごごごごごおおおおおおおぉぉぉぉっ!

 突然、通路全体に震動が走る。

 一体なんだ──!?
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