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こうして俺は世界を救った勇者になったとさ

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 頭突きを食らった程度で後ろに倒れた貧弱王様に群がる家来たち。
 俺も相応のダメージを食らったけれど、それより達成感の方があった。

「王様、無事ですか?! 化け物に殺されていませんか?!」
「む……ワシはなんということはしてしまったのじゃ」
「王様?!」

 起き上がった王様の目がやけにキラキラしている。
 さっきまで小汚い印象のデブなおっさんだったのに、今は透き通った瞳をしている純真なデブなおっさんだ。

「己の欲に駆られ、異世界の者を呼び寄せるなど……それに隣国を滅ぼすなぞ恐ろしい!」
「どうされたのですか王様?!」
「おのれ勇者め! いったい何をした?!」
「いや、頭突きを一発かましただけだが……俺、なんかやっちゃいました?」
「頭突き一発で欲まみれだったジジイがこんな綺麗な目になるはずねーだろ! どうなってんだ!」

 おい、魔法使いたちも王様のことを欲まみれのジジイって思ってたのか?

「これまで計画していた世界征服作戦のすべてを停止する。これからは民のために身を粉にして働くぞ!」

 よく分からないうちに王様のご立派な宣言をした。
 家来たちもさぞ感動するかと思いきや。

「ふざけんな! アンタを先頭に国を滅ぼしていい思いしようとしてたのに台無しだ!」
「俺が次の王になろうと思っていたのに!」
「俺のハーレム計画はどうなる! いますぐ戦え!」
「私の財宝はどうなるのよ!」

 魔法使いも騎士も、そのほか大臣や王女やいろんな連中が文句を言いに集まっていた。
 どいつもこいつも煩悩まみれの終わった王国だ。

「全部この化け物勇者のせいだ! 殺してやる!」

 騎士がまたしても剣を振りかぶり、俺は咄嗟にそいつに頭突きをかました。

「ぐはっ! …………ハッ?! 俺はなんて恐ろしいことをしてしまったんだ!」

 すると、頭突きを食らった騎士の目も王様みたいに透き通ったものに。
 もしやと思って試しにそばにいた魔法使いにも頭突きをしてみた。

「ぐふぁ! …………この魔法は世のため人のために使うべきものです。決して人を傷つけるために使ってはなりません」

 思った通りだ。
 どうやら俺に頭突きをされた奴は煩悩が消えるらしい。
 こうなりゃ人助けだと思ってこの腐った王国を正してやろう。
 ってことで、手当たり次第に頭突きをして回った。

「無理やりハーレムなんていけませんね。僕の魅力でみんなが集まるように鍛えないと!」
「美しき財宝は美しき心を持つ者が所有するべきですわね」
「隣国と仲良くしていくことが世界のためになるはずだ!」

 面白いぐらいにみんな目がキラキラしていく。
 怪しい宗教の開祖になった気分だ。

「みんな、目を覚ませ! ソイツに頭突きされたらおかしくなるぞ!」
「目を覚ますべきは君だ。さあ、彼に頭突きをしてもらうんだ」
「世界の見え方が変わるわよ」

 逃げる魔法使いの一人を騎士やメイドが引きずり出し、俺の前に差し出した。
 うん、開祖になった気分と言うか、これはもう洗脳の一種だな。
 頭突きをすることは止めないけど。

「うぐっ……ああ、どうして俺は逃げていたんだろう、この素晴らしい世界と向き合うことから!」
「目を覚ましたんだね、おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」

 新たに目をキラキラさせる魔法使いを祝う騎士やメイドたち。
 どうしよう、この状況を作ったのは俺だけどすごく怖い。
 とうとう、王宮内にいるすべての人間の目がキラキラになっていた。
 キラキラおめめ筆頭の王様が歩み寄り、頭を下げた。

「勇者様。我々の目を覚ましてくれ、ありがとうございます。この世界の平和のため、どんなこともいたします」
「あ、えーと、うん。国民のためにみんな頑張ってね。俺はそこら辺を旅することにしたからよろしく」
「勿論でございます! では、旅立ちに必要な資金と食料を用意いたしましょう」
「あんまり多くなくていいよ」
「ええ。民が治めてくれた血税、たとえ勇者様相手であろうと無駄に渡すわけにはいきませぬ」
「あ、よかった。そこはちゃんとしてて」

 思っていたよりは大丈夫そうだ。
 こうして、王様たちから旅に必要なものを受け取り、俺は王宮を出た。
 途中、役人の圧政に苦しむ村、意地汚い商人による買い占めに困る町などがあったのでその都度頭突きをして回った。

 頭突きを繰り返すうちに分かったが、煩悩にまみれた奴ほど俺の頭突きも効くらしい。
 人を困らせるほどの欲にまみれた奴はキラキラおめめにチェンジしたので一安心。
 そのうち王が国の再建をするはずだ。

 そうやって旅をしていくうちに国を出て、王たちが滅ぼそうとしていた隣国に来ていた。
 そこはこれまでいた王国よりもさらに貧しく、今日食べるものにも困っているほどだった。

「こりゃあ、いかん」

 俺はすぐさま元の王国にUターンし、食糧支援をお願いした。

「なんと、隣の国の者たちが飢えているですと?! もちろん、ご用意します!」

 隣国に接していた領地を経営していた貴族はキラキラした目で倉庫に貯めまくっていた食料を分けてくれた。

「トンデモナーイ王国からの食糧?! 何かの罠だ! 絶対に食べるな!」
「でもお母ちゃん、もうお腹がペコペコだよ……」
「あのパン、美味しそう……」

 初めは警戒していた隣国の者たちも子供の声には勝てず、ついに支援を受け入れた。
 話を聞きつけた元の国の王もすぐさま支援を始めてくれ、貧窮していた隣国はだんだん回復していった。

 どうやらトンデモナーイ王国の隣にあるヨロシ王国は亜人と言われる獣の耳や尻尾を持つ人々が寄り合って出来た国らしく、これまで何度もトンデモナーイ王国に責められ弱体化していたらしい。

 だから食糧支援もトンデモナーイ王国の罪滅ぼしってところだな。

「ああ……まさかあのろくでもない国が我々を助けてくれたなんて……いったいどんな奇跡が起きたのでしょう……! はっ?! もしやあなた様が、噂の勇者様ですか?!」

 日課の炊き出しをしていた俺に話しかけたのは三毛柄の猫耳美女。
 今まで出会った中で一番の美しさでドキッとした。
 いかんいかん、俺も自分で頭突きをしなきゃいけないところだった。

「私はヨロシ王国の王女のターニャです。我が国を救っていただき本当にありがとうございます」
「いえいえ、俺は大したことはしていませんよ」
「そんなことありません! あらゆる国に喧嘩を売り、災厄を招いてきていたトンデモナーイ王国の野望を止め、しかも改心させたのですから! 貴方様は我がヨロシ王国だけでなく、世界を救ったと言っても過言ではありません!」
「世界を救った……」

 そういえば、王様たちも「世界を救う勇者」を召喚したって言っていたよな。
 つまり結果的には王様たちの望み通りになったってことか。
 煩悩まみれだった時に願っていた望みとはちょっと違う結果になったかもしれねーけど。

「勇者様は旅をしていると聞きました。この先も旅を続けるのですか?」
「そうですねぇ……この世界にはまだまだ国があるって聞くし、煩悩まみれの奴らに頭突きして回るのもいいかもしれないな」
「でしたらどうか私もその旅に加えてください!」
「ええ?! だってあなた、王女様でしょう?!」
「いいのです! すでに父から許可は取っています!」
「いつの間に?!」

 猫耳美女の王女様の後ろから現れたのは、立派なライオンのたてがみを持つおじ様。

「我が娘のターニャを頼むぞ、勇者殿よ」
「娘?! ってことは貴方はヨロシ王国の王様?!」
「いかにも」

 ライオンから三毛猫美女が生まれるってこの世界の遺伝はどうなっているんだよ。
 それはともかく。

「王女様が旅に出るなんて危険ですよ!」
「あら勇者様……いえ、ツヨシさま。どうぞ私のことはターニャとお呼びください。にゃふふ」

 そう言ってターニャが抱き着くからモフモフの猫耳が俺の顔をくすぐった。
 ああ、至福。俺は大の猫好きなんだ。

「勇者の君がいるなら安心だ。それにターニャはこう見えてそれなりに強い。足手まといにはならないさ」
「で、ですが……」
「君のような立派な男であれば……娘も託せるよ、息子よ」
「ちょっと王様ぁああ?!」

 こうして俺はターニャと王様に言いくるめられ、次なる国へと旅立ったのだった。
 俺の……いや、俺たちの旅はまだまだ続く!!!


 向水先生の次回作にご期待ください!
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