6 / 16
回想・3
しおりを挟む
「ボンズ嬢、この書類を明日までにまとめてもらえるかな」
「はい殿下!」
殿下から差し出された書類を、浮き立つ思いで受け取る。
理由はともあれ、役得なことには変わりがない。わたしは殿下と一緒に進行役としての仕事をしている。否、殿下と過ごせる時間をおおーいに、満喫している。
なにしろ殿下のお近くにいられるのだ。まさに空気すらも清浄化される。
「いつもありがとう」
とお礼を言って下さる殿下(うちのくそ親否、男爵は何をしてもらってもお礼なんて言わない。だから出世できないんじゃね? は脳内での呟きだ)。
「ごめん、ここ教えてもらっても良いかな? 僕はどうも細かなところに配慮が足りなくて、婚約者にも色々言われてるから」
と、少し恥ずかしそうに俯いて頬を赤らめる殿下(このお顔見れるのきっとレアね? ありがとーございまーす!)。
「お疲れさま。君がすごくて助かっているよ」
「恐縮です……」
淑女らしく控えめに返しながらも、頭の中ではお祭りが起きていた。
わたしがすごい? すごいのは貴方です!!
わたしのような下々の者にまで、お情けを下さる慈悲深い貴方様だからこそです!!
どうせなら楽しまなきゃ損だ!! って感じに、殿下といれる時間をこれでもかと楽しむ事にしている。
幸い男爵達も乗り気だった。王子にわたしの――つまりわたしの親である自分をアピール出来ると踏んでいるんだろう。役割を理由にしたら、帰りが遅くなっても何も言わない。御者に嫌味を言われるけどそんなもんは右から左だ。全身で今を楽しもう! と思う。
―――時折ズキリ、と痛む胸には気付かない振りをして。
「あんな王子のどこが良いんだか……平民の感覚って分からないわね」
「止めて、聞こえたら怖いよ! 仮にも王子なんだし」
「良いでしょう? みんな影で言ってる事ですもの」
そんなやり取りが聞こえたのは、校舎の中からだった。
わたしがいるのは校舎の外。窓のある中は廊下だ。声の主たちはどうやら廊下で会話をしているらしい。
話の中の“仮にも王子”と言うフレーズにピタリと足が止まる。
咄嗟にメモを取り出し、書く振りをしながら壁にもたれた。
わたしはこれから、メモをするのに夢中になる。
だから中でどんな話をしていようが聞いていないとしか言えない。
廊下での会話は続く。
「リシェンヌ嬢が思いを寄せているのは別の方でしょう? 確か伯爵家のご三男」
「そう、今公爵家で執事をされているのよね」
「そうそう! うちの使用人とあちらの使用人に交流があって、それで知ったのだけど定例のお茶会の場で、王子の目の前で執事に口づけたとか」
「なんてはしたない……! そのような事がまかり通るなんて」
「それだけ公爵家が怖いのよ、皆。あなたも知っているでしょう? リシェンヌ嬢の成績。あれ教師側の捏造ってこと。『殿下が婿入りすればどうせ仕事全部してくれるからそれでいい』って」
「じゃあ王子は婿入りしたら針の筵で、ひたすらこき使われるだけなの?」
「私の兄や弟だったら、耐えられないわ……」
「そういう時の為の第3王子、って事よね……」
結局誰にも見咎められず、おしゃべり娘達にも気づかれないまま予鈴の音とともに話は終わった。
おしゃべり娘達は立ち去ったけど、わたしはメモを持ったまま動けなかった。渦巻く怒りに全身が震えている。
つまり……ご婚約者であるリシェンヌ嬢には、他に好きな人がいて、殿下の目の前でもいちゃ付いてるの?
しかもすごいと思っていた成績も、公爵家の権力で捏造されているもので、実際は違っていて?
公爵家に婿入りした殿下に待っているのは愛のない、ひたすらみじめに傷つけられる日々ってこと?
こっちは胸の痛みを誤魔化しながら一緒にいるんだ。優秀なご令嬢と結婚して幸せになると思ってたのに……蓋を開ければそれ?
「……冗談じゃ、ない……」
「はい殿下!」
殿下から差し出された書類を、浮き立つ思いで受け取る。
理由はともあれ、役得なことには変わりがない。わたしは殿下と一緒に進行役としての仕事をしている。否、殿下と過ごせる時間をおおーいに、満喫している。
なにしろ殿下のお近くにいられるのだ。まさに空気すらも清浄化される。
「いつもありがとう」
とお礼を言って下さる殿下(うちのくそ親否、男爵は何をしてもらってもお礼なんて言わない。だから出世できないんじゃね? は脳内での呟きだ)。
「ごめん、ここ教えてもらっても良いかな? 僕はどうも細かなところに配慮が足りなくて、婚約者にも色々言われてるから」
と、少し恥ずかしそうに俯いて頬を赤らめる殿下(このお顔見れるのきっとレアね? ありがとーございまーす!)。
「お疲れさま。君がすごくて助かっているよ」
「恐縮です……」
淑女らしく控えめに返しながらも、頭の中ではお祭りが起きていた。
わたしがすごい? すごいのは貴方です!!
わたしのような下々の者にまで、お情けを下さる慈悲深い貴方様だからこそです!!
どうせなら楽しまなきゃ損だ!! って感じに、殿下といれる時間をこれでもかと楽しむ事にしている。
幸い男爵達も乗り気だった。王子にわたしの――つまりわたしの親である自分をアピール出来ると踏んでいるんだろう。役割を理由にしたら、帰りが遅くなっても何も言わない。御者に嫌味を言われるけどそんなもんは右から左だ。全身で今を楽しもう! と思う。
―――時折ズキリ、と痛む胸には気付かない振りをして。
「あんな王子のどこが良いんだか……平民の感覚って分からないわね」
「止めて、聞こえたら怖いよ! 仮にも王子なんだし」
「良いでしょう? みんな影で言ってる事ですもの」
そんなやり取りが聞こえたのは、校舎の中からだった。
わたしがいるのは校舎の外。窓のある中は廊下だ。声の主たちはどうやら廊下で会話をしているらしい。
話の中の“仮にも王子”と言うフレーズにピタリと足が止まる。
咄嗟にメモを取り出し、書く振りをしながら壁にもたれた。
わたしはこれから、メモをするのに夢中になる。
だから中でどんな話をしていようが聞いていないとしか言えない。
廊下での会話は続く。
「リシェンヌ嬢が思いを寄せているのは別の方でしょう? 確か伯爵家のご三男」
「そう、今公爵家で執事をされているのよね」
「そうそう! うちの使用人とあちらの使用人に交流があって、それで知ったのだけど定例のお茶会の場で、王子の目の前で執事に口づけたとか」
「なんてはしたない……! そのような事がまかり通るなんて」
「それだけ公爵家が怖いのよ、皆。あなたも知っているでしょう? リシェンヌ嬢の成績。あれ教師側の捏造ってこと。『殿下が婿入りすればどうせ仕事全部してくれるからそれでいい』って」
「じゃあ王子は婿入りしたら針の筵で、ひたすらこき使われるだけなの?」
「私の兄や弟だったら、耐えられないわ……」
「そういう時の為の第3王子、って事よね……」
結局誰にも見咎められず、おしゃべり娘達にも気づかれないまま予鈴の音とともに話は終わった。
おしゃべり娘達は立ち去ったけど、わたしはメモを持ったまま動けなかった。渦巻く怒りに全身が震えている。
つまり……ご婚約者であるリシェンヌ嬢には、他に好きな人がいて、殿下の目の前でもいちゃ付いてるの?
しかもすごいと思っていた成績も、公爵家の権力で捏造されているもので、実際は違っていて?
公爵家に婿入りした殿下に待っているのは愛のない、ひたすらみじめに傷つけられる日々ってこと?
こっちは胸の痛みを誤魔化しながら一緒にいるんだ。優秀なご令嬢と結婚して幸せになると思ってたのに……蓋を開ければそれ?
「……冗談じゃ、ない……」
25
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】悪役令嬢は断罪後、物語の外で微笑む
あめとおと
恋愛
断罪され、国外追放となった悪役令嬢エレノア。
けれど彼女は、泣かなかった。
すべてを失ったはずのその瞬間、彼女を迎えに来たのは、
隣国最大商会の会頭であり、“共犯者”の青年だった。
これは、物語の舞台を降りた悪役令嬢が、
自由と恋、そして本当の幸せを手に入れるまでの、
ざまぁと甘さを少しだけ含んだショートショート。
『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~
スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」
王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。
伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。
婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。
それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。
――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。
「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」
リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。
彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。
絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。
彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。
【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました
丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、
隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。
だが私は知っている。
原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、
私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。
優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。
私は転生者としての知識を武器に、
聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、
王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。
「婚約は……こちらから願い下げです」
土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。
私は新しい未来を選ぶ。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる