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ぐーたら夫人は仕事モードになる
来訪者②
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突然震えだした執事に、門番はきょとんとしたままだ。想定外の事態に対処する気も起こらないらしい。
そんな隙を逃さず、男は屋敷の方を指差し叫んだ。
「2階の左から3番目の窓だオルガ!」
「ガッテン!」
叫びより早く、女が駆けだす。
男は分かっていた。執事が“ミュゼ”の名が出た一瞬、チラ、と視線を向け方角を。
間違っていても構わない。要はミュゼが出てくれれば良いだけだ。
慌てた騎士達が止めようとするのをヒラリヒラリと躱すエルフ。やがて目的の場所までたどり着くと、足元にあった石を拾い上げ、上空に投げた。
カツーン!
石は窓枠に当たり跳ね返される。が、彼女――オルガの目的は破壊ではない。その場から両掌を口元に当て、目的の窓に向かって叫ぶ。
「姐さーん、現場がトラブっちゃいましたー! 来てくださーい!!」
「もう来てるわよ」
「………え?」
執事と騎士達は、声の主に初めて気が付いた。いつの間にかそこにいた存在に。
ストレートの銀髪をなびかせた美女がそこにいた。
上向きに引かれた赤いルージュ。
緑色の瞳の上にある長いまつ毛に濃く描かれたアイラインはきつく上に引かれている。その下にある肌は驚く程艶やかだ。
着ている茶色の品の良いスーツの裾の部分は、膝下までスリットが入れられていて、動くたびにその曲線美をチラリと覗かせているのが人の目を惹く。
突然現れた人物に誰もが呆然とする中、3人の会話が続いた。
「私はまだ休暇中なんだけど?」
「わーん! 分かっていて意地悪言わないで下さーい! 新婚さんを邪魔しちゃうのは悪いなーって思ったんですが、ドワーフの爺さん達の意見が割れちゃって」
訊いた途端、ミュゼは眉を寄せて額を押さえ一言漏らした。
「まじかー?」
“まじかー”? それはどういう意味か?
彼らの会話の内容を把握出来ない執事や門番、騎士達が困惑する中、普通に会話が続いていた。
「はい、あの人らがやり合ってたら俺らじゃとても収拾出来ません! だから出てきて下さいすぐ!」
パン! と拝むようにする男に、ミュゼは苦笑を返した。
「はぁー……。良いわよ別に。新婚なんて雰囲気、ちっともなかったから」
「え……?」
再び彼らの空気が凍り付く。
「ミュゼさん、許可のない外出は」
お控えくださいか困ります。どちらかを告げようとした執事だったが寸前、目の前に一片のカードを突きつけられ沈黙した。
「…………へ?」
それはよく見る銀行のカードだ。が、
「執事さん、いえクロードだったかしら。ルミカ嬢といる旦那サマ? に伝言。“しばらく仕事で屋敷を空けます。
いない間の生活費はここから捻出してください”って事でよろしく」
「なっ! 許されませんぞ! そのような勝手なふるまいは」
怒号をあげながらもミュゼの腕を掴もうとした彼だが
「許しなんていらないわ。ってかマジ邪魔」
侮蔑する視線を向けられ、ヒョイと払われる。特に強い力でもなかったのにその場にしりもちをついてしまったのは彼がショックを受けていたからだ。
立ち上がれずにいる執事をチラリと見たが、すぐに背を向け歩き出した。
彼らの声が、風で流れてくる。
「ごめんなさい、時間を無駄にしたわ」
「こん位どうって事ないって」
「それより現場に急行しましょう、国王陛下もお望みなんですから」
そんな隙を逃さず、男は屋敷の方を指差し叫んだ。
「2階の左から3番目の窓だオルガ!」
「ガッテン!」
叫びより早く、女が駆けだす。
男は分かっていた。執事が“ミュゼ”の名が出た一瞬、チラ、と視線を向け方角を。
間違っていても構わない。要はミュゼが出てくれれば良いだけだ。
慌てた騎士達が止めようとするのをヒラリヒラリと躱すエルフ。やがて目的の場所までたどり着くと、足元にあった石を拾い上げ、上空に投げた。
カツーン!
石は窓枠に当たり跳ね返される。が、彼女――オルガの目的は破壊ではない。その場から両掌を口元に当て、目的の窓に向かって叫ぶ。
「姐さーん、現場がトラブっちゃいましたー! 来てくださーい!!」
「もう来てるわよ」
「………え?」
執事と騎士達は、声の主に初めて気が付いた。いつの間にかそこにいた存在に。
ストレートの銀髪をなびかせた美女がそこにいた。
上向きに引かれた赤いルージュ。
緑色の瞳の上にある長いまつ毛に濃く描かれたアイラインはきつく上に引かれている。その下にある肌は驚く程艶やかだ。
着ている茶色の品の良いスーツの裾の部分は、膝下までスリットが入れられていて、動くたびにその曲線美をチラリと覗かせているのが人の目を惹く。
突然現れた人物に誰もが呆然とする中、3人の会話が続いた。
「私はまだ休暇中なんだけど?」
「わーん! 分かっていて意地悪言わないで下さーい! 新婚さんを邪魔しちゃうのは悪いなーって思ったんですが、ドワーフの爺さん達の意見が割れちゃって」
訊いた途端、ミュゼは眉を寄せて額を押さえ一言漏らした。
「まじかー?」
“まじかー”? それはどういう意味か?
彼らの会話の内容を把握出来ない執事や門番、騎士達が困惑する中、普通に会話が続いていた。
「はい、あの人らがやり合ってたら俺らじゃとても収拾出来ません! だから出てきて下さいすぐ!」
パン! と拝むようにする男に、ミュゼは苦笑を返した。
「はぁー……。良いわよ別に。新婚なんて雰囲気、ちっともなかったから」
「え……?」
再び彼らの空気が凍り付く。
「ミュゼさん、許可のない外出は」
お控えくださいか困ります。どちらかを告げようとした執事だったが寸前、目の前に一片のカードを突きつけられ沈黙した。
「…………へ?」
それはよく見る銀行のカードだ。が、
「執事さん、いえクロードだったかしら。ルミカ嬢といる旦那サマ? に伝言。“しばらく仕事で屋敷を空けます。
いない間の生活費はここから捻出してください”って事でよろしく」
「なっ! 許されませんぞ! そのような勝手なふるまいは」
怒号をあげながらもミュゼの腕を掴もうとした彼だが
「許しなんていらないわ。ってかマジ邪魔」
侮蔑する視線を向けられ、ヒョイと払われる。特に強い力でもなかったのにその場にしりもちをついてしまったのは彼がショックを受けていたからだ。
立ち上がれずにいる執事をチラリと見たが、すぐに背を向け歩き出した。
彼らの声が、風で流れてくる。
「ごめんなさい、時間を無駄にしたわ」
「こん位どうって事ないって」
「それより現場に急行しましょう、国王陛下もお望みなんですから」
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