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最終章 まさかの展開
ミュゼからの要求
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「……閣下」
「な、何を水臭い! 義父と呼んで欲しい」
いやそれ、無理。という本音を隠し、悲しそうな表情を作る。
「そのお言葉は嬉しく思いますが……いずれ出て行く身です。それに……この屋敷で働く方々は気分が悪いでしょう」
空気がざわついた。
ずっと立ったまま顔を背けていたルースも、そんなミュゼにギョッとする。
使用人達も同様だった。
彼らの中で、ミュゼは常にだらけているかぐーたらした、だらしない人間だった。
が、先日特殊な竜に恐れる事無く付いて行った様子に加え、サイモンが来た日、魔道具でミュゼを見た者の言葉に揺らぎだしている。
トドメはルミカと食事をした際の言葉だ。
『家でだらけてどこが悪い』
つまり、ミュゼはオンオフのギャップが激しい人なのではないか?
本来の任務が修羅場―――彼らにとって―――な分、屋敷では緊張が解け、あのようなぐーたr、いや気が抜けてしまうのだ……と、確信に近い仮説が流れている。
更に付け加えるなら、現在自分達の給金はミュゼから出ているのだ(←ここ大事)。
それが分かってからは、身に覚えのある者はびくつき、覚えのない者も『何かやらかしてないか?』とびくつくという、神経の休まらない日々を過ごしている。
そんな彼らの胸中を知らない侯爵はホッとしたように、
「な、何だそのような事か……。態度が悪いのならその者を解雇しても良いぞ、何なら紹介状無しで」
怖いセリフを言ってくれた。
その何気なさに側に仕えていた者がギクッと顔を強張らせた。が、ミュゼの口から出たのは予想外のものだった。
「しばらく現場を離れ、お屋敷で書類仕事をしようと思っております」
「それは良いな! いや私も女性である貴女があのような危険な場所に行くのはどうかと思っていた! 野蛮な者が出入りする場所にか弱い女性が赴かねばならないなど不憫だと」
侯爵の言葉に若干、ミュゼはいら立つ。
肉体労働をする労働者の中に、荒くれが混じっているという考えは否定しない。すれ違う時肩が当たったとかの因縁をつけ、弱い者を脅して金をむしり取ってきた輩がいるのは事実だ。
が、それは今ではほんの一部しかいない。まぁそこに至るまで多少荒っぽい手段を講じたが―――実質うまく行っているから結果オーライだ。
まぁそんな裏事情は、リュドミラ候には関係がないし誰も知らせようとしないだろう。だってする必要がないから。
つまらない詐欺の手口に騙され、資産を注ぎ込んでしまったという事実だけで、貴族間では不要とされてしまう。あらゆる援助や法的手段も断たれ、いずれ爵位返上にまで追い込まれるだろう。
自業自得と切って捨てたいところだが、こちらも王命という枷がある。
その範囲で報復するとすれば―――
「それについて、うちの仕事関係者がお屋敷に自由に出入りする事をお許し下さいませ」
ミュゼの要求はその場にいる全ての人間に安心をもたらした。
「何だ、そんな事か。(よし、その間に息子との距離を縮められる! そして永久財産保障機関ゲットだ)……なら、門番に事前に伝えてくれれば通すよう申し伝えよう」
「……それも含めて、最初に顔を覚えてもらう為に、顔合わせをしておきたいですわ」
「そうだな、身分を偽ってくる可能性もあるのだから」
てっきり“紹介状無しの解雇”を言われると思っていた使用人達はホッと息を吐いた。
そしてミュゼの部下5人が、侯爵家家族に使用人達に引き合わされた。その中にはクロードと会ったオルガ達もいた。後2人は子爵家でミュゼの担当だったという侍女。
そして……
スタスタスタ、
タッタッタッタ
「サイモン様ぁ」
「これはザッコ元男爵令嬢殿ご機嫌麗しゅう」
「も~う……! ルミカと呼んでくださいって言ったじゃないですかぁ」
「年頃の女性を名前で呼ぶなど非常識です」
廊下に響くのは2種類の足音。前を歩くサイモンと、その後を追いかけるルミカのものだ。
サイモンも、ミュゼが紹介した出入り自由のメンツの1人だった。
それを知った時のルミカの喜びようはすごかった。『きゃー!』という嬌声が部屋の壁を伝い、あちこちに聞こえて来た程である。
「おはようルミカ! 最近部屋にいないんだね。ノックしたのに返事がなかったからどこかで倒れていたらと……アレ? 君は」
「これは小侯爵様ご機嫌麗しゅう」
ルースにサイモンが礼を取るが、ルースは彼より“キャーそんなところも素敵―!”と目をハート形にしているルミカにムッと口を曲げる。
「……急ぎの用件があります為、無礼ですがこれにて」
「えー? まだお話は終わってませぇん……! 今日こそはルミカのお部屋で2人っきりでお茶を」
「……ルミカ、サイモン殿はミュゼと仕事があるんだ」
「感謝します小侯爵様。では私はこれにて」
さっさとミュゼの部屋に入ってしまった。
「な、何を水臭い! 義父と呼んで欲しい」
いやそれ、無理。という本音を隠し、悲しそうな表情を作る。
「そのお言葉は嬉しく思いますが……いずれ出て行く身です。それに……この屋敷で働く方々は気分が悪いでしょう」
空気がざわついた。
ずっと立ったまま顔を背けていたルースも、そんなミュゼにギョッとする。
使用人達も同様だった。
彼らの中で、ミュゼは常にだらけているかぐーたらした、だらしない人間だった。
が、先日特殊な竜に恐れる事無く付いて行った様子に加え、サイモンが来た日、魔道具でミュゼを見た者の言葉に揺らぎだしている。
トドメはルミカと食事をした際の言葉だ。
『家でだらけてどこが悪い』
つまり、ミュゼはオンオフのギャップが激しい人なのではないか?
本来の任務が修羅場―――彼らにとって―――な分、屋敷では緊張が解け、あのようなぐーたr、いや気が抜けてしまうのだ……と、確信に近い仮説が流れている。
更に付け加えるなら、現在自分達の給金はミュゼから出ているのだ(←ここ大事)。
それが分かってからは、身に覚えのある者はびくつき、覚えのない者も『何かやらかしてないか?』とびくつくという、神経の休まらない日々を過ごしている。
そんな彼らの胸中を知らない侯爵はホッとしたように、
「な、何だそのような事か……。態度が悪いのならその者を解雇しても良いぞ、何なら紹介状無しで」
怖いセリフを言ってくれた。
その何気なさに側に仕えていた者がギクッと顔を強張らせた。が、ミュゼの口から出たのは予想外のものだった。
「しばらく現場を離れ、お屋敷で書類仕事をしようと思っております」
「それは良いな! いや私も女性である貴女があのような危険な場所に行くのはどうかと思っていた! 野蛮な者が出入りする場所にか弱い女性が赴かねばならないなど不憫だと」
侯爵の言葉に若干、ミュゼはいら立つ。
肉体労働をする労働者の中に、荒くれが混じっているという考えは否定しない。すれ違う時肩が当たったとかの因縁をつけ、弱い者を脅して金をむしり取ってきた輩がいるのは事実だ。
が、それは今ではほんの一部しかいない。まぁそこに至るまで多少荒っぽい手段を講じたが―――実質うまく行っているから結果オーライだ。
まぁそんな裏事情は、リュドミラ候には関係がないし誰も知らせようとしないだろう。だってする必要がないから。
つまらない詐欺の手口に騙され、資産を注ぎ込んでしまったという事実だけで、貴族間では不要とされてしまう。あらゆる援助や法的手段も断たれ、いずれ爵位返上にまで追い込まれるだろう。
自業自得と切って捨てたいところだが、こちらも王命という枷がある。
その範囲で報復するとすれば―――
「それについて、うちの仕事関係者がお屋敷に自由に出入りする事をお許し下さいませ」
ミュゼの要求はその場にいる全ての人間に安心をもたらした。
「何だ、そんな事か。(よし、その間に息子との距離を縮められる! そして永久財産保障機関ゲットだ)……なら、門番に事前に伝えてくれれば通すよう申し伝えよう」
「……それも含めて、最初に顔を覚えてもらう為に、顔合わせをしておきたいですわ」
「そうだな、身分を偽ってくる可能性もあるのだから」
てっきり“紹介状無しの解雇”を言われると思っていた使用人達はホッと息を吐いた。
そしてミュゼの部下5人が、侯爵家家族に使用人達に引き合わされた。その中にはクロードと会ったオルガ達もいた。後2人は子爵家でミュゼの担当だったという侍女。
そして……
スタスタスタ、
タッタッタッタ
「サイモン様ぁ」
「これはザッコ元男爵令嬢殿ご機嫌麗しゅう」
「も~う……! ルミカと呼んでくださいって言ったじゃないですかぁ」
「年頃の女性を名前で呼ぶなど非常識です」
廊下に響くのは2種類の足音。前を歩くサイモンと、その後を追いかけるルミカのものだ。
サイモンも、ミュゼが紹介した出入り自由のメンツの1人だった。
それを知った時のルミカの喜びようはすごかった。『きゃー!』という嬌声が部屋の壁を伝い、あちこちに聞こえて来た程である。
「おはようルミカ! 最近部屋にいないんだね。ノックしたのに返事がなかったからどこかで倒れていたらと……アレ? 君は」
「これは小侯爵様ご機嫌麗しゅう」
ルースにサイモンが礼を取るが、ルースは彼より“キャーそんなところも素敵―!”と目をハート形にしているルミカにムッと口を曲げる。
「……急ぎの用件があります為、無礼ですがこれにて」
「えー? まだお話は終わってませぇん……! 今日こそはルミカのお部屋で2人っきりでお茶を」
「……ルミカ、サイモン殿はミュゼと仕事があるんだ」
「感謝します小侯爵様。では私はこれにて」
さっさとミュゼの部屋に入ってしまった。
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