ミュゼ・シルフィーの結婚の行方

みけの

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最終章 まさかの展開

やっと見れた! ……でも喜べない

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「侯爵家のぼくちゃん―――失礼、ご子息様や、その考えに染まり切ったバ、いや使用人の方々の思惑や、その所業がどれ程だったとしても姐さんや俺らにゃ餓鬼の悪戯程度だ。命の取り合いっこにゃ至らねぇ。

 この国の中枢を担うお貴族様である筈なのにその程度の稚拙? いや幼稚? なお頭(つむ)だった事だけは、感謝しないといけねぇなぁ」

「!!」

 サイモンの言葉は、生まれてからずっと侯爵令息として生きて来たルースには痛烈に響いたようだ。俯いていて顔は見れないが、膝でギュッと握った拳の震えと耳が真っ赤になっている事で分かる。

 それでもようやく顔をあげ、ミュゼにまっすぐな視線を向けた。そして、

 「……わ、悪かったと、思っている。いや、思うようになったんだ……。

 でも君は結婚後もいつも僕の前では……言い方は悪いけど、だらーっとしていたし。そのクセ、僕が色々言っても『分かりました』しか言わないし、ルミカや使用人達に出しゃばった事もしない。彼らの分かりやすい嫌がらせにも全く傷ついた様子もなくて」

 と、ルースが言う最中にも

“文句がないなら別に良いじゃん”

“サイモンの兄貴もさっき、悪戯程度って言ったしなぁ”

“まぁ小侯爵サマの奥さん的にゃ、だらけていたら問題だけど姐さんだぞ? 金入れてくれるんだから、だらける位でなぁ……”

“ならいっそ自分が姐さんに替わって家仕切ったらいーんじゃね? どうせ暇なんだし”

“自称幼馴染とネンゴロにする事しか頭にねーじゃねぇの”

 という情け容赦ない囁きが、絶えずルースの耳を攻撃した。

 ルースなりに覚悟を決めて、ここに来たのだ。

 しかし……覚悟が足りなかったと、じわじわと実感する。自分の住む屋敷と言えど、ミュゼがいるこの部屋だけは敵地なのだと。

 自分が侯爵家の跡取りだという最強のカードさえ、彼らには通じない。むしろ想定外の反撃に遭う予感しかない。

 全身を針で突かれているような居心地の悪さに、本音を言えば逃げ出したい。顔をあげ、ミュゼと目を合わせるだけでも精いっぱいだ。

 そんな自分の考えの激アマさに、後悔していたら……

「―――で、どうしてここに来たのですか?」

 ルースを見るミュゼの目だけは、あくまで平静だった。

それは入って来た時と同じ。今までずっと、自分の胸の内を吐露し続け、周りからは呆れや侮蔑の声が上がっていたのに。

―――これが……彼らが信を置くミュゼなのか。

 「つ、つまり、その……、貴女から見た父の印象を聞きたいんだ。

貴方との契約である来年までに、領地を立て直せると父は言っていたが……なのに僕に君を落せと唆す。本当に立て直せるなら、そんな事は言わない筈だ。そこで……父がそこまで出来るのかと、疑わしくなった。なので………。

 教えてくれないか? 父はリュドミラ侯爵としての器なのか?」

 そう尋ねるルースの心には、まだ一片の希望があったのだろう。

父はルミカを引き取って、世話する事を許してくれた。そんな父なら当然、何かトラブルがあったとしても、それを想定した上で備えも万全にしていたはずだ。詐欺にあって多少被害を被っていても、挽回できるはずだ。

 しかし……ミュゼから出た言葉は

「………………それぶっちゃけマジで言いたくない奴…………………!」

 今初めて、ミュゼが頭を抱えて顔を顰めた。

 以前のルースならそれに“やってやった!”と快哉をあげたと思う。ずっとミュゼの困った顔を見たかったから。

 だが皮肉にも、その要因は自分の父の能力に対しての事だった。
その事実にルースは喜ぶべきか嘆くべきかと悩んだのだった。
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