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最終章 まさかの展開
病弱でないのなら
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「随分我々も舐められたものだな」
荒い鼻息と共に怒りの声を吐いたのは、ルースの父親であるリュドミラ侯爵。
あの後偶然にも侯爵夫妻が訪れ、屋敷の中が落ち着かない雰囲気だった事を訝しんだ。そこで従者から話を聞き、事情聴取の場に居合わせた。
本来ならいるべき、執事のクロードがいないのは、ずっと心酔していたルミカの野獣のような姿に気が動転し、寝込んでしまったからだ。他のルミカに心酔していた使用人も十数名、気絶しているか魂が抜けたようになっており、動ける者だけがその穴を埋めるように忙しくしている。
「同じ屋敷に住んでいて、ずっと騙されていたとは」
その隣で、額を押さえて顔を顰め夫人が庇う。
「あなた……わたくしも同罪ですわ。ルミカさんの事は侍女長や執事長がかかりっきりだったから、あまり深く調べようとしなかったし。
……まさか使用人達もぐるだったのでは……?」
チラ、と疑いの目を向けられた使用人達が慌てだす。
「お、奥様! お言葉ですが、私達も騙されていたのでっ」
「本当に? 貴方達の方がその子といる時間が長かったでしょう?」
夫人は夫と一緒に領地に帰った為、この屋敷の様子は知らなかった。ミュゼが特に不満そうにしていなかった事に安心し、何も知ろうとしなかった。
まさか使用人達が世話を一切しないに加え、日常的に嫌がらせをしていたとは……。
「……今この家が持っているのはミュゼさんのお陰なのに……!」
嘆く夫人を労わるように一瞬だけ肩を抱きしめると、侯爵は立ち上がりミュゼに向かい合った。そして
「ミュゼ殿、使用人達や愚息と居候の失態、心からお詫びする!」
深々と頭を下げた。それに対し、
「謝罪は受け入れます。
まぁ……私は別に気にしていませんし、今はこちらのお世話になってますけど、また現場に出ますからお気使いは不要です。
皆さまとは来年までの付き合いですから」
「え!? い、いや、それはそうだが……!」
侯爵としては、ミュゼとは来年以降もこの関係を続けたいのだ。……金銭の援助目当てで。
しかし彼女が受けて来た仕打ちを知り、それでもまだと言うのが無理がある事は分かる。
―――とにかくこの居候をどうにかしてしまおう。領地に引き取るかと思っていたが騙されていたと知り、もはやルミカは忌々しいだけの存在になっている。
「……精査した上で、君に理不尽な仕打ちをした者を全員解雇しよう。小侯爵夫人に危害を加えたのだから当然、紹介状も付けない」
その言葉に使用人達がギョッと顔を青くした。
『紹介状なしの解雇』は、使用人にとって最もキツイ制裁である。『こいつ、前の仕事先でよっぽどやべぇ事をしたんだな』と思われてしまうからだ。
普通の商家でもそうだが、ましてやリュドミラ侯爵家である。
「愚息にもきちんと言い聞かせる」
その愚息であるルースは、現在クロード達と同様に寝込んでいる。病弱とは誰の事かと言いたくなる為体である。
いや、『言い聞かせる』だけで良いと思っているのか、侯爵閣下? と脳内でツッコミを入れながら
「いえ……使用人達の解雇は必要ありません。いきなり大勢辞めさせられたとなると、侯爵家の方に問題があるのかと勘繰られそうです」
ミュゼの指摘に、
「そ、それはそうだが……君はそれで良いのか?」
「ええ、来年までですから」
「ぐっ!」
もういっちょと念押ししておく。寛大に言っているのは、あくまで期限付きだからだぞと。
「その代わりと言っては何ですが、ルース様に領主としての修行をして頂きたく思います。ルース様には先程、話をしましたが」
「? 領主の教育は、こちらでする予定なのだが」
「いえ……。先程も話をさせて頂きましたが、ルース様は今の環境から脱却する事をお望みのようです」
「! ルースがそのような事を?」
余程ミュゼの発言が意外だったのか、侯爵がカッと目を見開いて驚いた。
「………あの居候に振り回されてばかりの愚息が?」
「ええ! ルース様が私を頼って下さった事も嬉しかったですし……」
「! そう思ってくれるのか、ミュゼ殿」
うわー……手の平でコロコロ転がされちゃってるよー……
側で見ているミュゼ側の関係者達は、2人のやり取りに必死で平静を保っていた。そうでなければ、笑い出しそうだった。
侯爵はミュゼという金の卵を産むガチョウを手放したくない。その為には息子に興味を失って欲しくはないのだ。そしてミュゼは、侯爵のその下心を利用している。
「それで、ルミカさんの事ですが……」
「ああもちろん、この屋敷から追い出し……いや、別に移ってもらう!
私の伝手を頼って、住み込みで働ける場所に行ってもらう! 日はかかってしまうが急ぐつもりだ!」
「………………え?」
侯爵が勢いよく話す声に、微かな声が割って入った。
声はルミカが出したものだ。先程から俯いてばかりいた彼女が、侯爵の言葉で初めて声を出した。
「…………私…………ここから出なくてはいけないの…………………?」
声と共にずっと俯いていた顔も上げていた。
ずっと愛らしいとか儚げだとか言われていた顔の形は変わっていない。
が、その顔は色を無くし、大きく見開かれた目の瞳孔が洞のように光がない。
そんな彼女に侯爵の声が無情に突き刺さる。
「当然だろう? 元々は引き取ってすぐに、働き場所を用意してやるつもりだった。でも両親を失い、更に体に欠陥のある君をそのまま普通に働きに行けと言うのは酷だと思った。ルースにも言われたしな。
でも先程、それも嘘だと分かった。なら我が家で保護する理由がない。
更にずっと……我々を騙し続けていたのだ。そんな君に対して、働き場所と住み場所を提供するのは、下心があったとしても息子と仲良くしてくれた事に対する謝礼だよ。
今の生活を保っていたいなら、それも考慮しよう。でもここから出て行ってもらうのは変わりない。条件は変わるがね。
老齢で隠居予定の貴族の後妻か、問題アリの貴族の何人目かの妻、もしくは裕福な平民の妾、そんなところだ」
荒い鼻息と共に怒りの声を吐いたのは、ルースの父親であるリュドミラ侯爵。
あの後偶然にも侯爵夫妻が訪れ、屋敷の中が落ち着かない雰囲気だった事を訝しんだ。そこで従者から話を聞き、事情聴取の場に居合わせた。
本来ならいるべき、執事のクロードがいないのは、ずっと心酔していたルミカの野獣のような姿に気が動転し、寝込んでしまったからだ。他のルミカに心酔していた使用人も十数名、気絶しているか魂が抜けたようになっており、動ける者だけがその穴を埋めるように忙しくしている。
「同じ屋敷に住んでいて、ずっと騙されていたとは」
その隣で、額を押さえて顔を顰め夫人が庇う。
「あなた……わたくしも同罪ですわ。ルミカさんの事は侍女長や執事長がかかりっきりだったから、あまり深く調べようとしなかったし。
……まさか使用人達もぐるだったのでは……?」
チラ、と疑いの目を向けられた使用人達が慌てだす。
「お、奥様! お言葉ですが、私達も騙されていたのでっ」
「本当に? 貴方達の方がその子といる時間が長かったでしょう?」
夫人は夫と一緒に領地に帰った為、この屋敷の様子は知らなかった。ミュゼが特に不満そうにしていなかった事に安心し、何も知ろうとしなかった。
まさか使用人達が世話を一切しないに加え、日常的に嫌がらせをしていたとは……。
「……今この家が持っているのはミュゼさんのお陰なのに……!」
嘆く夫人を労わるように一瞬だけ肩を抱きしめると、侯爵は立ち上がりミュゼに向かい合った。そして
「ミュゼ殿、使用人達や愚息と居候の失態、心からお詫びする!」
深々と頭を下げた。それに対し、
「謝罪は受け入れます。
まぁ……私は別に気にしていませんし、今はこちらのお世話になってますけど、また現場に出ますからお気使いは不要です。
皆さまとは来年までの付き合いですから」
「え!? い、いや、それはそうだが……!」
侯爵としては、ミュゼとは来年以降もこの関係を続けたいのだ。……金銭の援助目当てで。
しかし彼女が受けて来た仕打ちを知り、それでもまだと言うのが無理がある事は分かる。
―――とにかくこの居候をどうにかしてしまおう。領地に引き取るかと思っていたが騙されていたと知り、もはやルミカは忌々しいだけの存在になっている。
「……精査した上で、君に理不尽な仕打ちをした者を全員解雇しよう。小侯爵夫人に危害を加えたのだから当然、紹介状も付けない」
その言葉に使用人達がギョッと顔を青くした。
『紹介状なしの解雇』は、使用人にとって最もキツイ制裁である。『こいつ、前の仕事先でよっぽどやべぇ事をしたんだな』と思われてしまうからだ。
普通の商家でもそうだが、ましてやリュドミラ侯爵家である。
「愚息にもきちんと言い聞かせる」
その愚息であるルースは、現在クロード達と同様に寝込んでいる。病弱とは誰の事かと言いたくなる為体である。
いや、『言い聞かせる』だけで良いと思っているのか、侯爵閣下? と脳内でツッコミを入れながら
「いえ……使用人達の解雇は必要ありません。いきなり大勢辞めさせられたとなると、侯爵家の方に問題があるのかと勘繰られそうです」
ミュゼの指摘に、
「そ、それはそうだが……君はそれで良いのか?」
「ええ、来年までですから」
「ぐっ!」
もういっちょと念押ししておく。寛大に言っているのは、あくまで期限付きだからだぞと。
「その代わりと言っては何ですが、ルース様に領主としての修行をして頂きたく思います。ルース様には先程、話をしましたが」
「? 領主の教育は、こちらでする予定なのだが」
「いえ……。先程も話をさせて頂きましたが、ルース様は今の環境から脱却する事をお望みのようです」
「! ルースがそのような事を?」
余程ミュゼの発言が意外だったのか、侯爵がカッと目を見開いて驚いた。
「………あの居候に振り回されてばかりの愚息が?」
「ええ! ルース様が私を頼って下さった事も嬉しかったですし……」
「! そう思ってくれるのか、ミュゼ殿」
うわー……手の平でコロコロ転がされちゃってるよー……
側で見ているミュゼ側の関係者達は、2人のやり取りに必死で平静を保っていた。そうでなければ、笑い出しそうだった。
侯爵はミュゼという金の卵を産むガチョウを手放したくない。その為には息子に興味を失って欲しくはないのだ。そしてミュゼは、侯爵のその下心を利用している。
「それで、ルミカさんの事ですが……」
「ああもちろん、この屋敷から追い出し……いや、別に移ってもらう!
私の伝手を頼って、住み込みで働ける場所に行ってもらう! 日はかかってしまうが急ぐつもりだ!」
「………………え?」
侯爵が勢いよく話す声に、微かな声が割って入った。
声はルミカが出したものだ。先程から俯いてばかりいた彼女が、侯爵の言葉で初めて声を出した。
「…………私…………ここから出なくてはいけないの…………………?」
声と共にずっと俯いていた顔も上げていた。
ずっと愛らしいとか儚げだとか言われていた顔の形は変わっていない。
が、その顔は色を無くし、大きく見開かれた目の瞳孔が洞のように光がない。
そんな彼女に侯爵の声が無情に突き刺さる。
「当然だろう? 元々は引き取ってすぐに、働き場所を用意してやるつもりだった。でも両親を失い、更に体に欠陥のある君をそのまま普通に働きに行けと言うのは酷だと思った。ルースにも言われたしな。
でも先程、それも嘘だと分かった。なら我が家で保護する理由がない。
更にずっと……我々を騙し続けていたのだ。そんな君に対して、働き場所と住み場所を提供するのは、下心があったとしても息子と仲良くしてくれた事に対する謝礼だよ。
今の生活を保っていたいなら、それも考慮しよう。でもここから出て行ってもらうのは変わりない。条件は変わるがね。
老齢で隠居予定の貴族の後妻か、問題アリの貴族の何人目かの妻、もしくは裕福な平民の妾、そんなところだ」
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