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最終章 まさかの展開
幼馴染でも、お互いの思いが同じとは限りません
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~少し前、ミュゼの部屋では~
『……では当日は、よろしくお願いします』
映像の向こうにいる相手に、恭しく礼をした後プツン、と映像が切れた。
静かになった室内で、ミュゼはフラフラと立ち上がると、
「あ~~~っ、しぃんどぉ……」
どたーん、と擬音が付きそうな様子で、ソファに倒れこんだ。
先程迄会談していた相手が今の姿を見れば、『これがあのミュゼ? 偽物だろう』と呆気にとられるに違いない。
しかし仕方がない。これがミュゼなのだ。今も上はキチンとした服装だが下は緩いズボンと下駄である。
「リモートだとこれが出来るから楽なのよねぇ……」
とゴロゴロしていたらノックの音がした。かちゃり、と扉が開く。
入って来てのはサイモンだった。
「姐さん……またそんな恰好でダラダラして」
開口一番、呆れた顔で指摘してくるのに、
「ノックしてすぐに入るって、ノックする意味ないじゃない」
クッションを抱きかかえて顎を乗せたままで言うがお構いなし。サイモンは
「いや……動いたみたいなんで、知らせに来ました」
「ほお?」
ミュゼの目の色が変わった。
「急に持ち場からいなくなったそうです。屋敷内を捜索していますが出て来ません。そうしたら小侯爵が、軽食を部屋に持ってくるように言われたと」
「いなくなったタイミングで、軽食を用意しろは気になるわね」
ガバッと起き上がり、顔が引き締めると、
「まだ運んでいないのね? なら付いて行きましょう」
と、部屋を出ようとした。が、サイモンに両腕を大きく広げ、行く手を阻まれた。
「待って下さい! 行くならマシな恰好に着替えてからです!」
上だけまともで下伸びきったズボンと素足に下駄って、どんだけ空気壊す気だ!
と必死で伝えるサイモンだが、ミュゼは平然としたものだ。
「? 問題ないでしょ??」
こ、この人は……! とコメカミの血管がピクピクするのを感じながら、きょとんとした顔の相手にキッパリ返す。
「大アリです!!」
そんなやり取りで不毛な時間を費やしたが、
「侍女が出て行きましたね」
すぐに気持ちを切り替え、ルースの部屋を影から張っていた(ちなみに服については、下駄だと音が出るので不便だとミュゼが折れた)。
「あの部屋、中から施錠は出来るんですか?」
「侯爵閣下ご夫妻のお部屋と、小侯爵様のお部屋と他は一部の客室位。後は鍵すらないわ」
「へ? ……ここ、侯爵邸ですよね?」
「そう。しかもこのお屋敷、古いから未だにオートロックじゃないのよ信じられる?」
屋敷中の重たい鍵の束を、執事が管理しているのだ。
ならば執事の部屋には鍵があるのか……と、思いきや、その鍵がどれかすら、束の中で認識出来ていないという現状。
ミュゼなりにどうにか出来ないかな? と思い、クロードに言ってみた事はあった。この屋敷の防犯は大丈夫か? と。
しかし
『これがリュドミラ侯爵家の伝統です。ミュゼさんに口を挟まれる謂れはありません』
とにべもなく突っぱねられた。
防犯より伝統。そこに侯爵と子爵の間の、深い溝があるのだとしても……ミュゼは内心、キレていたのだ。
あーっ! 貴族って、伝統ってめんどくさい!!
が……そのセキュリティの激アマさが、今のミュゼ達の助けになった。
カチャリ、とドアが閉められた音はしたが、次に聞こえる筈の施錠の音が聞こえていない。その間に行動を起こす。
2人はドアの側にそ~っと近づき、ルースの部屋に続く扉を、音を立てないよう慎重に少しだけ開き………ドアと壁の隙間に板を差し込んだ。
途端に漏れて来る中の会話。
「うわぁ、有難うルース! でもこれ、普通のハムとトマトね。私は生ハムが好きって知ってるでしょう? どうしてかな?」
「僕が好きなのはトマトだ。生ハムはしょっぱいから嫌いだ」
「え? でもどうとでも言えたよね。『ちょっと今日は食べたい気分だった』とか言えば、どうにかしてくれたんじゃない?」
「………………………」
最後の問いに、ルースは答えなかった。
しかしその沈黙をどう取るかは―――人による。
気が付かなくてすまなかったという罪悪感か。
もしくは、いる筈のない人間を匿っている立場である自分が、なぜダメ出しをされるのかという不満か。
と言うか、それとは別に気付いた事がある。
ルミカはルースの好みを知らなかった事。
そして、それを知った上でも、自分の望みを優先するのが当たり前だと思っている事だ。
が、ミュゼとサイモンにとっては想定内。
問題なのは、そんなルミカに対する、ルースの対処だけだ。
『……では当日は、よろしくお願いします』
映像の向こうにいる相手に、恭しく礼をした後プツン、と映像が切れた。
静かになった室内で、ミュゼはフラフラと立ち上がると、
「あ~~~っ、しぃんどぉ……」
どたーん、と擬音が付きそうな様子で、ソファに倒れこんだ。
先程迄会談していた相手が今の姿を見れば、『これがあのミュゼ? 偽物だろう』と呆気にとられるに違いない。
しかし仕方がない。これがミュゼなのだ。今も上はキチンとした服装だが下は緩いズボンと下駄である。
「リモートだとこれが出来るから楽なのよねぇ……」
とゴロゴロしていたらノックの音がした。かちゃり、と扉が開く。
入って来てのはサイモンだった。
「姐さん……またそんな恰好でダラダラして」
開口一番、呆れた顔で指摘してくるのに、
「ノックしてすぐに入るって、ノックする意味ないじゃない」
クッションを抱きかかえて顎を乗せたままで言うがお構いなし。サイモンは
「いや……動いたみたいなんで、知らせに来ました」
「ほお?」
ミュゼの目の色が変わった。
「急に持ち場からいなくなったそうです。屋敷内を捜索していますが出て来ません。そうしたら小侯爵が、軽食を部屋に持ってくるように言われたと」
「いなくなったタイミングで、軽食を用意しろは気になるわね」
ガバッと起き上がり、顔が引き締めると、
「まだ運んでいないのね? なら付いて行きましょう」
と、部屋を出ようとした。が、サイモンに両腕を大きく広げ、行く手を阻まれた。
「待って下さい! 行くならマシな恰好に着替えてからです!」
上だけまともで下伸びきったズボンと素足に下駄って、どんだけ空気壊す気だ!
と必死で伝えるサイモンだが、ミュゼは平然としたものだ。
「? 問題ないでしょ??」
こ、この人は……! とコメカミの血管がピクピクするのを感じながら、きょとんとした顔の相手にキッパリ返す。
「大アリです!!」
そんなやり取りで不毛な時間を費やしたが、
「侍女が出て行きましたね」
すぐに気持ちを切り替え、ルースの部屋を影から張っていた(ちなみに服については、下駄だと音が出るので不便だとミュゼが折れた)。
「あの部屋、中から施錠は出来るんですか?」
「侯爵閣下ご夫妻のお部屋と、小侯爵様のお部屋と他は一部の客室位。後は鍵すらないわ」
「へ? ……ここ、侯爵邸ですよね?」
「そう。しかもこのお屋敷、古いから未だにオートロックじゃないのよ信じられる?」
屋敷中の重たい鍵の束を、執事が管理しているのだ。
ならば執事の部屋には鍵があるのか……と、思いきや、その鍵がどれかすら、束の中で認識出来ていないという現状。
ミュゼなりにどうにか出来ないかな? と思い、クロードに言ってみた事はあった。この屋敷の防犯は大丈夫か? と。
しかし
『これがリュドミラ侯爵家の伝統です。ミュゼさんに口を挟まれる謂れはありません』
とにべもなく突っぱねられた。
防犯より伝統。そこに侯爵と子爵の間の、深い溝があるのだとしても……ミュゼは内心、キレていたのだ。
あーっ! 貴族って、伝統ってめんどくさい!!
が……そのセキュリティの激アマさが、今のミュゼ達の助けになった。
カチャリ、とドアが閉められた音はしたが、次に聞こえる筈の施錠の音が聞こえていない。その間に行動を起こす。
2人はドアの側にそ~っと近づき、ルースの部屋に続く扉を、音を立てないよう慎重に少しだけ開き………ドアと壁の隙間に板を差し込んだ。
途端に漏れて来る中の会話。
「うわぁ、有難うルース! でもこれ、普通のハムとトマトね。私は生ハムが好きって知ってるでしょう? どうしてかな?」
「僕が好きなのはトマトだ。生ハムはしょっぱいから嫌いだ」
「え? でもどうとでも言えたよね。『ちょっと今日は食べたい気分だった』とか言えば、どうにかしてくれたんじゃない?」
「………………………」
最後の問いに、ルースは答えなかった。
しかしその沈黙をどう取るかは―――人による。
気が付かなくてすまなかったという罪悪感か。
もしくは、いる筈のない人間を匿っている立場である自分が、なぜダメ出しをされるのかという不満か。
と言うか、それとは別に気付いた事がある。
ルミカはルースの好みを知らなかった事。
そして、それを知った上でも、自分の望みを優先するのが当たり前だと思っている事だ。
が、ミュゼとサイモンにとっては想定内。
問題なのは、そんなルミカに対する、ルースの対処だけだ。
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