ミュゼ・シルフィーの結婚の行方

みけの

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最終章 まさかの展開

あなたは間違っていない①

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 そうしている間にも、話は続く。
食事が終わると、ルミカは仕事場での事を愚痴り始めた。そしてか細い声で言った。

「お願い……ルース。私と一緒に逃げて……?」
 

 「何を言うんだ、ルミカ………?」

「お願い! 私にはもう、ルースしか頼れないの」

 涙ながらに訴えている様子がありありと想像できた。

 しかしルースはきっぱりと、彼女の願いを正論で突っぱねる。が、そこでルミカの声が一転明るくなった。

「当面は大丈夫よ! ルースがちょっと頑張ってくれれば」

「僕がどう、頑張るんだ………?」

戸惑うルースに、ルミカは軽い口調で自身のアイデアを告げる。

「おじ様達に、『ちょっと失敗してお金が入用だ』って言ってくれたら良いのよ! そしてそのお金で逃げて幸せに暮らしましょう!」

「ル、ルミカ………」

 「……とんでもない娘ですね、世話になった相手を騙そうとは」

 サイモンが呆れたように小声で言った。

 そして……廊下には、先程から人が増えてきている。それもそのはず、ミュゼ達の仕掛けで半開きになったドアから会話が漏れているのだ。

 中にいるのがルミカだと気付いていても、そこはルースの部屋であり勝手に入る事は出来ない。つまり……その場で会話を聞き続ける事になる。

 「僕に……僕に父上達を、騙せと言うのか?」

「え? やだ人聞きの悪い……。ちょっとお金を貸してもらうだけよ! 
本当なら私がお願いするのが筋だけど……今少し、信用を無くしているから……」

 少しどころか大いに無くしている筈だが、本人にとってはそうらしい。

それに対してもルースは、

「出来ないよ、というかしない」

 再び断りを入れてきた。声が前よりいら立っている。騙して世話になっておきながら更に金を取ろうと言うのだ。しかも自分に嘘をつかせてまでとなれば、誰でもそうなるだろう。

 すると、

「……ひ、ひっく……! ルースは怒ってるのね、私の事を」

 さっきまでは元気にも見えたルミカが、急にすすり泣きを始めた。

集まった者達から『どうせ演技だろう』『いい加減見苦しいわね』と非難する声がひそひそと聞こえてくる。

 が、ルースはどう思っているのか? とミュゼは扉の中に神経を集中した。

「……確かに私は病弱だと、周りが誤解する事をずっとしていたもの。仕方ないわね……。でもそれって勝手に周りが思っていただけじゃない!

……確かに長過ぎたとは思うわ。でもその間、誰も気づかなかったし疑いもしなかった。

それって変よね? これだけずっと知らない、気付けないなんて事、普通はないでしょう? 

 つまり、騙されていた人にも責任があるのよ。ずーーーっと私をルースの特別な人と認定してたあの人達にも責任があるの!

 なのに今更どうして私だけが悪いみたいに『よくも騙したな!』って攻撃してくるの、おかしいじゃない?」


 ルミカの嘆きは、きっと彼女の今までの生き方から来るものだろう。人より弱い体で不自由していた故に、普通に生活出来ている人からイヤな事を言われる事もあったと思う。

 しかし、自分がしようとしている行為が、善か悪かも分からない程無知であることを許される時は、とうの昔に過ぎている。

 何しろルミカは、ルースと同い年。10を過ぎたばかりの子供ではなく、周囲から“真に愛されている相手”と特定される程の年齢だ。なのに自分がしている行為の善悪も分からないなどあり得ない。

 ミュゼが扉に近づく。それに気づいた使用人達が、

「奥様!」

 と一斉にミュゼの方を向いた。その顔には一様に『入室の許可を下さい!』と書かれている。ルミカの勝手な言い草に怒りのボルテージが達しているようだ。どさくさに紛れて危害を加える可能性もある。

 そんな彼らを黙って手で制すと、扉をノックし

「ルース様、入りますよ」

 とさっきのサイモンの事を言えない程即ドアを開け放った。

「……ミュゼ……?」

 まず目に入ったのは、驚いているルース。ミュゼの背後に大勢の人がいる事にも気付いたようで、瞳を最大限に見開いている。

 そして彼の足元に座り込むルミカ。目を真っ赤に腫らし、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。こちらも、集まった人の多さに驚いているようだ。

 しかし1日で随分変わったものね。

 着飾っていた姿からは想像出来ない程にボロボロだ。ずっとこき使われている以外の、精神的なダメージもあるんだろう。お嬢様扱いばかりされていたのだから。

 ミュゼは部屋に入ると、まずルミカに近づいた。しゃがみこんでいる彼女の前に、同じように膝をつくと、その顔をまっすぐに見つめる。そして一言言った。


「――――あなたは間違っていないわ」
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