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プロローグ

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 ステンドグラスからの光が、暗い教会の中を照らす。
この日の為に集まった、僕と同じ10歳の子供達。彼らもきっと今の僕のように、恐いようなワクワクするような気持で並んでいるんだろう。――当然だ。
 今日は僕らにとって、一生のかかった運命の日だから。

 この世界では全ての人が、10歳になると神様からスキル・アイテムを授かる。
スキルとはその呼び名の通り、技能だ。アイテムはそれに使用する道具。それが何かによって、僕らが向いている能力が決まるのだ。大抵は職業に通じるものが多い。
 ごくごくたまに複数持ちとか、レアスキルと言って“神官”とか“聖女”を示す杖とか錫杖とか出る時もあるけど、本当にたまにだ。
 ――なら、他の仕事は出来ないのか、って?
やれば出来るけど、大抵は半端止まりで趣味から出ない。やりたい事が別にある人には嫌なものだろうけど、ない人間にはありがたい。色々に手を付け、失敗を繰返す時間が省けるからだ。まぁアイテムがあったらあったで、同業と鎬を削るのは不可欠だからそれなりに障害はあるんだけど。
 僕の番まではまだありそう。少しだけ体をずらし、祭壇の方を眺めてみた。
 今、祭壇に立っているのは女の子だ。着ている服のくたびれ具合から見て、あまり裕福では無いお家の子のようだ。神父さまが促す。
「さあお嬢さん、聖水に手を入れなさい」
 言われるままに、女の子が腕を大きな瓶に入れた。
パアッ!
 瓶が発光し、白い球体が空中に出現した。それはやがて女の子の前で止まる。
光が消え、形になった。
それは彼女がやっと抱えられる位の大きさの箱だった。普通の木工細工の箱。空かさず神父様が鑑定。それが何かを明かした。
「神が貴女に下されたスキルは裁縫です」
「え~?」
すぐ仕事に出来るという点では当たり、だ。でも女の子は不服らしく、ぷくっと頬を膨らませている。
「踊り子さんとかが良かったなぁ……」
「これっ、贅沢言わないの、神様が下さったものなんだからね」
「裁縫なら、仕事は引く手あまただろう?」
待っていた両親が、ブスッとした女の子をたしなめているけど、ホッとしているのは明らかだ。踊り子だと衣装とかどっかに弟子入りとか、手間もお金もかかるしね。
 その後も、喜んだりガッカリしたりが繰返される。
そして、僕の番が回ってきた。目の前の瓶を改めて見る。遠目で見るより中は深くなさそうだ。
「聖水に手を入れなさい」
言われるままに、手を入れた。ちゃぷん、と付けた感じは熱くも無く冷たくもない、普通の水だ――と思っていたら。
 水面がゆらり、と動いた。そしてパッと発光し……光の玉が現れる。けど……何か、小さい。女の子の時は抱える程だったのに、今度は両手の平に収まりそうな大きさだ。
(……何だろう……?)
光が消え、物体が現れた。
それは――。


 「こ、これは……!?」
鑑定した神父様がよろけた。そこままドスッと腰から倒れる。それでもなお、驚きの収まらない顔で僕の手の平にある、小さい箱を凝視する。
「神父様……あの……僕のスキル・アイテムは?」
僕が訊くと、ハッと我に返った神父様。まず僕に“落ち着いて聞いて下さい”と念を押す。いや……落ち着いて欲しいのは、神父さんになんだけど。
 そう、呑気に思っていた僕に、神父様の言った答えは……。

「…………“オリガミ”、です……」


ざわつく室内。
「なんだ? オリガミって」
「透明の箱に小さい正方形の紙が入ってるだけじゃないか」
ヒソヒソと囁く声。それは全て疑問形で、答える人は誰もいない。


――でも僕は知っている。これがどう使う物なのかを。

ずっと――生まれる前から。

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