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僕は抜け出せていない②
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卒業パーティの筈なのに、シーン……と、水を打ったように静まりかえる場内。
あちこちから、ヒソヒソと声が聞こえてくる。その中には卒業生のご父兄達からもあった。
「モラハラ、ですって?」
「あれ……オリガ伯爵家のお子さんではなくて? 確かあのご令嬢はナルシト伯のお嬢さんでしたわね?」
「確か奥方はルシオン侯爵家のご令嬢でしたかな? 王家の血を継いでおられるあの」
「そんな血統のお嬢さんにモラハラを?」
そう言えば……マリアから聞いた気がする。“ママは侯爵令嬢で、事情があって仕方なくてパパと結婚したんだ”って。
マリアはお母さんを自慢したくて言ったみたいだったけど、僕が言ったのは“……大変だったんだね”ってありきたりな言葉だった。
どんな事情でおばさんはおじさんと“仕方なく”結婚したのか、とか。
“侯爵家でおばさんはどんなポジションだったのか”とか気になる事はあったけど。
と、つい昔の事を思い出していた僕に構うこと無く、王太子殿下は話を続けていた。
「ちゃんと証人もいる。君たち出てきたまえ」
呼びかけられると共に、殿下の後ろにいた数人の生徒が前に出て来る。
「みんな……?」
全員僕のクラスメートだ。彼らはチラ、と僕の方を見てからおずおずと話し出す。
「僕は……放課後、忘れ物をとりに教室に帰ろうとして見てしまいました。ナ、ナルシトさんをオリガ君が恐い顔して怒鳴ってました!」
違う。
「私……前の学年で同じクラスでした。その時……校庭で2人が一緒にいるところに行き会わせて。な、内容までは覚えてないですけど、とにかくオリガ君が見た事も無い位恐い顔して、ナルシトさんを睨んでいたの、覚えてます!」
……違う。そんな事していない。
「あ、あの、みんな……」
それは一体、いつ見たんだ? どんな時に?
僕が皆に訊こうとした。けどマイト様がそれにかぶせるように口を挟む。
「君たち、続けて」
その後も。
彼らから、僕がどれ程マリアを罵っていたかやその正気じゃない様子を語り続ける。
王太子殿下達の顔はどんどん怒りに歪んで、僕に向けられる視線はそれだけで射殺されそうな程に痛くて恐ろしい。
けど、そんな震え上がる気持の中でも分かることがある。
証人である彼らは、少なくとも僕の敵ではなさそうだ。だって全員僕を見ようとしないし表情も暗い。恐らく何らかの理由で偽証しているんだ。
……でもそれに気付いたところで、どうも出来ない。
僕らを囲む人達も、僕に不審な目を向けている。もはや僕がモラハラをしているという流れが出来ている事は明らかだ。
「……僕は……そんなこと……」
していない。
そう続けたいのに、喉が何かに塞がれたみたいにか細い声しか出ない。何かに押しつけられているみたいに、声が出ない。
王太子殿下の叱責は続く。
「ふん! か弱い女性は痛めつけられても男の私には何も言えないか。全く肝の小さい」
――王太子殿下に意見出来る訳がないじゃないか。
大体“何も言えないか”って言うけどさっきエドの言葉を止めていたし根底からおかしい。
そう心では思っていても、体が竦んで何も言えない。もっと言えば立っているのもやっとだ。
「ユリアス様」
マリアが王太子殿下の腕をそっと押さえた。
僕が怖がっているのが分かって、止めてくれたのか……?
でもマリアは僕の方を全く見ないで、涙で潤んだ目を王太子殿下に向ける。
「私は確かに彼の言葉で恐い想いをしました。毎日何とか耐えてました……」
――え? マリア、君……何を言ってるんだ?
「全くひどい事を……! マリア、辛い思いをしたね」
「ユリアス様から、そんな慈悲深いお言葉を頂けるなんて……」
呆然としたままの僕を余所に、王太子殿下に肩を抱かれたマリアは、あのパーティの時のようだ。不自然に弱々しい。まるで虐げられてでもいるような……。
「ねぇカヤラ」
恋愛ドラマのようなやり取りの中で、その弱々しそうな笑みは、何故か僕に向けられた。
一見儚いように見える表情だ。――けど、僕には妙な圧を感じさせる。
それは僕が知っている彼女のものだ。約束をすっぽかしたり課題を丸写しされたりした後、“カヤラは優しいから、こんな事で何も言わないよね?”“カヤラが気弱な分、私が色々しなきゃだから、これ位してもらわなきゃ”って言う時の顔。
「カヤラがあんなひどい事ばかり言うのは、私にも悪いところがあったからだと認めるわ。婚約破棄を受け容れてくれたら、私もあなたを許してあげられるわ」
ああ……これは君が仕組んだ事なのか。
ようやく、その事に気がついた。でも気がついたからと言って、どうにもならない。
王太子殿下も、側近の方々もマリアの味方だ。僕の言う事など気にもしていない。
いや……そんな事も、もういい。その先にある真実も、もういい。
とにかく……この状況から逃げ出したかった。
「カヤラ!」
口を開こうとしたら、エドに胸ぐらを掴まれた。強い力で締め上げられ、顔を上げると睨むような目がそこにある。
――ああ、君も僕の事を軽蔑しているんだね。
「ボケッとしてんな! ちゃんと言えよハッキリと“そんな事していない”って!!」
あちこちから、ヒソヒソと声が聞こえてくる。その中には卒業生のご父兄達からもあった。
「モラハラ、ですって?」
「あれ……オリガ伯爵家のお子さんではなくて? 確かあのご令嬢はナルシト伯のお嬢さんでしたわね?」
「確か奥方はルシオン侯爵家のご令嬢でしたかな? 王家の血を継いでおられるあの」
「そんな血統のお嬢さんにモラハラを?」
そう言えば……マリアから聞いた気がする。“ママは侯爵令嬢で、事情があって仕方なくてパパと結婚したんだ”って。
マリアはお母さんを自慢したくて言ったみたいだったけど、僕が言ったのは“……大変だったんだね”ってありきたりな言葉だった。
どんな事情でおばさんはおじさんと“仕方なく”結婚したのか、とか。
“侯爵家でおばさんはどんなポジションだったのか”とか気になる事はあったけど。
と、つい昔の事を思い出していた僕に構うこと無く、王太子殿下は話を続けていた。
「ちゃんと証人もいる。君たち出てきたまえ」
呼びかけられると共に、殿下の後ろにいた数人の生徒が前に出て来る。
「みんな……?」
全員僕のクラスメートだ。彼らはチラ、と僕の方を見てからおずおずと話し出す。
「僕は……放課後、忘れ物をとりに教室に帰ろうとして見てしまいました。ナ、ナルシトさんをオリガ君が恐い顔して怒鳴ってました!」
違う。
「私……前の学年で同じクラスでした。その時……校庭で2人が一緒にいるところに行き会わせて。な、内容までは覚えてないですけど、とにかくオリガ君が見た事も無い位恐い顔して、ナルシトさんを睨んでいたの、覚えてます!」
……違う。そんな事していない。
「あ、あの、みんな……」
それは一体、いつ見たんだ? どんな時に?
僕が皆に訊こうとした。けどマイト様がそれにかぶせるように口を挟む。
「君たち、続けて」
その後も。
彼らから、僕がどれ程マリアを罵っていたかやその正気じゃない様子を語り続ける。
王太子殿下達の顔はどんどん怒りに歪んで、僕に向けられる視線はそれだけで射殺されそうな程に痛くて恐ろしい。
けど、そんな震え上がる気持の中でも分かることがある。
証人である彼らは、少なくとも僕の敵ではなさそうだ。だって全員僕を見ようとしないし表情も暗い。恐らく何らかの理由で偽証しているんだ。
……でもそれに気付いたところで、どうも出来ない。
僕らを囲む人達も、僕に不審な目を向けている。もはや僕がモラハラをしているという流れが出来ている事は明らかだ。
「……僕は……そんなこと……」
していない。
そう続けたいのに、喉が何かに塞がれたみたいにか細い声しか出ない。何かに押しつけられているみたいに、声が出ない。
王太子殿下の叱責は続く。
「ふん! か弱い女性は痛めつけられても男の私には何も言えないか。全く肝の小さい」
――王太子殿下に意見出来る訳がないじゃないか。
大体“何も言えないか”って言うけどさっきエドの言葉を止めていたし根底からおかしい。
そう心では思っていても、体が竦んで何も言えない。もっと言えば立っているのもやっとだ。
「ユリアス様」
マリアが王太子殿下の腕をそっと押さえた。
僕が怖がっているのが分かって、止めてくれたのか……?
でもマリアは僕の方を全く見ないで、涙で潤んだ目を王太子殿下に向ける。
「私は確かに彼の言葉で恐い想いをしました。毎日何とか耐えてました……」
――え? マリア、君……何を言ってるんだ?
「全くひどい事を……! マリア、辛い思いをしたね」
「ユリアス様から、そんな慈悲深いお言葉を頂けるなんて……」
呆然としたままの僕を余所に、王太子殿下に肩を抱かれたマリアは、あのパーティの時のようだ。不自然に弱々しい。まるで虐げられてでもいるような……。
「ねぇカヤラ」
恋愛ドラマのようなやり取りの中で、その弱々しそうな笑みは、何故か僕に向けられた。
一見儚いように見える表情だ。――けど、僕には妙な圧を感じさせる。
それは僕が知っている彼女のものだ。約束をすっぽかしたり課題を丸写しされたりした後、“カヤラは優しいから、こんな事で何も言わないよね?”“カヤラが気弱な分、私が色々しなきゃだから、これ位してもらわなきゃ”って言う時の顔。
「カヤラがあんなひどい事ばかり言うのは、私にも悪いところがあったからだと認めるわ。婚約破棄を受け容れてくれたら、私もあなたを許してあげられるわ」
ああ……これは君が仕組んだ事なのか。
ようやく、その事に気がついた。でも気がついたからと言って、どうにもならない。
王太子殿下も、側近の方々もマリアの味方だ。僕の言う事など気にもしていない。
いや……そんな事も、もういい。その先にある真実も、もういい。
とにかく……この状況から逃げ出したかった。
「カヤラ!」
口を開こうとしたら、エドに胸ぐらを掴まれた。強い力で締め上げられ、顔を上げると睨むような目がそこにある。
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