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これからの対策
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でも現実は、僕が感傷に浸る事を許してくれない。
「……父さん、もしマリアの嘘が認められてカヤラがDV男って悪評が広がったらどうしよう?」
って、兄さんが言ったから。イヤな感じに心臓が跳ねた。
「有り得ん……と思いたいが」
父さんが苦り顔で言うと、皆が真剣な表情で考え込む。
ざわつく心臓。頭から爪先からドンドン冷えていく。
王太子殿下達がマリアの側につくならこっちは不利だ。更に証人もいる。
――もし僕の悪評を世間が認めたら。
父さんや母さん、兄さんに姉さん。そしてウチで働いてくれている皆にも、迷惑をかけるかも知れない。
そんな僕の考えを読むように、父さんの大きな手がポン、と僕の肩を叩く。
「お前に何があっても私達は家族だ。皆でなら乗越えられる」
「そうよ! 最悪そうなったら領地に行けば良いわ。あっちも命まで取らないわよ」
――父さん達の穏やかな笑みが、胸に痛い。
部屋に戻って無意識に折り紙を折りながら、頭の中を整理する。
もう折り紙は僕のライフワークになりつつある。何度も言うけど、伯爵という地位にいる割にオリガ家は金持ちじゃない。そんな中で折り紙の鶴は貴重だ。だから大なり小なり作ってため込んでおく。医療費の節約になるからね。
作るそばから使っているけど、それなりに溜まった。白が打ち身に切り傷、赤はヤケド、黄色がデキモノ……までは検証済み。風邪とか病気にも効いて欲しいんだけどまだレベルが足りないみたいだ。
何羽目かの鶴を折ったところで、魔力が少なくなったのかだるくなる。
スキル・アイテムの原動力は魔力だ。
使うごとに魔力量もそれを操る力も増えるけど、その増え方も個人で違うらしい。
そして――グタリと椅子にもたれかかり天井を見上げる。
もし僕が冤罪を着せられたなら――今までのような暮らしは出来ない。領地に行けばいい、って言ってくれたけど僕がこの家を出た方が良いんじゃないだろうか。
――やっていけるかなぁ……。
幸いこの世界には冒険者ギルドがあるから、僕でも小さい仕事にはありつけると思う。けどそこで、僕がやっていけるだろうかは別の話だ。いくら現世で健康だとしても、
「初日で終わってしまう未来しか見えないな……」
気弱なセリフが自然と出てしまった。
……あの後椅子で寝落ちしてしまった。
やや強ばった体がギシギシいっている。今日は本来休みだから部屋で寝てても良いけど、気持が落ち着かなかったから。
早朝なのでまだ人気が少ないのも出る気になった理由だ。
船で移動してばかりいるのもなぁ……と、せわしなく船が行き来している川に目を向けたら
「あれ?」
異質なものに気がついた。
川面のゴミに混じって動物が浮いている。茶色で大きなそれがもぞりと動いたのを見て、自然と体が動いた。
河原に降りてズボンの裾をまくり上げ、靴下と靴を脱ぐ。ボチャンと川に入って浮いていたそれを抱え上げた。
やっぱり……まだ、生きている。腕の中の動物は、柔らかい体をブルブル震わせ、ヒューヒューと細い息をしている。
「頑張ってくれよ……」
元気づけるより頼むような気持で呟いた。
「うわ……」
河原に横たえたそれは……実にファンタジーな生き物だった。
体は茶色い犬。それも長毛の小型犬。でもその背中には僕の知識にないもの――翼が生えていた。でも………。
「うぇ……」
怪我をしている。重傷だ。翼は骨だけを残しただけ。それに続く背中も真っ赤に焼けただれている。
「オリガミ・赤!」
赤い紙が目の前に現れ、落ちもせず空中でピタ、と制止した。
レベルが上がったら、空中でも折れるようになった。場所がない時には便利で重宝している。完成度で効果が変わるから雑に折れないし。
そうやって完成した鶴を犬鳥に近づけるとスッと消えた。同時に怪我をしている部分が消え、そこは他の箇所と同じ羽毛と体毛に包まれていた。
「良かった……」
後は体力さえ戻れば大丈夫……だと思う。なら近くの病院を探してと思っていたら、
「ヒュー!」
頭上から声がした。
僕と同じ年位の男の子が、橋の上から走ってくる。この子の飼い主だろう。僕に目もくれず青い顔をして犬鳥に駆け寄り、その体を抱きしめる。
「良かった……見つかって……」
そこで意識が戻ったのか、犬鳥も彼を見上げ、小さい鳴き声をあげた。
「きゅ~ん……」
……声は犬なんだな。
心の底から心配してたんだろう。彼は犬鳥を抱きしめたまま動かない。
「あの……」
安心しているのに悪いかなと思いつつ、僕は彼に声をかけた。
彼が飼い主なのかとか、どうして犬鳥がこんな目にあったのかとか訊きたいことはいっぱいある。それに怪我を治してもまだ完全回復じゃないんだ。お医者さんに連れて行かなきゃ。
そこでやっと僕に気付いてくれたのか、彼が僕の方を見て――。
「! 君は――」
驚いたように目を見開いた。――きっと僕も同じだ。
僕は彼を知っている。数人のうち1人だけ眼鏡だったから、覚えていたんだ。
彼は昨日……あの卒業パーティの時にいた、マリアの証人の内の1人だ!
「き、君は…………」
眼鏡の彼はそのまま固まって青ざめた顔で僕を見ていたけど、やがて
「―ごめん!!」
叫んでガバッと土下座されてしまった。――どーいうこと?
「……父さん、もしマリアの嘘が認められてカヤラがDV男って悪評が広がったらどうしよう?」
って、兄さんが言ったから。イヤな感じに心臓が跳ねた。
「有り得ん……と思いたいが」
父さんが苦り顔で言うと、皆が真剣な表情で考え込む。
ざわつく心臓。頭から爪先からドンドン冷えていく。
王太子殿下達がマリアの側につくならこっちは不利だ。更に証人もいる。
――もし僕の悪評を世間が認めたら。
父さんや母さん、兄さんに姉さん。そしてウチで働いてくれている皆にも、迷惑をかけるかも知れない。
そんな僕の考えを読むように、父さんの大きな手がポン、と僕の肩を叩く。
「お前に何があっても私達は家族だ。皆でなら乗越えられる」
「そうよ! 最悪そうなったら領地に行けば良いわ。あっちも命まで取らないわよ」
――父さん達の穏やかな笑みが、胸に痛い。
部屋に戻って無意識に折り紙を折りながら、頭の中を整理する。
もう折り紙は僕のライフワークになりつつある。何度も言うけど、伯爵という地位にいる割にオリガ家は金持ちじゃない。そんな中で折り紙の鶴は貴重だ。だから大なり小なり作ってため込んでおく。医療費の節約になるからね。
作るそばから使っているけど、それなりに溜まった。白が打ち身に切り傷、赤はヤケド、黄色がデキモノ……までは検証済み。風邪とか病気にも効いて欲しいんだけどまだレベルが足りないみたいだ。
何羽目かの鶴を折ったところで、魔力が少なくなったのかだるくなる。
スキル・アイテムの原動力は魔力だ。
使うごとに魔力量もそれを操る力も増えるけど、その増え方も個人で違うらしい。
そして――グタリと椅子にもたれかかり天井を見上げる。
もし僕が冤罪を着せられたなら――今までのような暮らしは出来ない。領地に行けばいい、って言ってくれたけど僕がこの家を出た方が良いんじゃないだろうか。
――やっていけるかなぁ……。
幸いこの世界には冒険者ギルドがあるから、僕でも小さい仕事にはありつけると思う。けどそこで、僕がやっていけるだろうかは別の話だ。いくら現世で健康だとしても、
「初日で終わってしまう未来しか見えないな……」
気弱なセリフが自然と出てしまった。
……あの後椅子で寝落ちしてしまった。
やや強ばった体がギシギシいっている。今日は本来休みだから部屋で寝てても良いけど、気持が落ち着かなかったから。
早朝なのでまだ人気が少ないのも出る気になった理由だ。
船で移動してばかりいるのもなぁ……と、せわしなく船が行き来している川に目を向けたら
「あれ?」
異質なものに気がついた。
川面のゴミに混じって動物が浮いている。茶色で大きなそれがもぞりと動いたのを見て、自然と体が動いた。
河原に降りてズボンの裾をまくり上げ、靴下と靴を脱ぐ。ボチャンと川に入って浮いていたそれを抱え上げた。
やっぱり……まだ、生きている。腕の中の動物は、柔らかい体をブルブル震わせ、ヒューヒューと細い息をしている。
「頑張ってくれよ……」
元気づけるより頼むような気持で呟いた。
「うわ……」
河原に横たえたそれは……実にファンタジーな生き物だった。
体は茶色い犬。それも長毛の小型犬。でもその背中には僕の知識にないもの――翼が生えていた。でも………。
「うぇ……」
怪我をしている。重傷だ。翼は骨だけを残しただけ。それに続く背中も真っ赤に焼けただれている。
「オリガミ・赤!」
赤い紙が目の前に現れ、落ちもせず空中でピタ、と制止した。
レベルが上がったら、空中でも折れるようになった。場所がない時には便利で重宝している。完成度で効果が変わるから雑に折れないし。
そうやって完成した鶴を犬鳥に近づけるとスッと消えた。同時に怪我をしている部分が消え、そこは他の箇所と同じ羽毛と体毛に包まれていた。
「良かった……」
後は体力さえ戻れば大丈夫……だと思う。なら近くの病院を探してと思っていたら、
「ヒュー!」
頭上から声がした。
僕と同じ年位の男の子が、橋の上から走ってくる。この子の飼い主だろう。僕に目もくれず青い顔をして犬鳥に駆け寄り、その体を抱きしめる。
「良かった……見つかって……」
そこで意識が戻ったのか、犬鳥も彼を見上げ、小さい鳴き声をあげた。
「きゅ~ん……」
……声は犬なんだな。
心の底から心配してたんだろう。彼は犬鳥を抱きしめたまま動かない。
「あの……」
安心しているのに悪いかなと思いつつ、僕は彼に声をかけた。
彼が飼い主なのかとか、どうして犬鳥がこんな目にあったのかとか訊きたいことはいっぱいある。それに怪我を治してもまだ完全回復じゃないんだ。お医者さんに連れて行かなきゃ。
そこでやっと僕に気付いてくれたのか、彼が僕の方を見て――。
「! 君は――」
驚いたように目を見開いた。――きっと僕も同じだ。
僕は彼を知っている。数人のうち1人だけ眼鏡だったから、覚えていたんだ。
彼は昨日……あの卒業パーティの時にいた、マリアの証人の内の1人だ!
「き、君は…………」
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「―ごめん!!」
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