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第二章 始まりの春と宵闇の海辺街

御伽の果て、ソレが齎すのは不吉か饗宴か

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『新婦が愛しはぐくみ、嘗て白だった薔薇。皺塗れになった日記帳に、吉日であろうと教会に鳴り響くレクイエム』

欺瞞、捏造、法螺吹きの虚言癖。
恋慕は永遠に葬られ、ただ純真なる愛欲だけがソコに残り、やがて朽ち果て、届かなくなった「貴方への手紙アイシテル」。
船に揺られ、瞼を閉じ、変わり映えのない地平線とさざ波の音。そうやって今夜も、花婿は刺繍入りのハンカチと押し花を握りしめ、真夜中ごとに嗚咽おえつし、涙ながら目を覚ます。

もうすぐ予定時刻だというのに、航海・交通法に従った所で目的地に辿り着けない。
ならば、どうするか。



———と、またひとり。
「ソレ」は万人に愛される王様の下にも、聖女・聖人君子と名高い人々の中にも潜んでおり、幾歳いくとせ数多あまたの三千世界。貴貧や出自、後の身分関係なく、この世の至るところに存在する。

『いや、違う』

若しくは、元来ならば存在していなく。ただ人間たちが勝手に夢見ては、生み出した深層心理。寝物語やお伽噺に登場する物の怪かの様な、「幻想ファンタジーの成れの果て」なのかもしれない。





———誹謗中傷に疲労困憊な心、次第に壊れ逝き、壊された標本カラダ。科学的根拠を伴わない周知の嘘に疲弊し、意味を持たない不気味な人形、籠の鳥さながらの日々。
それこそ、最終的には自分以外を認識できなくなって。そこが……、「ココ」と呼べる場所が夢なのかうつつなのかすら分からなくなる、日常と非日常の窓枠ボーダーライン

だって否定した所で一文にもならないし。所詮、世に在るとは、何もかも「そう言う事」だろ?
大人たちにとって×バツの悪い事情にはいつも蓋をして、二度あることは三度あると堂々巡り。子供たちの人生を、未来を食わせ、供物クモツにシて来た現実リアルと言うのは。

『かごめ、かごめ。籠の中の鳥は、何時いつ出ヤる』
『かごめ、かごめ。夜明けの晩に、鶴々つるつる滑ったのは、鶴と亀?』
『かごめ、かごめ。鍋の鍋の底抜け、ソコ抜いてたもれ』

かごめ、囲め。を、繰り返し。
籠の中の鳥は、いつもかつもお鳴きやり。八日の晩に、鶴と亀までもが滑って仕舞う不吉さ。
ひと山、ふた山、み山の峠を越えて。お灸を据えて、やれ熱や。と、

『籠目、籠の目』

加護の中の鳥居は、いついつ出会う。
独りで・・・通り過ぎた夜明けの番人、つるっと亀が滑った後ろの正面。
なのに毎度に及ぶ夢の中、続けざま毎回行われる、儀式染みた童唄。
自分が「振り返る」前に、手を引く後ろ。———この「少年オモカゲ」は、一体だあれ?

とも、唄い連ね。
相も変わらずぐるぐる、ぐるぐる回り巡る、同じ場所。
然し、ソコで。

「はぁっ、はぁ…××××ッ。俺の、オレ、ぼくだけの×××……う""ぅ"うう」

選りにもよって、記憶の底で。
その場所木霊す一枚越しの水音に、誰より知っているようで「知らない」ケダモノの声。
細切れ、だんだんと大きく上擦る呼吸音に耐え切れず。はたまた理解の及ばない事態に、堪えかねたのか。
真っ暗闇むしくいのもう方やにたたずむ、「長髪の少女と思しき影」は脱兎のごとく、音もなく離れ。とうとう踵を返し、そのドアノブ前から逃げ出した。


突如の異変、人を異形と化し、異質で歪な独占欲。
ソレらは「嘗ての時代」ならば推奨された耽美でありながら、今となっては酷く「おぞましい」とされる禁忌にして、様式美の一つ。

ラプンツェル?「いい加減、引っ張られ過ぎて禿げそうだし。そろそろ、外に出てぇ……」

良くも悪く、理由はともあれ、善からぬ知恵。事前契約、両者同意なしの「監禁」や行為、「洗脳」も立派な犯罪です。
いくら主人公ヒロイン至上主義、法律等がガバガバな夢の国ワンダーランドであろうと。そこいらに蔓延る『真実の愛』は、「≒免罪符」ではないし? 
それで居て、仮にも子供向けを謳うコンテツの道徳上、万が一にも「そう」なってはイケナイのだけれども……。

おかあサマ?「おーい、可愛い私の子! 早く、今日も早く髪を下してくれ!!」
ラプンツェル?「はーい!! ………」
若作りババア「ッ?」
ラプンツェル?「…えいっ」
若作りババア「ぎ、ぎゃあああああぁアア!! オマエ、よくm ———ッ!?!!」

と。ソレは一瞬の出来心にして、現実世界リアルに轟く絶叫が観客たちの鼓膜や「常識」すらもブチ破る。
初めこそ見知った風景、然し、次のシーンでは無邪気な少女の掛け声と共に ちょきん と刃同士の音が掠めれば。耳障りなほど高くつんざき、正しく「鬼迫る」と表現するのに相応しい女の顔が急降下。

そんで、そのまた次の瞬き後には ドサッ! グジャッ と、まるで蛙のクッキーが潰れたかのような音がシて……。

ラ繝ンシェ縺?「あ。待って、鍵! コレじゃあ私、独りで、どうやってココから出て降りればいいのよ……」

この度における、その童話は。そんな間抜けな文字化け声アナウンス、金髪碧眼、誰でも一目で恋して仕舞いそうな愛らしい少女の首傾げから始まった。


『あ。』
「あ。」

そして、こちらは此方、あちらは彼岸あちらで盛り上がってるお所。
怒涛を怒髪天で渡った昨夜に引き続き、少しばかりすやぁした後。でも、だからと言って、改めて疲れを取る間もなく、偶然(?)たび重なった更なる謎が謎を呼んだ迷シーンにて。
今朝?
いや、昼??

まぁ、兎にも角にも…結局……。

『お兄様、学園行きたくない』
『その気持ちは、分かる』

から引き続き。ブチかまされるマジモンの新世界、リアルと書いて現実と呼ぶ異世界産の A S M R 。

『だから、学園入学前。まだ完全に入学してないからこそ、自主辞退を』
『駄目ですよ、普通に考えて』
『チッ』

と、色気皆無な嫌よ好きよ「はよ学校行けよ」の押し問答。イケメンはナニしてもイケメンで、世の理不尽を経て、最終的に心にキャバ嬢と接待わっしょいしつつ。お互いの妥協点を見出し議論の末、妹の(影)同伴という条件下でようやく———、

『せめて。ならば、追々サボるにしても、せめて入学式出席だけでも……』

こうしてああして、ようやく時代は動き出し。

『……………………お前がそこまで式に出て欲しいというのなら、仕方ない。いいだろう』

それはもう! そりゃあもうな!!
苦渋の選択顔、ようやく渋々といった感じで学生の義務を妥協(?)したリアムお兄様に、やりきったぜ的な満面の笑み。
な不肖私、アトランティア……。

『いいだろう……、じゃありません。ねぇ、リアム? いい加減にしないと、これから卒業するまでティアちゃんとのふれあい禁止、面会謝絶、屋敷自体を出禁にしますよ?』
『くっ、我が母上ながら、なんて残虐な脅しを……!』
『ふれあい…動物…(妹)…出禁……』

自発的震度5強、ではなく。
とうとう時間になっても可愛い娘が食事に訪れず、周りに聞けばアレコレ徒然まろび出て、この度の騒ぎを聞きつけたママ上が襲来。
そんな嘗てないほど満面な笑みのお母様に一瞬肩を跳ねさせるも、往生の際まで抗い「それでも……ッ」と愚図るお兄様を(※魔法と違って抵抗できないから)【妖術】で拘束、回収、本邸までポイっと強制送還逆スクロールするまでがワンセット、ワンシーン。

『おのれ母上。あんなヤツとのお揃い、天使の居ない学園なんていやだ———ッ!!』
『普通の学園に【天使】がいる方が可笑しいし、普通に恐怖でしょうが、お馬鹿さん……。ふぅ。よしよし、ティアちゃんお待たせ、お腹すいたでしょう? これで邪魔者は消えたわ!』
『Oh……』

そして、天使様うんぬんは一先ずそこらに置いて……。それよりかは、例え誰が相手であろうと最終的に「母、マジ強し」と再確認しては。存外、これが我が家における一連の流れ、いつもの様式美ワンパターンな気がしなくもない、ここ近年よ……。

『あ! ティアちゃんやっと来た!! このお寝坊さんめ~~~』
『冤罪が過ぎる』

であるからシて。
そんで、そんな流れで場所が変わり、次はホテル級ダイニングにて、次男の方の兄を相手し。こちらもこちらで、シスコンとしてギリまで粘るも、今度は祖父(※前アールノヴァ騎士団統括)に首根っこ掴まれ、

『お前から稽古申し込んでおいて、とっとと準備せんか!』
『あーれー、ティアちゃんも連れてくの~、やだ———ッ!!』

と次男は次男で喚くも、経験値さ故に連れ去られるルーカス兄さんのを目尻に思わず敬礼、っと。
そんだけいくらお互い心身魔力共々、そういった普段よりの属性が真逆と言えど、結局は同じ穴の貉であろう兄×2。
今日も流石と同じ腹、同じ種、同じ遺伝子に、同じ血を分け、同じ血潮が流れ。必然的に同じ病を患っている兄弟なのだなぁ……()と、妹は思いました。

ンで、ね?

『あ。』
「あ。」

時はそうして流れ、時代が過ぎ、嵐も過ぎ、ようやく訪れた平穏の地。
そんなこんなで、再び自室に舞い戻ったアトランティアの心情と言えば。一拍の空白後、終始コレ一文字で、げに一瞬の出来事。

「は。はわわわわわ、可愛い? いや、それよりも美な猫チャンがネ…ズミ? ちゃむを『はむはむ』してらっしゃる……」

であり、と「はわわ」ったアトランティアは見た。
それこそ、それはもう、部屋に入るや否や最早運命のような吸引力で吸い寄せられ、視線を当てた窓向こうの枝を、とてとて優雅に歩を進めるお猫様。
飼い猫にも負けじと劣らない艶のいい黒猫が、そのチャーミングなお口で言わずもがなのシルエット、未だぴくぴくシてるグロテスクな塊をはむはむしている最中を。

なので、セルフクローズアップの末、癒しの脳内ボンバー、大爆発の果て、ほぼ対象への条件反射。
故に、自ずと。そんなアトランティアの脳裏でかの有名な溶ける曲が流れ出し、本当にげに、一瞬の出会いだった。

「お。窓の外に黒いもふもふが居る! でんがな……」と歓喜おもったら、そう思うも束の瞬きの間。ソレは、まだ若干活きてる(はずの)ネズミちゃむを咥えた黒猫チャンで……目と目が合い交わる———この瞬間。
からの、

『あ。』
「あ。」

である。

『…………。』
「…………。」

大きく見開かれた金と赤のオッドアイ。一撃必殺からの急所を捕えたのか、ネズミちゃむは痙攣している様に見えるも、動けず。これにて、ほんの数秒後には完全に事切れた様な風情、場が改めて静まり返った(様な気がした)。

「み、うぅうう……」
「…………っ」

それで、そんな人間に向かって目を三日月形に細め、観察というよりかは「見定める」かの様な。……兎に角、そういう類の人間臭い雰囲気を感じ、思わずゾワっとするアトランティア。

で。
なので、そうやってこちらをジーと見詰めたまま、どうこうする訳でもないが、それでも相手から視線を外そうとしない猫チャン。(と、お亡くなりのネズミちゃむに)

「お、お悔やみ申し上げます……」

と、10歳児は何とか言葉を絞り出すも。
思わずペコリ頭を下げ、溜息が出そうになるほど綺麗で、どうしてか目に焼き付くような感覚に襲われる姿、しなやかな体や口から覗く小さな牙を見てはドキドキして。
それで追い打ちかけるような、この世のモノとは思えない二色の瞳が、昼間の割に仄暗く、殊更と。

「なんて美しいのだろう」と脳裏で反芻する反面……それでも、ただこうして見つめ合ってるだけで、背筋あたりがゾワゾワして、落ち着かず、少し「怖い」気もした。

「…………?」

それこそ「今生の母」の瞳も、時折り窓越しの猫チャン、今の視界に居座る彼女(?)みたいな金色になる時もあるが。
でも、それ以上の大阪……。いや、だとしても、今目の前、視線の先同士がカチ合ってる摩訶不思議な色味、この枠縁から覗く金の方がもっと———。


「……サマ? アトランティアお嬢様!」
「……? え、あ、エマ?」

と、あくまで脳裏の内。そこまで言葉が過った所で名を呼ばれ、肩を叩かれ、ようやくハッと引き戻される意識に。今度は見慣れた、心配気なメイドのお姉さんの顔が映り。

「先ほどから、何を。外に何か?」

こちらの顔を覗き込むように佇む彼女は、エマは、一瞬外を、まるで不吉なモノでも見たと言わんばかりに、ぴくり、綺麗な眉間に皺を寄せたものの……。アトランティアに視線を戻す次の瞬間には、すぐさま何時もの無表情に戻っていた。

だから。
ふむ……と内心唸らし、未だゾワつく背筋を誤魔化す様に。

「……ううん、ナニか居た気もしたけど、どうやら気のせいだったみたい」

そんな様子のエマに少女も、「気づかなかった」フリをする。
いつもの『アトランティア』の顔で微笑ながら、「今日も今日とて」と何事もなかった様に小首を傾げ、小さな嘘を今日もお一つ。

……だって、どの道関係ないし。
息ある分だけ、世の中「往生際が悪い」は人間だけの話ではなく、常日頃の彼方こちらで、意気揚々と狩りを繰り返す。
始めの認識こそ猫チャンでも、よく見ればあの眼からして、元来と。どう見ても「ナニか」である雰囲気を隠そうとしていなかったのは向こうで、郷に入っては郷に従え的な?

「でも、ね。エマ…因みにで聞くけど、この屋敷って、どれだけの頻度で『ネズミ』が出るの?」
「【鼠】、ですか……」

あと正直言って、いくらファンタジーでも、『異界の住人』たちって結局「化け」そのものみたいなものだしね。
考えるだけ無駄。一応エマに疑問を投げかけるも、そう考える彼女。

マァ、主に前世の記憶上の話ではあれど。
こういった「奴ら」は大概こちらから呼んだり、招かなければ、「普通。問題なかろうよ」とのコトだった。
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