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17 ダイエット会議なのですわ!
しおりを挟む「たぁぁあああぁああ!!!!」ザシュッ! ドォンッ!
「はぁぁあああぁああ!!!!」ザンッ! ドドッ!
「どっせぇぇえええい!!!!」ズシュッ! ズドォンッ!
「ねぇ…これ、護衛いる…?」
「後方支援、必要かな…?」
「姫さん跳ぶときの地響きスゲェな…。なんであの重量であんなに跳べんだよ…」
後ろでチャラス様とオレグ様が悄然としていたのにも気付かないまま、わたくしはただ只管に、魔物を切り、間髪入れず跳び、切り、跳び………を繰り返したのですわ!
*******
「姫様……たくさん倒されましたな……」
「頑張りましたわ!」
小一時間で目ぼしい魔物はほぼ討伐されたため、急遽明日行く予定だった場所まで移動してそこでも小一時間でほぼ討伐してしまい、今は最初の門の内側に戻ってきたのですわ!
つまりは2日分、討伐終了なのですわ!
なので帰る予定が明後日から明日に変更になったのですわ!
魔物が早く片付いたことは喜ばしいことですわ!…喜ばしいことですわよね?
なのになぜか団長様の目が遠い目をしていることが気になりますわ?
そしてなぜか皆様も同じような目をしているのですが…もっと喜びましょうよう!?
「……そうですな。まぁ、我々の出る幕はほとんど無かったが…望んでいた結果が得られた訳だしな。うん、な。そうだよな。だよ…な?」
小声で何をおっしゃってるのか分かりませんが…なぜか自分を納得させようとする団長様。何を悩んでいらっしゃいますの?
「あの体型でなんであんなに素早いんだ…」
「魔物一振りで倒すってどういうことだよ…団長より強ぇんじゃねぇか?」
「騎士団で鍛える当初の目的、護身じゃなかったか?もうドラゴンも倒せるだろ…」
「騎士より強い王女って…」
そこの騎士様方!ボソボソと何を話していますの?喜びなら一緒に分かち合いましょう!?わたくしも混ぜてくださいませ!
「と、とにかく全員ご苦労。では、野営地に戻る!」
「「はっ!」」
******
「おかえりなさいませ」
野営地でヤーナが出迎えてくれましたわ。
先んじて伝達係の騎士様が伝えに来てくれていたおかげで、野営地では待機組が帰還するわたくしたちのためにお茶を沸かしてくださっていましたわ!そしてボリスラーフのお菓子も。
野営でお菓子が食べられるなんて…!
「料理長はこのケーキどうやって焼いたんだ?」
「クッキーもあるぞ…オーブン無いのに」
「今回の野営はいろいろいつもと違うな…」
いろいろ…とは何かしら?
でも確かに、ボリスラーフはこのお菓子、どうやって焼いたのかしら?
ケーキはデコレーションがしてありますわ!
クッキーにはアイシングまで…!?
「姫様、こちらへどうぞ」
「あら、ありがとう」
野営なのでもちろん地べたに布を敷いただけ。
でも、ボリスラーフのケーキとヤーナのお茶があるから豪勢ですわ!
うふふ、みんなでピクニックみたいで楽しいですわ!
「失礼します。ご挨拶してもよろしいですか?」
わたくしたちが野営地とは思えないほどまったりとした時間を過ごしていると、ここの村長が団長様に挨拶に来ましたわ。
「この度は討伐お疲れ様でございました。おかげで国境の壁付近に住んでいる者たちが安心して過ごせます」
「我々は義務を果たしたまで。お礼を言われるようなことは何もありません」
「それでも体を張って戦ってくださった皆様にお礼がしたいのです。ささやかではありますがどうぞお召し上がりください」
そう村長が言い終わると、後ろから村の男性たちが大きな酒樽を、女性たちが果物をいくつも籠に入れて運んで来ましたわ。
みんなニコニコと幸せそうですわ。
「皆、村の者たちはいつも不安と隣り合わせで…。トゥフナ領の騎士たちは街の方の治安維持にかかりがちであまり国境にまでは手が回らんのです」
トゥフナ領の騎士団長セルゲイ様が不満そうだったのはこれが原因ではないかしら?
自分たちが国境に行く余裕さえあれば、王国騎士団に頼まずとも自分たちで討伐できるのに…というやり場のない気持ちが王国騎士団への態度として出てきてしまったのではないかしら?
でもだからと言ってあの態度は許されませんわ!
王国騎士団の騎士はトゥフナ領、ひいてはアルエスク王国の民を守るために遥々来ているんですもの。
「最近魔物が増えていましたから心配していましたが、これで当面は安泰です。ありがとうございます」
「いえ…。しかし今回は騎士団ではなく、姫様がほぼ、その………」
「?」
騎士団長様、そんなにわたくしのことを見て…どうかなさいまして?
「まぁ…うん。皆様の不安が取り除かれて、良かった…です」
「???」
煮えきらない返答に村長さんとわたくしの頭上にはハテナがいっぱい。
なのになぜ他の騎士団の皆様は遠い目をしているのかしら?
「うっわー!そのお菓子美味しそう!」
明るい声に振り向けば、いつの間にかわたくしの横には可愛らしい少年が。10歳くらいでしょうか?
キラキラとした目でわたくしの前に並べられたボリスラーフ作のお菓子を見つめていたのですわ。
「よろしければどうぞ」
にっこりと微笑みお皿を差し出せば、少年の顔がぱぁっと輝きます。
「いいの!?」
「こら!マルコ!!」
マルコと呼ばれた少年の母親でしょうか?
女性が慌てた様子でこちらに駆けてきましたわ。
「だって!こんなに美味しそうなお菓子、ここらへんじゃ見たことないから!」
「だからって騎士様の食べ物を強請ってはだめでしょう!?」
「強請って無いやぃ!お姉ちゃんがくれたんだぃ!」
「あんたが物欲しそうにしてるからでしょう!」
あらま。親子喧嘩が始まってしまいましたわ。でもそれも平和であればこその風景。微笑ましいですわ。
でも残念ながらわたくしは騎士ではないのですが…まぁ、姫だと明かすと面倒なことになりそうなので黙っていましょう。
「よろしいのですよ。料理長が張り切ってたくさん作ってくれたようですから、もしよろしければ召し上がって?お母様もどうぞ食べてみてくださいませ。お城の料理長の料理は国一…いいえ、世界一ですのよ!」
ボリスラーフに視線をやれば、どこか誇らしげにお辞儀が返ってきましたわ。
謙遜しないのはその自信があるからでしょう。素晴らしいことですわ!
「いえ、でも…」
「いいじゃないですか。お茶はみんなでした方が楽しいですから、ぜひご一緒しましょう」
「っ!」
隣からにこやかにオレグ様がアシストして下さいましたが…ダメですわよ!マルコのお母様!旦那様以外の男性にときめいては!あの樽を運んできた男性、旦那様ですわよね!?めちゃめちゃこちらを見る笑顔が怖いですわ!!
結局近くにいた子どもたちも参加することになり、わたくしたちの周りには子供たちの笑顔がたくさん咲きましたわ。
あ。マルコのお母様は拗ねた旦那様に連れて行かれましたわ!
拗ねた旦那様を見るお母様の顔がニコニコしてましたから…たぶん大丈夫なのでしょう。恐らく仲良し夫婦なのですわ!
嫉妬してもらえるなんて羨ましいですわ…。わたくしも愛されたいですわ!
「ねーねー、お姉ちゃんは騎士なのになんでそんなに太ってるのー?」
「そんなんで戦えるのー?」
「ダイエットした方がいいんじゃねぇか!?」
オォウ…。
子供たちの無邪気な発言が心に刺さりますわ!無邪気故に刺さりますわ!
ちょっとヤーナ!子供たちを睨まない!!残念ながら事実ですわ!
「わたくしは騎士ではございませんのよ。見習い…みたいな感じかしら?」
「見習いだって太ってちゃダメだろー?」
「うっ。確かにその通りですわ…。ダイエットしてるんですが全然痩せないんですの」
「見習いだから運動はしてるんだろ?食べ過ぎか?」
「いえ、量は普通だと思いますわ」
「普通でそんなんなるか?」
「何が原因なのかなぁ?」
うーん。と、子供たちがわたくしのダイエットのために悩んでくれて…嬉しいけどなんだかとっても恥ずかしいですわ!
その後もたくさんお話をしてすっかり子供たちと仲良くなりましたが、そろそろ野営の晩御飯の準備に入らなければならない時間。
みんなと「また明日」と手を振って別れようとした…その時。
ドォン!!バキバキバキバキッ!!!
「な…何事ですの!?」
地響きの後、何か硬いものが破かれるような音が辺りに響き渡り…その音源を見やれば。
「グォォオオオォオオオオオ!!!!!」
そこに、魔法の壁を破りながら咆哮を上げる巨大な黒い魔物の赤い目が、こちらを見ていたのですわ。
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