33 / 48
閑話 ある公爵令息の決意
しおりを挟む「レーナは…もごっ!………ど、どこ……もごごっ!」
「ぐ…ぐぐ……ぐふぅぅぅううぅぅう~」
「ぐ、ぐふっ………ぐふふっ」
口を塞いでも空気を読まずに喋ろうとするヴァシリー様と、未だ咽び泣くルスラン殿下と、この状況を楽しむパーヴェル…。
(……………カオスだ。)
「ヴァシリー様、そのお話は場所を変えましょう。ルスラン様、そろそろ泣き止んで下さい。パーヴェル………そろそろ正気になれ」
僕はげんなりとした顔を隠すこともせずに、大きな溜め息をつく。
なぜこんなクセありな3人の相手を一気にしなければならないのか。
3人を宥め、諌めてはいたけれど、気を緩めるとすぐに意識が他のところへ飛んでいってしまう。
でも仕方がないだろう!?
(あれはもはや罪だ………!)
僕の心の中はレーナでいっぱいだったからだ。
太っていても可愛いと思っていた。これは本当だ。
彼女は見た目だけではなく、心が美しいから。
だが、痩せた彼女は半端無かった。
可愛いが過ぎる。
美しさが過ぎる。
可憐さが過ぎる。
神々しさが過ぎる。
エロさが過ぎる…………!
なんだ、あのけしからん生き物は!?僕をどうしたいんだ!?
侍女のお仕着せを着たレーナはやばかった。
華奢な手足と艷やかな金糸のような髪、きめ細かい肌が眩しかった。
だが、それよりもあれは……もはや視覚の暴力!!
胸が!!胸が大き過ぎてボタンがまるで僕の理性のように!ギリギリで!頑張っていて………!
ありがとう、お仕着せのボタン!耐え切ってくれてありがとう!!
万が一ボタンがはち切れていた場合、僕の理性もはち切れていたに違いない。
大袈裟ではなく、本気で。本気で。
それくらい彼女は魅力的で、蠱惑的で、僕は浮かれた。
こんなに可愛いくて美しくて妖精のように可憐で女神のように神々しくて天使のように無垢なのにエロさが溢れるレーナが僕の婚約者だなんて…!
世界よ!神よ!ありがとう!!
でもルスラン殿下の登場で僕は冷静になり、正直焦った。
僕は公爵家の世継ぎで、自分で言うのもなんだが勉強も出来るし顔も悪くない。剣技も優れている方だ。
だが、彼女を完全に囲い込めるほどに完璧な地位かと言うと…残念ながらそうではない。
レーナは最高に素敵な女性だ。世の男たちは躍起になって彼女を手にしたがるだろう。
相手によってはレーナを奪われてしまう可能性がある。
例えばどこかの王子、とか……。
『父上から今回の訪問でレギーナ姫を嫁にもらってこいと言われた』だと?
僕が!婚約者だぞ!?唯一の婚約者だ!
いくら積まれようと、どんな地位をちらつかせられようと、その座を譲る気は1ミリも無い!
でも、アルエスク国王がそれを望んだら…?
胸がチリッと痛む。
国王の命令で婚約破棄を言い渡されれば、僕に為すすべはない。
レーナが、他の、男に、嫁ぐ………だと?
駄目だ!考えただけでも胸糞悪い!
僕がずっとずっと誰にも取られないようにこっそりひっそり優しく囲って来たっていうのに、ここにきて掻っ攫われるだなんて…!
なんだってレーナは痩せてしまったんだ!?神様、僕に何の嫌がらせだ!?
あぁ…早く結婚したい。早く結婚して部屋に閉じ込めて誰の目にも触れさせないようにしたい。
毎日レーナの顔を見て始まり、レーナの顔を見て終わりたい。
………そうだ。僕はあと1年数カ月で16歳で、レーナは14歳。ふたりとも成人する。
ふたりが成人したらすぐに結婚してしまえばいいんだ!
当初の予定ではふたりが学園を卒業してから結婚する予定だったが、僕が卒業するまであと2年。
万が一レーナが入学すればあと4年もかかってしまう。
そんなのは待てない。
それにレーナが学園に入れば身の程知らずな虫どもがうようよと湧いて出てくるに違いない。
………そうだ。結婚したらすぐに子供を作ってしまおう。
そう誰もが諦めるしかない。
ずっとずっと我が公爵家の邸に閉じ込め外界との関わりを断ち切って、仲睦まじくふたりだけで暮らすんだ。
なんて素晴らしい計画なんだ…!
まずは窓に鉄格子が必要かな?
あとは外から鍵をかけられるドアと、部屋に続きの風呂とトイレ…。
あぁ…!この上ない多幸感が僕を包む。
「オ…オレグ?なんだか悪い顔をしているが…どうした?」
おっと。周りの3人を忘れていた。
気付けば3人とも僕からちょっと距離を置いて確実に引いている。
いけない、いけない。
「いえ、なんでもありませんよ」
ニッコリといつもの笑顔を貼り付ける。
………おかしいな?爽やかな笑顔を浮かべている筈なのに、ヴァシリー様の顔が引きつっている。
「と、とにかく…ルスラン殿下、遠いところ遥々よくいらっしゃいました。国王の謁見室へご案内いたします」
「あ…あぁ、よろしく頼む」
「オレグ。レーナは……大丈夫なんだな?後で話を聞かせてもらうからな」
「もちろんです」
レーナの無事をなんとか納得し、ヴァシリー様がパーヴェルと共にルスラン殿下を連れて行く。
ふぅ。やっと片付いた。
さてと。
僕は愛する婚約者のところに行くとするかな。
どうやって外堀を埋めるか。そんなことを考えながら歩き出す。
ただ、あの予想外な行動を起こす婚約者殿はそう簡単には捕まってはくれないんだろうな、と思いつつ、そんな彼女も愛おしく感じる僕はもう、彼女無しでは生きられないんだろう。
必ず捕まえてみせるから。
「覚悟してね?レーナ」
僕の心の中のように、今日の空はどこまでも晴れ渡っていた。
0
あなたにおすすめの小説
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる