処刑回避のため、頂点を目指しますわ!

まなま

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閑話 ある公爵令息の決意

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「レーナは…もごっ!………ど、どこ……もごごっ!」
「ぐ…ぐぐ……ぐふぅぅぅううぅぅう~」
「ぐ、ぐふっ………ぐふふっ」

口を塞いでも空気を読まずに喋ろうとするヴァシリー様と、未だ咽び泣くルスラン殿下と、この状況を楽しむパーヴェル…。

(……………カオスだ。)

「ヴァシリー様、そのお話は場所を変えましょう。ルスラン様、そろそろ泣き止んで下さい。パーヴェル………そろそろ正気になれ」

僕はげんなりとした顔を隠すこともせずに、大きな溜め息をつく。
なぜこんなクセありな3人の相手を一気にしなければならないのか。
3人を宥め、諌めてはいたけれど、気を緩めるとすぐに意識が他のところへ飛んでいってしまう。
でも仕方がないだろう!?

(あれはもはや罪だ………!)

僕の心の中はレーナでいっぱいだったからだ。

太っていても可愛いと思っていた。これは本当だ。
彼女は見た目だけではなく、心が美しいから。
だが、痩せた彼女は半端無かった。
可愛いが過ぎる。
美しさが過ぎる。
可憐さが過ぎる。
神々しさが過ぎる。
エロさが過ぎる…………!
なんだ、あのけしからん生き物は!?僕をどうしたいんだ!?

侍女のお仕着せを着たレーナはやばかった。
華奢な手足と艷やかな金糸のような髪、きめ細かい肌が眩しかった。
だが、それよりもあれは……もはや視覚の暴力!!
胸が!!胸が大き過ぎてボタンがまるで僕の理性のように!ギリギリで!頑張っていて………!
ありがとう、お仕着せのボタン!耐え切ってくれてありがとう!!
万が一ボタンがはち切れていた場合、僕の理性もはち切れていたに違いない。
大袈裟ではなく、本気で。本気で。

それくらい彼女は魅力的で、蠱惑的で、僕は浮かれた。
こんなに可愛いくて美しくて妖精のように可憐で女神のように神々しくて天使のように無垢なのにエロさが溢れるレーナが僕の婚約者だなんて…!
世界よ!神よ!ありがとう!!

でもルスラン殿下の登場で僕は冷静になり、正直焦った。

僕は公爵家の世継ぎで、自分で言うのもなんだが勉強も出来るし顔も悪くない。剣技も優れている方だ。
だが、彼女を完全に囲い込めるほどに完璧な地位かと言うと…残念ながらそうではない。
レーナは最高に素敵な女性だ。世の男たちは躍起になって彼女を手にしたがるだろう。
相手によってはレーナを奪われてしまう可能性がある。
例えばどこかの王子、とか……。
『父上から今回の訪問でレギーナ姫を嫁にもらってこいと言われた』だと?
僕が!婚約者だぞ!?唯一の婚約者だ!
いくら積まれようと、どんな地位をちらつかせられようと、その座を譲る気は1ミリも無い!

でも、アルエスク国王がそれを望んだら…?

胸がチリッと痛む。
国王の命令で婚約破棄を言い渡されれば、僕に為すすべはない。
レーナが、他の、男に、嫁ぐ………だと?
駄目だ!考えただけでも胸糞悪い!
僕がずっとずっと誰にも取られないようにこっそりひっそり優しく囲って来たっていうのに、ここにきて掻っ攫われるだなんて…!
なんだってレーナは痩せてしまったんだ!?神様、僕に何の嫌がらせだ!?
あぁ…早く結婚したい。早く結婚して部屋に閉じ込めて誰の目にも触れさせないようにしたい。
毎日レーナの顔を見て始まり、レーナの顔を見て終わりたい。

………そうだ。僕はあと1年数カ月で16歳で、レーナは14歳。ふたりとも成人する。
ふたりが成人したらすぐに結婚してしまえばいいんだ!
当初の予定ではふたりが学園を卒業してから結婚する予定だったが、僕が卒業するまであと2年。
万が一レーナが入学すればあと4年もかかってしまう。
そんなのは待てない。
それにレーナが学園に入れば身の程知らずな虫どもがうようよと湧いて出てくるに違いない。
………そうだ。結婚したらすぐに子供を作ってしまおう。
そう誰もが諦めるしかない。
ずっとずっと我が公爵家の邸に閉じ込め外界との関わりを断ち切って、仲睦まじくふたりだけで暮らすんだ。
なんて素晴らしい計画なんだ…!

まずは窓に鉄格子が必要かな?
あとは外から鍵をかけられるドアと、部屋に続きの風呂とトイレ…。
あぁ…!この上ない多幸感が僕を包む。

「オ…オレグ?なんだか悪い顔をしているが…どうした?」

おっと。周りの3人を忘れていた。
気付けば3人とも僕からちょっと距離を置いて確実に引いている。
いけない、いけない。

「いえ、なんでもありませんよ」

ニッコリといつもの笑顔を貼り付ける。
………おかしいな?爽やかな笑顔を浮かべている筈なのに、ヴァシリー様の顔が引きつっている。

「と、とにかく…ルスラン殿下、遠いところ遥々よくいらっしゃいました。国王の謁見室へご案内いたします」
「あ…あぁ、よろしく頼む」
「オレグ。レーナは……大丈夫なんだな?後で話を聞かせてもらうからな」
「もちろんです」

レーナの無事をなんとか納得し、ヴァシリー様がパーヴェルと共にルスラン殿下を連れて行く。
ふぅ。やっと片付いた。

さてと。
僕は愛する婚約者のところに行くとするかな。
どうやって外堀を埋めるか。そんなことを考えながら歩き出す。
ただ、あの予想外な行動を起こす婚約者殿はそう簡単には捕まってはくれないんだろうな、と思いつつ、そんな彼女も愛おしく感じる僕はもう、彼女無しでは生きられないんだろう。
必ず捕まえてみせるから。

「覚悟してね?レーナ」

僕の心の中のように、今日の空はどこまでも晴れ渡っていた。
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