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29 妖精姫は悪魔の微笑みを浮かべるのですわ!
しおりを挟む「これもよく似合うわ!じゃあとりあえずこれももらうわ!レーナちゃんのサイズに急いで手直しお願いね。でもこれとは別に気軽なお茶会に着ていかれるドレスも何着か欲しいわね。とりあえず既成のもので淡い色と濃い色、それぞれ用意できる?」
「かしこまりました。では、こちらとこちらと…こちらなどはいかがでしょう?」
「悪くないわね!じゃあレーナちゃん、とりあえず着てみなさいな!」
「はい…………………」
お母様…とりあえずが多すぎですわ!
お母様はラルフに渡してもらった手紙でわたくしの激ヤセを知り、急いで会いに来たらしいですわ…お抱えのデザイナーを連れて、それはもう、急いで。
王妃がドレスの裾をたくし上げて走って来ては駄目ですわ!
例えわたくしたち家族以外が許可なしでは立ち入れない、王族のプライベート空間でも!
一緒に走って来させられたデザイナーの方は声が出せないくらい息切れなさってましたわ!?
ちなみにデザイナーのお名前はノンナさん。
この国いちの売れっ子デザイナーなのですわ!
たまたまお母様のところにいらしていたらしくて、こうして一緒に文字通り駆け付けてくださったのですわ!全力で!
お母様がノンナさんを連れてきた理由はもちろん、わたくしの当面の着るドレスが無いから。ということで…とりあえず既に仕立ててあるドレスを見繕ってくれているんですけれど…数が多すぎませんこと!?
とりあえずって何でしたっけ!?
「お母様、わたくしこんなに着れませんわ!?」
「何言っているの!?こんっっなに!美しくなったのに!!楽しまなくちゃ!すぐにでもいろんなところに連れ回してあげるからね!楽しみねぇ~」
「えぇ~……」
お母様は淑女の中の淑女、可憐な妖精姫、舞い降りた天使…。そんな通り名がある程に可憐で優雅で美しいのですわ。
………外では。
「キャー!そのドレスも似合うわね!じゃあとりあえずこれもね!あ、でも後でレーナちゃんだけのためのデザインのドレスも何パターンか作ってきてね」
「もちろん心得ております」
「あ、せっかくだから私とお揃いもいいわね!」
「王妃様とレギーナ姫様のお揃い…。さぞ美しいでしょうね!腕がなります!きっと次の社交シーズンには親子お揃いコーデが流行るに違いありませんね!」
「まあね!私とレーナちゃんだもの。当然よ!楽しみだわぁ」
「…………………」
お母様はいつも外では猫を何匹も何匹も被っておられるのですわ!それはもう、何があっても動じず、剥がれない鋼の猫を。鉄壁の猫壁なのですわ!
でもはしゃぐお母様を見ながら思いますの。人前に出たお母様ももちろん素敵ですけれど、猫を脱いだお母様もとても可愛らしいのですわ!
現に、お父様も四六時中デレデレしたお顔でお母様を見ておられますもの!
でも…猫を脱いだお母様もとても可愛らしいですけれど、わたくしを巻き込まないで欲しいですわ!
お母様とお揃いのドレス…。
わたくし確かにだいぶ痩せましたが「デブス-デブ=ブス」ってだけですから…妖精姫と呼ばれるお母様とのお揃いは辛いのですわぁ。
それにそんなにドレスはいりませんわ!
わたくしあまり社交の場は好きではありませんもの。
痩せる前からお母様はわたくしをなんとかしてお茶会に連れ出そうとしていたのだけれど、わたくしがのらりくらりと躱していたのですわ。
でもこの様子だと…今後、躱すのは難しいかもしれませんわね…。
「レーナちゃんとお揃い…なんて素敵なのかしら!」
うぅ…。こんなに楽しそうなお母様を見ていると断れる気がしませんわ。
それに、これはきっとわたくしのためでもあるのですわ。
「今までレーナちゃんが私たちに似てないだのなんだの言ってたやつらや、レーナちゃんの見た目を馬鹿にしてたやつらを見返してやるんだから!」
顔が似ているかどうかは置いておいて、わたくしとお兄様の特徴はお母様譲り。金の髪に青い瞳なのですわ。
なのに家族でわたくしだけブクブク太っていたため、よく「取り替えられたんじゃないか?」「王妃の浮気で産まれたんじゃないか?」だなんて言われていたって最近知ったのですわ…。
ものすごくお母様には肩身の狭い思いをさせてしまって………
「まぁ、そんなやつらはみんな私が裏から鉄槌を下してやったけどね!ざまぁみろだわ!そしてこれからは残党を残らず始末よ!おーっほっほっほ!」
「さすがです!王妃様!!」
「素敵です…!」
肩身の狭い思い、して……ませんでしたわね。そうでしたわね。お母様はきちんとやられたら裏でやり返してたんでしたわね……倍返しで。
何をしたのか…聞くのも恐ろしいですわ……。
そしてノンナさんとヤーナがそんなお母様を羨望の眼差しで見ておりますわ。
え。やめてね?お母様化するのは。一人でもうお腹いっぱいですわ。
今日も今日とてわたくしの周りは混沌としておりますわね!?
「そ、そういえばお母様。ルスラン殿下との謁見は同席しなくてよろしかったんですの?お父様とお兄様は今、ご挨拶なさってるんですわよね?」
「あー、あのカエル王子?」
「カ、カエル……?」
「ほら、あの泣き声が。」
「お母様、ルビがおかしくてよ………」
そして不敬でしてよ。
確かに鳴き声…じゃなくて泣き声は変わってはいますが。
「なんで泣いてるのかは知らないけどずっと泣いてるから謁見は明日になったのよ」
「ずっと泣いてるんですの…」
「うちの国に何しに来たんだろうね、あのカエル王子」
「いや、だから不敬でしてよ」
妖精姫は口が悪いのですわ。
そっか…ルスラン殿下はまだボリスラーフのことを引きずってますのね。
でもボリスラーフが今、幸せなんだから…それでいいのではないかしら?
悩んでも悔やんでも仕方がありませんもの。
ボリスラーフの幸せを一緒に喜んで、そしてゼレグラントをボリスラーフの代わりに立派に率いてあげれば…十分ではないのかしらね。
「あなたも謁見には出るんだからね」
「げ。」
しまった。本音が出てしまいましたわ。
こら、ヤーナ!小さい声で「カエル姫……」って言ったの聞こえましてよ!?
「明日の謁見にはどのドレスがいいかしら?とびきり綺麗にして行かないと!」
え、なんでそんなに張り切ってるんですの?
「…………ヒッ!?」
お母様、顔がヤッベェことになってますわ!?
人ひとりサクッと殺しちゃいそうな顔してますわ!!?
「私、知ってるのよ。あのカエル王子が裏でレーナちゃんを馬鹿にしてたこと」
ふわりと笑ったお母様の笑顔は凄艶で。妖精ではなく、むしろ悪魔。
こんな悪魔になら男たちは自ら魂を差し出すんだろうな、なんて現実逃避してしまいましたわ……。
「明日が楽しみねぇ~」
お母様の笑顔が怖いですわ…。
ルスラン殿下、頑張ってくださいませ!
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