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閑話? ある王立魔導師団長の懐古 魔法との出会い編
しおりを挟む極、極、稀に産まれる赤い瞳は、魔物と同じ、血の色。忌み嫌われる色。
その極めて低い確率に、なぜ自分が当たってしまったのか。何度も神を呪った。
人の視線が怖かった。
恐怖に染まる瞬間を見るのが怖かった。
だから見えないように、隠すように、前髪を伸ばした。
彼女に会うまでは…………。
******
「自分が師団長のアナトリー・インギスです」
「ひっ!?」
目の前の使者が恐怖で顔を引きつらせる。
……………またか。
初めて会った人は大抵こんな反応だ。もう慣れた。
小さい頃からこの瞳のせいで人に避けられて生きてきた。
使用人、家庭教師、家族にまでも。
だから屋敷からほとんと出ず、人とは最低限にしか会わないようにして生きてきた。
父は自分がいないものとして過ごした。
母は自分を悪魔と呼んで恐れた。
兄たちは汚いものを見るような目を向けた。
自分は、いつもひとりだった。
だからある日、たまたま発動させた魔法に、自分はすっかり魅了されたのだ。
自分が発動させたのは魔法の中でも最も珍しいという『氷』だった。
今まで誰よりも劣っていた自分が、最も優れた魔法を発動させた。
そのことにすべからく高揚し、期待した。
これでみんなもようやく自分を見てくれるのでは…?
期待、したのに……!
「悪魔が…悪魔が力を持ってしまったわ!嫌っ!近寄らないで!!嫌―――――っ!!」
結果は散々だった。
母に見せに行った自分は、悲鳴で駆けつけた父にボコボコに殴られ、罵倒された。
「なんで母さんに会いに行った!?」「その力はなんだ!?」「なんでお前みたいなのが産まれてきたんだ!!」
会いに行っただけなのに。
魔法を見せただけなのに。
生きている、だけなのに…。
絶望し………そして諦めた。家族を。
そして自分の持つ唯一の可能性だけに目を向けた。
魔法。
これさえ高め、極められれば…自分の存在する意味を見つけられるかもしれない。
そう思い、どんどんのめり込んでいった。
どんどん、熱中していった。
自分にはこれしかない。
書架の魔法の本は全て読み漁り、魔力を制御するためと嘘をついて家庭教師をつけてもらい猛勉強した。
寝ても覚めても魔法、魔法、魔法。
大好きな魔法のことを学ぶのはとても楽しかった。
そうして得たものは王立魔法師団団長という地位。
ここまでの道はもちろん平坦な道のりではなかった。
様々な目に晒され、貶され、嫌われてきた。
だがもういいのだ。自分には大好きな魔法があるから。
来る日も来る日も魔法を研究する日々はそれはそれは楽しくて、自分はどんどん満たされていった。
そして今日。国王からの使者が自分の元へ来たのたが……
「………で、何の御用でしょうか?」
「は、はい。そそそそれが、レ、レ、レ、レギーナ殿下、の……魔法発動の手伝いをす、す、するように、と、国王からのめ、めめ、命令、ですっ………!」
噛みすぎ。ビビりすぎ。
よく噛む使者の話を根気よく聞けば、第一王女であらせられるレギーナ殿下は未だに魔法を一度も発動できずにいて、その発動の手伝いをしてほしいのだとか。
レギーナ殿下は今年10歳。
確かに10歳まで一度も発動できていないのは遅い。
12歳まで発動できなければ魔法を使うことは絶望的と言われていることから、王家の一員としては焦るのも頷ける。
なぜなら魔法を使えるということは一種のステータスだからだ。
貴族なら使えて当たり前。使えないとなると王家といえどかなり風当たりが強くなるのは間違いないだろう。
……………ふむ。
レギーナ殿下のお兄様であらせられるヴァシリー殿下は自分と同じ最高位の氷の魔法を使う。
ではレギーナ殿下は?
同じように氷?それとも水?意外と普通の土とかかも?
魔法のことを考えていたら自然と口角が上がっていたらしく、前髪の間から見えた目の前の使者が震えていた。
「ま、魔王……!」………失礼だな、君。魔王なんてものはお伽話であって実際にはこの世にいないよ。
自分の目の色に怯えきった使者を眺めながら考える。
殿下は自分を見たらどういう反応をするだろうか?
泣く?叫ぶ?
何もしていなくても怖がらせたら不敬にあたるのだろうか?
地位が高い人間は質が悪い。
こちらが何もしていなくても気に入らなければ何かといちゃもんをつけてくるのだから。
「でも、発動しない理由………気になるな」
どうせ国王の命令を断れる訳もないのだ。
「すぐに伺います」
ここは殿下にも研究に付き合ってもらおう。
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