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第3話 街に怪盗がやって来た(後編)
5 真昼の来訪者
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「あれ? 開いてる」
玄関の扉がうっすらと、五センチくらい開いていた。閉め忘れなんて危ないなぁ。そう思いながらドアを開けた。
そこには信じ難い光景が待っていた。
「くっ……、クリンちゃん!?」
玄関先でクリンちゃんが俯せに倒れていたのだ。
あのお姉さんの仕業だ! 直感的にそう思った。
ど、どうしよう!? ってか、アレックスは一体何してんの!? 心の中でそうなじるが、今日はフロックス魔術学院の講師をしに行ったことを思い出した。
クリンちゃんに触れてみる。温かい。それに、規則正しく呼吸をしている。ただ眠っているだけのようだ。そのことに少しだけ安心する。
だが、緊急事態ということには変わりない。早くアレックスに連絡しないと……!
ケータイをポケットから出して、震える指でボタンを押す。
この世界では役に立たないだろうと思っていたが、アレックスが使えるようにしてくれたのだ。ただし通話のみ。しかも、かけられるのはこの世界の番号のみ。ちなみにどうして使えるようになったの? と、訊いたら『説明したところで、お前に理解することはできない』と、馬鹿にされた。
「フロックス魔術学院です」
穏やかな女声が対応してくれる。
「あ、あの! アレックスを大至急お願いしますッ!」
「申し訳ありませんがフルネームでお願いします。当学院にアレックスという名の講師は七人おりますので」
そう返されてうろたえる。どうしよう!? あいつの名字なんて覚えてないんだけど! ってか、アレックスって名前の先生が七人もいるのかよ!
「えっと……、ちょっと名字の方がわからないんですけど……。あのなんていうか、見た目が死神っぽいというか幽霊みたいっていうか……。そんな感じの人なんですが……」
「ああ、あの臨時講師の方ですね。少々お待ちください」
アレな説明であったがちゃんと伝わったようだ。やはりアレックスは他の人から見ても、死神や幽霊など、それっぽい容姿に映っていることが証明された。
保留のメロディーがしばらく流れた後、アレックスが出た。
「ユウコか、一体どうした?」
「たっ、大変なの! 実はね……」
混乱しつつも最悪な状況になっていることを告げた。
「やはりこのタイミングを狙ったか。しかし、まさか正面から来るとは……。待っていろ、すぐに行く」
この事態をある程度は予測していたらしい。取り乱すことなくそう返され、通話を切られた。
アレックスはすぐに駆けつけてくれた。
「クリムベール、しっかりしろ」
アレックスはクリンちゃんを抱き上げ、頬を軽く叩いて起こした。
「ん……んん……、アレックス……?」
「一体何があった?」
「あ、あのね、あのリザーテイリアのおねーさんが来たの……! 玄関のチャイムが鳴ったから、お客さんかなって思ったら、あのおねーさんで……。その後は、う~……、よくわかんない……」
やはりあの人の仕業だったか……。胸がちくんと痛んだ。
「そうか。しかし、眠らされただけで済んだのは不幸中の幸いだったな」
アレックスはいくらか表情を和らげる。
「いや、安堵に浸るのは賊を捕らえてからだな」
表情を厳しく引き締め、アレックスは屋敷の奥へと駆け出した。
私とクリンちゃんもその後を追う。
アレックスが向かう先は行き止まりになっているはずの細い通路。そっちに行っても意味ないんじゃ……。
アレックスが曲がり角を曲がる。私達もそれに続く。
目の前にある景色はやっぱり行き止まり。のっぺりとした壁があるのみだ。だが、なぜかアレックスの姿は見当たらない。
「この壁はね、すり抜けられるの。アレックスは向こう側にいるよ」
そう言って、クリンちゃんが壁をすり抜けた。ギョッとなるものの、勇気を出して壁に飛び込む。
ぶち当たる衝撃はなかった。本当にすり抜けられた。
目の前には、重々しい堅牢な扉がそびえていた。幾つもの錠前が付いているが、それらは全て外され、僅かに扉が開いている。
アレックスは扉の前に立ち、様子をうかがっていた。
「お前達……。なぜついてきたんだ」
私達の姿を確認するなり、小声で咎めてきた。確かに考えてみれば、私達は足手まといにしかならないだろう。返答に窮していると、
「まあいい。おとなしくしているんだぞ」
あっさりそう言って、再び様子をうかがう。
扉の奥から声が聴こえる。女の声だ。
「やはり実在していたのね……。噂が本当なら、これであの人を救える……」
意味深な台詞だ。“あの人を救える”とは、一体どういうことなんだろう。
「それにしても、等身大サイズってのは少し予想外だったわ。うまく運び出せるかしら……」
この台詞も意味がわからない。この部屋にはクリンちゃんのお姉さん……フラウベールさんが居るんじゃないの? それに、フラウベールさんの声は全く聞こえない。いきなり現れた賊に怯え、声も出せない状態なんだろうか?
玄関の扉がうっすらと、五センチくらい開いていた。閉め忘れなんて危ないなぁ。そう思いながらドアを開けた。
そこには信じ難い光景が待っていた。
「くっ……、クリンちゃん!?」
玄関先でクリンちゃんが俯せに倒れていたのだ。
あのお姉さんの仕業だ! 直感的にそう思った。
ど、どうしよう!? ってか、アレックスは一体何してんの!? 心の中でそうなじるが、今日はフロックス魔術学院の講師をしに行ったことを思い出した。
クリンちゃんに触れてみる。温かい。それに、規則正しく呼吸をしている。ただ眠っているだけのようだ。そのことに少しだけ安心する。
だが、緊急事態ということには変わりない。早くアレックスに連絡しないと……!
ケータイをポケットから出して、震える指でボタンを押す。
この世界では役に立たないだろうと思っていたが、アレックスが使えるようにしてくれたのだ。ただし通話のみ。しかも、かけられるのはこの世界の番号のみ。ちなみにどうして使えるようになったの? と、訊いたら『説明したところで、お前に理解することはできない』と、馬鹿にされた。
「フロックス魔術学院です」
穏やかな女声が対応してくれる。
「あ、あの! アレックスを大至急お願いしますッ!」
「申し訳ありませんがフルネームでお願いします。当学院にアレックスという名の講師は七人おりますので」
そう返されてうろたえる。どうしよう!? あいつの名字なんて覚えてないんだけど! ってか、アレックスって名前の先生が七人もいるのかよ!
「えっと……、ちょっと名字の方がわからないんですけど……。あのなんていうか、見た目が死神っぽいというか幽霊みたいっていうか……。そんな感じの人なんですが……」
「ああ、あの臨時講師の方ですね。少々お待ちください」
アレな説明であったがちゃんと伝わったようだ。やはりアレックスは他の人から見ても、死神や幽霊など、それっぽい容姿に映っていることが証明された。
保留のメロディーがしばらく流れた後、アレックスが出た。
「ユウコか、一体どうした?」
「たっ、大変なの! 実はね……」
混乱しつつも最悪な状況になっていることを告げた。
「やはりこのタイミングを狙ったか。しかし、まさか正面から来るとは……。待っていろ、すぐに行く」
この事態をある程度は予測していたらしい。取り乱すことなくそう返され、通話を切られた。
アレックスはすぐに駆けつけてくれた。
「クリムベール、しっかりしろ」
アレックスはクリンちゃんを抱き上げ、頬を軽く叩いて起こした。
「ん……んん……、アレックス……?」
「一体何があった?」
「あ、あのね、あのリザーテイリアのおねーさんが来たの……! 玄関のチャイムが鳴ったから、お客さんかなって思ったら、あのおねーさんで……。その後は、う~……、よくわかんない……」
やはりあの人の仕業だったか……。胸がちくんと痛んだ。
「そうか。しかし、眠らされただけで済んだのは不幸中の幸いだったな」
アレックスはいくらか表情を和らげる。
「いや、安堵に浸るのは賊を捕らえてからだな」
表情を厳しく引き締め、アレックスは屋敷の奥へと駆け出した。
私とクリンちゃんもその後を追う。
アレックスが向かう先は行き止まりになっているはずの細い通路。そっちに行っても意味ないんじゃ……。
アレックスが曲がり角を曲がる。私達もそれに続く。
目の前にある景色はやっぱり行き止まり。のっぺりとした壁があるのみだ。だが、なぜかアレックスの姿は見当たらない。
「この壁はね、すり抜けられるの。アレックスは向こう側にいるよ」
そう言って、クリンちゃんが壁をすり抜けた。ギョッとなるものの、勇気を出して壁に飛び込む。
ぶち当たる衝撃はなかった。本当にすり抜けられた。
目の前には、重々しい堅牢な扉がそびえていた。幾つもの錠前が付いているが、それらは全て外され、僅かに扉が開いている。
アレックスは扉の前に立ち、様子をうかがっていた。
「お前達……。なぜついてきたんだ」
私達の姿を確認するなり、小声で咎めてきた。確かに考えてみれば、私達は足手まといにしかならないだろう。返答に窮していると、
「まあいい。おとなしくしているんだぞ」
あっさりそう言って、再び様子をうかがう。
扉の奥から声が聴こえる。女の声だ。
「やはり実在していたのね……。噂が本当なら、これであの人を救える……」
意味深な台詞だ。“あの人を救える”とは、一体どういうことなんだろう。
「それにしても、等身大サイズってのは少し予想外だったわ。うまく運び出せるかしら……」
この台詞も意味がわからない。この部屋にはクリンちゃんのお姉さん……フラウベールさんが居るんじゃないの? それに、フラウベールさんの声は全く聞こえない。いきなり現れた賊に怯え、声も出せない状態なんだろうか?
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