化け物伯と追放令嬢

真麻一花

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「お前となど婚約破棄だ!!」

 ブチギレた婚約者が叫んだ。
 こちらもそうしたいのは山々だけど、それは無理でしょう……。
 そう思いながら困った顔で婚約者さまを見た。



 さて、そんな婚約者との諍いも、早三ヶ月ほど前の出来事。
 感情的に叫ばれた婚約破棄騒動は、当然そう簡単に成るはずもなく、破棄ではなく婚約解消となった。
 まあ、ブチギレたからと言って衝動的に破棄とか叫ぶお相手とご縁を結ぶのはお互いちょっと厳しいね、という手打ちの結果だ。

 私にもきっと悪いところはあったと思うの。でも、元婚約者も元婚約者だったのよね。とにかく心が狭かった。あと、頭も悪かった。その上、なんでそんなことするの? っていうことばかりするのも、とても嫌だった。
 ……いえ、人のせいにするのは良くないわね。きっとあちらも同じ事を思っていただろうし。お互いが、やることなすことイラッとしてた気がするもの。
 きっと私たちは、徹底的に、相性が悪かった。

 だから、婚約解消できてお互い良かったんだけど、その後が最悪だった。
 私は人前で辱められた被害者だというのに、社交界からは腫れ物扱い。半ば爪弾き状態となってしまって、王都から少し離れた別荘に、療養中という名目で追い出された。
 元婚約者は普通に社交をしているらしく、どうして私が追放されているのか納得がいかない。
 でも、男女関係って、どうしても男性には武勇伝、女性には瑕疵として語られやすいのよね。

 そこへきて、あの元婚約者、嫌がらせのような縁談を私に回してきた。迷惑をかけたからと善意みたいな顔して、絶対に悪意の塊の縁談だった。
 こんな療養などといってはじき出す程度じゃなく、確実にこの王都から追放してやろうという思惑が透けて見える。しかも私に絶望を与える気満々としか思えない内容だった。

 その顔合わせは断れるものではなかった。
 そう、勝手にお見合いをセッティングされていたのよね。断ったら相手に失礼になる。
 その場合、被害を被るのは本来なら元婚約者の家だけのはずなんだけど、お見合い相手が、ちょっと大物すぎた。
 国の守護者、北の辺境伯さまである。
 私の瑕疵ではないにしろ、断って印象悪くなるとか絶対に避けたい。
 辺境伯さまの顔を潰すとか、恐ろしくてできるはずもない。
 私は領地を持たない名前だけ貴族の子爵家令嬢だ。広大な領地と権力と武力を持つ辺境伯さまとは格が合わない。
 普通なら、見合いどころじゃなく、言葉を交わすことすらできないような雲の上の方だ。物理的に領地も遠すぎるから、まず顔を合わせる機会もない人だ。
 それを、どうやったのか、見合いまで取り付けてくる力の入れ具合に、悪意しか感じない。
 そんな身に余るような見合いだけど、成立してしまったのには、当然訳がある。
 件の辺境伯さま、曰く付きなのだ。
 断りたい。

 お見合いなので、合わなかったら断れると思うでしょう?
 違うのよねぇ……。
 お見合いっていうのは、結婚前の顔合わせと、ほぼ同義。お見合いした時点で世間の認識が「婚約しました」となる。この人と結婚するから顔ぐらい見ておく? という顔合わせなのよね。
 婚約を解消した傷心の令嬢に、なんということをしてくれるの。政略でない場合の婚約は、普通は、会食などで偶然という形を取って引き合わせて相性を見たりするのよ。そっから婚約。それが婚約確定の見合いとかひどすぎない? それが迷惑をかけた私への仕打ち?
 私が悪意と確信したのもそのせいだ。

 婚姻が成立しないとしたら、それは基本的に家格の高いほうが断ってきた場合のみ。つまり、辺境伯さまが断ってくれたらいいのだけれど、この話を受けている時点で、その望みは薄い。
 私の方もがんばればなんとかできるかもだけど、断るデメリットが大きすぎる。

 それだけ不本意なのに、お話自体は「お詫び」として成立するほど、分不相応な程に良すぎるお話なのよね。建前がしっかりしてるから表向きは怒るに怒れない。
 身に余るので……と、断ったけれど、外枠が良すぎて、断れない仕様だった。
 辺境伯さまにつきまとう曰く、、を口実に断るのは、木っ端貴族にはできない。そこを持ち出すのはめちゃくちゃ失礼に価するので。
 粘った末、ありがたくお受けいたします。となったわけだ。

 元婚約者の嘲笑う顔がちらついてムカつきますわぁ。
 辺境伯さまの手前「あんな話を押し付けて!」なんて口が裂けても言えないのよね。表向きは感謝の言葉しか言えないこの悔しさ。

 さて、件の辺境伯さまは、このたび珍しく王都に来ていらっしゃるとのことで、めでたく見合いの席となってしまった。
 むしろ、辺境伯さまが王都に出向いてこられるから、この話をねじ込んだというのが正しいだろう。
 怒っても仕方がない。いい話なのは間違いないのだ。私は、私なりに覚悟を決めた。


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