化け物伯と追放令嬢

真麻一花

文字の大きさ
1 / 6

1

しおりを挟む




「お前となど婚約破棄だ!!」

 ブチギレた婚約者が叫んだ。
 こちらもそうしたいのは山々だけど、それは無理でしょう……。
 そう思いながら困った顔で婚約者さまを見た。



 さて、そんな婚約者との諍いも、早三ヶ月ほど前の出来事。
 感情的に叫ばれた婚約破棄騒動は、当然そう簡単に成るはずもなく、破棄ではなく婚約解消となった。
 まあ、ブチギレたからと言って衝動的に破棄とか叫ぶお相手とご縁を結ぶのはお互いちょっと厳しいね、という手打ちの結果だ。

 私にもきっと悪いところはあったと思うの。でも、元婚約者も元婚約者だったのよね。とにかく心が狭かった。あと、頭も悪かった。その上、なんでそんなことするの? っていうことばかりするのも、とても嫌だった。
 ……いえ、人のせいにするのは良くないわね。きっとあちらも同じ事を思っていただろうし。お互いが、やることなすことイラッとしてた気がするもの。
 きっと私たちは、徹底的に、相性が悪かった。

 だから、婚約解消できてお互い良かったんだけど、その後が最悪だった。
 私は人前で辱められた被害者だというのに、社交界からは腫れ物扱い。半ば爪弾き状態となってしまって、王都から少し離れた別荘に、療養中という名目で追い出された。
 元婚約者は普通に社交をしているらしく、どうして私が追放されているのか納得がいかない。
 でも、男女関係って、どうしても男性には武勇伝、女性には瑕疵として語られやすいのよね。

 そこへきて、あの元婚約者、嫌がらせのような縁談を私に回してきた。迷惑をかけたからと善意みたいな顔して、絶対に悪意の塊の縁談だった。
 こんな療養などといってはじき出す程度じゃなく、確実にこの王都から追放してやろうという思惑が透けて見える。しかも私に絶望を与える気満々としか思えない内容だった。

 その顔合わせは断れるものではなかった。
 そう、勝手にお見合いをセッティングされていたのよね。断ったら相手に失礼になる。
 その場合、被害を被るのは本来なら元婚約者の家だけのはずなんだけど、お見合い相手が、ちょっと大物すぎた。
 国の守護者、北の辺境伯さまである。
 私の瑕疵ではないにしろ、断って印象悪くなるとか絶対に避けたい。
 辺境伯さまの顔を潰すとか、恐ろしくてできるはずもない。
 私は領地を持たない名前だけ貴族の子爵家令嬢だ。広大な領地と権力と武力を持つ辺境伯さまとは格が合わない。
 普通なら、見合いどころじゃなく、言葉を交わすことすらできないような雲の上の方だ。物理的に領地も遠すぎるから、まず顔を合わせる機会もない人だ。
 それを、どうやったのか、見合いまで取り付けてくる力の入れ具合に、悪意しか感じない。
 そんな身に余るような見合いだけど、成立してしまったのには、当然訳がある。
 件の辺境伯さま、曰く付きなのだ。
 断りたい。

 お見合いなので、合わなかったら断れると思うでしょう?
 違うのよねぇ……。
 お見合いっていうのは、結婚前の顔合わせと、ほぼ同義。お見合いした時点で世間の認識が「婚約しました」となる。この人と結婚するから顔ぐらい見ておく? という顔合わせなのよね。
 婚約を解消した傷心の令嬢に、なんということをしてくれるの。政略でない場合の婚約は、普通は、会食などで偶然という形を取って引き合わせて相性を見たりするのよ。そっから婚約。それが婚約確定の見合いとかひどすぎない? それが迷惑をかけた私への仕打ち?
 私が悪意と確信したのもそのせいだ。

 婚姻が成立しないとしたら、それは基本的に家格の高いほうが断ってきた場合のみ。つまり、辺境伯さまが断ってくれたらいいのだけれど、この話を受けている時点で、その望みは薄い。
 私の方もがんばればなんとかできるかもだけど、断るデメリットが大きすぎる。

 それだけ不本意なのに、お話自体は「お詫び」として成立するほど、分不相応な程に良すぎるお話なのよね。建前がしっかりしてるから表向きは怒るに怒れない。
 身に余るので……と、断ったけれど、外枠が良すぎて、断れない仕様だった。
 辺境伯さまにつきまとう曰く、、を口実に断るのは、木っ端貴族にはできない。そこを持ち出すのはめちゃくちゃ失礼に価するので。
 粘った末、ありがたくお受けいたします。となったわけだ。

 元婚約者の嘲笑う顔がちらついてムカつきますわぁ。
 辺境伯さまの手前「あんな話を押し付けて!」なんて口が裂けても言えないのよね。表向きは感謝の言葉しか言えないこの悔しさ。

 さて、件の辺境伯さまは、このたび珍しく王都に来ていらっしゃるとのことで、めでたく見合いの席となってしまった。
 むしろ、辺境伯さまが王都に出向いてこられるから、この話をねじ込んだというのが正しいだろう。
 怒っても仕方がない。いい話なのは間違いないのだ。私は、私なりに覚悟を決めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

結婚して5年、初めて口を利きました

宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。 ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。 その二人が5年の月日を経て邂逅するとき

「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です

希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」 卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。 「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」 私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。

年上令嬢の三歳差は致命傷になりかねない...婚約者が侍女と駆け落ちしまして。

恋せよ恋
恋愛
婚約者が、侍女と駆け落ちした。 知らせを受けた瞬間、胸の奥がひやりと冷えたが—— 涙は出なかった。 十八歳のアナベル伯爵令嬢は、静かにティーカップを置いた。 元々愛情などなかった婚約だ。 裏切られた悔しさより、ただ呆れが勝っていた。 だが、新たに結ばれた婚約は......。 彼の名はオーランド。元婚約者アルバートの弟で、 学院一の美形と噂される少年だった。 三歳年下の彼に胸の奥がふわりと揺れる。 その後、駆け落ちしたはずのアルバートが戻ってきて言い放った。 「やり直したいんだ。……アナベル、俺を許してくれ」 自分の都合で裏切り、勝手に戻ってくる男。 そして、誰より一途で誠実に愛を告げる年下の弟君。 アナベルの答えは決まっていた。 わたしの婚約者は——あなたよ。 “おばさん”と笑われても構わない。 この恋は、誰にも譲らない。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

あなたがそのつもりなら

素亭子
恋愛
リリアーナはランス侯爵からの求婚をうけて結婚したが、わずか一年で夫は愛人を持った。リリアーナの仕返しの話です

処理中です...