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17 白竜2
しおりを挟むフリーシャは横たわった竜を見ながら首をかしげた。
怒りの鉄拳二発で、だいぶ気持ちも収まり、目も覚めたところで、ようやく冷静になっていた。
おかしい。
竜のような高位の霊獣が、こんなに簡単にフリーシャの攻撃をまともに受けるはずがないのだ。これほどまでにダメージを与えることが出来たこと自体がおかしい。
「ねえ。あなた、何者?」
フリーシャは、竜の顔の前に座り込むと、声をかけた。
何より、この竜、威厳がない。
弱ってるにしても、竜の力がこんな物とは思えない。一度だけ遠目に見たことのある竜は、孤高の生き物だった。何人たりとも寄せ付けない聖獣。
そんな迫力がこの竜にはないのだ。
ぐったりしていた竜はうっすらと目を開ける。
それは、意志のある目だった。
さっきまでのような本能だけで動く動物の目ではない。竜はうめくと、再び目を閉じた。
『助かった、礼を言う』
竜が力なくつぶやいた。
「礼? たたきのめされて? マゾ?」
『誰がマゾだ!』
竜は頭をもたげて反論する。
「よかった。元気そうで」
フリーシャが笑うと、フンと竜が笑った。その鼻息で風が起こった。
でかすぎる。
ともあれ、湖から現れた竜との出会いが偶然とは思えない。アトールは、この竜がいることを知っていたのではないだろうか。
これは、交渉の余地が、あるのではないだろうか。殴ったのに敵対してくる様子はないし。馬を逃がされたし。
「あなた、変な竜ね」
のぞき込むフリーシャに、白龍は、ぐったりと、力なさそうにぽつりぽつりと話し始めた。
『私は、元々は人間だ。呪いをかけられてこの姿になっている。もう、十余年が経つ』
「人間?」
フリーシャは驚いてその白竜の目をのぞき込んだ。
『竜とは、この姿だけで魔力を持つ。だんだんと意識が浸食されて、最近は、人間であることさえ忘れていたような有様だ。危うく、取り込まれそうになっていた。そなたのおかげで目が覚めた。礼を言う』
「十余年って……そんなにも長い間、人間の意識を保っていられたの……」
つまり、それだけ元々の魔力が強いということだ。魔力を持たない人間ならば数日もすれば意識をなくし、堕ちて竜もどきの魔物となるだろう。
それはそれで気の毒なのだが、そんなことはどうでも良い。
これ、面倒なことに巻き込まれそうになってない?
今はそれどころじゃないというのに、竜の事情までかまっている暇はないのだが。フリーシャがどうしたものかと考えていると、突然第三者の声がした。
『何しろ、マージナル王国の王子ですから、ね、王子』
マージナル王国と言えば、魔法大国である。王家には強大な魔力を有する者も多いと聞く。
が、それよりも、フリーシャが気になったのは、その声の主の存在である。
「師匠?!」
突然聞こえてきたアトールの声にフリーシャはその姿を探す。
すると、すぐ隣に、アトールの幻影があった。
「どうして……」
『ペンダントを媒体にしたんだ。その場所だからこそ使えるんだけどね』
アトールがにこにことフリーシャに笑いかける。
その笑顔が、なんとなく憎らしく思えたのは、気のせいではないだろう。
幻影を殴っても仕方がないと考えるフリーシャの隣で、アトールが白竜に恭しく礼をとった。
『お久しぶりでございます、王子』
『アトール……そなた、今更なに顔を出している。顔を見る時は、呪いの解き方を見つけた時だと言っておろうが!』
竜が幻影に今にも食らいつきそうな勢いで怒鳴った。
やっぱりこの二人、知り合いなのね……。
フリーシャを、引き合わせたかったのは、この竜なのだろう。
この二人が関係の浅からぬ仲だということに驚きつつも、フリーシャは納得した。
アトールのふてぶてしさの理由がわかった。
マージナルの王家と関係があるのならば、グライデルのような小国の姫の相手をすることに恐れは抱かないだろうし、そして魔術に精通していても不思議はない、……かもしれない。
とりあえず、アトールが、とんでもない狸だと言うことは、確信できた。
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