魔王の花嫁

真麻一花

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20 白竜5

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 フリーシャが可憐ににっこりと、恐ろしい笑顔で返答を迫る。
 もちろん、アトールが大切にしている白竜の王子にそんな事をするつもりは毛頭ないのだが、そんな事はおくびにも出さない。この程度の脅しでその気になってくれるのなら、せいぜい本気らしく振る舞ってみせる。

 白竜はフリーシャのまなざしをうけてうなるようにつぶやいた。

『……分かった。力になろう』

 不機嫌ながらも望む返事を得て、フリーシャはほっとした。

 これでようやく、魔王のもとにたどり着くめどがたった。

「……ありがとう」

 心からの謝意を込めた笑顔がフリーシャからこぼれると、白竜の険悪そうな雰囲気が少し和らいだ。

『話がまとまったところで、私も、この状態を維持するのは少々疲れましたので、おいとまいたします。王子、呪いが解けるのを、心待ちしております。……フリーシャ。おまえが間に合うことさえ出来ればマーシア様は大丈夫だ。おまえなら、全てを丸く収めることが出来るはずだ』

 そういうと、そのままアトールの幻影が消えた。

 あっけなく消えたアトールに、反応に困ったフリーシャと白竜の王子は、互いに微妙な顔を見合わせた。

「あの反応からすると、もしかしたら、私に協力することも、本当にあなたの呪いを解く鍵になるのかしら?」

 だとしたら、アトールの言動に納得がいくのだが。

『さあな。あいつの言うことは、いつでもうさんくさいんだ』

 白竜の王子がフンと吐き捨てるようにつぶやく。
 諦めが付いたのか、アトールがいなくなって気がそがれたのか、先ほどまでの険はない。

「でも、嘘は言いませんよ?」
『……そうかもしれないな』

 彼が苦笑したのが分かった。そして、ようやく状況を受け入れたらしい白竜が静かに訊ねる。

『……なぜ、魔王のもとへ?』
「姉様を助けに」
『それは聞いた。それだけか?』
「それ以外に理由なんてないわ。明日の夕方までに助けなければ、氷の花嫁よ。……そんな事は、絶対にさせない」

 決意を込めて呟いたフリーシャに、どこか不思議そうに白竜が首をかしげる。

『なぜ、姉のために命までかける』

 フリーシャは笑った。
 理由なんて決まってる。姉様は、私の宝物だ。絶対、絶対、なくしたくない、大事な人だ。

「世界に誇れる美女よ。氷の花嫁なんかにしたら世界の損失でしょ」

 その答えに白竜があきれたようにつぶやいた。

『……無理に笑わなくていい。生半可な覚悟では、魔王から取り返そうとは思わないはずだ。命をかけても良いほど大切だから助けに行くのならば、今の状況は相当に辛いはずだ。笑ってごまかしていると辛くなるばかりではないか』

 思いがけない言葉に、フリーシャは驚いて竜を見る。
 そして真剣な竜の瞳を見て、ごまかすのをやめた。
 そんな優しい言葉は、反則だ。
 フリーシャは泣きたくなる気持ちをこらえて笑った。

「きっと……笑ってないと、前に進めなくなるから」

 そうつぶやくとフリーシャは、うつむき、ゆっくりと息を吐く。

「考えると怖くて震えそうになるもの。笑ったり、怒ったり、……何か別の感情でごまかさないと立ち止まってしまうから。……でも、そんな時間はないから。……だから、そうね。ひとつお願いしたいわ。私が笑っていたら、王子も笑ってごまかされてちょうだい」

 そう、不安や悲しみにとらわれている時間はない。
 フリーシャは顔を上げた。
 フリーシャの見つめる先には、嫌々ながらも相棒になってくれると承諾してくれた白竜がいる。
 この人は、きっと、優しい。
 そうフリーシャには思え、それがとても心強く感じられた。人を思いやる気持ちはなんと強い力だろうと思う。くじけそうな時でも、向けられる温かい思いがあれば踏ん張れる。踏ん張るための力になるのだから。

 私は、がんばれる。

「ありがとう、心配してくれて。師匠は我が儘なんて言ってたけど、優しいのね」

 フリーシャが笑うと、白龍は目をそらせた。

『……私にも経験があるだけだ。そなたのように人のためではなかったが』
「呪いを受けた頃?」
『そうだな。もし私がそなたのように、人のために苦しむことが出来る人間であったのなら、こんな姿にはなっていないだろうな』



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