魔王の花嫁

真麻一花

文字の大きさ
19 / 62

19 白竜4

しおりを挟む
『私が、自分の身を危うくしてまでそれに付き合わなければいけない理由がない』

 白竜が馬鹿馬鹿しいといわんばかりに言い放った。その言葉をおとなしく最後まで聞いていたフリーシャは「そう」と小さく頷いて、にっこりと笑った。

「そんな事おっしゃるんですね」

 笑ったその表情が一瞬のうちに嘲るものへと変わる。

「ねえ、白竜の王子? 誰が私の馬を逃がしたと思っているの? 魔物になりかけたあなたのせいではなかった? それとも……魔物になりかけたのではなく、もうほとんどなっているのかしら。……だって、考えることもまともにできていないようですものね。思考能力、落ちているのではなくって?」
『な……っ』

 ふふっと笑うフリーシャの笑顔はどこまでも王子を嘲笑う物だ。

「まあ、そのような姿になるぐらいですもの。考えが浅く愚かなのは間違いないのでしょうね。ねぇ、竜の王子。そのでかくても体に対して小さい脳みそをよく振り絞ってから考えてくださる? あなた、このままここにいたところで、後は竜もどきの魔物に成り下がるだけではなくって? そんなことも理解出来ないなんて、ホント、十年で考えることも計算もできないような動物並みの頭になってしまわれたのかしら? それとも、元からそれほど愚かなの?」
『己は、私を馬鹿にしているのか……!』

 竜が吠えた。辺り一帯が震え、地鳴りがする。竜の苛立ちと怒りが一身にフリーシャに向けられた。
 けれど、フリーシャは冷めた目を細め、気にもせずにコロコロと笑った。

「それ以外に聞こえていたのなら、びっくりですわね。それでなくても、美姫を助けるこのチャンスを自ら捨てるだなんて、紳士の風上にも置けなくってよ。今の姿が、それを成功させる絶好のタイミングなのに。もったいない。この世界で、姉様ぐらい美しい姫はそうそういないのよ? その世界の宝を魔王にくれてやるようなバカ王子でいいと思っているの? だから呪いをかけられるのよ」

『な……っ そこまで私を馬鹿にして、なぜ私がそれに従うと思うのだ……!!』

「あなたには、それしか道がないからよ。お馬鹿さんね。もう一度教えて差し上げますね? その体の割に小さな脳みそをよく振り絞って考えて下さる? 呪いの解き方は、人に心を開き思いやりを持って過ごすこと、そういわれたでしょう。じゃあ人との関わりはどうやって築けばいいと思っているの? 側にいる人を一人でも大切にすることから始まるのではない? こんな誰一人としてやってこない山の中で、誰を大切にするの? 私以外の人間が、あなたのような恐ろしい竜に近付いてくれると思っているの? ねぇ、この十年で誰があなたと関わってくれた?」

 白竜が、ぐっと言葉をなくして震えていた。

「あなたに残された時間で、呪いを解く最後の切り札は私しかいないのではなくって? ……ねぇ、竜の王子、よく考えて下さる? 今、私をないがしろにして、あなたは後悔しないの?」

 フリーシャがこんこんと白竜を追い詰めていく。そして勝ち誇った笑みを浮かべながら、白竜を見た。
 平たく言うと「人が下手に出てやりゃ、つけあがりやがって!」というやつである。

「お返事をいただきたいわ? 白竜の王子?」

 言いたいことを言ってすっきりしたフリーシャはふうっと息を吐くと、可憐ににっこりと笑った。
 一方、白竜の王子は、女の恐さを見たと思った。顔はかわいいのに、ずいぶんとどす黒い笑顔に見えた。
 アトールが、にやにやとしながら白竜の横顔を眺めている。
 フリーシャは反論できるものならしてみろとばかりに裏のありそうな笑顔でににこにこと白竜を見ている。

 いくら白竜の王子が答えを渋ろうとも、彼に残された選択肢があまり多くないのは事実だった。

『意地を張って得することと、損をすることがあります。王子、その体の割に小さな脳みそをしっかりと活用した方がよろしいかと存じます』
『黙れ!』

 また人の気を逆なでるようなことを……とフリーシャは思ったが、「体の割に……」というのはたった今自分が言ったセリフのため、あえて黙っておいた。
 そして、そんなアトールの様子に、フリーシャはほっとしていた。

 アトールは真実フリーシャを助けようとしてくれている。そのことに安心する反面、疑問でもあった。なぜ、そこまでフリーシャのために心を砕くのか。

 話を聞く限り、アトールは、白竜の王子側の人間のはずだ。
 アトールがフリーシャに魔術を教えてくれるのは純粋に好意であろうと思っている。しかし、アトールと白竜の王子の間には明らかな主従関係が存在しているらしい。そして、十年以上共に過ごしたからわかることもある。こんな態度だが、アトールは白竜の王子を大切に思っている。
 なのに、アトールはフリーシャの危険な申し出を王子が受けるように仕向けている。
 いろいろ矛盾を感じた。

 けれど、それは、裏を返せば、アトールは本当にフリーシャがマーシアを取り返しに行くことを心配していないということかもしれないとも思う。
 実際、アトールがどういうつもりなのか、フリーシャには分からない。本当につかみ所のない人が師匠になってくれた物だと思った。けれど、彼の優しさは、信頼に値する。
 だから、ここはやはり乗っかっておこうとフリーシャは判断する。うさんくさいと思うのに、どうしてもアトールを疑う気になれないのだ。
 きっと何とかなる。何とかしてみせる。アトールに迷惑をかけないためにも。

 フリーシャはにっこりと笑顔でもう一押ししてみる。

「王子、もし、受けて下さらないようでしたら……そのせいで、姉様を助け出すことに失敗したら、絶対に許しませんから。私も一発、更に強力な呪いを授けて差し上げます。よろしいですね」

 気合いの入った脅しをかけ、その言葉と共に隠していた強大な魔力を一瞬解放した。脅しの言葉を実現させるだけの力があることを示したのだ。白竜の王子はそれを感じ取ったのか、少しひるんだ様子を見せた。

「返答は、如何に?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

処理中です...