魔王の花嫁

真麻一花

文字の大きさ
30 / 62

30 魔物2

しおりを挟む

 魔王の城はまだまだ遠い。真っ直ぐに飛んでも夕刻までにようやく着くぐらいだろう。それなのに。
 こんなところで時間を食うわけにはいかない。フリーシャは、己が立てる場を整え竜の背に立った。
 すぅっと息を思いっきり吸う。そして。

「私の邪魔をしないで!!」

 力を込めたフリーシャの一喝に共鳴するかの如く、一帯の空気が震えた。
 フリーシャは、自らの力を込めた威嚇が目の前の人型の魔物には聞かないだろうと言うことはわかっていた。しかし、本能的に、一瞬の足止めぐらいにはなるだろうとふんでいた。そして小物は確実に寄せ付けないだけの力はあると。
 予想通り、魔物が声に反応して動きを止める。鳥形の魔物は怯えすらまとい、人型の魔物は攻撃をしようとする動きを止めて、フリーシャを見据えてきた。
 フリーシャはそれを受けて、にらみ返す。
 どう倒すか。力だけなら恐らくこちらが上。けれど経験値が圧倒的に足りないフリーシャは正面から戦うとなると不利だろう。けれど邪魔をする者は、絶対に許さない。

 ところが、人型の魔物はフリーシャが想像だにしない反応をした。

「何故、あなたがここにいるのです」

 いかにも不思議そうに、驚いた様子で言う魔物の言葉の意味がつかめず、フリーシャはその表情を探る。
 人型の魔物は、驚いた表情をすぐに改めると、その美しい容貌に、この場ににつかわしくない穏やかな笑みを浮かべ、優雅に礼を取った。

「お初にお目にかかりますフリーシャ姫。それにしましても、魔王様の目をかいくぐってここまでこられたのですか?」

 魔物の視線と口調には賞賛する響きがあった。

「……何の事? 何故あなたは私の名を知っているの?」

 全く意図がつかめず慎重に言葉を返すフリーシャに、魔物はむしろ親しげな笑みを浮かべた。

「この一帯の魔物に、あなたさまを知らぬ者はおりますまい。さすがは、魔王様の花嫁となられた方。貴女ほどの力を目にすれば、知らぬ者でも気付きましょう。されど、婚礼を抜け出すのは、いかがなものかと思われますが? どうぞ城にお戻り下さい。魔王様がお待ちしてります」

 そこでようやく、この魔物が、自分をマーシアと勘違いしているのだと気付いた。何故か名前まで間違えて。
 そして、最も恐れていた事が起こっているらしい事にも気付いてしまった。
 この魔物は言ったのだ。「魔王の花嫁となられた方」と。この魔物の言葉は、既にマーシアが「魔王の花嫁」になっているという前提で話しをしているのではないか。
 フリーシャは息をのんだ。

 どうして。新月は今夜なのに。婚礼はまだのはずだ。なのに、何故。

 フリーシャは意味を理解し、血の気がざっと引くのを感じた。
 手も足もがくがくと震えた。

「嘘よ……婚礼は今日でしょう? 何故もう契っているの!」

 フリーシャの悲痛な叫びに、魔物もようやくおかしい事に気付いたようだった。

「……あなたは、本当にフリーシャ姫ですか?」

 不審げに眉を寄せる。戸惑っているらしい魔物を見て、フリーシャはあざけるように笑い飛ばした。

「私はフリーシャよ。間違いなく本物のね。……ただし、魔王が連れ去ったのはフリーシャではないわね。私の姉のマーシアよ! 許さないわ。絶対に許さない。姉様を氷の花嫁にした報いは絶対に受けてもらうんだから」

 フリーシャは魔力を練り上げながら呪文を唱えた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

処理中です...