魔王の花嫁

真麻一花

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31 魔物3

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 このとき、フリーシャは激しい怒りにかられていたが、冷静さを失ってはいなかった。あえて時間を取って害意を見せつけるのは魔物の出方を確認する意味と、一種の脅しだ。
 けれど、魔物はそれを意に介した様子もなく首をかしげた。

「あなたがフリーシャ姫で、城には別人がいるとおっしゃる……? では、何故城にいる姫にも魔王様の印がついているのです」

 魔物はフリーシャが今もまだ敵意を前面に出しているにもかかわらず、フリーシャへに対して、友好的ですらある。威嚇するフリーシャを平然と眺めていた。
 それが癇に障る。

「……魔王の印? そんなの知らない。そんなのどうだって良い。姉様を氷の花嫁にした者を私は許さない。姉様は取り返すわ。元に戻すんだから……!!」

 フリーシャは魔物の余裕としか見えぬその様子に不快感と、不安を覚える。あの魔物は知っていることがあるようだ。だが、このままではあの魔物の思うつぼではないか。言いくるめられるわけにはいかない。
 まずは優位に立つ。
 フリーシャは魔力を具現化させた弓を作り出し、動こうとしない魔物に向けてその弓を引く。

「まずはあなたからよ」

 さあ、どう出る。
 脅す意図は半分以下。正真正銘の本気だった。意図的に魔力があることを見せつけているフリーシャを前に、これだけ余裕を見せるということは、それだけこの魔物には力があるという事だ。本気でかからなければ敵わないかも知れないのだから。
 大抵のことはこの圧倒的なフリーシャの魔力の前では役に立たないだろう。けれど、それは力のない者が相手の場合に限られる。

 フリーシャは、アトールには敵わない。フリーシャの方が絶対的に力が上であるにもかかわらず。経験と技術は力を凌駕する。
 争いなどしたことのないフリーシャには、これは限りなく不利な状況かもしれなかった。

 殺すつもりでやればアトール相手よりも、もう少し効率よく攻撃できるかもしれない。けれど、あくまで可能性の域を出ない。
 この魔物は侮れない。こんな脅しの猶予はむしろ争いになれていないフリーシャにとって不利になるだろう。にもかかわらず、すぐに攻撃を仕掛けられずにいるのは、魔物から他にも情報が引き出せるのではないかという期待が、少なからずあるからだ。
 殺さずに情報が欲しい。この脅しが失敗した後の手をいくつか想定しながら、魔物を見据える。

 大丈夫、私はやれる。私は一人じゃない。白竜もいる。

 とはいえ、相手は狡猾そうな魔物だ。考える猶予を与えたくない。でも、情報は欲しい。ジレンマを感じつつ、フリーシャは魔物を観察する。情報を引き出せるかどうかは賭けだ。本来ならすぐにでも攻撃をするのがフリーシャには有利に働く、わかっている、でも……。
 自分の判断に焦りを覚えながら、緊張感にフリーシャは息をのむ。
 しかし、情報が欲しい。この脅しまがいがどれだけ有効かは分からないが。

「フリーシャ姫。その物騒なものはお収め下さい。私はあなたの望みを叶える手助けが出来ます。私が今なすべき事と、姫がなそうとしている事は同じはずです」
「そんな戯れ言」
「あなたがまこと、フリーシャ姫だというのでしたら、今口にした望み、全て叶いましょう」

 魔物は、弓をかまえるフリーシャの前で何の躊躇もなく頭を垂れた。


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