魔王の花嫁

真麻一花

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56 ハッピーエンド!

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 二人が去った後の城はがらんとして見える。なんの後悔もないが、寂しさは少なからずある。
 思い返すのは、マーシアがさらわれてからの、ほんの数日の間の出来事だった。
 あまりに多くのことが、急激に変わった数日だった。
 そして、フリーシャの生活は、全てが変わってしまった。

 今、部屋に一緒にいるのは、ずっと求めていた黒騎士。
 これでいい。
 心底、幸せだと、フリーシャは思う。
 ずっと望んでいた物を手に入れたのだ。

 ただ少し切なく感じるのは、突然の環境の変化に、気持ちがついていっていないだけ。
 捨てることに、何の躊躇いもないほど悪意に晒される生活だった。ただ、一握りの大切な存在が、あの生活の中ではあまりにも美しすぎて、手放すことを切なく感じさせるのだろう。
 一抹の寂しさにフリーシャは耐えきれず、魔王の体にその身を寄せた。両手を背中に回し、強く、強く抱きしめた。
 触れた場所から安心感がフリーシャの胸に広がっていく。
 ついに見つけたのだ。手放したりしない。悔やむつもりもない。これでいい。
 ここが、私の居場所。



「……で?」

 頭の上で声がして、フリーシャは首をかしげながら魔王を仰ぎ見る。

「……あの、王子か、それともあの混血か?」
「は……? え? 混血? え、なに? だれ?」

 何を言っているのかよく分からずに、そもそも質問の意図がつかめずに、フリーシャは魔王の表情から何か読み取れないかと、見つめる。

「もう、あれには近づくな」

 どれ……? なんで? どういう脈絡……?
 不機嫌そうな魔王に、フリーシャは困惑する。

「どうして?」
「そなたは、私の事を考えていればいい」

 どこか不機嫌そうに魔王がつぶやく。

「……いつだって、私はあなたのことだけ考えているわ?」

 よく分からないままフリーシャは問いかけるように魔王を見つめる。不機嫌そうだった様子が、ふっと和らぐ。

「……そなたは、おもしろいな」

 しみじみとそう返され、むっとしたフリーシャは、片方の手でその頬をつまんだ。
 肉が少なくて、伸びは今ひとつだった。
 頬をつままれた魔王の顔に、フリーシャはくふっと吹き出す。

「何をしているのだ」

 あきれた様子でフリーシャの手を払った魔王の様子に、こみ上げてくる笑いをこらえきれず、フリーシャはクスクスと笑った。笑いながら、またその腕の中に体を埋める。

 こんなくだらないことをしても許してもらえる。それをすることを、許してもらえる。
 私は、この人に受け入れられてる。受け止めてもらえている。
 私の居場所を与えてくれる人。
 愛する人に受け入れてもらえるということは、なんて幸せなんだろうと思う。

 フリーシャの唐突な行動は、魔王にとって出会った時から一貫して変わりなかった。だが、それが面白いと思っていた。
 突然奇妙な動きをして、そして抱きついて来た花嫁の行動に、相変わらずよく分からない娘だと思いつつ、魔王は望まれるままに抱きしめる。
 その感触が、心地よかった。
 満足そうにその腕の中で居場所を作ってしまう娘を感じながら、自分こそが、これを望んでいたのだと、彼は知る。
 約束などではなく、己が望みだったのだと。
 とはいえ、幾分、日常が騒がしくなるかもしれないと嘆息しつつ、それの中心がこの娘であるのなら、それもまた良いかもしれないと魔王は思った。
 

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