雨のち君

高翔星

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序章  プロローグ

第0話 雨から始まる物語

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絶望から希望へと変わった。

ふぅと一息。

安心感が溢れ出ると同時に体全体の力が抜け落ちていく。

積もりに積もった何かが浄化されるみたいだ。

もう何も…思い残すモノはない。








暗闇の中、時計の針の音が大きく聞こえる。

変な時間に目が覚めてしまった。

あと数時間後には仕事の時間だ、少しでも寝ておきたい。

だが焦れば焦るほど眼に力が入りなかなか寝付けない。

高校を卒業して二ヶ月が経った。

周りとは違い、やりたい事も、したい事も無かった。

だが目標と言うか実行したいのはあった。

一日でも早くこの実家いえから出る事。

だから俺は進学せず直ぐに社会に出た。

職場は自転車で通えるぐらい近い、ゴミ収集場での回収係。

卒業式が終わって制服を着たまま面接を頼んだのが功を奏したのか解らないが所長はその場で了承してくれた。

本当に有り難い話だ。

と…

また色々考え始めてしまった、早く寝ないと。

何度目かの寝返りを打つと窓に無数の小さな水玉が張り付いていた。

「うわぁ…マジかよ。」

ため息と同時に一気に気持ちが萎える。

そう言えば梅雨入りしたと昨日ニュースで放送やってたな。

昔から雨は嫌いだ。

体も重いがなにより心が軋むと言うか落ちると言うか。

でも何故だろう?

次第と瞼が落ちてゆく。

寝れるか…。










「…ません。」












「すいません。」






…寝れそうだったのに。

どうせ隣の部屋で兄貴がテレビ観てるんだろう。

さっさと寝ろ。











「すいませんっ!!」

「はっ?!」

心臓が飛び跳ねた、本当に。

しかも勢いでベッドからずり落ちた。

滅茶苦茶大きな声で耳元で叫ばれ、ちょっと耳の中が痛い。

「は?!なに?!誰?!」

混乱、次第に恐怖心も出てきた。

こんな夜中に…しかも女性の声で。

すると俺の部屋の扉が開いた。

「るっせーよ!なんだよコラ!」

暗闇の中、直ぐに誰か分かった。

兄貴だった。

と言うか五月蝿うるさいのはそっちのほうだ。

「いや…今さっ!」

状況を説明しようとすると

「あぁ仕事か。まだ早いんじゃね?ちょっとでも寝とけよ。」

時計を見ると深夜一時過ぎだった。

「いや!あのさっ!」
「おやすみ…あっ悪いけど帰りにゼリー買ってきてくれよ、飲むやつ。」

そう言い残し扉を閉めて行った。

「……。」

夢でも見ていたのかと固まってしまう。

とりあえず灯りを点けよう。

枕横に置いてあるリモコンに手を伸ばし点灯した。

辺りが明るくなった瞬間、テーブルの下に誰かいる…。

「だっ誰だ!?」

着いた腰を引きずりながら後退りしてしまった。

そして隠れている不審者が申し訳なさそうにこちらを向く。

黒い長髪に白いワンピース姿の女…の子か?そんなに歳は変わらなそうだが。

「すいません…。」

そのワードと声色こわいろで納得した。

さっき大きな声の主はコイツだ。

俺も声のボリュームを下げて問い詰めた。

「なに?てか誰っ?」
「解らないです…。」
「…。」

終わった…会話が。

「いやいやいやいやややや。」

この不審者の拍子抜けの姿と声でさっきまでの恐怖心が嘘のように晴れていた。

「誰っ?てかなに?」

五秒前も同じ質問しただろ。

「多分…なんですけど。」

ゆっくりとテーブルの下から出てきた。

そして無駄に姿勢を正し咳払いをし始めた。





「私っ!!幽霊なんです!!」

「ちょ!声デカイっつのっ!」

また兄貴が…と言うか普通に近所迷惑だ。

「幽霊なんです!!」

「分かった分かったから!!静かにしてくれ!」

俺も声を抑えて制止する。

「えと…なに?幽霊?」
「はい。」
「お化け?」
「そう。」

ヤバい奴が現れた。

いや見た目は確かに幽霊っぽいんだが。

そもそも俺に霊感とかあったのか?

「ま、まじ?」
「マジだと思います。」
「…。」

間抜け面になっているだろう、開いた口が塞がらない。

「ふふ!変な顔。」
「はぁ!?」

喧嘩売ってるのかコイツ。

しかし幽霊と言っているが全然怖くない。

とりあえず警察に通報がいいのかとスマホを取り出す。

「わ、なんですかソレは?」
「は?なにが?」
「それそれ。」

持っているスマホを指差す。

「なにってスマホ…うわ!」

液晶画面には一時四十七分と文字が。

「もうこんな時間経ってるし!」

慌ててトレーナーを脱ぐ。

「ひゃー!」

自称幽霊女は背を向けた。

知った事じゃない、遅刻は流石にまずい。

「…出かけるんですか?」

「……。」

とりあえず無視して着替える。素性を話す事もないだろう。

「えと、待ってますね。」
「出てけっつーの!普通に怖いわ!」
「幽霊だから?」
「違うつーの!」

焦りもあり少し苛立ってきた。

「なー!またかよ!」

ヤバい…また兄貴が現れた。

「俺は普通に朝からだってーの!静かに支度しろよ!」

「あぁちょ…」

俺に背を向けていた幽霊女と兄貴が向かい合ってしまった。

「それとさっき頼んだやつ、マスカット味な。くれぐれもプロテインのほう間違って買ってくんなよ」

そう言うと扉を閉めて出て行った…。

「嘘…だろ。」

兄貴には見えなかったのか?コイツが。

「マジで幽霊なのか?」
「だから何回も…。」
「いやいやいや。」

ますます混乱してきた。

「なんで俺には見えてんの?」
「なんででしょうねー?」
「なんで自分が幽霊って分かるの?」
「なんででしょうねー?」

なんだこのポンコツは。

「でも一つだけなら分かるかも。」

自信無さげにポツリと呟いた。

「私、全然記憶無いんです!」

今度は逆に自信満々に言い張った。

「意味が解らん…。」

もうとりあえずいい、だんだん不毛に思えてきた。

「とりあえず出かけるから。」

用意していた鞄を手に持ち部屋を出た。

「待ってていいんですか?」
「もう勝手にしてくれっ。」

俺は急いで洗面所に行き、顔を洗い歯磨きを済ませて家を出た。

その瞬間、雨の匂いがした。

「あぁそうか。」

降ってきてたんだったと思い出した。

慌てて合羽に着替えて職場に向かった。

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