雨のち君

高翔星

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番外編 Life Story

第1話 それは颯爽と

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少し肌寒い春の夕方。

影が二つ並んで歩いている。

「はぁ~。結局入学するまで、ろくな所行けなかったな。」

落ち込んでいるのは私の大切な友達の北條楓ほうじょうかえでちゃん。

「でも二人で沢山練習出来たよ?」
「そうじゃなくて!折角ならもっとこう…遊びに行きたかったの。」
「私は楽しかったな。」
「あんなん中学の時からやってるようなもんじゃん。」

私と楓ちゃんは小学校の時から友達で、中学生になってからテニス部に入った。

そこからテニスがもっと好きになって三年間一緒に頑張った。

そんなに強くなかったけど…。

そして私達は特に志望校とか無かったけどテニス部があり、家からそんなに遠くない高校を選んだ。

明日は入学式でそれまでの期間、テニスコートがある広場で楓ちゃんと沢山テニスの練習した。

「楓ちゃんは緊張しないの?」
「えぇ?何が?」
「明日、入学式だよ?」
「今さら緊張しても入学式は待ってくれないし。」
「そ、そうだけど。」

楓ちゃんは私と違って凄く前向きな子でいつも先頭を走っているイメージだ。

小学生の時も中学生の時も変わらない。

そんな楓ちゃんが大好きで尊敬もしている。

「空は考え過ぎなんだよ。もっと気楽にしてればいいって。」
「う~ん。」

高校生になっても変わらずテニスが出来るのは嬉しいけどやっぱり不安がいっぱいだ。

楓ちゃんと同じクラスになるとは限らないし、クラスメートの皆と上手く話せるか心配。

「六組もあるみたいだから同じクラスなれないかも知れないけど、休み時間とか顔出すから。」
「う、うん。」

そしてコンビニが一軒見えた。

いつもここでお別れ。少し寂しい。

「じゃあ明日迎えに行くから!寝坊しちゃダメだからね。」
「わ、分かってるよー。」

正直寝れるか心配だけど明日は絶対に寝坊出来ない。

入部に備え制汗スプレーや絆創膏など買っておきたかったので楓ちゃんと別れコンビニに立ち寄る事にした。

入学の前祝いでお母さんが私の大好きなオムライスを作って待ってるけど少しお腹が減ったので小さいチョコレートも買おう。

「ん~、どれにしよう。」

昔から優柔不断と言われているけどチョコレートを選ぶだけで十分ぐらい経ってしまった。

レジで会計を済まして外に出ると、駐車場にバイクを囲ってお喋りをしている男の人達がいた。

咄嗟に目を逸らしレジ袋を強く握りしめていると一人の男の人が私の前に立った。

「こんばんはっ!」

派手な髪の色にピアスを開けていた。ちょっと怖いかも…。

「こ、こんばんは。」
「どこ高?あ、もしかして時期的に新入生とか?」
「え、えと。」

するともう一人の男の人が私の背負っているテニスバッグをまじまじと見ていた。

「ギターしてんの?俺も出来るぜー。」

ギターをする素振りを大袈裟に見せる。

「ち、違います、これは…。」
「いの、うえ、そら?空ちゃんだ!」
「え?」

いきなり私の名前を呼ばれて驚いた。

何故知っているのか不思議だったけどテニスバッグに名前が書かれていたのでそれで分かったんだと理解した。

「空ちゃん、ご飯食べた?俺らと一緒に食いに行こ。」

強引に手首を掴まれた。

「あの、家でご飯用意されてるんで…。」
「いいじゃん別に。ほら、行こ!」

嫌だ…怖い!助けて、楓ちゃん!!








「空。」

私の名前を呼ぶ声、この人達と違う優しい声。

でも確かなのは楓ちゃんじゃない。

声のほうに目を向けると見知らない男性ひとだった。

「悪い悪い、待たせたなー。」
「え?え??」

言葉の意味が分からずロボットの様に何回も「え?」と言ってしまう。

「ちっ、男連れかよ。」
「行こう行こう。」

すると話し掛けてきた人達はバイクに乗って何処かに行ってしまった。

展開についていけず固まってしまっていると「大丈夫?」と声をかけてくれた。

「は、はい。あのぉ、人違いじゃぁ…。」
「ん?あぁ確かに初めましてだな。」
「はい?」

初めましてなのに私を知っている?うん?

「名前そう呼ばれてたし困ってそうだったから、つい。」
「あ。」

それで名前を呼んでくれたのかと納得出来た。

「じゃ、気をつけてな。」

そう彼は言い残すと薄着だったせいか両手で肩を擦ってコンビニの中に入って行った。

「あ、ありがとうございました!」

ワンテンポ遅れてしまったけど御辞儀して返した。

少し心臓がドクドクと高鳴っている。

怖いのもあったけど、嬉しくて不思議な気持ちになれた。

「あ、早く帰らなきゃ!」

もう暗くなりそうだったので急いで家に帰った。

途中ちょっと気になり後ろを振り向くと彼はもう居なくなっていた。

「わっ!!」

よそ見したせいで転んでしまった…。

「痛ぁーい!」

早速絆創膏の出番がきてしまった。



翌日。

ついに入学式。約束通り楓ちゃんが迎えに来てくれた。

「おは、空。」
「おはよう楓ちゃん。」

二人して初めての制服姿。なんだか新鮮だ。

「あ~あ、ブレザーが良かったな~。」
「そうかな?似合ってるよ。」
「もっと都会ならお洒落なやつだったんだけど、仕方ないか。」

私達が住んでる町、これから行く高校は都心部より少し離れた所にあるけど私はこの町が好きだ。

道は広いし排気ガスも少ない。ちょっと虫が多いのが嫌だけど。

楓ちゃんと話しながら歩くこと数分、駅に着き作ってもらった定期券をかざす。

なんだかちょっと大人になった気分だ。

「結構人多いね?」
「そうだね。皆登校や通勤の人だろうけど。」

同じ制服の人もいれば知らない制服、スーツ姿の人も居た。

これからこうして登校して行くんだと思うと少し緊張…と言うより不安が募った。

そして電車に乗って数十分、最寄り駅に降りると沢山の同じ制服を着た人達が居た。

「見て空、皆携帯持ってる。」
「そうだね、凄いなぁ。」
「凄くないって。今時小学生すら持ってるっての。」

ここ数年の間に携帯電話が必需品になっているのは分かっているけど、私はまだ持っていなかった。

「早く買ってもらいなよ。メル友なろ。」
「う、うん。」

話している間に学校が見えてきた。

ほぼ緑になっちゃってるけど桜の樹が見えてきた。

「うっ…緊張してきた。」
「まだしてんの?いい加減諦めな。」

その後先生の指示に従いクラス分け順に整列した。

私は二組、楓ちゃんは四組だった。

その後、体育館に移動し校長先生の挨拶を聞いて教室に移動した。

皆で軽い自己紹介…噛んじゃったけどなるべく大きな声で自己紹介した。

「うぅ…。」
「ほらいつまでも落ち込んでじゃないの!見学しに行くよ。」

入学式は終わった。けど私達はテニス部の見学しに行った。

「おぉ!コートが四つもある!」
「凄ーい!」

さっきまでの憂鬱な気分が何処か遠くに飛んで行ったぐらい私も楓ちゃんも目を輝かせていた。

ここのテニス部は男女合同で行っているためコート半分ずつを使用しているみたいだった。

部員の皆は軽いストレッチをしている。

「見て楓ちゃん!あの人のウェア綺麗。」
「新調しなきゃね。」
「う…お小遣いが。」
「私は御年玉まだあるから。」

そんな雑談を交わしていると反対の男子側の所から部員が続々と現れた。

ストレッチをしていた部員達が挨拶をしているから三年生かな?

そんな中、皆テニスウェアを着ているのに一人だけ体操着のジャージ姿の人が居た。

「あ…。」

その人は昨日、私がコンビニの前で絡まれてる時に助けてくれた人だった。

「はは、一人だけ場違い感の人いるね~。」

楓ちゃんは悪気は無いかもしれないけど心無い言葉に聞こえた。

「楓ちゃん!!」
「え!?なに?」

思わず怒鳴ってしまった。けど何でか分からない。

「ご、ごめんなさい。」
「びっくりした。どうしたの?」
「えと…なんでだろ?」
「はぁ~?」

自分でも分からなかった。楓ちゃんに声を荒げてしまったのはもしかしたら初めてかもしれない。


「まぁいいや。今日はあんまし動かないみたいだし帰ろ。入部届けは早速明日出そ。」
「そ、そうだね。」

(あの人がここの生徒、しかもテニス部だったなんて。)

向こうは全然こっちに気付いていないけど私はしっかり確認した。

けど、そんな余裕は無かった。

次の日には早速授業が始まり、真新しい教科書とノートに見慣れないクラスメート。

休み時間は楓ちゃんが様子を見に来てくれたけど早く慣れなきゃと必死だった。

(皆打ち解けるの早いなぁ~。)

中学校時代の知り合いは楓ちゃんと特に親しい訳でもない男子二人ぐらい。新しい友達を作くりたいけど中々自分から声をかけ辛い。

そうこうしてる内に放課後。楓ちゃんと入部届けを出した。

顧問の先生から仮入部許可をもらい、その日早速練習風景を見させてもらった。

新部員は男子二人、女子は私と楓ちゃんと後一人の計五名だった。

日が暮れ始めた頃に部員の皆の前で自己紹介をする事になった。

(ひぇ~、緊張する。)

二、三年生が沢山いる前での挨拶なんて中学の入部以来だった。その中には彼もいた。

気だるそうにグリップテープを巻いている。

「まだ仮入部なのに。これじゃ辞めにくいじゃん。」

新部員の男子の一人が面倒臭そうに呟いた。

「なにあいつ。だったら入部届け出すなっつの。」
「ま、まぁまぁ。」

楓ちゃんは中途半端な事が嫌いだからちょっと怒っていた。

「じゃ右から順に。」

顧問の先生が促した。

「え~とぉ~、一年の…。」

一番端っこの男子から自己紹介が始まった。

私は最後…余計に緊張してきた。

「一年四組、北條楓です。ボレーが得意です。宜しくお願いします。」

(え!?もう私の番!?)

昨日の教室での自己紹介とは違って凄く緊張しているのが分かる。心臓が派手に跳ねていた。

「最後の人?」
「は、はいっ!!」

落ち着いて落ち着いてと自分に言い聞かす。

楓ちゃんは自分の得意なプレー言ってたから私もそんな感じの自己紹介をしてみよう。

(とにかく大きな声で!)

「いっ、井上しょら…ぅ。」

いきなり噛んじゃった。顔から熱が込み上がってくるのを振り払う様に口を動かした。

「井上空!と言います!クラスは一年二組にっなりました!走るのは得意なので…えと…。」

勢いだけで後が続かず言葉が詰まってしまった。

声も裏返ったせいか皆ちょっと笑ってるし恥ずかしい。

「とにかく頑張ります!宜しくお願いします!」

最後に助けてくれた彼と目が合い、おでこが膝に付くぐらい頭を下げた。

「はい、皆宜しくしてあげてください。」

顧問の先生の言葉で皆散り散りになっていく。

「ふぁ~、緊張したぁ~。」
「一番声出てたねぇ。裏返ってたけど。」
「もぉー言わないでよ。」

楓ちゃんの声で落ち着きを取り戻せた。

「私ちょっと顧問に話あるから先帰ってて。」
「あ、そうなんだ。待ってるよ?」
「いやちょっと長引くかもだからいいよ。」

なんだろう?と気になったけど、しつこく訊いたら悪い気がしたので「じゃあ先に帰るね。」と伝え学校を後にした。

「おーい。」
「え?」

駅に向かう途中に後ろから声をかけられた。その声に聞き覚えがあったせいで振り返ると…あの人だった。

「あ!助けてくれた…。」
「びっくりした。まっさか同じ学校に部活まで一緒だとは。」

彼は体操着でも制服でもなく私服の姿だった。

「私も、びっくりしました。」
「気付いてた?」
「も、もちろん。」
「はは、世間は狭いってやつだなぁ。」

ちょっと笑った顔が眩しく見えた。

「じゃ、また明日な。」
「は、はい。また…明日。」

走り去って行ってしまった。まだ電車は来ないのにどうしてだろう。

「あ、名前、訊いとけば良かった。」

私にとって彼は楓ちゃん以外、入学して初めて知っている人だから見方が特別なのかもしれない。

あと恩人?だから名前を知っておきたかったけど、もう姿は見えない。

「また明日、また明日。」

そう、また明日があるし部活してる時には分かると思って再び駅を目指した。



「来月もう地区大会の予選だって。」

翌日、初めての部員全員が揃った合同練習に参加した。

素振りの最中に隣の楓ちゃんが綺麗なフォームをしながら呟いた。

「そうだね。私達は応援組と思うけど。」
「先輩達のプレー見た事無いからちょっと不安。」
「か、楓ちゃん…聞こえちゃうよ。」

中学生の時は1セットマッチだったけど高校生は3セットマッチになるから凄く大変だ。

「早く試合出たいなー。」
「じゃあいっぱい頑張らないとね。」
「もち!」

フォアハンドの素振りからバックハンドの素振りに切り替わるのと同時に先輩達がコートに移動した。

「んもー、素振りなんて昔から死ぬほどしてるって。」
「コート使いたいね。…あ。」

彼もコートに入った。

ネットの反対側から来る球を流れるかの様なフォームで打ち返している。

「へぇ~、あのジャージ先輩のフォーム綺麗だね。」
「うん…。」

テニス、上手いのかな?ちょっと格好良い。

「遥君、もうちょい力抑えてくださいよ。」
「あー、うん。」

(遥…遥って名前なんだ)

彼の名前が分かった途端、なぜか心が暖かくなった気がした。

「一年、終わったら球拾いなー。」

球出ししている二年生の先輩が素振りをしている私達に向かって言った。

「は、はいー!」
「まだバックハンドしたとこだっての。」

結局初日の練習はコートを使わせてもらえなかった。

でも顧問の先生が暗くならない内だったら一年生もコートの使用を許可してくれた。

帰る人もいれば自習練で残る人もいたけど運良く一つのコートが空いていた。

「空!使わせてもらおーよ!」
「う、うん!」

軽く1セットだけと思ってたけど気付けば夕陽が沈んでいき薄暗くなってきた。

「そろそろ上がろっか?」
「そうだね、流石に怒られちゃうかも。」

コートから出ると向こう側のコートから遥先輩ともう一人の先輩が出てきた。

「腹減ったー、なんか食って帰ろうぜ?」
「金無い。」
「またかよ。いっつも遥は金欠だな。」

二人はその場で別れこちらに気付いた。

「あ、ジャージ先輩。」

楓ちゃん、その呼び方やめなよ…。

「お?井上さんに北條さん。」

楓ちゃんは軽く会釈した。それにしても名前覚えてくれていたんだ。

「お、お疲れ様です。」
「二人ともテニスやってた?動きスムーズだったから。」
「まぁ中学からですけど。」
「即戦力じゃん。もしかしたら予選出れるかも?」
「えっ!?」
「えー?!」

私とは違い楓ちゃんは目を輝かしている。

「女テニのほう人数カツカツだから。アピールしていきなよ。」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとう…ございます。」
「じゃ気を付けてな。」

遥先輩は軽く手を振り帰って行った。

「空、頑張ろうよ!もう先輩ら出し抜く勢いでさ!」
「う、うん。ちょっと怖いけど。」
「弱肉強食だって。」

本当に楓ちゃんは前向きだ。私ももっと積極的になったほうが良いのかな?



「井上さんはサイドよりネットダッシュに向いてるね。」

あれから練習終わりの小一時間、コートを使っての自主練が増えた。

その際には楓ちゃんはもちろん、たまに遥先輩も一緒に見てくれる様になった。

色々アドバイスをくれて心強い。

「サーブ打つ時に体全体を前に預ける形にするとスタート早くなると思うよ。」
「は、はい!」
「遥さーん、空ばっかじゃなく私は?」

いつの間にか遥先輩と仲良くなっている楓ちゃん。なんだかちょっと羨ましい。

「ん~。北條さんはもうちょいベースラインぎりぎりで構えてもいいかも。得意なボレー打つタイミング少なくなるけど柔軟性あるからどんな打球でも対応効くと思うから。」
「はーい。」

それにしても先輩凄いな。正直顧問の先生よりアドバイス上手いかも。

「じゃ、俺はこれで。」
「あ、はーい。」
「ありがとうございました。」

いつも途中で帰る様になったけど何か用事でもあるのかな?

その後に私と楓ちゃんも帰ることにし、いつもの別れ際のコンビニで解散する。

(あれから二週間ちょっとか…早いなぁ。)

ここのコンビニを通る度に思い出す。先輩に助けてもらった事を。

「空。悪い悪い、待たせたなー。」

頭の中であの時の事を再生してみると胸から顔に熱が込み上げてくる。

「ふぃ。アイスでも買おう。」

今日はちょっと暑いかも。もう五月になるしね。

コンビニに入り蜜柑のアイスキャンデーを買った。

「らっしゃいませ~。」

少し気の抜けた店員さんの声に違和感を感じた。最近よく聞く声…さっき私の頭の中でも聞いたはず。

「え!?遥先輩っ?」
「おー井上さん。」

コンビニの制服を着た遥先輩が店員さんをしていた。

「働いているんですか?」
「あぁ。高校うちのとこバイト問題ないし。」
「そ、そうなんだ。」
「溶けるよ?」
「あ、お願いします。」
「買い食いなんて意外なんだな。」

少し笑顔を見せてくれる。それだけで何だか嬉しい。

「ひ、秘密で。」
「別にいいじゃん。ま、他言無用ならそれでいいけど。はい、お釣。」

数枚の小銭とレシートを受けとる際に指先が触れそうになり思わず手を引っ込めてしまう。

ジャラジャラとお釣をこぼしてしまった。

「あぁあ。」
「すいません!すいません!」

遥先輩も一緒に拾ってくれた。

「どんくさいな。」
「よく言われます…。」
「テニスの時と大違いだ。」
「え?」
「あ、こちらどーぞ。悪い、またな。」

遥先輩は次の会計待ちをしているお客さんに声をかけた。

「ごめんなさいお仕事中なのに!失礼します!」

まるで逃げるかの様にコンビニを出た。その後に少し考えた。

「テニスしてる時の私って…。」

皆に…遥先輩にどう映っているのかな?


「今週末からの地区予選の一回戦、オーダーはこれで行くぞ。」

部活動が始まる前に顧問の先生から今週の土曜日から遂に大会が始まる。

その一回戦のオーダー発表。残念ながら一年生の名前は無かった。私はともかく楓ちゃんの名前すら。

でも二年生を始め、シングル2に遥先輩の名前があった。

「あーあ。やっぱ公式戦は無理かー。」
「仕方ないよ。先輩達に任せよ?」

小雨が降る中、楓ちゃんと電車で下校している時に楓ちゃんが不服そうに文句を言っている。

「いやぁ正直さ?先輩達大丈夫かなって。」
「うん…。」

もう一ヶ月近く部活動しているうちに私も薄々分かっていた。

皆、本気で取り組んでいない。

顧問の先生がいない時は部室で漫画を呼んだりゲームをしているし、女子はプリクラ手帳を見せ合ったり携帯電話のデコレーションに無茶だ。

遥先輩もコンビニでアルバイトしているのもあるせいか放課後の自主練も顔を出さなくなっていた。

「遥さんだけはまともだったと思ってたのに最近ダラけてるぽいしさ。」
「そ、それは!」

真実を言いそうになった。けど言うのを留まってしまう。

別に秘密にしてるわけでは無いと思うけど、何故か言いたくなった。

「ん?なに?」
「な、なんでもない。」
「ふーーーん?」

ちょっと意地悪そうに笑う楓ちゃん。

「空ってさ、遥さんに気があるでしょ?」
「気があるって…。」
「好きなんでしょ。」
「え!!??」

思わず立ち上がってしまい周りから視線を集めてしまう。

恥ずかしくなり顔を伏せてゆっくり座る。

「図星じゃん。」
「そ、そうなのかな?」

確かに気にはなっているけど…これが好きに繋がるのか本当に分からない。

小学生の時に好きな男の子がいたけど片思いで終わって、中学生の時にはテニスだけだったから。

「一回さ?アタックしてみ。向こうもまんざらじゃないかも知れないよ。」
「え~~?何すればいいの。」
「んー。」

気付けば楓ちゃんの提案に乗っている自分が居た。

以前、積極的に前向きにした方が良いかと思ったからかもしれない。

「お弁当作ってあげるとか?なんかいつもお腹減ってそうだし。」
「お弁当かー。」

帰宅後、早速お母さんに教えてもらった。

お弁当箱はお父さんのを貸してもらい肝心の料理は元気が出る豚肉を使った肉巻きにきんぴらごぼう。ポテトサラダにご飯は大盛。

時間は日を跨ごうとしていた。

「料理って大変。」


次の日の昼休み。三年生の教室に続く階段の前に居る。

まるで悪いことをしたかの様に足取りが重い。

「あぁいたいた。空、お昼…って。」

楓ちゃんが私の持っていたお弁当袋に気付いた。

「うっそ、マジで作って来たの?」
「う、うん。」
「なら早く行きなよ!確か遥さん一組だよ?」
「それは知ってるんだけど勇気が…。」
「あぁもう!焦れったい!」

すると私の腕を掴み階段を駆け上がる楓ちゃん。

「わっ!」
「ほらさっさと渡しに行くよ?」

昔からいつもこうだ。私が困ったり迷ってたりしていると、少し強引だけど助けてくれる。

本当にありがとう、楓ちゃん。

「さ!渡しに行って。」
「う、うん。」

三年一組、ここが遥先輩の教室。

昼休みだからか人は少ないみたいで教室の中は数人しか居ない。

そんな中、見慣れない三年生の中に遥先輩が居た。

「いる!いるよ!」
「だったら早く渡しに行け!」

なかなか足を前に出せずにいると輪の中にいる三年生の一人がこちらに気付いた。

「遥、あの子。」
「ん?」

目が合い、急に呼吸のしかたが分からなくなる程に息が上がった。

「井上さんじゃん。北條さんまで、どうした?」
「えと!あの!その…。」

震える手を落ち着かせながら前に出した。

「良かったら食べてください!昨日の夜作ったんで冷めちゃってると思うけど。」
「え?俺に?」

何回も頷いた。奥から笑い声が聞こえる。

「では!」

逃げるかの様に階段を降りた。

「待ってよ空!」

後ろから楓ちゃんの声が聞こえ途中の踊場で足を止める。

「き、緊張したー。」
「一緒に食べればいいじゃん。」
「無理無理!無理だよ。」
「ま、空にしては上出来上出来。」
「私も、びっくりしてる。」

しばらくは三年生の階に行けないかも。

そしてその日の部活終わり、いつもの様に楓ちゃんと帰ろうとしたけど野暮用と言って楓ちゃんは先に帰ってしまった。

代わりに正門の前に遥先輩がいた。

「あ、遥先輩。」
「今日ありがとな。めっちゃ美味かった!」
「い、いえ。良かったです。」
「あんな豪華なもん久々に食ったわ。」

いつもより笑顔を見せてくれる遥先輩にこっちまで笑顔になる。

「アルバイトは大丈夫なんですか?」
「今日休み。良かったら一緒に帰んない?」
「一緒に…帰る?」

時間が止まったかの様に固まってしまった。

誰かが通った自転車のベルの音で我に帰った。

「は、はい!」
「なに今の間?」

また笑顔、今日はなんだか凄く嬉しい?日だ。

「弁当箱、ちゃんと洗って返すから。」
「い、いいですよ。」
「駄目駄目、そんな。」

よくよく考えればあのお弁当箱はお父さんのだと気付く。

「じゃあ…いつか。」
「いつかっていつだよ?」

自分で言っておいてなんだけどそれこそ駄目なんじゃないかな?

「ぱぱって洗って返すから、今からちょっと時間ある?」
「え?」
「また渡すタイミングもあれだし。」
「え?え?」
「俺んち、駅から四駅ぐらいあるけど大丈夫?」

おれんち?…遥先輩の家?

「えぇぇぇ!?」

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