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第二章 帝国編
閑話 臍を噛む者
しおりを挟む交流会の夜。
後宮の一室にて、人知れず“臍を噛む”者が一人……
side:???
『参加しさえすれば、あれをつけて陛下の前に立てばそれで良いと……
そう言ったじゃない……』
部屋でぎゅっと膝を抱えて震えながらベッドの中心に座って縮こまる。
膝を抱えた手の中にはくしゃくしゃになった手紙。
こんなはずではなかった。
陛下に拝謁すれば事は滞りなく済むのだとあの男は言った。
なのに妙な破裂音に似た音がした瞬間に気を失い、
気が付けば自分まで床に伏していた。
会場中の人間に注視される中起こされ、
咄嗟に何も分からないフリをしたけれど…どこまで通じていることやら。
交流会は即時終了してその後も別室で話を聞かれて、
ようやく部屋へと帰るその時にすれ違った文官から手紙を渡された。
部屋に戻り内容を確認して、冗談じゃない、と爪を噛む。
自分は言われた通りにちゃんと“仕事”をしたのだ。
アレを仕込んだペンダントを身につけて会場に行き、陛下の前に立つ。
それで全て……仕事は終わった筈なのに!!
ボフン!!
苛立ちに任せて枕を壁に投げつけても自分を取り巻く状況は変わらない。
思えば今回、出だしから最後まで予想外な事象が立て続けに起きた。
会場に向かう時にあの娘に話しかけられて、
ペンダントのものの効果のせいで一緒の行動を余儀なくされたこと。
それもまぁ隠れ蓑に丁度いいかと
そのまま会場入りを果たして足並み揃えて陛下の元へと向かえば、
皆の様子が効果を受けて変わる中、一人だけ正気のまま立っていた令嬢がいたこと。
そうしてその令嬢が足をふらつかせるのを視認した直後に起こった、
想定外に過ぎる現象が余計に苛立ちと混乱を自身に齎らす。
床から起き上がった際にペンダントが首元から消えていた事実も焦りを加速させる。
(…なんとかしてあの方に会うことが出来ないものか……)
私の願いを叶えてくれると約束してくれたあの方ならば、
この勝手極まる手紙の送り主をなんとか説得し、いい含めてくれる筈…。
なんとかしなければ……
望みを叶えられることなく使い捨てられるのだけは。
それだけは絶対、あってはならないことなのだからー……
明かりも灯していないカーテンも閉め切った薄暗い部屋の中、
女は再度、爪をガリッと噛んだ。
………………………………………………………………………………
そしてところ変わってこちらのとある屋敷にも、
“臍を噛む”を通り越して地団駄を踏む者が。
side:???&???
『失敗しおった……!やはり小娘など使えたものではないな』
憎らしげに窓の外の闇を睨みながら自身の駒を罵る男の背後には
いつぞやと同じく老人が立っていたが、
前回とは違いその口は人を喰った笑い声を発する事はない。
男が老人に向き直り、彼を睨み付ける。
『貴様が用意したというアレも大したことがないではないか!
わざわざ高い金を払ったというのにこれでは、
大損もいいところだ!!』
『……ほ、期待に沿うことが出来なかったのは残念ですがなぁ。
アレは確と効果を発したようですぞ?
ただ……』
『ただ、なんだ?
苦し紛れの言い訳など言おうものならこの場で貴様の首をはねてやるぞ!』
『儂の孫の一人の話によれば、アレの効果に抗ったお嬢さんがいたそうですぞ?
正気を保ったまま自分と件の娘さんを真っ直ぐに見つめていたと。
周りの者らは皇帝含め須く効果を発揮して正気を失っていたというのに…。
しかし効果がなかったわけでもなく、
足もふらつきもう少しで正気を…といったところで
妙な破裂音を聞いた直後に意識を奪われたそうな。
気付いた時には周りの者らは正気に戻っていたと、
そう聞いております、へい』
『……足がつく事はあるまいな』
『ご心配には及ばんでしょう、
協力者の娘さんにしても周りの者らと変わらぬ反応を返していたそうですからな。
多少疑心を持たれようとも証拠はありますまい。
アレはそういうものです。
しかしまぁ、その最後まで正気を保っていたお嬢さんというのは』
『忌々しい……。
私の邪魔をするなど!一体何者なのだ』
『確か…シェイラ・レイランドルフと他の令嬢に名乗っていたそうですぞ。
例の陛下が他国から連れてきて寵愛している者では?』
『その娘……邪魔だな。
早々に消す方法を考えねばならんかもしれん』
『いやはや、実に興味深い……如何にしてアレの効果を打ち消したのやら。
知りたい、詳しく知りとうございますなぁ……』
『貴様が興味をそそられようとも私にとっては邪魔なだけだ!
…さっさと手を打て馬鹿者』
『これはこれは余裕のないことで!』
『煩い!!
手紙は?次の指示はちゃんと小娘に渡したのだろうな』
『それはもうとっくに』
『精々使えんながら動いてもらわねばな。
尤も最早成果など期待もしておらんが……
……まだいたのか、さっさとその忌々しい娘の素性やら行動を調べてこい!!』
『おお怖い。
ではしがない老人は御前を下がらせていただきますぞ』
『さっさと行け』
最後にはいつもと同じく戯けた口調で言いおき去っていった老人に舌打ちしながら
再び窓の外を睨む。
『シェイラ・レイランドルフ……名は覚えたぞ。
尤もそう長く覚えているつもりはないがな……』
そう呟いてガリッと爪を噛む仕草は、
誰かを彷彿とさせる程に似通ったものだったー……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※次回更新は夜の予定です!
お楽しみに~♪
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