追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

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その4 散策中、黒い物体と遭遇しました。

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ふわあぁぁぁ~~。


大きな大きな欠伸が森に響く。
どうも、毎度お馴染み(?)のルシェルディアです!

起き抜けの勢いで誰にともなく挨拶してしまいました。
やや、これもまた追放され孤独感に苛まれた弊害でしょうか?(心にもない)

セルフツッコミを完結させて気が済んだ私は、うろから出て軽くストレッチをこなし終えると、昨晩御者さんから頂いた麻袋をひっくり返し、改めて持ち物を確認する。

(何々…私の縄を切った小刀に干し肉が数切れ、黒パンが3つ、水の入った水袋、と。ん?銀貨と銅貨までありますね…出すのを忘れたのでしょうか?意外とうっかりさんですねぇあの御者さんは。
しかしまぁ、ありがたく頂戴しておきましょうか)

さして裕福でもない御者の男性が同情心だけでなけなしの稼ぎを少女に残した、などという考えには少しも至らないルシェルディアは、自身が後追いで袋に放り込んだドレスの袖をポイッと地面に放り出すとそれを伸ばして食料を広げる。

「マサイ神へ日々の糧に感謝を込めて。
……。
…………。
では、頂きましょうか!」

食前のお祈りを済ませると、いざ!と態とらしい仕草でバ!っと両手を広げた(特に意味はない)のち、モキュモキュと味わい深い干し肉へと齧り付いた。
(※因みに、マサイ神とはこの世界に於いては戦いの神の名である。
どうやらルシェルディアの家では豊穣の神・ルシア神ではなくかの神に祈りを捧げる変わり者のようだ)

たっぷりと時間をかけて干し肉一切れと黒パン1/2個を食し終えると、
残りの食料を再び麻袋へと詰め込んできゅっと絞めた閉じ口の紐を持ち手に肩へと担ぎさて、と独りごちる。


軽くその場で屈伸を数度繰り返すと、すんすんと鼻を鳴らす。

(ふ~む……魔窟といえば強力な魔物達のだとお父様達から聞いていたのですが、随分と数が少ないですねぇ?
昨晩も襲っては来ませんでしたし…意外に臆病で優しい生き物なのでしょうか??)


魔物達が寄ってこない原因が自分にあるなどとは露ほども考えないルシェルディア。
そもそも『嗅覚のみで近隣に生息する生物の数を把握する』ことが出来る、その異常性に当人だけが気付いていない。

(ま、いいでしょう。
魔物が駄目なら野草・木の実狩りに変更です!時間に余裕があれば兎か鹿辺りの普通の野生動物を仕留めたいですね。ここから出るにしても、動物の毛皮や角は綺麗に剥ぎ取れば“そこそこ”良い稼ぎになるとお爺様も言っていましたし!!)

いざ行かん!とまたもや無意味に両手を広げた後ー……


少女の姿が掻き消えた。



===================================================


その後三時間ほどかけて彼女の動きを正しく追えた者は、果たして人類にいただろうか?
きっと追えた者がいたとすればそれは彼女と同類、異常者と称して差し障りないだろう。

「うむぅ…少々物足りないような気がしなくもなくもないような、あれ?
なんか文章がおかしく…ま、無問題ですね!」

三時間後、元の大樹の前まで戻ってきたルシェルディアは、
取り敢えず食料ゲットぉ~!と両手や背に担いで抱えていた収穫品の数々をドサドサとその場に落とした。
木の実(大量)、野草・キノコ類(大量)、何故か血抜きを終えた小鹿に丸々と太った怪鳥(各二体)、最後に薪用の乾燥した小枝(大量)。

…もしもこの場に誰か善人且つ常識的な感性を持つ第三者が存在したとして。
彼らはかの少女の収穫成果を目にした瞬間、9割9分叫んだことだろう。

『一人分の食料にしては、採り過ぎ(獲り過ぎ?)じゃね?!
何!?ここに住むの!?そうなの!!??』と。


しかしくどいようだが誰も彼女にそれを突っ込む者はここにはいない。
で、結果。

充分な収穫を終えて満足感たっぷりにうんうんと頷いた少女・ルシェルディアは、
早速血抜きの終了した獲物の解体作業へと取り掛かるのだった…。


====================================

ー…その物体は、ルシェルディアが解体を終えた鹿肉を枝に刺して地面に突き立て焚き火で焼いているときに発見した。
正確にいえば、肉を焼く際の香草を取り忘れたことに気付き、大樹付近を時である。
鬱蒼としているだけあって高く伸びた雑草を木の棒でかき分けていた時、枝先に何かがぶつかった。

(?硬くない。石じゃ、ない?)

試しに突っついてみると、もぞり、とその黒い塊が動いた。
どうやらなんらかの生物のようだが、頑に丸まったまま顔を見せようとしない為に何の生物かが分からない。

(ふ~む?取り敢えず食料は足りていますし、…大分弱っているようですし…。
うん、連れて帰りましょう!)

何の生物かすら確認することなく、ルシェルディアはその生物をむんずと掴むと拠点兼寝ぐらまで持ち帰った、と。そういった経緯での発見である。

何やら全身が濡れそぼっていた為ちぎっておいた自身のドレス袖で軽く拭き、焚き火の側にぼとり。
拭いた時に判明したのだが、どうやら黒猫らしい。

一般的な成猫と比べても少々図体が大きく、寧ろ猫と似て非なる生き物の可能性も大いにあるのだが、しかしやはりというかルシェルディアは全く気にしなかった。
どころか。


(ふ、ふぉぉおおおおッッ!!
にゃ、にゃんこしゃんんんんンンン~!!!)

大いに大興奮、テンションMAX状態であった!

貴族令嬢と言ってもその実情は結構窮屈なもの。
今まで小さい犬や猫、小鳥などを飼いたくて町中の生き物小屋で見かけて親にねだっても、決まって祖父や父親から、

『ははっ!ルーシェ、おやつに欲しいならとと様がまたいつものように捕まえてきてやるぞぉ~!』
や、
『どれが欲しいんじゃ可愛い儂のルーシェ?…ああ、アレは駄目じゃ。
猫も犬も味は正直いってイマイチじゃし…そうじゃ!今度じぃじがサラマンデル(大蜥蜴の魔物)を狩ってきてやろう!美味いぞ~♪』

などなど。

すべて食料としてであって
ペットとして可愛がりたいと理解してもらえた試しがない(どんな家族だ?)

なので、そんなとんでも家族に教育(食育?)されて育ったルシェルディアにとって“猫”という生物は現在、愛でたい憧れの生き物No.1なのだ。

拭いた際に怪我の有無もさりげなく確認し、おそらく空腹による衰弱と判断。
自身のためにせっせと用意していた食事を急遽黒猫ちゃん用に生、加熱済み両方用意して件の愛玩生物が目を覚ますのを自分用の焼けた肉串を手にソワソワと待つ。

そして数分後…
肉の焼けるいい匂いに釣られてか、もぞっと黒い毛に覆われた身体を揺らして。
黒猫が、その両眼をゆっくりと開いた。







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