追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

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その3と4の間  コラルド帝国・皇族達とレイブン家の話(前)

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非常識な伯爵令嬢、ルシェルディア・レイブンが魔窟内をヒャッハーして野生ライフを満喫している頃。
というよりー…

時は彼女が魔窟へと馬車で運ばれた後、御者の男性が帝都目前へと戻ってきた頃に遡る。


=================================================



帝都、コラルド帝国帝城・大広間にて


「マシュー貴様………っ
なんてことをしてくれたんだ!!?」


大広間には2人の壮年の男女、すらりとした長身の若い男と愛らしい容姿の少女が1人ずつ玉座及びその両脇に立ったまま、広間中央にて膝を折って頭を垂れる若き男を見下ろしていた。

皆一様に豪奢な衣装に身を包んでおり、
彼らこそがこの国のヒエラルキー頂点に座す者達、つまりは皇帝皇妃を含めた皇族であることは誰の目にも明らかであった。
普段であれば油断ならぬ貴族社会、如何なる時も笑みと余裕を崩さずを旨としている彼らはしかし。
その整った顔を悲痛さと怒りに染め上げていた。
中でも中心の玉座に座りもせず、眼下の若い男を睨めつけながら唾を飛ばして激昂する壮年の男性ー…コラルド帝国皇帝、ギルバートは魔王の如き凶相を浮かべている。

対する眼下の若い男ー…第2皇子、マシューは形式的に膝は折れども、何故に自身が両親と兄妹達に見下ろされ挙句糾弾されているのか、全く理解できていなかった。

「父上?大事なお話だと聞いて参上しましたが、何故そのようにお怒りになっているのです!?」

であるからして必然。
許しも得ていないのに下げていた頭を上げ、己の不満を口にする。
誰もが皇帝の怒りの原因をわかっている中、当の本人元凶だけが理解していない。

本気で分からないと困惑を露わにしている愚息を目にして激した声が一旦止み、広間に静寂が訪れる。

尤も、静寂はそう長くは続かなかったが。

「……本当に。本当に我が怒りの原因に心当たりはないと。
そう申すのか、マシューよ?」

「勿論でございます父上!」

必死に激した感情を抑え込みながらの皇帝の問いに、自信満々に返事を返すマシュー馬鹿


「では問おう。
本日、貴様が参加した貴族学園の卒園パーティーでのことだ。
そこで何があり、何がどう帰結したのか、一切合切全て話せ」

「卒園……ああ、あのことですか?
あのような皇族を敬う心すらない不忠者の罪人について父上がお気にされるほどの…」

「我は、全て、一から話せと、そう言ったぞ、マシュー…?」

「っ!?お、お望みとあれば、はい…」

ギロリと睨まれて一瞬言葉に詰まったものの、すぐにその視線を不服げに見返しながら、マシューは卒園パーティーでのルシェルディアとデルギスの婚約破棄騒動、そしてそれををルシェルディアが如何に酷く侮辱したかを語り出した。


※  ※  ※

一通りマシューに好きに語らせた皇帝・ギルバートは、次第に締め付けられる胃の痛みと浮き出る額の青筋を手で庇い隠しながら、はぁぁぁ~…と一つ気持ちを整理する為深いため息を吐く。
そうしてなおもルシェルディアが如何に愚かで性根の悪い悪女かということを続けようとしたマシューにもう充分だ、と片手を上げて止め。

「それで。その、お前のいう悪女たるレイブン伯爵令嬢は、
真相の調査を願い出、一先ず家へと帰ったのだな?」

家ー…レイブン家に無事帰ってくれたのなら一先ずはいい。いや、全く良くはないのだが後から謝罪なり何なり、やりようは幾らでもある、と力を入れ過ぎた肩を下ろそうとした次の瞬間。
その肩は、かつてない程に凍りつくことになる。

「な!?なにを甘いことを!
ふふ、これしきのこと、父上に判断を仰ぐまでもないことと思い、すでに私自身で“処断”いたしましたとも!」

「……は?」

「恐れ多くも婚約者を長年裏切り続けただけでなく貴族令嬢を害そうとした罪、何より皇族である私を公衆の面前で侮辱したのです。
よって、その場で“魔窟への追放”処分を言い渡し、
すでに専門の御者の手によって魔窟へと運ばれた頃かと!
今頃己の罪を嘆きながら魔物に囲まれ絶望している事でしょう!!」

興奮したように立ち上がりマシューによって宣言された、レイブン伯爵令嬢への“処断”。

し…んと静まり返った広間にバタリ、と。

「「母上ッッ!!」」

左右に立っていた若い男女、皇太子と第一皇女が悲鳴をあげて倒れた母親たる皇妃を介抱するが、二人とも母親同様、顔色は真っ青だ。

そして父親、ギルバートは…

「セイム騎士団長」

「はっ」

「そこの愚物…第2皇子、マシュー・コラルドを今。すぐ。牢に放り込めェッッ!!
それから至急部隊を編成し、魔窟よりルシェルディア・レイブン伯爵令嬢をせよ!」

「は、ハッッ!!了解であります!」

「な!??」


自身の振るった熱弁の結果下された投獄行きの判決に、目を剥き驚愕するマシュー。
あれよという間に配下に指示を出し終えたセイム騎士団長に両腕を後ろに回され拘束されて、ギルバートに悲痛な叫び声を上げる。


「離せっセイム!何故ですか父上!?何故私が投獄などと……っ
私が何をしたと」

「………何を、したか、……だと……?」

ブルブルと肩を震わせてバッ!!と鬼の形相でマシューを捉える。
纏う覇気と魔力も尋常じゃなく、強烈な殺気を帯びたそれにガタガタと膝が笑い出したマシューはグビリと大量の唾を飲み込んだ。
倒れた母を侍従と駆けつけた医師に任せた自身の兄妹も、寧ろ何故父親激昂の理由が分からないんだと憎々しげな表情の中に哀れみを混じらせている。

「マシュー……お前の、コラルド帝国第2皇子の立場にありながらレイブン家に軽々に手を出すなど…。正気を疑うぞ」

「本当になんてことをしてくれたんですのお兄様!!
レイブン家を、しかもよりにもよってルシェルディアを罪人呼ばわりした上“魔窟”送りにしただなんて…っ!」

「お、お姉様?」


この人でなし!!と涙を流しながら己を詰る未だ幼い妹の言葉に困惑する。
その様子を呆れ果てたとばかりに顔の上半分を大きな手で覆ったギルバートが、答えを告げる。


「訓練も勉学もサボり倒していた貴様は知る由もなかったかもしれん…、いやそれは言い訳だな。
貴様も我と我が最愛の皇紀との間に出来た愛しい実子と。
いつか目を覚ましてくれると僅かな期待に縋ってしまったのがいけなかったのだ……!

レイブン家はな、
この国ー…コラルド帝国にとってなくてはならぬ“最後の砦”。
現当主にして愚かな貴様の手によって魔窟送りにされてしまったルシェルディア嬢の御父君、ジルバ・レイブンは今まで他国の急襲によって窮地に陥ってきた我が軍・騎士団を尽く救い敵をたった一人、その腕一つで撃滅してきた“拳神”。
その父君であり彼女の祖父に当たるグリム殿は稀代の魔法使い。
魔法の腕において未だ並ぶものなしとまで称される“魔神”の名を欲しいままにしている。
当然それぞれの連れ合いたる御母君、祖母君も只者ではない!
皆が皆、一騎当千の化け物揃い!彼らが我が帝国にいるからこそ内乱も他国からの侵攻も抑えられていると言っても過言ではないほどの超!武闘派伯爵家なのだ!!」

「そ……っそんな、う、嘘で」

「嘘であるものか!!
そこなセイム騎士団長も!ロビンソン魔法師団長も!!
全て2人の弟子、且つ未だ勝利したことすらないほどの実力差なのだぞ!?
そして我が直々に頼み込んで定期的に行ってもらっておる騎士団への稽古付けや魔法師団員指導に訪れた両人に齢5歳の幼年にして度々ついてきては訓練に混ざっていた超ド級のハイブリッドモンスターこそ。
貴様が魔窟へ送ってしまったルシェルディア嬢なのだよ。

…彼女の凄まじい魔法と拳技に惚れ込んだ騎士団員、魔法師団員は数知れず。
その中にはそこで涙を流す貴様の妹も漏れなく含まれておるわい!!」
  
「う……な、ぁあ……」

はぁぁぁ……
再度の深い深いため息。
既に陸へと打ち上げられ呼吸もままならない魚のように口をパクパクさせている愚息を失望も露わにちらと見やると、暗い眼差しを自身の足元へと落とすギルバート。

「………極め付きはな、マシュー」

ー…ゴクリ

「御父君、祖父殿、祖母君、御母君。
彼らが抱える侍従や侍女全て余すことなく。
彼女を、ル、ルシェルディア嬢を………溺愛、しておるのだ……」

皇族のみならず貴族の間でも帝国内では周知の事実だぞ…と力なく嘆く父親に、漸く自分のしでかしたことの重さを自覚する。否、騎士団長や壁際に控えている魔法師団長の蒼褪めた顔色に、自覚せざるを得なかった。

ガチガチと歯がなる、震えが止まらなくなった彼を哀れそうに、それでいて最早かける言葉もないと見切りをつけると、ギルバートは立ち上がり、再度マシューを牢に送るよう告げた。

「ああ……念の為自殺・逃亡が出来ぬよう、魔封じの手錠を嵌めておけ。
我は今より至急支度を整えかの伯爵家に謝罪に向かうから席を外す。お主らも各々のやるべきことをなす為解散せよ」

そう告げて、マシューよりも先に退室していく。


部屋から出る間際、


「…我の、我の首一つで、許してくれると、助かるのだがなぁ……」

絶望を含んだ帝国皇帝の疲れた呟きが、やけに大きく広間に響いた。
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