追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

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その8のあと  レイブン伯爵家最強(?)、始動

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レイブン家の一人娘を冤罪に追い込んだとある子爵令嬢が逃亡したことを、
情報収集をしていた使用人部下の口から知らされたその日ー


コラルド帝国、レイブン伯爵家王都の屋敷は世界が終末を迎えるが如き、
濃密すぎる覇気と殺気に包まれた。

折しも時刻は午前6時、早朝と言っても差し支えのない時刻。

いつものように花々と木々が元気に生を謳歌する
自然溢れる整えられた伯爵家屋敷に優しい朝を告げるべく、
ピチピチと可愛らしい鳴き声をあげようと木々の小枝にとまっていた小鳥達や。
健康維持も兼ねて日々の日課として自慢のペットを散歩に連れ出し、
偶々丁度伯爵家屋敷の周辺を通りがかったいい歳の貴族男性が。

その覇気が、殺気が屋敷より吹き出した瞬間、一斉に死の恐怖に凍りついた。

哀れ、小鳥達は一斉に気絶して柔らかな芝の上へと墜落し。
不運な貴族男性とその飼い犬は、口から泡を吹いてばたりと地面へ卒倒した。
反応したのは彼らだけではない。
帝国帝都中全てが、反応した。

距離が近しい貴族街の住人達は一斉に飛び起きて
使用人・主人問わず肩寄せ合ってブルブルと恐怖に震え、
その外側に住まう平民らは、覚めぬ悪夢に魘されたり言い知れぬ不安感を抱きながら朝を迎えた。

そして尤もその覇気と殺気に恐怖したのは、
他ならぬ帝国の主人にして現皇帝とその家族であった。
何故ならその前日の晩、冤罪に加担した令嬢の逃亡を騎士達より告げられていたから。


「………帝国はもう、駄目かも知れん……」

その強烈・凶悪なる覇気と殺気により
生気を著しく失い立位以来初めて長く床につくことと相成った皇帝は復帰後、
その瞬間抱いた正直な感想として自身の子らへそう語り震えたという。



覇気と殺気に満ち満ちたレイブン家のその日についてー


※   ※   ※

そもそも、化け物揃いのレイブン家は皆一様に朝が早い。

早朝より新たな魔法を考察する。
前日までに収集された他国情勢の書類に目を通す。
早朝より近くの山林へ赴き魔物狩り準備体操で汗を流す。
愛用する魔法紙の短冊にお気に入りの陣を描き込む。

などなど、理由はそれぞれながらも大体が午前4時には起床済み。
主人達の微妙な気遣いにより5時起床を義務付けられている使用人達よりも早く、
それらの“日課”を終えて一同が会し、朝食を取る時間もまた当然早い。
本日も(溺愛するがいないので完全にとは言い難いものの)
充実した朝の日課と朝食を終え、
談話室へと移動して各々が食後の紅茶を飲みながらリラックスしている最中に
その一報は届けられた。


「「「「セバス、もう一度だ((よ))」」」」


無表情な人形の如く殺気を押し殺した有能なるレイブン家執事・セバスチャンが告げた、
帝都内の情報収集に奔走していた部下から起き抜けに齎されたとある情報。

レイブン家の珠玉ルシェルディアを冤罪へと陥れるのに加担した片割れ、
シモン子爵家三女、ソフィア逃亡の報。

家格の劣る子爵家、それも可愛い可愛いレイブン家の宝を同じ女として侮辱し貶めた
最低最悪の、屑女。
一家使用人含め共通の評価を下した、
今頃皇家直属の騎士団員らに捕縛・連行されている筈の女が、逃亡?
なんの冗談か、聞き間違えかと疑念に駆られて一同が聞き返してしまうのも無理からぬこと。

しかしながら世は無情なり。
信じたくない事柄に限って、真実であることが多い。
そしてそれが信頼厚い部下からの知らせであれば尚更。

そうして4人揃っての聞き違えという一縷のあり得ない希望にかけてみるも虚しく、
ソフィア嬢の逃亡事実は執事の言葉により確定した。

その瞬間たるや、である。
当主・ジルバは強烈な覇気を剥き出しにして唸り。
前当主・グリムとその妻・カルマは膨大な魔力を殺気混じりに撒き散らし。
側に控えるセバスチャンとメイド長からも凶悪且つ鋭利な殺意が吹き出した。
それら全てが入り混じり、屋敷はあたかも瘴気渦巻く魔王城の様相を呈していた。

が。

意外にも、彼らの殺意に満ち満ちた時は長くは続かなかった。
何故ならー


「………リリム?」

レイブン家4人中最も怒りを露わにするであろうと予想された人物、
ルシェルディアの母親にしてジルバの妻・リリムが
殺気も魔力も放つことなく沈黙していたから。

彼女の不自然なまでの静けさに、思わず放っていた様々な気を霧散させて
怪訝な面持ちで3人が見やる。
凝視に近いそれらを一身に受け、それでも身動ぎもしない彼女に
業を煮やしたジルバが近寄って屈み覗き込んだところでービシリと石化した。


「…ジ、ジルバ、どうした?」


ビキッと幻聴を聞き取った、ように感じたグリムとカルマは、
グリムが代表して恐る恐る不自然な姿勢で硬直する娘の夫へ声をかける。
しかし、微動だにしない。

心配そうにその様子を執事・メイド長共々静観すること十数秒だろうか。


ゆらあぁり…

石化したが如く硬直したままの自身の夫には目もくれず、
幽鬼の如くユラユラと身体を不安定に揺らしながら、リリムが椅子より立ち上がった。

そしてその横揺れが安定してピタリと動きを止めると、たった今気付いたかのように硬直している夫へと首を動かしてふふっ…と小さく細い笑い声をあげたのだ。

「ふふふ…うふふ!あらまぁ貴方ったら。
そんな変な姿勢で何をやっているのかしら?」


((((!!??))))

彼女が笑い混じりに言葉を発した瞬間、
静かに見守っていた4人の身体にゾワリ…!!と怖気が走った!

化け物揃いのレイブン家。
今更ゴーストや醜悪なアンデット如きでは意にも介さない程
強靭な精神力メンタルを持ち合わせている筈の自分達と、
そんな自分達に慣れて常に無表情を貫くことさえ出来る筈の執事達に、怖気が走る?
恐怖を覚える??

そんなことはあり得ない、あり得たとすれば何故か。
衣服の下の背に冷たい汗を流しながらそんなことをつらつらと考えに考え、
ようやく思い出す。

彼女の、リリムの1を。

そして理解し、確信する。

彼女は怒っていなかったのではない、もうとっくに

俯いたまま夫に向けていた顔が、こちらを向く。

「お父様?お母様?
そんなお顔をしてどうなさったのです??
まさかジルバみたいに固まっているのかしら。
……変ねぇ……うふふ」

「おおおおお落ち着けっ!?」

「あらお父様私、今、これ以上ない程に落ちついてますわ?」

「…ど、どう考えても落ち着いては…」

「落ち着いているでしょう?お母様?
セバス、貴方達もそう思いますわよね?」

「「「あ、ハイ」」」

((((如何考えても完膚なきまでにキレてる!!))))


不気味な笑い声と不安定な歩調を継続したまま談話室の扉へと1人歩みを進める彼女に、
一同震えながらそれでも流石はレイブン家執事・セバスチャン。
どうやら恐怖より己の職務への誇りや矜恃ポリシーが勝ったと見える。
歯の根を鳴らすことなく、且つ控えめにどちらへ…?と問う。
するとぴたりと動きを止め、ギュルン!!と効果音が幻聴で聴こえるほど素早くリリムの顔が振り返る。

((((ヒッッ!!??))))

能面のような、無表情。
否、口だけは異様なほど美しい弧を描いて笑んでいる分余計恐ろしい。


「何を…」

「は、はい?」

「何を、分かり切っていることを聞いているのかしら?
勿論、当然、その社会のゴミを処分しに行くに決まっているでしょう?
だって私の可愛い可愛いルーシェちゃんに有り得ない冤罪をふっかけてくれた片割にして凡愚といえども人様の婚約者を誘惑して寝取る蛆虫を何で放置しなければならないのかしら馬鹿なのかしら?
うふ、旦那様には当主としての仕事がありますしセバス、貴方はその補佐でしょう?
お父様もお母様も同様にお忙しい上王都からお離れにならない方がいい…となれば自分が産んだ娘に関わる案件、母親たる私がことの対処に打って出るのは当然よね?そうよね?
ー……皆さん、そう思うでしょう…??」

「「「「あ、ハイ」」」」

「なら結構ですわ。
うふふ…暫く家を空けるのですもの、王妃様の茶会も欠席する旨を手紙に認めなければなりませんし久々の遠出ですし呪符作成たびのしたくも入念・迅速にしなくては。
ではそういうことで忙しくなりますので、失礼しますわ?」

「「「「あ、ハイ」」」」

うふふふふ……

…パタン


最早あ、ハイとしか返す言葉のない一家をそのままに、
不吉極まる笑い声を上げながら退室していったルシェルディアの母・リリム。
またの通り名をー『死の宣告者』。

通り名が示す通り、彼女には確実にして無慈悲な死が告げられるだろう。
それも、いっそ一思いに殺してくれと泣いて乞うほどには残酷に…。

室内に取り残された者達は皆、先ほどまで自分達も殺意を剥き出しにしていたことなど遥か彼方へと放り投げ、元凶ソフィア嬢へと心中で合掌した。

ー尚、彼女の夫にしてレイブン家当主・ジルバは
その日の昼、彼女が出立するその時まで石化したままだった。


その日、(ある意味)レイブン家最強が、
獲物を求めて野に放たれた王都より出立した




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※長らくご無沙汰してしまいました……。
先々月より思わしくなかった体調ですが、胃に穴が……( ; ; )
ようやく家に帰って来れました!
少しペースが落ちますが、ボチボチ頑張ります~!!
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