追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

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その17 朝食が始められません!!(給仕より)

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※タイトルに給仕より、と書かれていますが、
視点はあくまでルーシェです。

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なんやかんやと見知らぬ男性との遭遇から妙な精神消耗をくらった
こう見えてお年頃のうら若き乙女、なルシェルディア。

癒しの元・黒猫ちゃんの謎の不在で肩を落として引き籠ること3日。
流石にこれ以上自主鍛錬をさぼれば健康第一を掲げている自身のライフスタイルにヒビが入りかねない為、なんとか復帰し朝の城・中庭での鍛錬を再開。
そして数日間無視してしまっていた国王陛下との朝食の場へと向かったのだが。
よもやその場で待望の猫ちゃん様ではなく
引き篭もった原因ともなった男性と再度遭遇を果たすことになろうとはー…
王族用に用意された食事の間へと足を運んでいる最中の彼女には知る由もなかった。


※  ※  ※


広々とした部屋の中に存在感たっぷりに鎮座する不必要に大きな、シミひとつない真っ白なクロスのかけられたダイニングテーブル。
その端の、温か且つ目に優しい朝日差し込むはめ殺しの窓を背に
既に着席を済ませているのはここ、スレイレーン王国の国王陛下。
おはようございます、と簡素な挨拶を麗しい笑顔でもって受け止められ、
給仕によって席へと案内、着席するのももう何度目だろうか。

しかし何度目かのそれにいつもとの相違点が不安を煽り、もじもじと腰が落ち着かない。
何せ猫ちゃん様がいないのだ。
いつもなら入室と同時にするりと足元へと擦り寄ってきたのを抱き上げ、
かの癒しを膝に乗せて朝食を満喫するのだが…

着席を果たしたのに一向に始まらない朝食に居心地の悪さは増し、
入室した扉前から動こうともしない給仕達へ疑問符が浮かぶ。

と。
隔てた壁向こうが僅かに活気付いたと思った次の瞬間ー


「!?」


給仕により恭しく内側から開かれた扉の向こうから、3日前に初対面を果たし目前から逃亡したくだんの謎の貴族男性がのっそりと姿を現した!

変わらないその美丈夫振りと相も変わらず顰められた形の良い眉、
凹凸のはっきりとした額からは柔らかそうな黒い前髪が
開閉する扉の微風に煽られてさらりと揺れるのも、男臭い彼をとても涼やかに見せていた。

しかしながらその男振りに見惚れる余裕はルシェルディアにはなかった。


「お、やっと来たか!遅いぞ弟よ」

「…うるせ」


(……い、今、なんと?)


気さくに、そして不自然なまでににっこりと笑みを浮かべて
出迎えの言葉を投げる国王を、物凄く鬱陶しそうにじろりと睨めつけて、
眉の顰め具合を増した彼は。

給仕に引かれた椅子ー…ルシェルディアの対面へと腰を下ろそうとして、
ピタリと動きを止めた。
じぃぃ…と硬直するルシェルディアを暫し凝視すると、
少し決まり悪げに視線を逸らして大きく太い指でポリポリと頬を掻き、


「あー…なんだ、その。
先日は突然訪問した挙句名乗りもせずすまなかった、な。
こんな朝食の席で悪いが仕切り直させて欲しい」

「………」

「改めて名乗ろう、俺はア」

「……と」

「は?」


「弟!?弟とは陛下これ如何にッッ!?
だって!だって初日に猫ちゃん様のことを弟と、そう呼んでいたではないですか!!
え、猫ちゃん様は何処!?猫ちゃん様は第1の弟君なのですかそれとも第2っ!?
この背の高い御仁はよもや猫ちゃん様のもう1人の兄様なのですかぁ!?」

余裕がない故に、非常識少女・ルシェルディアは。
これまた見当違いな勘違いをし始めた!


「おいちょ、待て落ち着」

「きっといつの間にやら城に居ついた不審者へご挨拶をして下さろうとしたのですよね!?
はじめまして、いや2度目まして??ルシェルディアと申します弟?兄?君の猫ちゃん様と陛下のご好意によって城に置いて頂いておりますれば決して怪しい者ではありませんそして」

「いいから落ち着けぇぇ!!」


数日間黒猫と会えていない不安と、前回話も聞かずに部屋を逃亡してしまったこと、
そして国王が彼を『弟』と呼称したこと。
様々な要因が入り混じり不安と混乱がピークへと達してしまったルシェルディアは取り乱した。
しかしそれを、正面の男性が低く強い声で一喝!
ピシャリと黙る様告げられ、むぐっと慌てて閉口した。

再び微動だにしなくなったルシェルディアを見、はぁッと鋭く嘆息すると、
親指を力が入った眉間に押し付けグリグリと押し揉んだ。
そうして余裕を取り戻したのか、ゆっくりと顔を上げると。
ひたりと真っ直ぐにルシェルディアを見つめ、言ったのだ。


「混乱するのも分かる。
名乗るのも説明するのが遅れたことも謝罪しようだが、兎に角、まず、名乗らせてくれ。
俺の名は、アルフレッド・スレイレーン
そこでニヤニヤと気持ちの悪い笑いを浮かべている国王の弟、…王弟だ。
そしてー…」

「おいおい弟を気遣う心優しい兄に向かって気持ちの悪いとはなんだ」

「そして。
今までお前が“猫ちゃん様”などと呼称していたは、俺の姿だ」

「ー…ふぇ??」

「だからッ!……あの黒猫は、俺なんだよ、ルーシェ」


国王の文句をまるっと無視して言うや、シュルン!と服を残して消えた。
パサリと服が落下した微かな音が、やけに大きく室内に響く。

え!?と、突然消えた大柄な男性に驚き席を立ちかけたルシェルディアは、
するりと足を撫でた馴染みある毛の感触に、そろぉりと下に視線を向けた。
そこにはここ数日探してやまなかった黒猫の姿が。
ハッとして抱き上げようとしてー…


「…ことだ。
言ったろう、俺の名はアルフだと……理解してくれ、ルーシェ」


黒猫の“アルフ”

人間の“アルフレッド”


人間が消えて、すぐに出てきた黒猫
同じ毛の色、同じ瞳の色、同じー…声。
つまりは……


「ふぇぇぇええええええッッ!!?」



話と現実が噛み合ったその瞬間、少女の口から絶叫が迸った!!

朝食は、始まってもいない。

……どうやら今日の朝食の時間は長引きそうだ、と
控えて佇む給仕達は理解して静かにこっそり嘆息した。



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※ようやく黒猫=人間であることを(簡潔にではあるが)説明できたアルフ君!
ルーシェの胸中は如何に??
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