追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

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その30 当日祭夜会・その1〜耐え忍ぶ伯爵家〜

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時刻は午後7時
本日、この時刻よりー…当日祭の締め・夜会がスレイレーン王国王城のパーティーホールにて開催した。


初めの30分程は各貴族家が順番に入場。
爵位の低い者から高い者へと順繰りに入っていき各自談笑、交流に勤しむ。
貴族達も既に半ばまで入場を果たし、残すは侯爵家、公爵家、そして王族を残すばかりとなったこの頃。
会場内は少々異様なる様相を呈していた。

主に子爵、男爵家の者達が集まる一角に。


※  ※  ※


その集団は綺麗に真っ二つに分かれていた。
一つは全て女性の集団。


「…あのご令嬢、一体何様なのかしら?」

「どこの家の方なの。ドレスを着ていらして正気…?」

「確かカール様…エデルジア伯爵家の御三男のパートナーとして入場していらしたわよ…」

「パートナー必須の収穫祭夜会に来ていらっしゃるのに
何を勘違いしていらっしゃるのかしら?
……恥知らずもいいところですわ」


とある人物を視界に捉えて凝視したまま扇子で顔を覆い、
口々に小声でその人物を酷評・批判している。


もう一つは、男性ばかりの集団。
全て傍らの集団に属している女性達のパートナー達、である。
だが1人だけドレスで着飾った女性が中心に佇みにこやかに笑みを浮かべていた。
集団の令嬢達が凝視している人物その人である。

「なんて美しい方なのだ!」

「カール殿はどちらで斯様な美姫を見初められたのだ!?」

「…羨ましい限りですなぁ」

「あら皆様そのような……でもお褒めいただけて光栄ですわ?」

令嬢達とは真逆で口々に彼女を褒め称え、
女も満更でもなさそうに胸を張り、微笑み返す。

その繰り返しによりますます男達の熱が増し、令嬢達が憤る。

既に入場を果たした彼らより家格が上の爵位の者達は皆全て
この異様な2つの集団を遠巻きに見ていた。
若干それらの男達も集団に混じりたそうにしているのを、
令嬢や夫人達が頑として食止めているのが見える。

その中にあって、大変肩身の狭い思いと冷たい眼差しを一身に受けているのがエデルジア伯爵家。
現当主夫妻、長男夫妻、次男とその婚約者は一様に体をわなつかせながら必死に侮蔑の色を含む視線に耐えていた。
理由は明白で己の家の三男、カールと
そのパートナー、ソフィアという令嬢にある。

「あの女……よくもカールを!」

「穀潰しの三男だからと冒険者ギルドなどに職を見つけなくとも
家でちゃんと婚約者を見つけるなり、仕事を斡旋するなりするとあれほど…!!」

「ああっ!兄弟一心根の優しかった私の息子があのような女の毒牙に……」

「システィ!お前達も。
今は耐えろ!…耐えるのだ。
これも王弟殿下の御為、宰相閣下からもちゃんと聞かされているだろう。
あれが捕まってしまった以上、耐えるしか……ないのだ」

表面上は辛うじて笑顔を貼り付けつつも鎮痛な声を漏らす彼ら。
しかし男である当主、長男、次男も皆。
三男以外は至って正気を保っていた。

他ならぬ腕や首に装着している、ネックレスやブレスレットによって。

実のところ彼らも昨日の夜までは、集団の男達同様にあの女に侍っていたのだが…
女がカールとともに部屋へと引き払ったのを見計らったように現れたこの国の宰相からそれらを渡され、正気を取り戻すことに成功したのだった。
彼の口から語られた女の真実と正体、能力に。
それまで泣きながら夫らを責めていた夫人らを含めて皆一様に蒼褪め、慌ててカールを救おうとしたのを宰相直々に止められ、頭まで下げられたのだ。

この夜会が終わるまで決して魅了が解けていることを悟られないように
カールを魅了状態から解放しないように、と。

そして女の目的はおそらく王弟殿下と国王陛下にあり、
また王弟殿下がお連れするパートナーを憎悪しており、夜会で姿を目にすれば何かを企むであろうことも。

必ず捕らえて罰を与える
カールを解放して伯爵家の悪いようにはしない

そう約束して頭まで下げられたのだ。
国主第一の補佐直々に。

国に仕える身であり誇りもある。
どうして従わずにいられるだろうか!

閣下より渡された品々は魔道具の中でも特殊で、精神に作用する魔法を無効化する上に、実際魔法を行使した者に無効化したことを気付かせないといったもの。
こちらがあくまでも未だかかっていると思わせ続ければ、魅了が解けていることにあの女が気付くことはない。
半ば血涙を流す思いで歯を食いしばり、家からこっち必死に女を称え媚びたのだ。
最早貴族の誇りも何も知ったことか、
これもカールを救う為と自然な笑顔を心がけてやってきた夜会。

“こんな公の場にあんな恥知らずな女を連れ込んだ愚かなる伯爵家”

周囲から囁かれる鋭い言葉の刺に耐え、
伯爵家の面々はひたすらに待った。

あの傲慢で、愚劣で、性根の腐った娼婦を、早く捕らえて罰してくれることを。

(早く、早く……王弟殿下、どうか……!!)

耐え続け、念じ続け、そうしてようやく……


「国王陛下、及び王弟殿下の御入場ーーーっ!!」

高らかに上がった入場宣言を、縋るような眼差しでもって聞き、彼らを迎える。

国王陛下の隣には来年婚礼を控えている婚約者の公爵令嬢が。

そして自分達を救ってくれるはずの王弟殿下
その隣にはー…
世にも珍しい美しい翠色の髪と瞳の小柄な姫が、
殿下の腕に手を添えて幸せそうに並んで歩き、見事入場を果たした。







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