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猫のお面の勇者様は、私の憧れ
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「猫を崇めよ」
「は…?」
聖女召喚の儀。この世界には瘴気というものがあり、人体に影響をもたらす。そのため瘴気を祓う必要があるのだが、それにはこの世界とは違う世界から現れる聖女の力が必要だった。そのため、人攫いをするようで申し訳ないが…この世界のために中央教会はいつも、瘴気の発生する五百年に一度聖女召喚を行なっている。一万年前から続く伝統だ。
「あの、聖女様」
「猫を崇めよ、さすらば道は開かれん」
「いやあの」
「猫を崇めよ」
しかし。今回現れた聖女様は、現れた瞬間から猫を崇めよとそればかり。召喚者達は顔を見合わせ…。
「あの…聖女様が世界の底から溢れてくる瘴気を全て祓ってくださるなら今後五百年、猫…お猫様を崇めます」
役目を果たしてくれるならと、聖女の言葉を飲み込んだ。
「おーねーこーさーまー」
なんとも気の抜けた呪文と共に、徐々に湧き出していた瘴気は綺麗さっぱりと消え去った。聖女様のおかげで今後五百年の安寧がまた約束された。
「聖女よ、よくやった」
中央教会の聖王が、聖女を褒め称える。が、彼女はブレない。
「約束」
「え」
「猫を崇めよ」
「…そなた達、どういうことだ?」
召喚者達が聖王に事の次第を話した。
「…また、変わり者がきたのぅ」
聖王がなんとも言えない顔になる。
「まあ、よい。我が中央教会の聖獣として猫を認定する。我が聖王国でも猫は丁重に扱うようにと命を出そう。それで良いな?」
「良い。…聖王猊下」
「なんじゃ?」
「…エルフ?」
「おお、異世界人にしてはよう知っとるのぅ。そうじゃよ」
聖女…寧々の目が輝く。
「エルフ、耳特徴」
「そうじゃな」
「長生き」
「そうじゃよ。この聖王国で中央教会の聖王を七千年勤めておる。さすがにそろそろ寿命じゃがのう」
「聖王猊下、そのようなことをおっしゃらないでください。聖王猊下のお力がまだまだ必要です」
召喚者の一人が縋るようにそう言うが、聖王は首を振る。
「そもそもこの国、人間のための国じゃし。ワシ、なんで国家元首みたいなことさせられとるの?」
「聖王猊下のお力があってこその世界平和ですから!」
「人間にも魔法教えたしもう良いじゃろ」
「聖王猊下!」
「聖王猊下」
寧々が手をあげる。
「なんじゃ、聖女」
「死ぬまで頑張れ」
「さらっと残酷なこと言うのう。わかったわかった、聖女の言葉なら頑張るわい。元の世界に戻してやれん代わりに、出来る限りの願いは叶えねばな」
「…やっぱり、帰れない?」
「そうじゃよ、すまんの」
寧々はにんまり笑った。
「虐待、逃げられた。私の勝ち」
「ん?」
「父親、酒と女。母も不倫。暴力と暴言。家出してた。ちょうどいい」
「おお…マジかぁ…ワシを爺ちゃんだと思って甘えていいぞい」
「聖王猊下、私、お願いある」
寧々は聖王の目を見て言った。
「この世界、勇者いるはず。猫のお面の」
寧々以外の者が全員凍りついた。
「解放してあげて。瘴気とはまた違う闇の力、私の力で全部祓う」
「そんなことしたら、お前さんの寿命は…」
「虐待されてた時。本を読むの、唯一の楽しみだった。猫の勇者の物語。でも、バッドエンドだった。ハッピーエンドだったけど、バッドエンド。悪い魔王を倒したら、今度は猫の勇者魔王になった。でも猫の勇者、自分を伝説の剣で刺して止めた。世界はハッピーエンドだった。勇者、バッドエンド。納得いかない。だから、私が選ばれた」
「…」
「聖王猊下、かつての仲間。私の推しの一人。でも、猫の勇者もっと好き。聖王猊下泣かせても、助ける」
寧々の言葉に聖王は頷いた。
「覚悟があるなら良い。ただ…聖女、お前さんもアズも、もって一年の命になってしまうぞ」
「…ハッピーエンドになればそれでいい。猫の勇者は、ハッピーエンドがよく似合う」
「そうじゃの。奴にはハッピーエンドがよく似合う」
聖王は寧々を連れて、中央教会の地下。魔王アズを封印する扉を開いた。
「アズ、迎えが遅くなったの」
「全力解放。聖女の力の真骨頂、お見せします」
寧々が祈ると、優しい光が溢れて魔王アズを包んだ。そして一時間ほど。闇の力は浄化され、アズは人の子に戻っていた。アズを止めていた伝説の剣は身体から自然と抜け落ち、そこに傷は残らなかった。
「えっと、え?今代の聖女さん?ていうか、俺、今何歳?今何年?」
「知らない」
「え」
「貴方と私の命、一年しかない。貴方元魔王で、私聖女。手と手を取り合って、お互いに一年を楽しむ」
「え、え、え!?」
寧々の言葉に混乱するアズに、聖王は懇切丁寧な説明をする。全てを理解したアズは、泣きそうになるのを堪えて笑顔で言った。
「俺を助けてくれてありがとう。一緒に最高のハッピーエンドを目指そう」
「うん」
一年後、中央教会にある大きな大きな御神木の元。小さなお墓が二つ、建てられた。優しく口下手な聖女様と、世界のために自分すら犠牲にした元魔王様のお墓には、たくさんたくさん花束が供えられ、決して花束が途絶える日はなかった。
「は…?」
聖女召喚の儀。この世界には瘴気というものがあり、人体に影響をもたらす。そのため瘴気を祓う必要があるのだが、それにはこの世界とは違う世界から現れる聖女の力が必要だった。そのため、人攫いをするようで申し訳ないが…この世界のために中央教会はいつも、瘴気の発生する五百年に一度聖女召喚を行なっている。一万年前から続く伝統だ。
「あの、聖女様」
「猫を崇めよ、さすらば道は開かれん」
「いやあの」
「猫を崇めよ」
しかし。今回現れた聖女様は、現れた瞬間から猫を崇めよとそればかり。召喚者達は顔を見合わせ…。
「あの…聖女様が世界の底から溢れてくる瘴気を全て祓ってくださるなら今後五百年、猫…お猫様を崇めます」
役目を果たしてくれるならと、聖女の言葉を飲み込んだ。
「おーねーこーさーまー」
なんとも気の抜けた呪文と共に、徐々に湧き出していた瘴気は綺麗さっぱりと消え去った。聖女様のおかげで今後五百年の安寧がまた約束された。
「聖女よ、よくやった」
中央教会の聖王が、聖女を褒め称える。が、彼女はブレない。
「約束」
「え」
「猫を崇めよ」
「…そなた達、どういうことだ?」
召喚者達が聖王に事の次第を話した。
「…また、変わり者がきたのぅ」
聖王がなんとも言えない顔になる。
「まあ、よい。我が中央教会の聖獣として猫を認定する。我が聖王国でも猫は丁重に扱うようにと命を出そう。それで良いな?」
「良い。…聖王猊下」
「なんじゃ?」
「…エルフ?」
「おお、異世界人にしてはよう知っとるのぅ。そうじゃよ」
聖女…寧々の目が輝く。
「エルフ、耳特徴」
「そうじゃな」
「長生き」
「そうじゃよ。この聖王国で中央教会の聖王を七千年勤めておる。さすがにそろそろ寿命じゃがのう」
「聖王猊下、そのようなことをおっしゃらないでください。聖王猊下のお力がまだまだ必要です」
召喚者の一人が縋るようにそう言うが、聖王は首を振る。
「そもそもこの国、人間のための国じゃし。ワシ、なんで国家元首みたいなことさせられとるの?」
「聖王猊下のお力があってこその世界平和ですから!」
「人間にも魔法教えたしもう良いじゃろ」
「聖王猊下!」
「聖王猊下」
寧々が手をあげる。
「なんじゃ、聖女」
「死ぬまで頑張れ」
「さらっと残酷なこと言うのう。わかったわかった、聖女の言葉なら頑張るわい。元の世界に戻してやれん代わりに、出来る限りの願いは叶えねばな」
「…やっぱり、帰れない?」
「そうじゃよ、すまんの」
寧々はにんまり笑った。
「虐待、逃げられた。私の勝ち」
「ん?」
「父親、酒と女。母も不倫。暴力と暴言。家出してた。ちょうどいい」
「おお…マジかぁ…ワシを爺ちゃんだと思って甘えていいぞい」
「聖王猊下、私、お願いある」
寧々は聖王の目を見て言った。
「この世界、勇者いるはず。猫のお面の」
寧々以外の者が全員凍りついた。
「解放してあげて。瘴気とはまた違う闇の力、私の力で全部祓う」
「そんなことしたら、お前さんの寿命は…」
「虐待されてた時。本を読むの、唯一の楽しみだった。猫の勇者の物語。でも、バッドエンドだった。ハッピーエンドだったけど、バッドエンド。悪い魔王を倒したら、今度は猫の勇者魔王になった。でも猫の勇者、自分を伝説の剣で刺して止めた。世界はハッピーエンドだった。勇者、バッドエンド。納得いかない。だから、私が選ばれた」
「…」
「聖王猊下、かつての仲間。私の推しの一人。でも、猫の勇者もっと好き。聖王猊下泣かせても、助ける」
寧々の言葉に聖王は頷いた。
「覚悟があるなら良い。ただ…聖女、お前さんもアズも、もって一年の命になってしまうぞ」
「…ハッピーエンドになればそれでいい。猫の勇者は、ハッピーエンドがよく似合う」
「そうじゃの。奴にはハッピーエンドがよく似合う」
聖王は寧々を連れて、中央教会の地下。魔王アズを封印する扉を開いた。
「アズ、迎えが遅くなったの」
「全力解放。聖女の力の真骨頂、お見せします」
寧々が祈ると、優しい光が溢れて魔王アズを包んだ。そして一時間ほど。闇の力は浄化され、アズは人の子に戻っていた。アズを止めていた伝説の剣は身体から自然と抜け落ち、そこに傷は残らなかった。
「えっと、え?今代の聖女さん?ていうか、俺、今何歳?今何年?」
「知らない」
「え」
「貴方と私の命、一年しかない。貴方元魔王で、私聖女。手と手を取り合って、お互いに一年を楽しむ」
「え、え、え!?」
寧々の言葉に混乱するアズに、聖王は懇切丁寧な説明をする。全てを理解したアズは、泣きそうになるのを堪えて笑顔で言った。
「俺を助けてくれてありがとう。一緒に最高のハッピーエンドを目指そう」
「うん」
一年後、中央教会にある大きな大きな御神木の元。小さなお墓が二つ、建てられた。優しく口下手な聖女様と、世界のために自分すら犠牲にした元魔王様のお墓には、たくさんたくさん花束が供えられ、決して花束が途絶える日はなかった。
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下菊様初めまして。
なろうでのみこと様のペンネームの時から拝見しています。
悪役令嬢シリーズ(?)好きです💕
口数は少ないけれど、優しい聖女。
自分犠牲にした元勇者。
ちょっと切ないハッピーエンドでした😢
また新しい作品もお待ちしています♫
感想ありがとうございます。ずっと見ていただけてとても嬉しいです!これからもよろしくお願いします。
聖女と勇者が過ごした一年は全く描かれていないのに絶対楽しく幸せな日々だったんだろうなぁと思えるラストが素敵でした。
聖女と聖王と召喚者の会話もなんだか可愛らしくて、凄く面白かったです!
感想ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。幸せを分かち合う素敵な日々だったと思います。