女公爵は軽薄に笑う

下菊みこと

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女公爵の追憶

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「リュカ、私、大きくなったらリュカのお嫁さんになる!」

「じゃあ、僕は大きくなったらアンジェリクのお婿さんになるね!」

「あらあら、うふふ。二人は本当に仲がいいわね」

「将来的に、本当に婚約者にするのもいいかもしれませんね」

「じゃあリュカ君には今のうちにたくさんお勉強をしてもらわないとね」

「ふふ、冗談ですよ」

「あら残念。アンジェリクは喜びそうなのに」

「真剣に検討するのもいいんじゃないか?」

「あら貴方」

「公爵様」

「それは光栄ですね。是非とも」

「あらあら、アンジェリクとリュカ君は本当に婚約者になるかもしれないわね。ならリュカ君には本格的に次期公爵として勉強してもらわないと」

「まあ、光栄です」

あれはいつの頃だっただろう。私とリュカがまだ主従関係ではなく、ただの幼馴染だった頃。とても幸せだった。

ー…

「お母様!お父様!」

「アンジェリク!見ちゃダメだ!」

「リュカ!放して!お母様!お父様!目を開けて!私よ、アンジェリクよ!お母様、お父様っ!」

「アンジェリク!」

「うぅ…どうして…どうしてこんな…私達が何をしたというの…」

「アンジェリク…」

あの日悲劇は起きた。私がリュカと遊びに行っている間に、ちょうど集まっていた親戚一同と使用人達が私を残して皆殺しにされたのだ。何かの道具で頭を一撃。遺体の状態はとても酷いものだった。

ー…

「アンジェリク。犯人達が捕まったよ」

「…リュカ」

「犯人達は金鉱で働いていた連中だった。自分達は汗水流して働いているのに貰いが少ない、という不満が理由だそうだよ。かなりの給料が支払われているはずなのに。…実は、何かしらの薬物中毒に侵されているみたい。誰かに薬を勧められて、思想を誘導された可能性があるって。その誰かについては口を割らないみたいだ」

「…つまり、黒幕は捕まっていないのね」

「うん。黒幕はアンジェリクが先祖返りなのを知ってる可能性がある。アンジェリクがいない隙を突いて彼らを嗾けたんだと思う」

「…私のせいよ」

「え?」

「私があの日、屋敷を離れなければ…」

「アンジェリク…それは、」

「いいの」

「アンジェリク…」

「…。我が公爵家は、親戚一同皆殺しにされたわ。継げるのは私だけだけれど、私はまだ幼い。…無理よね。公爵位を返上しないと…ああ、親戚達が雇っていた使用人達をどうしようかしら…」

「そのことだけどさ、アンジェリク」

「うん」

「未だ幼きベアトリス皇女殿下が、アンジェリクを女公爵として認めるよう皇帝陛下に奏上してくださったよ」

「…え?」

「皇帝陛下は二つ返事で了承された。明日早速公爵位授与式をされると。急いで準備しよ」

「え、待って、え、…?」

「ベアトリス皇女殿下は君の大親友じゃないか。そんなに不思議なことではないだろう?」

「でも…」

「いいから!」

ー…

「はぁ…緊張した…」

「アンジェリク。よく頑張りました」

「ありがとう、リュカ。…。親戚達の雇っていた使用人達は、私の屋敷で雇うことにするわ。みんな行き場もないだろうし、予算なら幾らでもあるし」

「そっか」

「あと、金鉱は潰すわ」

「!?」

「どうせみんな捕まって処刑されるのだし。また人を集めても同じことになったら嫌だし」

「アンジェリク…」

「そのかわり、エルドラド領を観光地化するの!リュカ、力を貸して。お金ならあるから大丈夫だけれど、私には観光地化の具体的な案が思いつかないの。とりあえず、花畑と遊園地、動物園と水族館、カジノとホテルを展開しようと思うのだけど…」

「はい、ご主人様」

「え、どうしたの?…リュカ?」

「…私はこれより、ご主人様の執事となり、手となり足となり働かせていただきます」

「…そう。わかったわ。貴方を雇います。よろしくね、リュカ」

「はい、ご主人様」

そしてアンジェリクの案をリュカが具体化する形で、花畑、遊園地、動物園、水族館、カジノ、ホテルなどを次々とオープン。あっという間に有名な観光地化に成功。領内は経済的に潤って、私の懐もほくほくに。でも、忙しくしていないとすぐにあの日を思い出す。辛くて、リュカに何度も泣きついた。

ー…

「ご主人様」

「あら、リュカ」

「そろそろ中に入りましょう。夕飯の支度が整いましたよ」

「ええ」

それでも、今は小さな幸せを感じられるようになった。これからも、今度こそこの幸せを守っていきたい。
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