王子の魔法は愛する人の涙に溶けた

下菊みこと

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愛する人の涙は、とても優しい色だった

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リリシア・セントポール。公爵令嬢である彼女は、何もかもを持ち合わせる。地位、金、権力、名声。そして本人も才色兼備。冷たい美しさを持ち合わせながら、その実慈悲深く誰にでも優しい。そんな彼女に婚約者である王太子、カイル・ターフェルルンデはメロメロであった。カイルからのリリシアへの溺愛は有名であったが、カイル自身もまた美しく有能であったためお似合いの二人だと貴族達にも広く受け入れられていた。

しかし、聖女候補である平民のナタリアという少女が現れてからカイルは変わってしまう。ナタリアを一目見た瞬間からリリシアを捨て置き、ナタリアばかりを可愛がるようになったカイル。リリシアはもちろん、貴族達もそのあまりの変わり様に困惑していた。貴族達は、カイルよりもいつも慈悲深く困った時には必ず助けてくれるリリシアの味方についた。

リリシアは、その屈辱と悲しみに必死に耐えていた。怒り心頭で婚約破棄だと騒ぐ両親と弟を必死に宥めて、いずれカイルの目も覚めるはずだと自分にもみんなにも言い聞かせて耐え続ける。

そして、カイルの誕生日パーティーでことは起きた。カイルがナタリアを隣において、リリシアに婚約破棄を言い渡したのだ。

「リリシア・セントポール!貴様は可愛いナタリアを平民だからと虐めたそうだな!そんな奴は王太子妃に相応しくない!婚約破棄だ!」

貴族達の怒りは頂点に達した。いくら王太子殿下であろうとも、リリシア様をここまでコケにして許されるはずがない!

しかし、当のリリシア本人は何も言わずにただ呆然としていた。そのリリシアの弱々しい姿に貴族達は同情する。そして、何事にも決して動じないように教育されてきたはずのリリシアが涙を堪えて堪えて、とうとう涙を一筋零してしまったその時だった。

「僕の可愛いリリー。どうして泣いているの?」

カイルがリリシアの涙をその手で拭い、リリシアの頬にキスをした。誰もが唖然とする。

「リリー。誰に虐められたの?言って。僕が守ってあげる。可愛いリリー。世界で一番愛してる」

そこには、いつものあのリリシアを溺愛するカイルがいた。これにはリリシアも貴族達も困惑する。

「リリー?どうしたの、そんな顔をして。ふふ、でもそんなリリーも可愛いね」

ふわりと微笑むカイルにリリシアはとうとう泣いた。安堵の涙だ。やっとカイルが帰ってきてくれた。貴族達もなにがなんだかわからないが、カイルが元に戻りほっとする。

一方で、ナタリアは一人で騒ぎ始める。聖女候補の私の方がカイル様には相応しいと。しかし、カイルは全く意に介さない。というか、リリシアに夢中で耳に入っていない。そんなカイルに焦り、ナタリアは決定的な一言を発した。

「なんで!魅了の術は完璧だって教皇猊下は言っていたのに!」

その言葉に貴族達が騒つく。そして、カイルの父である国王はすぐにナタリアを捕縛。拷問の末、中央教会の教皇が政治に口を出せるようにと聖女候補であるナタリアと共謀し、カイルに魅了の術を使い操ったとの証言を得る。ナタリアは教皇と共に内乱罪で極刑に処された。これにより、拮抗していた中央教会と王族の力は一気に王族に傾くことになる。

ー…

「リリー、可愛いリリー。魅了なんかにかかるなんてごめんね。もっともっとリリーを愛するから」

「いえ、カイル様…もう十分です…」

「いいや、まだ足りない。愛しているよ、リリー」

リリシアを膝の上に乗せ、頬にキスを落とすカイル。魅了が解けてからというもの、カイルはますますリリシアを溺愛している。リリシアはそんなカイルが大好きで戻ってきてくれてとても嬉しいが、このままだと本当にカイルからの愛で溺れてしまいそうで怖いくらいだった。

「今、魅了魔法から身を守るアミュレットを作らせているから安心してね。出来たらリリシアもつけてね。リリシアを誰かに奪われたら、僕は何もかもを壊してしまうだろうから」

「カイル様…」

「リリシア、愛してる。たくさん傷つけてごめんね。その分、たくさんたくさん君に愛を伝えるから。誰よりも、君が好きだよ」

「私も愛しています、カイル様」

リリシアは知らない。極刑に処したナタリアと教皇がカイルの命令でネクロマンサーによって蘇らせられ、魔法を封じる首輪をつけられた上で拷問による永劫の苦痛を与えられていることを。その事実を知る一部の者達は、絶対にリリシアを傷つけてはいけないと改めて決意した。
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