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2nd STAGE アイテムBOX争奪トライダンジョン
Data.79 クロの空間
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◆現在地
???:???
「んん……。うっ……ここは……」
真っ暗な空間の中……なのかしら……。
目は空けているのに闇しか見えない。
体の感覚は……ある。
えっと、私は……何をしてたんだっけ?
カッ!
何かを起動する音と共に一筋の光が射す。スポットライトのようだ。
その光の中で黒い服を着た女性が足を組んでイスに座っている。
どこかで見たことあるような……。
「どうも初めまして、えっーとマココ……ストレンジさん。私はBlack3、通称クロさんです」
あっ、そうそう今回のイベントのルール説明をしていた黒いお姉さん。見た目はシロさんそっくりのね。
「それで……今回ここに呼び出したのは……あー」
クロさんは肘掛に頬杖をついて目の前に投影されたデータ画面のようなものを操作している。
なんか急に態度わるっ!
てか、私もしかして運営に呼び出されるような悪いことをしたのかしら……。
それともクロッカスのことか……。
「そうそう、あなたは『大嵐の螺旋塔』内で死亡状態となりましたので、3日間つまり72時間特定のダンジョンには入る事はできません」
「えっ!? 私、死んだんですか!?」
思い出せてきた。
私はアランとの死闘の末、【暗黒物質堕龍回帰刃】で決着をつけようとしたんだ。
その後、目の前が真っ黒になって……。
「アランに……負けた……」
「いんや、私が見た感じあんたの自滅っぽかったけどね」
……この人、口調もどんどん砕けてない?
「何よその顔。私だって人格があるんだから、仕事用とプライベート用の顔ぐらいあるわよ」
「じゃあ、私をこの空間に呼んだのは仕事ではないと?」
「仕事のついで……かな。一応死亡の報告とペナルティの確認はしないといけないし」
ほっ、アカウントBANとかじゃなくてよかった。
「んで、さっきの続きだけどさ。あんたは【心】の力を完全に制御できてないっぽいね。そのおかげで【心】の制御で勝るアランとの勝負には勝てたけど、暴走気味の力はあんたまで飲み込んだ……みたいな。私にもよくわからんのよね、あのAIどもの存在は」
「管理AIなのにわからないんですか?」
「クロッカス、シロムク……あと確認されているのは何だったか……。まあ、うろ覚えだけど何体かいる【心】を持つ道具たちは統括管理AI『天ノ沼矛』が一人で勝手に生み出したとされているの。私たち管理AIとは兄弟のようなものね」
「何が目的で生み出されたんですかね?」
「さあ、生まれた意味なんて誰もわからない……というのは人間の理論。AIには生み出された意味があるはずなんだけどねぇ。これがわからないのよ。でも、確かなことはその道具たちの持ち主は『選ばれてる』ってこと。出会いは偶然じゃないはず」
「統括管理AIが私を選んだと?」
「そうそう、だからわざわざおしゃべりに来たのよ。我らが創造主様が選んだ人間はどんなんかなって。会ってみれば道具たちの生まれた理由のヒントを得られるかもって」
「なんか、お力になれなそうですいません」
「いいって別に。そんな期待しまくってたワケじゃないから。管理する側にわからないことがプレイヤーにわかるワケないってね」
「管理する側……運営の人間にもわかってない感じですか?」
「もちろん。もう普通にAIに丸投げ。そりゃそうよねぇ……こんな広い世界全ての情報を人の手で管理するなんて不可能だから」
確かにもう一つの現実ともいえるAUOの世界『フェアルード』を管理するなんて人間には無理。それこそ神でもなければ……。
「不安にさせてほっとくのはアレだから一応言うけど、統括管理AIはちゃんと仕事してるから安心していいよ。プレイヤーのことも考えてるし、フェアルードのことも考えてる。あっ、だから特別な道具を生み出すのか?」
「んー、それはどういう……」
「特別な物を与えてプレイヤーに特別な思いをさせる。その代わりにフェアルードを守ってもらう……とか?」
「何からフェアルードを守るんでしょう?」
「そりゃ……一般的に考えて世界を滅ぼさんとする魔王とか?」
「でも、それって……言い方は悪いかもしれませんが、結局統括管理AIが決定を下して『起こしている』ピンチですよね」
「……だからじゃない? ピンチは起こすけど、ピンチで終わらせてくれ。この世界を滅ぼさせないでくれっていうメッセージよ。創造主様はあんたに世界を守ってほしいのさ」
そう、なのかな……?
特別扱いは悪い気しないけど、世界を守るのならば全プレイヤーを強くした方が良いだろうし、NPCだって強くなれるもんね。
とはいえ、クロさんの推理を強く否定できるほど私は情報を持っていない。
ただ、クロッカスが運営側に認められた存在だとわかったのは良かった。安心してこれからも戦える。
「何はともあれ、特別で強力な力を与えられたんだし、ぜひとも制御できるように試行錯誤しておいて損はないと思うよ。世界を守るなんて大層な理由じゃなくて、今を楽しむためにさ」
「それなら私にもわかりやすいかも」
「フフッ……そうね」
クロさんは目を細めて少し笑う。
イベントの説明の時に見た小憎たらしい笑みとは少し違う笑顔。
「長話しちゃったな。あんまサボりすぎるとシロの奴が怒るから、これくらいでお開きにしよう。……楽しかったよ」
「私も興味深い話を聞けて楽しかったというとなんか違う……面白かった、かな」
「面白かった……か。そりゃ良かった。じゃあ、この後どうする? リスポーン地点へ戻るか、ログアウトか」
そうだそうだ。パーティのみんなはまだダンジョン内にいるかもしれない。
でも、私は入れないし……。
「うーん、ログアウトしてチャットに現在の状況を書き込んで、見てもらうのを待とうかな」
「わかった。じゃあマココ・ストレンジさんはログアウト!」
私の視界が白い光に包まれる。
世界を守る……か。
オンラインゲームなら当たり前のように使われる宣伝文句。
でも、他のゲームとは何もかもが違うAUOでは、この言葉の意味もどこか違っているような気がした。
「またの冒険をお待ちしております……」
仕事モードに戻ったクロさんの声が最後に聞こえた。
???:???
「んん……。うっ……ここは……」
真っ暗な空間の中……なのかしら……。
目は空けているのに闇しか見えない。
体の感覚は……ある。
えっと、私は……何をしてたんだっけ?
カッ!
何かを起動する音と共に一筋の光が射す。スポットライトのようだ。
その光の中で黒い服を着た女性が足を組んでイスに座っている。
どこかで見たことあるような……。
「どうも初めまして、えっーとマココ……ストレンジさん。私はBlack3、通称クロさんです」
あっ、そうそう今回のイベントのルール説明をしていた黒いお姉さん。見た目はシロさんそっくりのね。
「それで……今回ここに呼び出したのは……あー」
クロさんは肘掛に頬杖をついて目の前に投影されたデータ画面のようなものを操作している。
なんか急に態度わるっ!
てか、私もしかして運営に呼び出されるような悪いことをしたのかしら……。
それともクロッカスのことか……。
「そうそう、あなたは『大嵐の螺旋塔』内で死亡状態となりましたので、3日間つまり72時間特定のダンジョンには入る事はできません」
「えっ!? 私、死んだんですか!?」
思い出せてきた。
私はアランとの死闘の末、【暗黒物質堕龍回帰刃】で決着をつけようとしたんだ。
その後、目の前が真っ黒になって……。
「アランに……負けた……」
「いんや、私が見た感じあんたの自滅っぽかったけどね」
……この人、口調もどんどん砕けてない?
「何よその顔。私だって人格があるんだから、仕事用とプライベート用の顔ぐらいあるわよ」
「じゃあ、私をこの空間に呼んだのは仕事ではないと?」
「仕事のついで……かな。一応死亡の報告とペナルティの確認はしないといけないし」
ほっ、アカウントBANとかじゃなくてよかった。
「んで、さっきの続きだけどさ。あんたは【心】の力を完全に制御できてないっぽいね。そのおかげで【心】の制御で勝るアランとの勝負には勝てたけど、暴走気味の力はあんたまで飲み込んだ……みたいな。私にもよくわからんのよね、あのAIどもの存在は」
「管理AIなのにわからないんですか?」
「クロッカス、シロムク……あと確認されているのは何だったか……。まあ、うろ覚えだけど何体かいる【心】を持つ道具たちは統括管理AI『天ノ沼矛』が一人で勝手に生み出したとされているの。私たち管理AIとは兄弟のようなものね」
「何が目的で生み出されたんですかね?」
「さあ、生まれた意味なんて誰もわからない……というのは人間の理論。AIには生み出された意味があるはずなんだけどねぇ。これがわからないのよ。でも、確かなことはその道具たちの持ち主は『選ばれてる』ってこと。出会いは偶然じゃないはず」
「統括管理AIが私を選んだと?」
「そうそう、だからわざわざおしゃべりに来たのよ。我らが創造主様が選んだ人間はどんなんかなって。会ってみれば道具たちの生まれた理由のヒントを得られるかもって」
「なんか、お力になれなそうですいません」
「いいって別に。そんな期待しまくってたワケじゃないから。管理する側にわからないことがプレイヤーにわかるワケないってね」
「管理する側……運営の人間にもわかってない感じですか?」
「もちろん。もう普通にAIに丸投げ。そりゃそうよねぇ……こんな広い世界全ての情報を人の手で管理するなんて不可能だから」
確かにもう一つの現実ともいえるAUOの世界『フェアルード』を管理するなんて人間には無理。それこそ神でもなければ……。
「不安にさせてほっとくのはアレだから一応言うけど、統括管理AIはちゃんと仕事してるから安心していいよ。プレイヤーのことも考えてるし、フェアルードのことも考えてる。あっ、だから特別な道具を生み出すのか?」
「んー、それはどういう……」
「特別な物を与えてプレイヤーに特別な思いをさせる。その代わりにフェアルードを守ってもらう……とか?」
「何からフェアルードを守るんでしょう?」
「そりゃ……一般的に考えて世界を滅ぼさんとする魔王とか?」
「でも、それって……言い方は悪いかもしれませんが、結局統括管理AIが決定を下して『起こしている』ピンチですよね」
「……だからじゃない? ピンチは起こすけど、ピンチで終わらせてくれ。この世界を滅ぼさせないでくれっていうメッセージよ。創造主様はあんたに世界を守ってほしいのさ」
そう、なのかな……?
特別扱いは悪い気しないけど、世界を守るのならば全プレイヤーを強くした方が良いだろうし、NPCだって強くなれるもんね。
とはいえ、クロさんの推理を強く否定できるほど私は情報を持っていない。
ただ、クロッカスが運営側に認められた存在だとわかったのは良かった。安心してこれからも戦える。
「何はともあれ、特別で強力な力を与えられたんだし、ぜひとも制御できるように試行錯誤しておいて損はないと思うよ。世界を守るなんて大層な理由じゃなくて、今を楽しむためにさ」
「それなら私にもわかりやすいかも」
「フフッ……そうね」
クロさんは目を細めて少し笑う。
イベントの説明の時に見た小憎たらしい笑みとは少し違う笑顔。
「長話しちゃったな。あんまサボりすぎるとシロの奴が怒るから、これくらいでお開きにしよう。……楽しかったよ」
「私も興味深い話を聞けて楽しかったというとなんか違う……面白かった、かな」
「面白かった……か。そりゃ良かった。じゃあ、この後どうする? リスポーン地点へ戻るか、ログアウトか」
そうだそうだ。パーティのみんなはまだダンジョン内にいるかもしれない。
でも、私は入れないし……。
「うーん、ログアウトしてチャットに現在の状況を書き込んで、見てもらうのを待とうかな」
「わかった。じゃあマココ・ストレンジさんはログアウト!」
私の視界が白い光に包まれる。
世界を守る……か。
オンラインゲームなら当たり前のように使われる宣伝文句。
でも、他のゲームとは何もかもが違うAUOでは、この言葉の意味もどこか違っているような気がした。
「またの冒険をお待ちしております……」
仕事モードに戻ったクロさんの声が最後に聞こえた。
応援ありがとうございます!
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