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2nd STAGE アイテムBOX争奪トライダンジョン
Data.80 駆け抜ける螺旋塔
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◆現在地
旋風の吹き渡る草原
黒い龍、黒い空間、クロさん……。
あれから三日経った。
二つのトップギルドによるイベントダンジョン封鎖は解除され、多くのプレイヤーがダンジョンへ流れ込んだ。
しかし、そもそも高難易度であるこのイベント。
大半のプレイヤーはダンジョンのギミックやモンスターに返り討ち、もしくは他プレイヤーにやられてペナルティを受けた。
結果として、やはり封鎖を行っていた二つのギルドのトッププレイヤーからクリア報酬である【アイテムボックス】を入手していった。
小細工がなくなった分、素の実力が高い者が勝つという当たり前の結果だけど、封鎖前に比べるとプレイヤー全体が活気づいていた。
実力を試したうえでダメだったなら諦めもつくしね。
そんな中、二つのギルドに逆らう力は無くともダンジョンを攻略する力は持っていたギルド、プレイヤーがぽつぽつと現れ始めた。
現時点で55個のみ用意されている【アイテムボックス】もその数を確実に減らしていった。
ダメだったなら諦めがつく……とはいえ、景品が残っていれば誰もがまだ自分にもチャンスがあるのではないかと理想を思い描く。
その理想が少しづつ終わろうとする今、少しピリピリした空気がAUO関係のコミュニティーに漂っていた。
かくいう私もちょっと焦っている。
イベントのトップ独走状態から一気に下位へ転落。
転落した理由はまあ仕方ないこととはいえ、やっぱり残念なのは確か。
幸い今まで攻略を共にしていたベラ、ユーリ、アイリィは無事アイテムボックスを入手していた。
でも、あえてその効果のほどは確認させてもらってない。
私は私の手でスキルを手に入れ、私自身で確認させてもらう。
その為に再びこの塔の前にやってきたのだ。
「……遅いなぁ」
アイテムボックスの数は残り二個……。
マイペースとよく言われる私も流石にこれは気にせずにいられない状況だ。
じっとしてるのがしんどい……。
今回の冒険の仲間はベラ達じゃない。
もちろん一緒に行こうと言ってくれたけど、なんだか同じダンジョンを短期間にもう一回というのは申し訳ないし、この塔の攻略に関してはいろんな意味で適任者がいる。
攻略の速度だけならそいつと組むのが最も早いかもしれない。
……なのに来るのが遅い!
「あっ、ここにいましたか! もー、探しましたよー」
「入り口がたくさんあるからってこの場所を指定したのはアンタよ!」
「えっ、そうでしたっけ? いやぁ、あの時はこの攻略プランを伝えるのにすごい緊張してて忘れちゃいました」
「……早くいくわよ」
「泣く子も黙るマココ・ストレンジもこの状況には焦りを隠せませんか?」
「あんたは焦ってないの?」
「……怖いです。団長なのに幹部みんなが持ってるアイテムボックスをもらえないかもしれないなんて……ぶるぶる」
本気で震えるんじゃない!
くぅ、この男が原因で(実は私の自滅説が有力だけど)こんな状況になってるのに、何ともマイペースだなぁ。
「アラン・ジャスティマ……私をこの塔の攻略パーティに選んだのは……」
「もちろん、強いからですよ。さあ無駄話してないで早く行きましょうよ」
くっ。
あえて言い返さずに先を急ぐ。
再び『大嵐の螺旋塔』へ突入!
◆現在地
大嵐の螺旋塔:1F
「後ろからバッサリなんてのはナシよ」
「もちろん。この剣はそんな卑怯なことをする為のものじゃないですし、今そんなことしても得はないですからね。それより、あなたこそスキルに巻き込まないでくださいよ。威力は高いですが、何とも荒削りで制御の効かない技が多そうですから」
「……気づいてた?」
「ええ、これでも最後に放ったあのスキルは最強必殺技みたいなもんで、それだけ何度も使って試してますから、手ごたえで相手を仕留め切れたかぐらいわかります。あの時はまるで手ごたえがなくて、『こりゃ完全敗北だわ……』って思ってたんですが、まさか自滅してるなんてね」
「ぐっ……流石ね……」
「しかし、本当に驚きましたよ。なんですかあの威力! まるで抑えることが出来ない力って感じでしたね」
「事実抑えられなかったんだけどね」
「まあ接続形態は強力ですから、うまく制御できるようになるまでそれなりに練習が要りますよ、普通は。あの場で手段がアレとはいえ僕を倒せたんだからそれで十分ですよ、そういう事にしといてください」
会話をしながらも雑魚モンスターを撃破し全力で疾走する。
途中、他のプレイヤーにも出会うけど、敵意を見せない限りスルー。
「そういえば、アランは私に負けた後……なんというか黒い空間に行った?」
「いや、僕は白い空間でしたね。シロさんに会いました。なら、マココさんはクロさんに?」
「そうそう、それで……なんというか私には要約が難しい話をされたわ」
「管理AIとシロムクのような【心】を持った道具との関係性、それにこの世界『フェアルード』を守るとかいう話ですね」
「あんたはどう思う? 私はよくわからない」
「それ、議論する気ないでしょ!」
アランが笑う。
「そうですねぇ……僕は『何から守るか』に疑問を持ちました。そしてそれはおそらく『外敵』からだと考えます」
「外敵……ねぇ。私も統括管理AIがゲームを面白くするために生み出した敵に対処するって意味ではないような気がしてたけど、管理の外からの敵なら……」
「ウイルス対策ソフトみたいなもんですね。外から入ってきて電子世界を壊す悪い奴らへの対抗策」
「でも、仮にそうだとして……この世界で強いことが対策になるのかしら? あんまり知識ないんだけど、ウイルスって目に見えないんじゃ……」
「ここはサーバーの中、つまり目には見えない世界です。僕たちはそこへ意識をつないで冒険している……。ですから、その外敵的なウイルスもこの世界では視認できて、攻撃すればモンスターの様に排除できるのかもしれません」
「うーん、SFみたい……苦手だわ。つまり悪いそうな奴は倒せばいいってことね。それなら今まで通りよ」
「はははっ、そうですね。そもそも外敵というのが今存在するのか……。人間の運営サイドだってセキュリティにはそれなりに気をつかってるでしょうし、管理AIたちも目を光らせている」
「まっ、何か起きたら目に見えて変化が起こるでしょ。今はアイテムボックスを手に入れるのみ!」
「ですね! アイテムボックスを手に入れることが今一番熱い自己強化プランなのは間違いない!」
黒いブーメラン、白い剣。
二つの武器の攻撃を妨げるものは無く、ただただ進む。
不思議と連携は上手くいった。
途中、階層上昇気流に巻き込まれ離れ離れになったり、このダンジョンを攻略すればイベントクリアというそこそこの手練れプレイヤーと出くわしたりしたけど、多少時間をくっただけで大して問題ではなかった。
◆現在地
大嵐の螺旋塔:99F
当たり前だけど前回よりここに辿り着くのに時間がかかった。
前は1Fから99Fに一気に飛んだからね。
「うーん、イベント終了時って全プレイヤーにお知らせが届いたりするんでしょうか?」
「そりゃ開始の知らせが全員に届いたんだから、終了も届くんじゃない? ダンジョン内で終わったことを知らずに必死になってる人とかいたらかわいそうだし」
「ということは、まだイベントは終わっていない……ですね?」
「そう思いたいわね」
「……そういえばダンジョンから出て『証』を定着させる必要もあるんでした。急ぎましょう」
「ええ」
99Fの転移の魔法円に飛び乗りすぐさま起動。
さあ、長かったイベント最後の大勝負よ。
旋風の吹き渡る草原
黒い龍、黒い空間、クロさん……。
あれから三日経った。
二つのトップギルドによるイベントダンジョン封鎖は解除され、多くのプレイヤーがダンジョンへ流れ込んだ。
しかし、そもそも高難易度であるこのイベント。
大半のプレイヤーはダンジョンのギミックやモンスターに返り討ち、もしくは他プレイヤーにやられてペナルティを受けた。
結果として、やはり封鎖を行っていた二つのギルドのトッププレイヤーからクリア報酬である【アイテムボックス】を入手していった。
小細工がなくなった分、素の実力が高い者が勝つという当たり前の結果だけど、封鎖前に比べるとプレイヤー全体が活気づいていた。
実力を試したうえでダメだったなら諦めもつくしね。
そんな中、二つのギルドに逆らう力は無くともダンジョンを攻略する力は持っていたギルド、プレイヤーがぽつぽつと現れ始めた。
現時点で55個のみ用意されている【アイテムボックス】もその数を確実に減らしていった。
ダメだったなら諦めがつく……とはいえ、景品が残っていれば誰もがまだ自分にもチャンスがあるのではないかと理想を思い描く。
その理想が少しづつ終わろうとする今、少しピリピリした空気がAUO関係のコミュニティーに漂っていた。
かくいう私もちょっと焦っている。
イベントのトップ独走状態から一気に下位へ転落。
転落した理由はまあ仕方ないこととはいえ、やっぱり残念なのは確か。
幸い今まで攻略を共にしていたベラ、ユーリ、アイリィは無事アイテムボックスを入手していた。
でも、あえてその効果のほどは確認させてもらってない。
私は私の手でスキルを手に入れ、私自身で確認させてもらう。
その為に再びこの塔の前にやってきたのだ。
「……遅いなぁ」
アイテムボックスの数は残り二個……。
マイペースとよく言われる私も流石にこれは気にせずにいられない状況だ。
じっとしてるのがしんどい……。
今回の冒険の仲間はベラ達じゃない。
もちろん一緒に行こうと言ってくれたけど、なんだか同じダンジョンを短期間にもう一回というのは申し訳ないし、この塔の攻略に関してはいろんな意味で適任者がいる。
攻略の速度だけならそいつと組むのが最も早いかもしれない。
……なのに来るのが遅い!
「あっ、ここにいましたか! もー、探しましたよー」
「入り口がたくさんあるからってこの場所を指定したのはアンタよ!」
「えっ、そうでしたっけ? いやぁ、あの時はこの攻略プランを伝えるのにすごい緊張してて忘れちゃいました」
「……早くいくわよ」
「泣く子も黙るマココ・ストレンジもこの状況には焦りを隠せませんか?」
「あんたは焦ってないの?」
「……怖いです。団長なのに幹部みんなが持ってるアイテムボックスをもらえないかもしれないなんて……ぶるぶる」
本気で震えるんじゃない!
くぅ、この男が原因で(実は私の自滅説が有力だけど)こんな状況になってるのに、何ともマイペースだなぁ。
「アラン・ジャスティマ……私をこの塔の攻略パーティに選んだのは……」
「もちろん、強いからですよ。さあ無駄話してないで早く行きましょうよ」
くっ。
あえて言い返さずに先を急ぐ。
再び『大嵐の螺旋塔』へ突入!
◆現在地
大嵐の螺旋塔:1F
「後ろからバッサリなんてのはナシよ」
「もちろん。この剣はそんな卑怯なことをする為のものじゃないですし、今そんなことしても得はないですからね。それより、あなたこそスキルに巻き込まないでくださいよ。威力は高いですが、何とも荒削りで制御の効かない技が多そうですから」
「……気づいてた?」
「ええ、これでも最後に放ったあのスキルは最強必殺技みたいなもんで、それだけ何度も使って試してますから、手ごたえで相手を仕留め切れたかぐらいわかります。あの時はまるで手ごたえがなくて、『こりゃ完全敗北だわ……』って思ってたんですが、まさか自滅してるなんてね」
「ぐっ……流石ね……」
「しかし、本当に驚きましたよ。なんですかあの威力! まるで抑えることが出来ない力って感じでしたね」
「事実抑えられなかったんだけどね」
「まあ接続形態は強力ですから、うまく制御できるようになるまでそれなりに練習が要りますよ、普通は。あの場で手段がアレとはいえ僕を倒せたんだからそれで十分ですよ、そういう事にしといてください」
会話をしながらも雑魚モンスターを撃破し全力で疾走する。
途中、他のプレイヤーにも出会うけど、敵意を見せない限りスルー。
「そういえば、アランは私に負けた後……なんというか黒い空間に行った?」
「いや、僕は白い空間でしたね。シロさんに会いました。なら、マココさんはクロさんに?」
「そうそう、それで……なんというか私には要約が難しい話をされたわ」
「管理AIとシロムクのような【心】を持った道具との関係性、それにこの世界『フェアルード』を守るとかいう話ですね」
「あんたはどう思う? 私はよくわからない」
「それ、議論する気ないでしょ!」
アランが笑う。
「そうですねぇ……僕は『何から守るか』に疑問を持ちました。そしてそれはおそらく『外敵』からだと考えます」
「外敵……ねぇ。私も統括管理AIがゲームを面白くするために生み出した敵に対処するって意味ではないような気がしてたけど、管理の外からの敵なら……」
「ウイルス対策ソフトみたいなもんですね。外から入ってきて電子世界を壊す悪い奴らへの対抗策」
「でも、仮にそうだとして……この世界で強いことが対策になるのかしら? あんまり知識ないんだけど、ウイルスって目に見えないんじゃ……」
「ここはサーバーの中、つまり目には見えない世界です。僕たちはそこへ意識をつないで冒険している……。ですから、その外敵的なウイルスもこの世界では視認できて、攻撃すればモンスターの様に排除できるのかもしれません」
「うーん、SFみたい……苦手だわ。つまり悪いそうな奴は倒せばいいってことね。それなら今まで通りよ」
「はははっ、そうですね。そもそも外敵というのが今存在するのか……。人間の運営サイドだってセキュリティにはそれなりに気をつかってるでしょうし、管理AIたちも目を光らせている」
「まっ、何か起きたら目に見えて変化が起こるでしょ。今はアイテムボックスを手に入れるのみ!」
「ですね! アイテムボックスを手に入れることが今一番熱い自己強化プランなのは間違いない!」
黒いブーメラン、白い剣。
二つの武器の攻撃を妨げるものは無く、ただただ進む。
不思議と連携は上手くいった。
途中、階層上昇気流に巻き込まれ離れ離れになったり、このダンジョンを攻略すればイベントクリアというそこそこの手練れプレイヤーと出くわしたりしたけど、多少時間をくっただけで大して問題ではなかった。
◆現在地
大嵐の螺旋塔:99F
当たり前だけど前回よりここに辿り着くのに時間がかかった。
前は1Fから99Fに一気に飛んだからね。
「うーん、イベント終了時って全プレイヤーにお知らせが届いたりするんでしょうか?」
「そりゃ開始の知らせが全員に届いたんだから、終了も届くんじゃない? ダンジョン内で終わったことを知らずに必死になってる人とかいたらかわいそうだし」
「ということは、まだイベントは終わっていない……ですね?」
「そう思いたいわね」
「……そういえばダンジョンから出て『証』を定着させる必要もあるんでした。急ぎましょう」
「ええ」
99Fの転移の魔法円に飛び乗りすぐさま起動。
さあ、長かったイベント最後の大勝負よ。
応援ありがとうございます!
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