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第1部

デート?いえただの買い物なんです……

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 六時限目も終了し、少し待っていると幼馴染みが教室に入ってきた。
「お待たせ、誠。」
 ニコニコと笑みを浮かべている。機嫌は良いようだ。

 五時限目が終わった時に弁当箱買ってくるから後で自宅に届けて良いとラインで聞いたら一緒に買いに行くとの事だった。
「こんにちは、香月さん」
 隣の席の武田さんが微笑を浮かべて声をかけるが、笑みが若干冷たい気がするのだが気のせいだろうか?

「こんにちは、武田さん。三日ぶりだったかな?」
 エミリアも笑みは崩さないものの、目が笑っていない。
 実は機嫌が悪いのかな?
 弁当箱の買い物に行くのが実は嫌だったりするのだろうか……
 俺は少し心配になりながらも彼女らの話を見守る。

「香月さん、今日八神君と遊びにいくのですか?」

「うん、今日デート」
 俺は思わず吹き出した。
 何言ってるんだ!?
 武田さんも少しショック受けているようだが、俺もびっくりだよ。
「デートじゃなくて買い物なんだけど……」
 俺が口出しすると、エミリアさんは俺の唇に白い人差し指を当てて言葉を遮る。
「買い物でも当の本人がデートだと思えばデートになるんだよ。」
 幼馴染みは少し顔を赤くしながら、俺の右手を両手で持って立ち上がらせ、そのまま右手に抱きついてきた。
 柔ら……胸当たっているんですけど
「何するんだよ」
 そして、残っているクラスメートもじーと見てるよ。
 ここまで来ると素直に恥ずかしい。
 そして、男子怖いよ。そう睨み付けないで、気持ちは解るけど、でも実際は仲の良い幼馴染みなだけなんですよ

「誠が遅いんだもん。」
 白い頬っぺたを膨らませてエミリアは不満そうに言う。
「遅いも何もエミリアは今来たばかりだよね。と言うか離して」
 言ってる事とやっている事が無茶苦茶だ。そして、もうクラス中の視線が集中している。
「えー」
 とエミリアは不満そうだが、しぶしぶ離してくれた。
 しかし、耳元に口を近づけて
「ブラジャー越しでも柔らかったでしょう?何なら今度生でも触ってみる?」
 と小さな声で呟いた。
 おい、何て言う事を言うんだ、思わず息子が反応しそうに……そして宜しくお願いしますと答えそうになったじゃないか。
 そして、顔がとても熱く感じる。恐らく顔が赤くなっているんだろう。
 また幼馴染の顔も若干赤い。恥ずかしいならこんな悪戯最初からやらなければ良いのに……
 俺が黙ると、金髪の幼馴染みはニッコリと笑みを浮かべると
「またね。武田さん」
 と別れを告げる。
「ええ……さようなら、香月さん」
 武田さんも笑みを浮かべて答えるが、その笑みからは強い怒りが何となく感じられた。


 ☆☆☆☆


 弁当箱を購入した俺達は長くバスを待たないといけないので、街を適当にぶらぶらしていると、エミリアの視線がアクセサリー等が売っている露店の銀色の指輪で一瞬固まったのに気付いた。
 どうやら、気に入ったようだ。弁当を作ってくれるお礼に買おうと思って値札を見ると約五千円。買えなくはないけど、結構厳しい
 しかし、なんだかんだでお世話になっているし、これからお世話になるからな。

「その指輪欲しいの?」
 俺が尋ねるとエミリアは頷きながら
「そうなんだけど、流石に五千円となると今月は厳しいかな」
 今月じゃないなら厳しくないの?
 まあ、こいつも俺と違って金持ちの令嬢だからな。普段はそう見えないけど……

「なら、俺が買おうか?」
 俺の言葉を聞いてエミリアの目が丸くなる。
「えっ。新作のソフト買うんじゃなかったの?」

「まあ、春休みバイトに出ていたから何とかなる。」
 実は結構痛いけど、まあこれから弁当作ってもらうんだからこのぐらいのお礼は当然かなとも思わなくもない。
「ほんとに良いの?」
 エミリアが尋ねてくるので、俺は頷く。
「なら甘えちゃうね。」
 エミリアは心底嬉しそうに言う。
 シルバーのリングを購入すると、エミリアはそのままつけていく事を選び、右手の薬指にはめていた。

 露店から少し離れた所で、隣を歩いていたエミリアが急に止まり、リングのはまった手を上にかざして、満面の笑みを浮かべながら
「ありがとう、誠。一生の宝物にするね」
 と言ったのだ。
 その姿は天使が降臨したかのようにとても可愛かった。


 ☆☆☆☆


 買い物を済ませて、最寄りのバス停で缶コーヒーを飲みながら待っていると
「誠、今週の土日暇?」
 と尋ねてくる。
「今週は無理。来週ならOKだけど何で?」

「武田さんにこの街を案内するってこの前約束したじゃない?」
 その約束って俺も含まれるのね。
 俺はコーヒーを飲み干し、空き缶をゴミ箱にいれる。
「了解。武田さんとエミリアが良ければ来週の土曜日が助かるよ」

「あたしはどちらでも良いから、明日武田さんに来週の予定を聞いてみようか」


 ☆☆☆☆


 武田・薫視点

 自分の部屋に戻った私はそのままベットにごろッと横になる。
 今日は夕飯を作る気にはなれなかったので、帰りに弁当を買ってきた。
「あの女本当に厄介ね」
 私は恋人でもない人に対して……しかも皆の前であんな行為におよぶなんてできない。

 しかし、何とかしなければ勝ち目はない。
 ただでさえ香月さんが優位なんだから。十数年一緒に過ごしてきたと言うのは大きな強みだ。割り込むのは常識的に考えて難しいだろう。しかし、それは最初から覚悟していた事。

「とりあえず、少しでも切り離していくしかないわね。」
 どうやって切り離していくのか……これが大問題だけど。
 現状良い案が思い浮かばない。
「まずは今週の買い物で少しでも八神君との関係を進められるよう努力しよう。やれる事からまず全力を尽くさないとね」


 ☆☆☆☆


 香月・エミリア視点

 誠との買い物も終わり、夕飯食べて、風呂に入った後、あたしは机の椅子に座る。
 これから、宿題をしなければならないが、まあそれは後回しだ。
「財閥令嬢じゃなければね……」

 一般人なら誠に近づく女は直接排除してやるのだけど、流石に財閥令嬢は直接手は出せない。リスクが高すぎる。直接手を出すのは最終手段とせざるを得ない。
 だけど、他の男を好きになるように誘導するのであれば、リスクはないよね。
「まずは陽平から試すとして……後は」

 あたしが女である事を積極的にアピールするのも同時に進めなければならない。
 家庭的である事をアピールする事も重要だが、今日みたいに体を使ったアピールも必要だろう。
(皆の前でするのは少し恥ずかしいけど、ライバルがいるのであれば恋は総力戦だ。あらゆる手を使って勝たねばならない、いや必ず勝つ)と誠に買ってもらったリングを見ながら誓う。
「問題は……」
 問題は誠が引く、引かない範囲を見極めだ。今日みたいに誠がこっそりと喜ぶ範囲が理想……

「今更出てきた泥棒猫なんてあたしは絶対に認めない。」


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