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第1部

決意

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 エミリアと話をしながら駅前の噴水広場にいくとすでに陽平や武田さんがベンチに座って待っていた。

 陽平はジャージに上は黒い運動用のメンズを着て、学校指定のリュックを膝に置いている。まあ、昼から部活と言っていたし、そのまま行くのだろう。

 武田さんは青いジーパンにデザインの入った黒いパーカー。めちゃめちゃ様になっている。
「おはよ、武田さん、そしてついでに陽平」
 俺が挨拶すると、陽平が苦笑いを浮かべながら
「俺はついでかよ」
 と少し不満そうに言ってくる。
 そりゃ、男と美少女とじゃ扱いは当然違うだろう。
「おはよ、武田さん、陽平。」
 俺の隣を歩いていた金髪の幼馴染も話に入ってきた。

 そして、武田さんと陽平もエミリアがつけている指輪に気づいたらしく、陽平が尋ねてくる。
「エミリア、その指輪新しく買ったの?」

 それに対してハーフの幼馴染は満面の笑みで
「うん。誠が買ってくれたんだよ。」
 と答えている。余程気に入ってくれたんだなと嬉しく思っていると幼馴染が何故か爆弾を投下する。
「婚約指輪って」
 エミリアは人の悪い笑みを浮かべて特に武田さんにそれを見せつけるように手を動かす。

 武田さんと幼馴染の間で激しい火花が散ったように見えるのは俺の気のせいかな?
「いきなり何言い出してるんだよ。」
俺は肘でエミリアをつつきながら続ける。
「最近、エミリアに弁当作ってきてくれる事になったからそのお礼に買った奴。エミリアが欲しそうにしていたから……」
 もう弁当作ってきてもらってるのはばれているため、まあこれをばらしても問題ない。

「成程ね」
 陽平は苦笑を浮かべながら頷き、武田さんは無表情で無言。

 微妙な雰囲気になっているのを感じたのか、エミリアは「軽い冗談だったんだけど、何かごめんね」と両手を合わせて軽く謝罪した事でとりあえず落ち着いた。


☆☆☆☆


「武田さん、この近辺で行った所ある?」
 エミリアがニコニコしながら武田さんに尋ねている。
「とりあえず、山内デパートなら行きましたけど。」

「成る程。なら……」
 幼馴染は武田さんの答えに顎に手を当てながら尋ねる。
「なら、まずフリーマートの場所を教えた後良く使いそうな店を回るで良いかな?」
 フリーマートはこの近辺じゃ安く、品揃えもまあまあなスーパーだ。
 まあ、日常品の大半はそこから買った方が安上がりだろう。

「良いんじゃない。」
 陽平が同意して、俺も頷く。
「それでお願いします。」
 武田さんも頷き、繁華街を通って移動する事となった。

 フリーマートに歩いて移動中、エミリアは市外にあるアウトレットやフリーマート以外のスーパーの場所を説明していた。
 結構、解りやすい。
 その後はエミリアや陽平が良く話題をふっていた。
 と言うか、こいつら人慣れしているね。

 まあ、なんだかんだて人気者だからね、この二人は。
 武田さんも結構友人出来ていた。エミリアと仲の良い女子や男子からは何故か距離を取られているみたいだけど。


 ☆☆☆☆


 四十分程歩いてフリーマートについた後、飲み物を買い、次はドラッグストアに向かった。
 生理用品等もいるでしょうとエミリアの言葉に従って。
 女性の事は女性が気づくね。俺は普通に気づけなかったよ。

 その後は女性専門の衣服店にエミリアと武田さんが入っていた。
 俺と陽平は店外で待機。女性用の下着等俺には見れません、刺激が強くて。

 適当に陽平と雑談していると、隣に立つ親友は突然
「まあ、仕方ないけどこう言う店にもちょっとは慣れないとな。彼女が出来た時のためにも。」
 と言い始めた。

「彼女とかいないし……そもそも出来るか解んねぇよ。」
 自分で言ってて悲しくなってくる。
 だが陽平と違って俺はフツメンだし、人付き合い等も上手くないんだよ。
「でも、武田さんから告白されたんだろう?」
 陽平は苦笑を浮かべながら言ってくる。
「そうだけど……って俺その事話したっけ?」
 言った覚えないんだけど。

「お前と武田さん見ていれば解るよ。」
 そんなに解りやすかったのか?
 と言う事はエミリアも気づいているのか?
 いや陽平が気づけている事を、エミリアが気づいていない訳がない。
 それなのに黙ったままと言う事は幼馴染として見守ってくれていると言う事なのだろうか。

 まあ、兄妹当然に育ったものだしな……見守ってくれているのだろう。
 むしろ、エミリアがこれを企画したり、婚約指輪と言う冗談を言って武田さんを何故か煽ったりした事を考えると、俺と武田さんが付き合う事を応援しているのかな……
 そのように考えていると胸が少しチクッとした。

 何故だろう?と考えていると陽平が
「武田さんどうよ?めちゃくちゃ美人だし性格も良さそうだけど」
 と話始めてきたため、俺は考えるのを止めて答えた。
「良い娘だと思うけどまだわからない。」

「成る程。脈はあると……」
 脈?どう言う事……
 陽平の呟きに反応しようとした時、
「お待たせ」 
 とエミリアと武田さんが店から出てきて、陽平との会話は終わった。


☆☆☆☆


 その後、俺達は時刻が十二時にせまりつつあったため、商店街の中でも飲食店が集まる区域のマ◯クに移動していた。

 土曜日だからか、そこそこ人も多い。
 カウンター前の列に並ぶ事にする。
「とりあえず注文終わったら武田さんとエミリアには席をとってもらおうか。」
 陽平の提案に俺達が頷いた瞬間、とてつもない轟音、いや爆発音が聞こえてきた。

 ガス爆発?
 飲食店が集まっている区域である以上おかしくない。
 俺はとっさに後ろに立っていた幼馴染を抱き寄せていた。

「あ……誠……その、あたしは大丈夫だから……」
 耳元から細い幼馴染の声が聞こえる。
「ご……ごめん。」
 俺は謝りながら幼馴染を放した。
「なんで謝るの?庇おうとしてくれたんでしょう?」
 幼馴染の顔は真っ赤だった。しかし、声はどこが上機嫌。多分高校の合格発表で合格と見つけた時より機嫌良いかも知れない。
「今の爆発ヤバいんじゃない?」

「避難しなきゃ」
 等の周りの声で俺は我に帰る。
「皆さん、店を出て避難してください」
 と店員から言われ、俺達も慌てて店を出た。

 五百メートルぐらい離れた店が火事になっているらしく、避難客で外は溢れていた。俺達はその商店街から急いで離れ、そのまま解散した。

 そして、今俺はコンビニでパンを買いエミリアとともに俺の家に移動中である。
 いつもなら喋ってくれる幼馴染は先ほどから黙りである。
 流石に恥ずかしかったのだと思うけど、この幼馴染も結構似たようなスキンシップを俺に取ってくるのだが……

 そう考えると俺も若干恥ずかしくなってきた。いくら庇おうとしてとは言え、人前で女子を抱き寄せたのだから。
 しかし、たまに俺から話をふると返してくれるし、声色から判断するに機嫌は悪くはなさそう。
 俺がそう思っていると、エミリアは突然立ち止まる。
「どうした?何か忘れ物」
 俺も立ち止まり、後ろに振り替える。
 見えたのは真っ白な頬を赤くした幼馴染。しかし、見慣れた青い瞳には緊張が走っていた。

「あのさ、誠。変な事を聞くかも知れないけど良いかな?」
 声もいつもよりはるかに真剣な物である。と言うか、ここまで真剣に俺に話しかけた事はあったかな?と言うレベル。
 だからこそ、俺も何か緊張してくる。
「全然OKだけど、どうした?」


☆☆☆☆


 エミリア視点

 ヤバい、頭が沸騰して頭が回らない。
 本来のあたしならみんなで別の場所で食べようと提案しただろう。

 しかし、あの時は誠に庇うために抱き寄せられた事で頭一杯だったし、何より誠以外邪魔としか思えなかった。
 まあ、あの泥棒猫は最初から邪魔者でしかないけど……
 誠の隣を歩きながら
(このまま二人だけの状況がいつまでも続けば良いのに……)
 と心の中で願う。
(いや……そう思っているだけじゃ駄目。)

 今まではそれで良かった。強力なライバルがおらず、あたしが積極的に動かなくてもいずれ誠と付き合えていたであろう。そのための根回しは十分にしてきた。
 しかし、強力なライバルの出現により状況は大きく変わった。
 誠との関係が壊れてしまったらと足踏みしていたら、いずれあの泥棒猫に奪われてしまうかも知れない。そんなのは絶対嫌
 ならば、ガンガン攻めるしかない。
 この前風邪ひいた時に誠が看病してくれた時にあたしに欲情してくれてた。
 すなわち、あたしを女として認識させる事は可能だと言う事。

 後、当面確認すべき問題はこれだけ。これがクリア出来ればあの泥棒猫と正面決戦となったとしても勝ち目は十分にある。
 それを確認するために、あたしは足を止めた。その事を誠に確認するために
 
 エミリア視点終了


 ☆☆☆☆

「もしも誠が彼女を作るなら、共通の趣味とかって欲しい?」
 エミリアの言葉を聞いて少し拍子抜けする。
 ここまで真剣に尋ねてくるから何か大事に巻き込まれたりするのかと構えちゃったよ。

 ただ茶化して答えられる雰囲気ではない。まあ、エミリアが真剣に尋ねて来たら茶化して答えるなんて事絶対しないけどさ。
「う~ん。まあ、一般的に言えばそうで……」
 俺は一般論で答えようとするが、エミリアに途中で遮られる。
「他人の事なんて聞いてない。あたしが聞いているのは誠がどう思うかだよ」
 俺の答えなんて聞いてどうするんだ?もしかして、知り合いの娘を紹介してくれるとか……それはないか。

 何故エミリアがこんな事を聞いてきたか気になるけど、まあ別に答えにくい物ではない。
「まあ、俺の場合どうでも良いかな。まああったらあったらで話題となにはなるけど、なくても特に困らないと思う。例えばエミリアと趣味って結構違うけど楽しくやってるじゃん。だから、そこまで重要じゃないかなって。ごめん、何か上手く説明できなくて……」

「ううん。誠の言いたい事は解るよ」
 エミリアは首を何度か横に振って続ける。
「ありがとう、誠。すっごく参考になった!」

「でも、何でそんな事聞いたんだ?」
 俺は先程思った疑問を口にした。
「そうだね……」

 エミリアは不敵な笑みを浮かべて続ける。
「最近出て来た猫に勝つためかな」

「意味が解らん。」
 エミリアが言う猫と俺が何の関係が……いや、もしかして何か俺に関係ある事なのか。思い当たる節が全くなくて少し不安になってきたぞ。

 俺の不安に気が付いたのか、エミリアは天使のような優しい笑みを浮かべて
「大丈夫。あたしは絶対に負けないから。」
 と宣言した後、さらに続けた。
「だから今までと一緒。誠が不安になる事は何一つないよ」
 エミリアの表情と言葉は優しかったが、俺の不安が何一つ解消されていない。
 俺は心の中で
(面倒事にならなければ良いけど……)
 と呟きながらため息をつく。
 エミリアに面倒事が起きた場合、俺には見えないふりをする事は恐らく出来ないだろうから、巻き込まれるのは確定である。
 まあ、しかしエミリアを見捨てるような事はしたくないし、第一出来ない。最低でもエミリアに良い彼氏が見つかるまでは……

 ☆☆☆☆


 武田薫視点

 私と山口君は商店街から歩いて三十分ぐらい離れたファミレスに入っていた。
 昼食の注文を終え、早速私は本題に入る。
「あなたと手を組みます。」

 今日の昼に理解した。
 このままでは香月さんに勝てない。
 とっさに庇うと言う事は八神君が愛している女性は彼女の可能性は高い。
 だからと言って諦めらるのか……
 無理だ。私を武田家の令嬢関係なしに私を見てくれた運命の人なのだから……
 ならば何が何でも奪いとるしかない。
 手段を選んでいる余裕はない……所詮手段を選べるのは余裕がある人間だけなのだから……



 後書き
 これで第1部は完結です。第1部はエミリアのターンが多かった気がしますので、第2部は薫のターンを増やしていければ良いな……

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