異世界に帰った想い人を待つ男と、異世界渡りで記憶と顔をなくした想い人が二度目の恋をする話

こぶじ

文字の大きさ
22 / 57
第二章

21:恋心と嫉妬1

 いつだったか、常連客の女の子が「ロードリックさんってなんだかすごくキレイな野生の動物みたい」なんて言ったことがあった。警戒心が強くて全然近寄れないって意味らしい。それを聞いていた酒場の女将さんはふふふって笑って、「貴女みたいに可愛い女の子と仲良くおしゃべりしたら、大事な恋人に怒られちゃうからじゃないかしら」っておっとりとフォローしてて何だかいいなって思ったことがある。

 確かに傍目から見てると、ロードリックさんの空気感はなんとなく硬い。でも一緒に過ごしてみるとわかるけど、ロードリックさんはどちらかというと人が好きだと思う。人混みを避けたりしないし、人の話をよく聞いているし、周囲への気遣いが自然だ。

 ロードリックさんと初めて話したのは、酒場で客と店員としてだった。当たり前の会話しかしてないから、ロードリックさんはあんまり覚えてないだろうな。今更、覚えてる?なんて聞く勇気なんてないけど、その時のロードリックさんは俺を警戒してか、はっきりと他人としての距離を取ろうとしてた気がする。





「ユセ。君の番だよ」

 戦盤上に新しく持ち駒を置いた後、まるでそういうものみたいな自然さでロードリックさんが俺の手を上から包むみたいに握った。びっくりして払ってしまわなかった俺を褒めてほしい。俺はどきどきばくばく変な動きをする心臓を騙し騙し、「ごめんなさい。ぼんやりしてた」となんてことないふりをする。
 たぶんロードリックさんは本来すごく人との距離が近い人なんだと思う。こう言う接触が一度や二度じゃないから困る。俺の気なんか知らないで、ロードリックさん本人は涼しい顔なのが憎らしい。

「これ難しいですね。この駒はどうやって動くんでしたっけ」

「ああ。確かこことここじゃないかな。今ならこっちに置いた方が面白そうだ」

「じゃあそうします」

「そうか。では私はこちらに」

 初めて遊ぶ戦盤だったけど、ロードリックさんはあまり長考しないのでするする戦局が進む。今みたいに新しいゲームで遊ぶと勝率は半々くらいなんだけど、やり込んでいくうちにロードリックさんの勝率がじりじり上がるから本当に頭のいい人だと思う。

 俺の恋心無しにしても、ロードリックさんと遊ぶのはとても楽しい。ボードゲームひとつとっても、ロードリックさんはただ単純に勝ち負けに一喜一憂するんじゃなく局面を楽しむ質みたいで、一緒に試行錯誤していると俺もわくわくする。
 ついこの間の休日に馬の乗り方を教えてもらった時は、ロードリックさんがあまりに褒め上手でやたらと照れてしまった。その前の休日には道具市に連れてってもらい、熱心に魔導具の説明をするロードリックさんが楽しそうで可愛かった。更にその前は、俺が首都は海が遠いからたまに海魚も食べたくなるって、と言ったのを覚えててくれて、大きな商店でわざわざ海魚のオイル漬けを取り寄せてくれた。

 よくできた人だと思う。きっとロードリックさんの恋人も素敵な人なんだろう。
 酒場ではロードリックさんの恋人についていろいろ噂されていた。堂上方のお嬢さまだとか、熱心な仕事人間だとか、敬虔な宗教家だとか、ロードリックさんが何も言わないのをいいことに好き放題だ。正解がわからないから終わりもなく、ロードリックさんの人気も途絶えないからみんな不思議と飽きもしない。
 ロードリックさんに想いを寄せてる女性は数え切れないくらいいて、俺がロードリックさんと親しく過ごすようになってからはロードリックさんとお付き合いしているのかと突拍子もなく尋ねられることが増え、それを否定すればじゃあロードリックさんの恋人はどんな人かと尋ねられる。そんなの俺が知るわけないのに。
 俺が知ってることは他の人たちと同じで、ロードリックさんの恋人はすごく遠くに住んでいるってことだけ。だからロードリックさんは恋人と会えない間の暇な週末を俺と過ごしてくれるわけだ。



「もうこんな時間か」

 戦盤でじっくり遊んで、俺がニ連敗したところでロードリックさんが窓から差し込む西日を見て手を止めた。

「日が落ちるの早くなりましたね。俺そろそろお暇します」

 首都は夏は短く秋が長いらしい。夜が長い場所ってなんだかロマンチックな感じがする。
 机の上を片付けようと駒に手を伸ばすと、「いいよ」と手首を柔らかくつかまれて止められた。魔導具師の仕事は室内に閉じこもってばかりの地味な仕事だなんて本人は言うけど、ロードリックさんの手はよく鍛錬をしてる兵士みたいに少し硬くて温かい。

「後で片付けておくからそのままでいいよ。ユセはこのまま仕事に行くんだろう?パンを出すから少し腹に入れて行きなさい」

「あ、はい。ありがとうございます」

 酒場のまかないが出るのは真夜中だから、ロードリックさんの提案がありがたいのは事実だ。
 つかまれたままの手首を引かれて、ソファーからダイニングチェアに誘導される。されるがままに俺が座ると、ロードリックさんは子供するみたいにニ回ゆっくり俺の頭を撫でてから台所の奥の食糧庫に入っていった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

【運命】に捨てられ捨てたΩ

あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

あなたの愛したご令嬢は俺なんです

久野字
BL
「愛しい令息と結ばれたい。お前の家を金銭援助するからなんとかしろ」 没落寸前の家を救うため、強制的な契約を結ばれたアディル。一年限りで自分の体が令嬢に変わる秘薬を飲まされた彼は、無事に令息と思いを通じ合わせることに成功するが……