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第二章
21:恋心と嫉妬1
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いつだったか、常連客の女の子が「ロードリックさんってなんだかすごくキレイな野生の動物みたい」なんて言ったことがあった。警戒心が強くて全然近寄れないって意味らしい。それを聞いていた酒場の女将さんはふふふって笑って、「貴女みたいに可愛い女の子と仲良くおしゃべりしたら、大事な恋人に怒られちゃうからじゃないかしら」っておっとりとフォローしてて何だかいいなって思ったことがある。
確かに傍目から見てると、ロードリックさんの空気感はなんとなく硬い。でも一緒に過ごしてみるとわかるけど、ロードリックさんはどちらかというと人が好きだと思う。人混みを避けたりしないし、人の話をよく聞いているし、周囲への気遣いが自然だ。
ロードリックさんと初めて話したのは、酒場で客と店員としてだった。当たり前の会話しかしてないから、ロードリックさんはあんまり覚えてないだろうな。今更、覚えてる?なんて聞く勇気なんてないけど、その時のロードリックさんは俺を警戒してか、はっきりと他人としての距離を取ろうとしてた気がする。
「ユセ。君の番だよ」
戦盤上に新しく持ち駒を置いた後、まるでそういうものみたいな自然さでロードリックさんが俺の手を上から包むみたいに握った。びっくりして払ってしまわなかった俺を褒めてほしい。俺はどきどきばくばく変な動きをする心臓を騙し騙し、「ごめんなさい。ぼんやりしてた」となんてことないふりをする。
たぶんロードリックさんは本来すごく人との距離が近い人なんだと思う。こう言う接触が一度や二度じゃないから困る。俺の気なんか知らないで、ロードリックさん本人は涼しい顔なのが憎らしい。
「これ難しいですね。この駒はどうやって動くんでしたっけ」
「ああ。確かこことここじゃないかな。今ならこっちに置いた方が面白そうだ」
「じゃあそうします」
「そうか。では私はこちらに」
初めて遊ぶ戦盤だったけど、ロードリックさんはあまり長考しないのでするする戦局が進む。今みたいに新しいゲームで遊ぶと勝率は半々くらいなんだけど、やり込んでいくうちにロードリックさんの勝率がじりじり上がるから本当に頭のいい人だと思う。
俺の恋心無しにしても、ロードリックさんと遊ぶのはとても楽しい。ボードゲームひとつとっても、ロードリックさんはただ単純に勝ち負けに一喜一憂するんじゃなく局面を楽しむ質みたいで、一緒に試行錯誤していると俺もわくわくする。
ついこの間の休日に馬の乗り方を教えてもらった時は、ロードリックさんがあまりに褒め上手でやたらと照れてしまった。その前の休日には道具市に連れてってもらい、熱心に魔導具の説明をするロードリックさんが楽しそうで可愛かった。更にその前は、俺が首都は海が遠いからたまに海魚も食べたくなるって、と言ったのを覚えててくれて、大きな商店でわざわざ海魚のオイル漬けを取り寄せてくれた。
よくできた人だと思う。きっとロードリックさんの恋人も素敵な人なんだろう。
酒場ではロードリックさんの恋人についていろいろ噂されていた。堂上方のお嬢さまだとか、熱心な仕事人間だとか、敬虔な宗教家だとか、ロードリックさんが何も言わないのをいいことに好き放題だ。正解がわからないから終わりもなく、ロードリックさんの人気も途絶えないからみんな不思議と飽きもしない。
ロードリックさんに想いを寄せてる女性は数え切れないくらいいて、俺がロードリックさんと親しく過ごすようになってからはロードリックさんとお付き合いしているのかと突拍子もなく尋ねられることが増え、それを否定すればじゃあロードリックさんの恋人はどんな人かと尋ねられる。そんなの俺が知るわけないのに。
俺が知ってることは他の人たちと同じで、ロードリックさんの恋人はすごく遠くに住んでいるってことだけ。だからロードリックさんは恋人と会えない間の暇な週末を俺と過ごしてくれるわけだ。
「もうこんな時間か」
戦盤でじっくり遊んで、俺がニ連敗したところでロードリックさんが窓から差し込む西日を見て手を止めた。
「日が落ちるの早くなりましたね。俺そろそろお暇します」
首都は夏は短く秋が長いらしい。夜が長い場所ってなんだかロマンチックな感じがする。
机の上を片付けようと駒に手を伸ばすと、「いいよ」と手首を柔らかくつかまれて止められた。魔導具師の仕事は室内に閉じこもってばかりの地味な仕事だなんて本人は言うけど、ロードリックさんの手はよく鍛錬をしてる兵士みたいに少し硬くて温かい。
「後で片付けておくからそのままでいいよ。ユセはこのまま仕事に行くんだろう?パンを出すから少し腹に入れて行きなさい」
「あ、はい。ありがとうございます」
酒場のまかないが出るのは真夜中だから、ロードリックさんの提案がありがたいのは事実だ。
つかまれたままの手首を引かれて、ソファーからダイニングチェアに誘導される。されるがままに俺が座ると、ロードリックさんは子供するみたいにニ回ゆっくり俺の頭を撫でてから台所の奥の食糧庫に入っていった。
確かに傍目から見てると、ロードリックさんの空気感はなんとなく硬い。でも一緒に過ごしてみるとわかるけど、ロードリックさんはどちらかというと人が好きだと思う。人混みを避けたりしないし、人の話をよく聞いているし、周囲への気遣いが自然だ。
ロードリックさんと初めて話したのは、酒場で客と店員としてだった。当たり前の会話しかしてないから、ロードリックさんはあんまり覚えてないだろうな。今更、覚えてる?なんて聞く勇気なんてないけど、その時のロードリックさんは俺を警戒してか、はっきりと他人としての距離を取ろうとしてた気がする。
「ユセ。君の番だよ」
戦盤上に新しく持ち駒を置いた後、まるでそういうものみたいな自然さでロードリックさんが俺の手を上から包むみたいに握った。びっくりして払ってしまわなかった俺を褒めてほしい。俺はどきどきばくばく変な動きをする心臓を騙し騙し、「ごめんなさい。ぼんやりしてた」となんてことないふりをする。
たぶんロードリックさんは本来すごく人との距離が近い人なんだと思う。こう言う接触が一度や二度じゃないから困る。俺の気なんか知らないで、ロードリックさん本人は涼しい顔なのが憎らしい。
「これ難しいですね。この駒はどうやって動くんでしたっけ」
「ああ。確かこことここじゃないかな。今ならこっちに置いた方が面白そうだ」
「じゃあそうします」
「そうか。では私はこちらに」
初めて遊ぶ戦盤だったけど、ロードリックさんはあまり長考しないのでするする戦局が進む。今みたいに新しいゲームで遊ぶと勝率は半々くらいなんだけど、やり込んでいくうちにロードリックさんの勝率がじりじり上がるから本当に頭のいい人だと思う。
俺の恋心無しにしても、ロードリックさんと遊ぶのはとても楽しい。ボードゲームひとつとっても、ロードリックさんはただ単純に勝ち負けに一喜一憂するんじゃなく局面を楽しむ質みたいで、一緒に試行錯誤していると俺もわくわくする。
ついこの間の休日に馬の乗り方を教えてもらった時は、ロードリックさんがあまりに褒め上手でやたらと照れてしまった。その前の休日には道具市に連れてってもらい、熱心に魔導具の説明をするロードリックさんが楽しそうで可愛かった。更にその前は、俺が首都は海が遠いからたまに海魚も食べたくなるって、と言ったのを覚えててくれて、大きな商店でわざわざ海魚のオイル漬けを取り寄せてくれた。
よくできた人だと思う。きっとロードリックさんの恋人も素敵な人なんだろう。
酒場ではロードリックさんの恋人についていろいろ噂されていた。堂上方のお嬢さまだとか、熱心な仕事人間だとか、敬虔な宗教家だとか、ロードリックさんが何も言わないのをいいことに好き放題だ。正解がわからないから終わりもなく、ロードリックさんの人気も途絶えないからみんな不思議と飽きもしない。
ロードリックさんに想いを寄せてる女性は数え切れないくらいいて、俺がロードリックさんと親しく過ごすようになってからはロードリックさんとお付き合いしているのかと突拍子もなく尋ねられることが増え、それを否定すればじゃあロードリックさんの恋人はどんな人かと尋ねられる。そんなの俺が知るわけないのに。
俺が知ってることは他の人たちと同じで、ロードリックさんの恋人はすごく遠くに住んでいるってことだけ。だからロードリックさんは恋人と会えない間の暇な週末を俺と過ごしてくれるわけだ。
「もうこんな時間か」
戦盤でじっくり遊んで、俺がニ連敗したところでロードリックさんが窓から差し込む西日を見て手を止めた。
「日が落ちるの早くなりましたね。俺そろそろお暇します」
首都は夏は短く秋が長いらしい。夜が長い場所ってなんだかロマンチックな感じがする。
机の上を片付けようと駒に手を伸ばすと、「いいよ」と手首を柔らかくつかまれて止められた。魔導具師の仕事は室内に閉じこもってばかりの地味な仕事だなんて本人は言うけど、ロードリックさんの手はよく鍛錬をしてる兵士みたいに少し硬くて温かい。
「後で片付けておくからそのままでいいよ。ユセはこのまま仕事に行くんだろう?パンを出すから少し腹に入れて行きなさい」
「あ、はい。ありがとうございます」
酒場のまかないが出るのは真夜中だから、ロードリックさんの提案がありがたいのは事実だ。
つかまれたままの手首を引かれて、ソファーからダイニングチェアに誘導される。されるがままに俺が座ると、ロードリックさんは子供するみたいにニ回ゆっくり俺の頭を撫でてから台所の奥の食糧庫に入っていった。
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