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【前世】王弟と神官の出会い
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新王が即位した宴の席には、平素人目を避けるように神殿に籠もっている特別位神官が祝祷を述べに来た。
荘厳な王城にあっては、貴族のように飾り立てることのない神官たちは悪目立ちするのが常であるが、簡素な祭服を召しただけの今代の特別位神官は、贅を尽くしたドレスを着た貴族令嬢よりも輝かしく美しく神々しかった。
純白の絹糸のように艷やかで腰に届く髪、赤みも黄みも青みもないただひたすらに滑らかな白磁の肌が、シャンデリアの灯りの元に透き通るように映える。真冬の凍りつく湖のような青灰色の神秘的な瞳を湛えた眦は、慈愛に満ちて優しげに下げられており、また、白を基調とした祭服が彼の清廉さをより一層引き立てる。祭服に包まれた身体はすらりとした手足が印象的だが、程よく筋肉も乗っており見窄らしさは皆無だ。
今代の特別位神官は、名をエゼキエルという。特異な色味と美貌で数多を魅力する。高位神官として神殿が厚く保護していなければ、エゼキエルを欲し、その貞操を奪い害そうとする人間は後を絶たないだろう。
エゼキエルが王城の大広間に足を踏み入れた瞬間に、誰もが宴の主役が取って代わられたかのような錯覚を覚えた。王族も貴族も友好国の来賓も、皆例外なく視線を奪われた。末端の使用人ですら無意識に職務の手を止めてしまう程、かの存在感は凄まじかった。ひと目で彼に心惹かれる者は数え切れず、新王の弟であるミラードもまたその一人だった。
「エゼキエル猊下にご挨拶させて頂きます。前月の礼拝では素晴らしい教誡を戴きましてーーー」
「イスラー卿、お声掛け頂き光栄でございます。次は初春の礼拝に私は臨場致しますので、またその際お会いしとうございます」
「エゼキエル猊下、ご機嫌麗しゅう。先のアイダー地方の神殿創建の際はお忙しかったようでーーー」
「マリーベル女史こそ地方神殿へも足繁く通われているようで、大変お忙しいと聞き及んでおります。我らが大神殿にいらしてくださる際には私めにも一声くださいませ」
「エゼキエル猊下にぜひ末の娘の洗礼式に立ち会って頂きたくーーー」
「喜んでお受け致します。敬虔なガイウス公爵のご令嬢の洗礼式に陪席できますこと嬉しく思います」
麗しの猊下から一言でも賜りたいと、信者たちが列をなす。止まぬ信者たちからの申し付けを卒なく捌いているエゼキエルは、どこまでも完璧な存在に見える。
王弟であるミラードは王族席からエゼキエルをちらと盗み見ることが限界だった。立場上、信者たちに混ざることもできずに、ただ時折漏れ聞こえてくる、エゼキエルの重く香る甘やかな熟成酒のような声を聞いて胸をざわめかせていた。
「エゼキエルさま!どうか、私と一曲踊って頂けませんか?」
必死の声だった。何故か高揚より焦燥を多分に含んでいるように感じた。
「オフィーリアさま、大変申し訳ございませんが、特別位神官である私は女性に指一つ触れることが叶いません。ただ、私に寄り添ってくださるオフィーリアさまのお心は大変嬉しく思います。どうか、あなたに幸多からんことを切にお祈り申し上げます」
一際優しい声色だった。しかし、頑然とした拒絶ははっきりと込められていた。
信者たちは"抜け駆け"を許さない。ひそひそと悪意が囁かれ波紋のように広がる。「あれはだれだ」「ハベク男爵の娘だろう」「身の程知らずが」「ああ、蛮族の国に嫁がされると聞いたぞ」「猊下に触れようなど不敬だ」「何をやらかしたらそんなところに嫁に行くことになるんだ」「恥知らずめ」
ハベク男爵令嬢の顔色が少女らしい薄紅から青へと変わっていく様は、ひどく痛々しくミラードの目に映った。囁かれる悪意の真偽を問う声は無い。この場にとって、囁かれる言葉にどこまでの信憑性があるかなんてどうでもいいことで、ただ彼女を糾弾する空気を作ることができればいいのだろう。
ミラードは普段通りの優雅な所作で席を立つと、ドレスに皺ができるほど握り締める令嬢に歩み寄った。悪意を交わし合っていた貴族たちは、突然の若き王族の華やかさに目を奪われ、不快なざわめきが小さくなる。
「美しく憂うオフィーリア嬢、どうかあなたと踊る権利を私にくださいませんか。いっときで構いません。あなたの笑顔を私に与えてください」
潤んだ瞳を伏せていた令嬢は、雫をこぼす手前で微笑み、目の前の猛き美丈夫から差し出された手を取った。
宴も酣と、ミラードが私室に下がろうと護衛と共に西の回廊を歩いていると、背後から控えめに名を呼ばれた。振り向くと、見習い神官の祭服を着た少年が立っており、猊下の客室へ来てほしいと告げた。
こんな夜半に男を部屋に招くなど何か不穏な噂でも建てられたらどうするのだ、とミラードはちりちりとした怒りを覚えた。しかし、すぐに内心で頭を振った。エゼキエルもミラードも男なのだ。本来であれば何をもって不実な噂を建てようというのか。何もかもエゼキエルの美貌が目を眩ませる原因だ。
見習い神官に是と答え、ミラードは案内されるまま客室へ向かう。エゼキエルに与えられているのは王城内で最高位の客室だ。
「エゼキエルさま、ミラード王弟殿下をお連れ致しました」
声が返ってくる代わりに、エゼキエル本人が扉を押し開けた。彼はこの時間でも髪の一筋にも乱れなどなく、折り目正しく重そうな白の祭服を着ていた。
「ミラード殿下、お疲れのところご足労頂きありがとうございます。恐れ入りますが、神殿からの内密のご相談がございます。護衛の方は扉外でお待ち頂くことは可能でしょうか。必要であればまた正式な場で話し合いをさせて頂きますので、本日は半刻も掛けません」
護衛騎士は僅かに難色を示したが、ミラードが「私も帯剣している。不測の事態があっても容易く害されはしない」と抑揚なく静かに護衛騎士を下がらせた。
「イーリアもありがとう。今日はそのまま下がっていいよ」
上司に暇の許可を得た見習い神官は、エゼキエル、ミラードの順で最高位礼をとり、楚々と使用人の寝所のある階下へ降りていった。
「ミラード殿下、どうぞこちらへ」
促されて入った部屋は、数ある燭台全てに火が入れられ、やや薄暗いが足元までよく闇が払われていた。この部屋は応接室で、金細工の装飾が美しいローテーブルと、それを挟むように大振りなソファーが2つ置かれていた。部屋の奥に扉がまた2つあり、片方がサニタリー、もう片方は寝室へと繋がっている。
ミラードはソファーを勧められるものと思って部屋の中央に歩を進めるが、予想に反してエゼキエルの足は奥の寝室の扉の前へと向かった。
「この部屋では護衛の方々に話の内容を聞き取られるかもしれません。殿下に内容を正確に精査して頂くまでは外部にもらしたくありません。殿下を招くには不躾な場所とは存じますが、こちらの奥の間にいらしてくださいませんか」
表情には滲ませもしなかったが、ミラードは内心驚愕した。そして、また怒りの熾火が黒く胸を焦がした。"寝室に男を誘う"など、かの麗人が行えばその気のない者でも道を違えるだろう。もはや、道違えた者が過去にいるのでは、と疑う心が先んじてしまい、怒りをおさめることが叶わなかった。
「…慎重に交わさねばならない話ということは心得た。しかし面識のない男と寝所で二人きりになることは、私より貴殿にとって悪手ではないか」
声色に感情を乗せなかったが、強かなエゼキエルは全てを見透かすように目を細めた。そのごく僅かな仕草にすらミラードの心は更に苛烈に怒りを燃やした。冷静とは言い難かったが、ミラードは自身の憤りの根底に何があるのかは当然わかっていた。
指先一つも動かさず眼光を鋭くするミラードに反して、エゼキエルは奥の扉を開きながら口元を笑みにした。
「殿下は、私が気安く男を寝室に誘うことが常習だと疑っておいでですか」
ミラードは何も言い返せず、沈黙で問いを肯定してしまった。
「ご安心ください。そのように寝室に世話係以外の人を入れるのは殿下が初めてでございます。世話係ですらこのような夜更けには決して立ち入らせません。俗世から離れた私のような神官であっても、人の恐ろしさはよくわかっております」
甘やかな笑みのまま、もう一度「殿下を信頼に足る方と見込んでお呼びしております」と告げられて、胸を焼いた熾火は勢いをやや弱めた。
「潔白であるなら尚更、私を例外扱いすべきではない。一あれば二、三あると盲信し、貴殿に無体を働く輩が出ないとも限らない」
エゼキエルはさもありなんと頷いた。しかし、その表情はひどく嬉しそうで、ミラードは自分は誂われているのか、もしくは何かを謎掛けでもされているのかと眉を顰めた。
怪訝そうな王弟をものともせず、肝の座った特別位神官は姿勢正しく彼に近付くと、素早くその顔を相手の耳元に近付けた。
「二、三あると思わせない程に、一である殿下だけをお呼びしたいと思っているのです」
囁かれた言葉が信じられず、自身の願望が現実を歪めてしまったのではないかと、ミラードはただ逃げるように一歩後ろに体を引いた。
「なぜ…」
言葉が詰まった。実は全てが夢で、深追いしてしまえば目の前の白百合は露と消えてしまうのではないかと思った。
「殿下が誠実な方だから親しくなりたいのです」
震えそうになる手をゆっくりと伸ばし、指の背で彼の頬にかすかに触れる。それでも白百合は消えなかった。
「私も、貴方と親しくなりたい」
誠実で素直な男は、豪胆な白百合に翻弄される覚悟を決めた。
荘厳な王城にあっては、貴族のように飾り立てることのない神官たちは悪目立ちするのが常であるが、簡素な祭服を召しただけの今代の特別位神官は、贅を尽くしたドレスを着た貴族令嬢よりも輝かしく美しく神々しかった。
純白の絹糸のように艷やかで腰に届く髪、赤みも黄みも青みもないただひたすらに滑らかな白磁の肌が、シャンデリアの灯りの元に透き通るように映える。真冬の凍りつく湖のような青灰色の神秘的な瞳を湛えた眦は、慈愛に満ちて優しげに下げられており、また、白を基調とした祭服が彼の清廉さをより一層引き立てる。祭服に包まれた身体はすらりとした手足が印象的だが、程よく筋肉も乗っており見窄らしさは皆無だ。
今代の特別位神官は、名をエゼキエルという。特異な色味と美貌で数多を魅力する。高位神官として神殿が厚く保護していなければ、エゼキエルを欲し、その貞操を奪い害そうとする人間は後を絶たないだろう。
エゼキエルが王城の大広間に足を踏み入れた瞬間に、誰もが宴の主役が取って代わられたかのような錯覚を覚えた。王族も貴族も友好国の来賓も、皆例外なく視線を奪われた。末端の使用人ですら無意識に職務の手を止めてしまう程、かの存在感は凄まじかった。ひと目で彼に心惹かれる者は数え切れず、新王の弟であるミラードもまたその一人だった。
「エゼキエル猊下にご挨拶させて頂きます。前月の礼拝では素晴らしい教誡を戴きましてーーー」
「イスラー卿、お声掛け頂き光栄でございます。次は初春の礼拝に私は臨場致しますので、またその際お会いしとうございます」
「エゼキエル猊下、ご機嫌麗しゅう。先のアイダー地方の神殿創建の際はお忙しかったようでーーー」
「マリーベル女史こそ地方神殿へも足繁く通われているようで、大変お忙しいと聞き及んでおります。我らが大神殿にいらしてくださる際には私めにも一声くださいませ」
「エゼキエル猊下にぜひ末の娘の洗礼式に立ち会って頂きたくーーー」
「喜んでお受け致します。敬虔なガイウス公爵のご令嬢の洗礼式に陪席できますこと嬉しく思います」
麗しの猊下から一言でも賜りたいと、信者たちが列をなす。止まぬ信者たちからの申し付けを卒なく捌いているエゼキエルは、どこまでも完璧な存在に見える。
王弟であるミラードは王族席からエゼキエルをちらと盗み見ることが限界だった。立場上、信者たちに混ざることもできずに、ただ時折漏れ聞こえてくる、エゼキエルの重く香る甘やかな熟成酒のような声を聞いて胸をざわめかせていた。
「エゼキエルさま!どうか、私と一曲踊って頂けませんか?」
必死の声だった。何故か高揚より焦燥を多分に含んでいるように感じた。
「オフィーリアさま、大変申し訳ございませんが、特別位神官である私は女性に指一つ触れることが叶いません。ただ、私に寄り添ってくださるオフィーリアさまのお心は大変嬉しく思います。どうか、あなたに幸多からんことを切にお祈り申し上げます」
一際優しい声色だった。しかし、頑然とした拒絶ははっきりと込められていた。
信者たちは"抜け駆け"を許さない。ひそひそと悪意が囁かれ波紋のように広がる。「あれはだれだ」「ハベク男爵の娘だろう」「身の程知らずが」「ああ、蛮族の国に嫁がされると聞いたぞ」「猊下に触れようなど不敬だ」「何をやらかしたらそんなところに嫁に行くことになるんだ」「恥知らずめ」
ハベク男爵令嬢の顔色が少女らしい薄紅から青へと変わっていく様は、ひどく痛々しくミラードの目に映った。囁かれる悪意の真偽を問う声は無い。この場にとって、囁かれる言葉にどこまでの信憑性があるかなんてどうでもいいことで、ただ彼女を糾弾する空気を作ることができればいいのだろう。
ミラードは普段通りの優雅な所作で席を立つと、ドレスに皺ができるほど握り締める令嬢に歩み寄った。悪意を交わし合っていた貴族たちは、突然の若き王族の華やかさに目を奪われ、不快なざわめきが小さくなる。
「美しく憂うオフィーリア嬢、どうかあなたと踊る権利を私にくださいませんか。いっときで構いません。あなたの笑顔を私に与えてください」
潤んだ瞳を伏せていた令嬢は、雫をこぼす手前で微笑み、目の前の猛き美丈夫から差し出された手を取った。
宴も酣と、ミラードが私室に下がろうと護衛と共に西の回廊を歩いていると、背後から控えめに名を呼ばれた。振り向くと、見習い神官の祭服を着た少年が立っており、猊下の客室へ来てほしいと告げた。
こんな夜半に男を部屋に招くなど何か不穏な噂でも建てられたらどうするのだ、とミラードはちりちりとした怒りを覚えた。しかし、すぐに内心で頭を振った。エゼキエルもミラードも男なのだ。本来であれば何をもって不実な噂を建てようというのか。何もかもエゼキエルの美貌が目を眩ませる原因だ。
見習い神官に是と答え、ミラードは案内されるまま客室へ向かう。エゼキエルに与えられているのは王城内で最高位の客室だ。
「エゼキエルさま、ミラード王弟殿下をお連れ致しました」
声が返ってくる代わりに、エゼキエル本人が扉を押し開けた。彼はこの時間でも髪の一筋にも乱れなどなく、折り目正しく重そうな白の祭服を着ていた。
「ミラード殿下、お疲れのところご足労頂きありがとうございます。恐れ入りますが、神殿からの内密のご相談がございます。護衛の方は扉外でお待ち頂くことは可能でしょうか。必要であればまた正式な場で話し合いをさせて頂きますので、本日は半刻も掛けません」
護衛騎士は僅かに難色を示したが、ミラードが「私も帯剣している。不測の事態があっても容易く害されはしない」と抑揚なく静かに護衛騎士を下がらせた。
「イーリアもありがとう。今日はそのまま下がっていいよ」
上司に暇の許可を得た見習い神官は、エゼキエル、ミラードの順で最高位礼をとり、楚々と使用人の寝所のある階下へ降りていった。
「ミラード殿下、どうぞこちらへ」
促されて入った部屋は、数ある燭台全てに火が入れられ、やや薄暗いが足元までよく闇が払われていた。この部屋は応接室で、金細工の装飾が美しいローテーブルと、それを挟むように大振りなソファーが2つ置かれていた。部屋の奥に扉がまた2つあり、片方がサニタリー、もう片方は寝室へと繋がっている。
ミラードはソファーを勧められるものと思って部屋の中央に歩を進めるが、予想に反してエゼキエルの足は奥の寝室の扉の前へと向かった。
「この部屋では護衛の方々に話の内容を聞き取られるかもしれません。殿下に内容を正確に精査して頂くまでは外部にもらしたくありません。殿下を招くには不躾な場所とは存じますが、こちらの奥の間にいらしてくださいませんか」
表情には滲ませもしなかったが、ミラードは内心驚愕した。そして、また怒りの熾火が黒く胸を焦がした。"寝室に男を誘う"など、かの麗人が行えばその気のない者でも道を違えるだろう。もはや、道違えた者が過去にいるのでは、と疑う心が先んじてしまい、怒りをおさめることが叶わなかった。
「…慎重に交わさねばならない話ということは心得た。しかし面識のない男と寝所で二人きりになることは、私より貴殿にとって悪手ではないか」
声色に感情を乗せなかったが、強かなエゼキエルは全てを見透かすように目を細めた。そのごく僅かな仕草にすらミラードの心は更に苛烈に怒りを燃やした。冷静とは言い難かったが、ミラードは自身の憤りの根底に何があるのかは当然わかっていた。
指先一つも動かさず眼光を鋭くするミラードに反して、エゼキエルは奥の扉を開きながら口元を笑みにした。
「殿下は、私が気安く男を寝室に誘うことが常習だと疑っておいでですか」
ミラードは何も言い返せず、沈黙で問いを肯定してしまった。
「ご安心ください。そのように寝室に世話係以外の人を入れるのは殿下が初めてでございます。世話係ですらこのような夜更けには決して立ち入らせません。俗世から離れた私のような神官であっても、人の恐ろしさはよくわかっております」
甘やかな笑みのまま、もう一度「殿下を信頼に足る方と見込んでお呼びしております」と告げられて、胸を焼いた熾火は勢いをやや弱めた。
「潔白であるなら尚更、私を例外扱いすべきではない。一あれば二、三あると盲信し、貴殿に無体を働く輩が出ないとも限らない」
エゼキエルはさもありなんと頷いた。しかし、その表情はひどく嬉しそうで、ミラードは自分は誂われているのか、もしくは何かを謎掛けでもされているのかと眉を顰めた。
怪訝そうな王弟をものともせず、肝の座った特別位神官は姿勢正しく彼に近付くと、素早くその顔を相手の耳元に近付けた。
「二、三あると思わせない程に、一である殿下だけをお呼びしたいと思っているのです」
囁かれた言葉が信じられず、自身の願望が現実を歪めてしまったのではないかと、ミラードはただ逃げるように一歩後ろに体を引いた。
「なぜ…」
言葉が詰まった。実は全てが夢で、深追いしてしまえば目の前の白百合は露と消えてしまうのではないかと思った。
「殿下が誠実な方だから親しくなりたいのです」
震えそうになる手をゆっくりと伸ばし、指の背で彼の頬にかすかに触れる。それでも白百合は消えなかった。
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